華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

The Unfaithful Servant もしくはおじぎなんかはやめようぜ (1969. The Band)

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20回も続けてきたのだから、そろそろ同じアーティストをもう1度取り上げても構わないのではないかと思う。

「おじぎなんかはやめようぜ」というのは大昔に古本屋で買った忌野清志郎の「十年ゴム消し」というそのまた大昔に出された詩集に載っていた「不忠実な召使い」というタイトルの訳詩の一節で、"And It Stoned" について書いていた時に、ヴァンモリソンの声と一緒になぜかよみがえってきたのが、そのフレーズだった。読み返してみて、あの人らしい訳詩だなと、改めて思った。以下は私がずっと昔に訳したもの。


The Unfaithful Servant - The Band (The Band 11 of 12)

The Unfaithful Servant

Unfaithful servant,
I hear you're leavin' soon in the mornin'
What did you do to the lady,
that she's gonna have to send you away?
Unfaithful servant,
you don't have to say you're sorry,
If you done it just for the spite,
or did you do it just for the glory?
Like a stranger you turned your back,
Left your keep and gone to pack
But bear in mind who's to blame for all the shame
She really cared
The time she spared
And the home you shared
不誠実な召使いよ
おまえが朝早く出て行くって聞いた
あのレディになにをしたんだ
ひまを出されるようなことを
不誠実な召使いよ
言い訳をすることはない
恨みでやったのかい
それとも誇りのためにやったのかい
よそ者のように背を向け
蓄えも捨てて 荷物をまとめるおまえ
だがどんなに屈辱でも
誰が悪いのかはしっかり胸に刻んでおけ
あのひとは本当によくしてくれた
あのひとが割いた時間
そしておまえに与えられた家

 

Unfaithful servant,
I can hear the whistle blowin',
Yes, that train is a-comin'
and soon you'll be a-goin'
Need us not bow our heads,
for we won't be complainin'
Life has been good to us all,
even when that sky is rainin'
To take it like a grain of salt,
Is all I can do and it's no one's fault
It makes no diff'rence if we fade away
It's just as it was
And it's much to cold for me to stay
不誠実な召使いよ
警笛の音が聞こえる
そう 列車が来る
おまえは行ってしまう
文句を言うつもりはないし
お辞儀をするつもりもない
人生はおれたちによくしてくれた
空が雨模様の時にも
大げさに受け取ることはない
それがおれにできるすべてのこと
誰のせいでもない
おれたちがいなくなっても同じことさ
すべてはもとのまま
ここに残る方がよっぽど寒いよ

 

Goodbye to that country home,
so long, lady I have known,
Farewell to my other side,
I'd best just take it in stride
Unfaithful servant,
you'll learn to find your place
I can see it in your smile,
and, yes, I can see it in your face
The mem'ries will linger on,
But the good old days, they're all gone
Oh, lonesome servant, can't you see,
We're still one and the same
Just you and me
ふるさとのわがやよさらば
おれの知っていたあの人よ 元気で
もうひとりのおれよ さようなら
おれは乗り越えていく
不誠実な召使いよ
おまえも居場所を見つけるだろう
おまえの笑顔を見ればそれがわかる
そして そう おまえの顔を見ればわかる
思い出は残り続けるだろうが
古き良き日々は過ぎ去ってしまった
ああ さびしい召使いよ わからないかい
おれたちは今でも同じなんだってことが
おれとおまえは

 


The Band - Unfaithful Servant

=翻訳について=

  • 登場人物は、自分が仕えている屋敷の女主人 (「レディ」) に対し何か悪さをして家を出された「不誠実な召使い」と、彼が旅立つのを駅まで見送りに出てきたその友人とおぼしき人物の2人で、友人の方が「不誠実な召使い」に語りかける形をとっているのが歌の風景なのだと思う。ただし海外のサイトでは、その「友人」を「レディ」の配偶者であると解釈している人もいた。私は「同僚の召使い」みたいなイメージで聞いていたのだけど、自分の連れ合いのことを「レディ」と呼んだりするものなのだろうか。
  • 「不誠実な召使い」とその友人とは、たぶん同じ街で一緒に育ってきたのだと思う。「召使い」が「レディ」に仕えてきたのは、あるいは物心つく前の子どもの頃からだったのかもしれない。…ここまで考えて気づいたのだが、私自身が「友人」だと思っていたその人物は、実は「召使い」の「父親」であるという可能性も、ないではないかもしれない。
  • Left your keep and gone to pack…私が持っていたCDの歌詞カードではkeepの部分が確かkeyと書いてあった。出て行く時に鍵を返すのは普通のことだから疑問は持たずにいたけれど、今回ネットで確認して出てきた言葉がkeepである。ネットに出ている歌詞は、いいかげんだった昔のレコード会社の歌詞カードと違って歴史の検証をくぐっているものだから、こういう場合は新しい方を「正しい歌詞」だと解釈するのが当ブログの基本姿勢である。keepには「生活費」「蓄え」という意味があるから、受け取るはずだった給金もあきらめて出て行くということなのだろうと思い、とりあえず上のように訳したが、何となく「竹に接木」になっていると、自分自身で思う。次にあなたがこのページを見る時には、いつの間にか変わっているかもしれません。
  • grain of saltには「当てにならない」「眉唾もの」という意味があるのだとのこと。昔のローマ帝国が兵士の給料を塩で払っていた時代からある古い表現らしいが、ネットが出てくるまではこんなことはいくら調べても分からなかった。

Goodbye to that country home,
so long, lady I have known,
Farewell to my other side,
I'd best just take it in stride

この歌の中で一番「謎」なのが、この部分である。他の箇所では明らかに「友人」が「不誠実な召使い」に対して語りかけているのに、この4行だけは「不誠実な召使い」の言葉であると解釈しないと辻褄が合わない気がする。「友人」には故郷にも「レディ」にも別れを告げる必要はないはずなのだから。

しかしザ・バンドというバンドでは、そんな風に歌の中で語り手のキャラクターが変わると、必ずそこでボーカルが別の人と交替するのである。私が知っている限り、他の曲は全部そうなっている。にも関わらずこの曲は、最初から終わりまで確実にリック・ダンコが1人で歌っている。だとしたら歌の中の語り手も、やはり一貫しているのだとしか私には思えない。

ここでいっそう謎めいて見えてくるのが、Farewell to my other sideという歌詞である。おれがお前でお前がおれで。この言葉は一体どういう意味を持っているのだろう。さっき思いついた「友人」=「父親」という解釈はこの部分の読み方にも新しい意味を与えるように思えるが、いずれにせよ今のところ私には何とも言えない。

ただ、じっくり聞いてみると、この歌詞に入る直前でリック・ダンコが微妙に「歌い方を変えている」気が、しないでもない。前の2行は「心の中」で歌っていて、この部分から改めて目の前の相手に語りかける歌い方に変わっているような感じが、しないでもない。

そこからどんな仮説が導き出されるのかというと、ごめんなさい。どんな仮説も私にはやっぱり、思いつかない。みなさんの意見をお待ちしています。


甲州街道はもう秋なのさ

 この曲の最後に流れる「チューバのソロ」についても、どうしても一言書いておきたい気持ちがあったのだが、これで既に一言になっているから、もういいや。いろんなことを言えば言うだけ、この曲は自分から離れて行ってしまうような気がする。もっともこの曲はあらゆるザ・バンドの曲の中で、いつでも私から「一番遠いところ」にある気がしていた、そういう曲でもあるのだけれど。

ではまたいずれ。

(参考リンク)

英国ロック・フォーク・トラッドの世界

アンフェイスフル・サーヴァント / ザ・バンド 1972/8/15 The Unfaithful Servant - The Band: 日刊ろっくす ROCKS(v BLOGS)