華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Alasdair Mhic Cholla Ghasda もしくは聖なることば (1989. Capercaillie)

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ケルト人と呼ばれる人たちは、2500年ほど昔のヨーロッパで最も広い範囲にわたって暮らしていた民族だったといい、現在ではその子孫をもって任じている人たちが、アイルランドの全域とスコットランドウェールズ、およびイングランドコーンウォール州とフランスのブルターニュ地方、そしてアイリッシュ海に浮かぶマン島の、6つの地域で生活している。

西ヨーロッパの言語は、主に南部で話されているロマンス語派(フランス語、イタリア語、スペイン語など)と、北部で話されているゲルマン語派(英語、ドイツ語、ノルウェー語など)に大別されるが、このケルト人の文化を受け継いで暮らしている人たちは、どちらの語派とも違った特徴をもつ「ゲール語」と呼ばれる言語を話している。(後日付記:スコットランド人の読者の方から、「ウェールズ語コーンウォール語の語派はケルト語派に属するが、分類上はブレトン諸語であり、ゲール語ではない。スコットランドの言葉はアイルランドでは何となく通じるが、ウェールズでは全く通じない」という指摘をいただきました。私は文字の資料だけを頼りにブログを書いてしまいがちなので、そうした指摘は本当にありがたいです。埼玉のスティーブンさん、Tapadh leat!) 具体的には、英語で「私はナギです」は "I am Nagi (私/です/ナギ)" だが、アイルランドゲール語では "Is mise Nagi (イス ミシェ ナギ=です/私/ナギ)" になる。日本語や朝鮮語は語順が主語-目的語-述語(動詞)となるSOV言語であるのに対し、英語や中国語はSVO言語と呼ばれている。この例にならうならゲール語はVSO言語なのである。われわれ日本語話者がその特徴に慣れるのは、相当に難しい。

…何でこんなにややこしい話を冒頭にしなければならなかったかといえば、「それにも関わらず」このゲール語で書かれたケルト圏の音楽が私は大好きだからである。


Capercaillie - Alasdair Mhic Cholla Ghasda

 

Alasdair Mhic Cholla Ghasda
アラスデイル ミッコーラ カスダ
Alasdair Mhic o ho
Cholla Ghasda o ho
勇者コーラの息子 (おーほー)
アラスデイルよ (おーほー)
As do laimh-s' gun o ho
Dh'earbainn tapaidh trom eile
そなたの腕に (おーほー)
偉業を委ねよう (とろーめーら)

(コーラス):
Chall eile bho chall a ho ro
はう ら べな (はう ら ほ ろ)
Chall eile bho chall a ho ro
はう ら べな (はう ら ほ ろ)
Chall eile huraibh i chall a ho ro
はう り ふりび はう ら ほ ろ
'S haoi o ho trom eile
せぉい あ ほ とろーめーら

As do laimh-s' gun o ho 
Dh'earbainn tapaidh o ho
そなたの腕に (おーほー)
偉業を委ねよう (おーほー)
Mharbhadh Tighearna o ho
Ach-nam-Brac leat trom eile
アク・ナン・ブラックの領主は (おーほー)
そなたに討たれよう (とろーめーら)

'S ged 's beag mi fein o ho
Bhuail mi ploc air o ho
わたしは幼かったが (おーほー)
土くれを投げつけてやった (おーほー)
Chuala mi'n de o ho
Sgeul nach b'ait leam trom eile
悲しい話をきいたのは (おーほー)
きのうのことだ (とろーめーら)

Chuala mi'n de o ho
Sgeul nach b'ait leam trom eile
悲しい話をきいたのは (おーほー)
きのうのことだ (おーほー)
Glaschu a bhith o ho
Dol 'na lasair trom eile
グラスゴーの街が (おーほー)
陥落するという (とろーめーら)

Glaschu a bhith o ho
Dol 'na lasair trom eile
グラスゴーの街が (おーほー)
陥落するという (おーほー)
'S Obair-Dheathain o ho

'N deidh a chreachadh trom eile
そしてアバディーンの街は(おーほー)
略奪を受けているという (とろーめーら)

 Capercaillie (カパーケリー=ヨーロッパオオライチョウと訳される鳥の名前)は、80年代から活動するスコットランドのバンドで、スコットランドゲール語で出したレコードを史上初めてUKトップ40入りさせたグループとして知られている。この歌の他にも、ここで紹介したい曲はたくさんある。

私自身は、基本文法だけは勉強したものの、ゲール語はまだほとんど分からない。ここに掲載した歌詞は、ゲール語で書かれた数多くの歌を英訳して紹介しているウェブサイトから、さらに日本語に改訳したものである。したがって大まかにどんなことが歌われているのかということ以外、翻訳の正確さは全く保証できない。それでもそのウェブサイトを知るまでは、その手がかりさえ私には見つけることができなかった。

 Capercaillie - Alasdair Mhic Cholla Ghasda

Alasdair Mhic Cholla Ghasdaとは17世紀の「三王国戦争」の時代に活躍したケルトの英雄の名前であり、彼を讃えたこの歌はアイルランドスコットランドの両方で歌い継がれている。非常に古い歌である。英語版のWikipediaにはこの人物について詳しい解説があったが、あまりに長大になるので、関心のある方はリンクを参照されたい。

Alasdair Mac Colla - Wikipedia

この歌で最も印象的なのはそのコーラスで、私はそこに何が歌われているのかがずっと気になっていた。だからやっとの思いでこの歌の英訳を見つけた時に、英語の歌詞でもその部分が「音訳」されているだけなのが分かった際には、ヘナヘナになるような気がしたものだった。どうやらこの部分は全体が一種の「かけ声」になっているらしい。この歌は民衆の労働歌として歌われてきたと上記リンクの説明にはあるから、江州音頭の「ソーラーヨイトヨーィヤマッカードッコイサーノセー」的な形で、大勢が力を合わせることが必要な際に一緒に歌われていたフレーズなのだろう。しかし、意味がないと言われると余計にそこに神秘なものを感じてしまう。おそらく最初は、何らかの聖なる意味があったのではないだろうか。だからこそ、意味が分からなくなってもそのままの形で歌い継がれてきたのではないだろうか。「ソーラーヨイトヨーィヤマッカードッコイサーノセー」も聖なる言葉だったのかと聞き返されたら、口ごもるしかない私ではあるのだけれど。

下に紹介するのは上の曲と非常に似た雰囲気を持っているのだけれど、アイルランドゲール語で歌われている。エンヤのお姉さんのモイア・ブレナンがボーカルをとっているクラナドというグループである。この曲に関しては、コーラスの部分の日本語訳にしか責任が持てなかった。ゲール語を勉強中の英国人のお姉さんが試訳した歌詞がひとつだけ見つかったが、その訳詞の英語自体が極めて無理のあるもので、それをさらに日本語にしたらめちゃめちゃになると思ったからである。だからコーラス以外の部分はその人の英訳をそのまま転載するにとどめる。それぐらい中途半端になっても、やっぱり紹介したい歌だからである。曲自体はかなり新しくて、2013年。クラナドが15年ぶりに出した新作アルバムNádúrから。


Clannad - Tobar an tSaoil

Tobar an tSaoil
とば らん てぃーる (よき暮らし)
Taobh le taobh, thall ‘s abhus.
手を取り合って あちらこちらに
‘Nonn ‘s anall, thall ‘s abhus.
前に後ろに あちらこちらに
(repeat)

(Chorus)
Rachaimid siar go Tobar an tSaoil sa pháirc mhór,
あの素晴らしい土地のよき暮らしの中に戻ろう
Le caint ‘s ciall ‘s aithne le fáil ansin.
そこには言葉と感覚と認識がある
Rachaimid siar go Tobar an tSaoil, taobh le taobh,
よき暮らしの中に戻ろう、手に手を取り合って
Leis an ghlúin dá bhíodh le haoibhneas an lae.
幸せな日々を生きるべき世代の人たちと共に

Ag éisteacht le na páistí ina rith, a chosa in airde,
Listening to the children run, their feet in the heights,
Le fíon ina lámh, gáire agus greann.
With wine in their hands, laughter and mirth.
Dá bhfeiceadh bhí le rá acu nuair chuala trup san oíche!
If you saw what they had to say when they heard noise in the night!
Chumhdaigh mé le grá iad, ‘s bhí siad slán.
I protected them with love, and they were safe.

(chorus)

Anois tá an dream sin feasta ag tarraingt ar an eolas,
Now that group is henceforth drawing on the knowledge,
Ar bharr na mbéal tá na linn uilig ansin.
On the tip of the mouth the pool is all there.
Cuid lán dá amhras, ‘s cuid atá gofearraneach.
Some full of doubt, and some that are truthful.
Ba gan siad mo chiallú slán nach amach ansin.
Without them my safe interpretation would not be out there.

(chorus)
Dtí muid anois go díchéille bhfuil an Earrach,
We come now in the folly that is the Spring,
Dá rothaí mór an tsaoil, le casadh leo go deo.
To its great wheels of life, turning with them forever.
Den dearmad an phléisiúr ag siúil, fan na gleanntáin.
Forget the pleasure of walking, stay in the glen.
Do bhuíchas ‘s do shláinte, go bhfuil tú beo!
Give thanks for your health, that you are alive!
(repeat)

(chorus)

…いずれは自分自身の手でゲール語の歌を翻訳できるようになることが当面の私の夢です。またもしもゲール語に詳しい方がこの記事を読まれることがあったら、いろいろ教えて頂ければと思います。ではまたいずれ。