華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Strawberry Fields Forever もしくは誰か1人がみんなの見本 (1967. The Beatles)

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「ビートルズが入ってくるまでは、うちら船木一夫しか聞くもんあれへんかってん。それがラジオでビートルズが流れた次の日ぃから、クラスがいっぺんにビートルズ派と船木一夫派にブワァーッて分かれてん」…小さい頃から母親に、子守唄のように聞かされた物語だった。私自身はビートルズのことを、夢中になるほど好きになった記憶はない。ただそれは生まれた時から空気のように自分の周りにあった。昔はそれがどこにも存在しなかったのだと言われても、ちょっと実感が湧かなかった。ただ、その音楽が何もないところから突然聞こえてきた時に、それを初めて聞いた人たちの衝撃はどれほど巨大なものだったろうということは、すごくリアルに想像できた。母の世代の人たちにとって、ラジオから初めてビートルズが流れてきたその日の記憶は、たぶん人生で一番不思議な経験として、今でも一人一人の身体に刻みつけられているのだと思う。

そのビートルズの中でも一番「不思議やった」と母が繰り返すのが、この"Strawberry Fields Forever"という曲だった。私自身にとっても、子どもの頃からずっと、謎の曲だった。10代の頃、「悪無限的」という言葉に引っかけて「悪夢幻的」という言葉を作ったことがあるのだけれど、どこにも使い道がないのでずっと心の物置でホコリをかぶったままになっている。しかし"Strawberry Fields Forever"を聞くたびに、その言葉のことをフッと思い出す。あれはこの曲のために作った言葉だったのかもしれないし、この曲のためにしか使えない言葉だったのかもしれない。


Strawberry Fields Forever - Restored HD Video

ビートルズの和訳サイトというのは本当にたくさんあって、私自身も常々参考にさせてもらっている。とりわけ「ビートルズを通して英語を学ぶ」ことをテーマにしているサイトは、語句や文法の説明が充実しているし、自分の翻訳にも応用できることが多いから、とても勉強になる。他のアーティストについても同じくらいの精密さでもって歌詞の検証がなされていたなら、私自身こんなブログを立ち上げる必要は感じるにも至らなかったかもしれないが、そこはやはり今も昔もビートルズというバンドにだけ与えられた「特権」なのだと思う。それをいいとか悪いとか言っても始まらない。その現実を出発点にして、未来を切り拓いて行く以外に道はない。

"Strawberry Fields Forever"はビートルズの中で最も難解な曲のひとつだと言っていいと思うが、それだけに他の対訳サイトの皆さんにとっても「やりがいのあるテーマ」なのだと思う。ざっと検索してみたただけでも、それぞれのやり方で"Strawberry Fields"の和訳に取り組んでいるサイトがこんなに目に入った。

ビートルズ英語塾: STRAWBERRY FIELDS FOREVER - John の幻想的な曲

洋楽歌詞和訳なんてキアイとソウル : "Strawberry Fields Forever"-The Beatles

ストロベリー・フィールズ・フォーエバー / Strawberry Fields Foreverの歌詞和訳

ビートルズ(Beatles)/ストロベリー フィールズ フォーエバー(Strawberry Fields Forever):洋楽の名曲と歌詞の和訳集

Strawberry fields forever (Beatles)|洋蟻の洋楽和訳日記

【歌詞和訳】Strawberry Fields Forever / The Beatles - ストロベリー フィールズ フォーエヴァー / ビートルズ : 洋楽翻訳☆お味噌味 - オリジナル歌詞和訳の妄想旅行へ

月夜ニ君ノ音想フ♪ 洋楽和訳日記: The Beatles - Strawberry Fields Forever

関西弁でビートルズ和訳シリーズ Strawberry Fields Forever | ガラスのタマネギは砕けない

…最後に紹介したブログ運営者の方に対しては、立場は違えど同じ関西出身者として健闘を祈りたい。かつて私自身も、同じことに取り組もうとした経験はあった。そして挫折した。なぜ挫折したのかについては、いずれ書くこともあろうかと思う。

それにつけてもこれだけ多くの先達によって和訳の試みがなされている中で、新参者の私のごときが「新しい翻訳」を引っさげて介入できる余地はハッキリ言って、ない。今までの翻訳がよっぽど間違っていたとか、今も生きている2人のビートルズメンバーを含め誰にもなしえなかった「本当の読み方」を新しく発見したとかなら、あえてネットで発表する意義もあるだろうが、これだけ多くの議論が重ねられてきた楽曲になると、読み方や解釈はある程度確定されてきており、今ではだれが翻訳しても似たり寄ったりの内容にしかならないのが、この歌をめぐる現状だと言えよう。それはもちろん、音楽を聞く人間にとっては「いいこと」なのである。「華氏65度の冬」が生み出されてしまうような危険性がもはや存在していない以上、ここは私の出る幕ではない。スピードワゴンはクールに去るぜ。

…とはいえ、リンクを貼らせて頂いた各サイトの翻訳を比較してみると、いくつかの箇所で歌詞の解釈に「揺れ」があることが見てとれる。つまりそこには、「議論する余地」が残されているわけである。その論点を整理しておくことは、あながちムダな作業ではないだろう。なので上記サイトの皆さんの努力の上に立ちつつ、私自身も改めて一通り、"Strawberry Fields Forever"の歌詞を自分の目で検証してみることにしたい。

Let me take you down,
Cause I'm going to Strawberry Fields.

…一番上の「ビートルズ英語塾」の方は、take downという熟語に「人に恥をかかせる, 人の鼻をあかす」という意味があることを指摘されていたが、私が italki というサイトで英国人の人に確認してみたところ、この歌の"Let me take you down"からそのニュアンスを感じる英語話者は「まず」いないという回答を得た。いないそうです。だからここは「君を連れて行かせてほしい」で確定していると言っていいと思う。

 ただし「君を連れて行かせてほしい」という"Let me take you down"の直訳を「自然な日本語」に直すには、どんな訳語が一番ふさわしいかという問題がある。「一緒に行きたい」か「ついて来てほしい」のどちらかだと、私は思う。「連れて行きたい」と言うとかなり強引な語感になる。そして相手に「行く」ことを求めるのと「来る」ことを求めるのとでは、やはり全然違うのである。このどちらが"Let me take you down"の語感に近いのかは、やはりネイティヴに聞かないと分からない。その確認はまだ、取れていない。

そして"Strawberry Fields"である。みんなここで悩んでいる。「ストロベリー・フィールズ」と訳すと意味が死ぬし、「イチゴ畑」と訳すと音が死ぬ。

ネットのおかげで、今では"Strawberry Fields"について調べれば、それがリバプール近郊の児童施設の名前だったことを誰もが知ることができる。しかしこの歌が発表された当時は、その事実はジョンの心の中にだけあったことで、曲を聞いた人は誰もそんなことは知らなかったのである。この歌詞を初めて聞いた英国人はどんなこと(あるいは、もの)を連想したのかを、まず確かめることが必要だろう。

「初めて聞いた時には、イチゴがいっぱい生えてる広い場所が心の中に浮かんだよ」と私が訊ねた英国人は答えた。《固有名詞じゃなくて、一般名詞かよ》と内心私は落胆した。それでは「ストロベリー・フィールズ」という言葉には移せない。意味を翻訳することが必要になる。

「じゃあ、そのイチゴは、人間の手で育てられたものですか?それとも野生のイチゴですか?」と私は訊ねた。前者なら「イチゴ畑」になるし、後者なら「イチゴの野原」と訳すことになる。私は、「イチゴの野原」の方が好きだ。

「Wild or cultivated? そんなこと、考えたこともないよ」と相手は答えた。それでまた、分からなくなった。

頭にイチゴが生えてる絵が浮かぶんなら、それが野生か作物か分からないなんてことがあるんだろうか、と私は思った。しかし英国人がそう言うんじゃあ仕方がない。私は目をつぶって、「イチゴ畑でもイチゴの野原でもないイチゴの生えてる風景」を想像しようとした。しかしどんなに頑張ってもそれは「イチゴ畑」か「イチゴの野原」の「どちらか」の風景にしかならなかった。言葉の違いの限界をそんな形で実感させられることがあるなんて、思ってもみなかった。

…なので結局私なら、この箇所は「イチゴのいっぱい生えてるところ」と訳すことになるのだと思う。もしもジョンが日本人だったなら、イチゴをひらがなで書くかカタカナで書くか漢字で書くか、そこにもこだわらなかったはずはない。しかしジョンは日本人ではなかった。あり得ないことを想像しても仕方がない。我々にできるのは「勝手な意味をくっつけない」ための努力だけである。イチゴで行こう。

Nothing is real
And nothing to get hung about.

…上記リンクでも言及されている方がいたが、下段の"hung about"は"hung up about"という熟語が省略された形なんだそうである。だからhangではなくhungと過去形になってる。英国人の人がそう言ってた。だから"hang about"の意味で訳すとこの箇所は間違いになる。"nothing to get hung about"は「悩むことはない」

そこまでは、いいのである。

「何もリアルではない/そして何も悩むことはない」この2つのフレーズをどういう形で、前後の文脈と結びつければいいのだろうか?

①ストロベリー・フィールズに行けば「何もリアルではない/ そして何も悩むことはない」

②僕らが今いる場所では「何もリアルではない/ そして何も悩む必要はない」だからストロベリー・フィールズに行こう。

…どっちだと思います?①の意味で訳されている方が多いけど、私は②であるような気がする。だって、"Nothing is real"って言ってる時のジョンの声、怖いもん。ストロベリーフィールズがそんなとこなら、あまり連れてってほしくない。

Strawberry Fields forever.

…簡単そうだけどちょっと待ってみよう。"Stars and Stripes Forever"は「星条旗よ永遠なれ」と訳すけど、"friends forever"は「永遠の友達」と訳すのである。同じ言葉が前者では動詞的に、後者では形容詞的にと、違う働き方をしている。この場合は、どっちなんだろう?上記サイトの皆さんの中でも、「ストロベリーフィールズ永遠に」と訳している人と「ストロベリーフィールズ永遠に」と訳している人が、まっぷたつに分かれている。これに加えて「ストロベリーフィールズでは永遠に何もリアルではない/そして何も悩む必要はない」と読める余地も、私はないではないように思える。

"Strawberry Fields"がイチゴの野原なのかイチゴの畑なのかは、あるいは答えの出ない問題なのかもしれない。英語では両者を区別する概念がないっぽいから。でもこの"forever"がどのフォーエバーなのかは、答えのある話なのではないかと私は思う。みなさんの意見をお待ちしています。次。

Living is easy with eyes closed
Misunderstanding all you see.

…この"Misunderstanding all you see"が「分詞構文」なのだということは、上記サイトの皆さんの説明で初めて知った。「何を見たって正しく見ることなんかできないんだから、目なんかつぶっちゃいなよ。そしたら人生楽になるよ」そういう意味だと私は思っていた。そうではなく「目をつぶってしまえば人生は楽だ。見えるものすべてを誤解しながら」そういう意味だったんですね。

…でも、目をつぶっちゃったら何も見えなくなるでしょ?何を誤解するの?そこのところがいまいち、私にはまだよく分からない。

It's getting hard to be someone.
But it all works out,
It doesn't matter much to me.

私の母親が持っていた「青盤」のLPの歌詞カードにはこの部分が確か

It's getting hard to be
somebody is all example
生きることは苦しくなるばかり
誰か1人いればそれがみんなの見本さ

…と書いてあった。「華氏65度の冬」である。それなりに格言めいているのが小憎らしいではないか。多くの人を惑わせたであろうこの誤植は、今回のブログタイトルにして歴史の審判にさらすことにする。この部分の翻訳については、特に疑問はない。

No one I think is in my tree,
I mean it must be high or low.
That is you can't you know tune in.
But it's all right.
That is I think it's not too bad.

 …この難解な2番についても、上記サイトの皆さんの丁寧な説明で完全に私は納得しています。

Always know, sometimes think it's me,
But you know I know when it's a dream.

 …ここは私にとって、一番難解な部分。まずこの部分の歌詞は、資料によって原詞の表記が少しずつ違っています。上にあげた歌詞はApple musicのものだけど、ウェブサイトによっては

Always, no sometimes, think it's me,

と書いてある。そしてグーグルで検索すると出てくるのが

Always know, sometimes it's me,

…という歌詞。しかしここでthinkという語が抜けているのは、明らかに誤植だと思う。歌ってるから。ハッキリ。だから問題はknowなのかnoなのかということになるわけだけど、一応ここでは「2対1」で、knowと見ることにします。した上で、上記サイトの皆さんのこの部分に関する説明は、どうも私には分かりにくいと感じられました。
Always know(いつも、わかってる), sometimes think(時々は、考え込んだりもする) it's me(それは、僕なんじゃないかって),
But (でも) you know (いいかい) I know when it's a dream.(それが夢だった場合には、僕だって分かる→それが夢かどうかぐらいは、僕も知っている)

…こういう意味ではないかと思うけど、どうなんでしょうか。そして、次。

I think a no will mean a yes
But it's all wrong.
That is I think I disagree.

…ビートルズぐらいなバンドでも、正確な歌詞は何なのか長いあいだ誰も分かってなかったんですね。私の知っている限りこの部分の歌詞カードは、3パターンもある。「青盤」に何て書いてあったかは覚えていないけど、ネットで確認できる一番古い歌詞(?)はこうなっていた。

I think I know of thee, ah, yes but it's all wrong.
分かってるつもりではいるんだけどね。うん。そう。でもみんな間違ってる。

その次に「出た」のが、恐らくはこの歌詞。上記サイトの皆さんの中にも、この歌詞で翻訳している方は結構いらっしゃいます。

I think er no I mean er yes but it's all wrong.
あー、No…いやそうじゃなくて、あー…Yes、でも、違う。全部違う。

そして今、グーグルで検索すると出てくる一番「新しい」歌詞がこう。

I think a no will mean a yes but it's all wrong.
NoはYesって意味になることがあると思う。でもまあそんなのは、みんな間違ってる。

…「あー」という呻きと聞くか"a"という単語と聞くかで、意味がずいぶん変わる。2番目の「あー」が一番リアルな感じがするけど、それが「駆逐」されて3番目が「公式」に採用された経緯が見てとれることを思えば、多分この問題をめぐっては国際的な討論で何らかの説得力ある結論が出されているということなのでしょう。だからこのサイトでは、3番目の歌詞を翻訳の対象とすることにします。

…結局最後までにわたって私見を述べてきた以上、まとめとして私自身の翻訳もやっぱり載せておいた方がいいみたいですね。ただし、ここまで見てきたようにこの歌には私に分からない部分がまだたくさんあるから、以下は飽くまで暫定版の訳詞です。

ただし、私、書いてるうちに、考えが変わってきてしまいました。今までの議論をひっくり返すような形になりますが、あえて、このタイトルで行きたいと思います。

Strawberry Fields Forever 

 ストロベリーフィールズで永遠に

一緒に来てくれないかな。
今から行くところなんだ
イチゴがいっぱい生えてるところ。
本当のことなんて何もないし
それなら悩むことなんて何もないだろう。
ストロベリー・フィールズで永遠に過ごそう。

目をつぶってしまえば人生は楽になるよ。
周りにあるすべてを誤解しながら。
何かになろうとするのは大変になるばかりだけど
それは何とかなることだし
僕にとってはたいした問題じゃあない。

誰も僕の木の上には、僕は思うんだけど、いないみたいだ。
きっと、高すぎるか低すぎるかするんだろう。
だから、わかってるよね。
きみが僕に合わせることはできない。
それも悪くないって僕は思ってるんだからね。

いつもわかってるし 時々は考え込んだりもする。
それは、僕なんじゃないかって。
でも、いいかい、それが夢かどうかぐらいは僕にだってわかるんだ。
NoはYesって意味になることがあると思う。
でもまあそんなのは、みんな間違ってる。
僕はそんな風には思いたくないな。

一緒に来てくれないかな
今から行くところなんだ
イチゴがいっぱい生えてるところ
本当のことなんて何もないし
それなら悩むことなんて何もないだろう
ストロベリー・フィールズで永遠に過ごそう

…最後の最後でどうしてストロベリーフィールズ「」になるかと思われるかもしれませんが、聞いてください。私は、思うのだけど(ジョンの喋り方が感染ってます)、「ストロベリーフィールズ永遠に」というのは、ストロベリーフィールズを立ち去る時に言う言葉でしょう?「ストロベリーフィールズ永遠に」というのは、今はストロベリーフィールズを離れてしまった人がストロベリーフィールズを想いながら言う言葉でしょう?これからストロベリーフィールズに行こうとしてる人間が「」とか「」とか言うもんでしょうか?今からストロベリーフィールズに行く人間が言う言葉としては「ストロベリーフィールズ永遠に」以外にありえないような気が私はしてきたんです。文法的にはおかしいかもしれないけど、"Strawberry Fields Forever" を言う時にジョンが口の中で、心の中でもいい、"We are together in" とつぶやいていたとしたら立派に成立する話なのではないかと私は思います。そして私はこの「ストロベリーフィールズ」が、他のどの対訳サイトを検索しても見つからなかった「新説」であることに、自分自身で驚いています。俺、ごっつい、今、くわあて思てます。

…何か、私、ブログを始めて3日目でこの世界を追われてしまうのではないかという恐怖すら感じ始めているのですが、大丈夫です。皆さん。私は危険な人間では、ないです。仲良く行きましょう。意見や感想があれば、ぜひお聞かせ下さい。ではまたいずれ。


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