華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Eve of Destruction もしくは東の空が燃えてるぜ (1965. Barry McGuire) ※好きな曲ではありません

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昨日は「無情の世界」だったので今日は「明日なき世界」である。RCサクセションの「カバーズ」というアルバムはこの曲の日本語版から始まるのだけど、私は最初のこの曲が一番好きだった気がする。原発へのアンチを歌って有名になった「ラブ・ミー・テンダー」や「サマータイム・ブルース」も入っているのだけれど、それらも含めて他の曲は、全部ふざけて書かれたものでしかない感じがした。しかし最初のこの曲だけは、真面目に書かれた歌詞が極めて真面目に歌われていた。それを冒頭に持ってくることで、「ふざけているように見えるけど基本的には真面目なのだ」というメッセージを聞き手に届けることに、あのアルバムは成功していたと思う。


RC SUCCESSION - 明日なき世界

けれども調べてみると、「カバーズ」の中でもこの曲だけは忌野清志郎がつくった歌詞ではなく、日本のフォークソングの草分けと言われている高石ともやによって、それより約20年も前の1960年代末に翻訳された歌詞が使われていたのだということが分かった。驚いたことに、youtubeにはその「原曲」の動画まで上がっていた。高石ともやとジャックスが共演していたことがあったのだということ自体、私は今まで知らなかったのだが、60年代とは思えないくらい、迫力のある演奏だった。


明日なき世界 / 高石ともや&ジャックス

そしてRCの演奏でこの曲を知って以来、私がずっと「降ってきたこの世は騒がしいぜ」と歌っているのだと思ってきた三番の歌詞には、実は「狂ってきたこの世」という差別語が使われていたのだということを知って、私とこの曲との関係は終わった。原曲ではひょっとして使われていないのではないかと思い、調べてみたが、原曲はもっと、ろくでもない内容だった。

それまでずっと好きだった歌が実は差別的な歌だったことを知った時や、とても共感できない内容だったことが分かった時には、その歌について一切語るのをやめるのが正しい態度なのではないかと思ったし、このブログでもそうしようかとも考えた。しかしそうすれば、その差別的な歌やひどい内容の歌を賞賛する情報ばかりが、結局世の中にはあふれて行くことになる。「自分の青春に決着をつける」というこのブログの趣旨からしても、かつては好きだったその歌を私はなぜ嫌いになったのかということを明記した上で、あえて訳詞を含めて紹介することの方が「正しい」態度なのではないかと考え直し、そのようにすることにした。自分で翻訳することによって初めてそういうことに気づくケースだって、あるわけだ。

だから今後はそういった曲に関しては、タイトルにあらかじめ「※好きな曲ではありません」という一言を入れてから、紹介する形をとって行きたいと思います。「いい曲だからみんなに聞いてほしい」という意味で紹介するわけではないということです。なお、これまで紹介してきた曲の中ではギルバート・オサリバンの "Nothing Rhymed" と姫神の「神々の詩」がこの「※好きな曲ではありません」にあたるので、今からさかのぼってタイトルを変更しておくことにしたいと思います。


Barry McGuire - Eve Of Destruction

Eve Of Destruction

The eastern world it is exploding
Violence flarin', bullets loadin'
You're old enough to kill but not for votin'
You don't believe in war but whats that gun you're totin'?
And even the Jordan River has bodies floatin'
東側の世界が爆発している
暴力がほとばしり 銃に弾丸が込められている
おまえは殺しのできる年
でも選挙権もまだ持たされちゃいない
戦争なんて信じないって言うけど
おまえが持ってるその鉄砲は何なんだ?
そしてヨルダン川にまで死体が浮いている

 

But you tell me
Over and over and over again my friend
Ah, you don't believe
We're on the eve of destruction
それなのに友だちのおまえは
何度もしつこくおれに言う
おれたちが破滅の前夜にいることを
おまえは信じないって

 

Don't you understand what I'm tryin' to say
Can't you feel the fears I'm feelin' today?
If the button is pushed, there's no runnin' away
There'll be no one to save with the world in a grave
Take a look around you boy, it's bound to scare you boy
わからないかな おれの言いたいことが
おれのいま感じてる恐怖を おまえは感じないのかな
ボタンが押されたら どこにも逃げられないんだぜ
誰も助かる人はいなくて 世界中が墓場になるんだ
周りをよく見てみろよ きっと怖くなるはずだから

 

And you tell me
Over and over and over again my friend
Ah, you don't believe
We're on the eve of destruction
そして友だちのおまえは
何度も何度も繰り返しおれに言う
おれたちが破滅の前夜にいることを
おまえは信じないって

 

Yeah my blood's so mad feels like coagulating
I'm sitting here just contemplatin'
I can't twist the truth it knows no regulation
Handful of senators don't pass legislation
And marches alone can't bring integration
When human respect is disintegratin'
This whole crazy world is just too frustratin'
おれの血はmadになってきて、凝固しそうだ
おれはただここに座って じっと考えている
真実をねじ曲げることはできないし
真実は規則なんかに縛られない
一握りの上院議員が 法案をストップさせてる
人間の尊厳が踏みにじられている時に
デモ行進をするだけじゃ 人種差別はなくならない
このcrazyな世界は本当に人をイライラさせる

※ "mad", "crazy" は「精神障害者」を侮辱する意味が込められた差別語です。批判を込めて、原文からそのまま転載しました。

 

And you tell me
Over and over and over again my friend
Ah, you don't believe
We're on the eve of destruction
そして友だちのおまえは
何度もしつこくおれに言う
おれたちが破滅の前夜にいることを
おまえは信じないって

 

Think of all the hate there is in Red China
Then take a look around to Selma, Alabama
You may leave here for four days in space
But when you return it's the same old place
The pounding of the drums, the pride and disgrace
You can bury your dead but don't leave a trace
Hate your next door neighbor but don't forget to say grace
赤い中国に吹き荒れている憎悪のことを考えてみろよ
それからアラバマのセルマのことも考えてみろよ
4日間ほど宇宙に行くのもいいだろうさ
でも戻ってきたらそこは前と変わらない同じ場所だよ
戦いのドラムの響き 誇りと屈辱
死体は埋めたらいいけど 痕を残すなよ
隣人を憎むのもいいけど お祈りは忘れずに

 

And tell me
Over and over and over and over again my friend
You don't believe
We're on the eve of destruction
Mmm, no, no, you don't believe
We're on the eve of destruction
そして友だちのおまえは
何度も何度も繰り返しおれに言う
おれたちが破滅の前夜にいることを
おまえは信じないって

 

 =翻訳をめぐって=

The eastern world it is exploding

このブログは対象年齢が中学生以上なので丁寧に説明することにしたいけど、eastern world=東側世界とは当時の「東西冷戦」時代にあって、ソビエト連邦を中心とする社会主義陣営の諸国のことをさす表現として使われていた言葉。対してこの歌を歌っているバリー・マクガイア (そしてこの歌を作ったP・F・スローン) は、「西側」=資本主義陣営の盟主と言うべきアメリカの人間である。戦争がおこる原因を「自分の国の支配者」のせいではなく「相手の国」のせいにしている時点で、この歌はすでに「反戦歌」ではないと思う。日本語詞の「東の空が燃えてるぜ」からは、そういう意味だったとは気づかなかったな。

You're old enough to kill but not for votin'

当時のアメリカの徴兵年齢は18歳、これに対して選挙権が持てる年齢は21歳だったとのこと。

And even the Jordan River has bodies floatin'

1964年に結成されたパレスチナ解放機構が、ヨルダン川流域でイスラエルに対するゲリラ闘争を開始し、これを支持するシリアやレバノンイスラエルとの間に紛争が相次いでいた当時の状況をさしている。しかし外国のサイトでのこの歌に関する説明を読む限り、歌い手はイスラエルパレスチナの人々に何をしてきたかとか、パレスチナの人々がなぜイスラエルを許せないのかといったこととは全く関係なく、ただ「キリスト教徒にとって最も聖なる地であるヨルダン川という場所」が、「血で汚されていること」を嘆いているにすぎない。態度の取り方が、他人事でしかないのである。

And you tell me
Over and over and over again my friend
Ah, you don't believe
We're on the eve of destruction

「でもよぉ/ 何度でも何度でもおいらに言ってくれよ/ 世界が破滅するなんて/ ウソだろ?」という日本語詞はとても印象的なので、最初はそれをそのまま使おうかと考えていた。ところがよく見るとこの文章は tell me ではなく you tell me で始まっている。「世界が破滅するなんて信じないと言ってくれ」と相手に頼んでいるわけではなく、「おまえは世界が破滅するなんて信じないと言う」ということを批判がましく言っているだけなのである。自分のことを「意識が高い」とか思ってる人間が、上から目線で人に説教しているだけではないか。ここまでしょーもない歌だとは思っていなかった。

もっとも、アメリカにもこの歌を忌野清志郎が歌ったような内容の歌として聞いている人は、いるらしい。アメリカの高校生がこの歌をバックに流しながら戦争反対を訴えている動画を見たのだが、その字幕に流れている歌詞は But you tell meではなくBut tell me になっていた。youが入っているかいないかで意味がほとんど逆になってしまうのだから、英語とは何てデリケートな言葉なのだろうと思ってしまうが、「公式」歌詞は明らかにyou tell meになっている。そして残念ながら、そう思って聞くとバリー・マクガイアもハッキリyouと歌っているのが聞こえる。

Handful of senators don't pass legislation
And marches alone can't bring integration
When human respect is disintegratin'

ちょうどこの歌が出た当時に制定された公民権法をめぐるアメリカ上院でのやりとりについて、触れているのだと思う。

1964年公民権法 - Wikipedia

Think of all the hate there is in Red China

他のサイトではこの部分が中国の文化大革命のことを言っていると説明しているものがあったが、この歌が書かれた当時は文革はまだ始まっていない。作詞者のP・F・スローンは中国についてよく知っていたわけではないが「何となく」この歌詞を書いたのであり、「赤いロシア」でも別によかったのだと後に述べている。ひとつの国を名指しして「憎しみにあふれている」などということを「何となく」決めつけることのできるような「反戦歌」がどこにあるだろうか。なお、現在バリー・マクガイアがこの曲を歌う際には、この箇所と次の「セルマ」の部分の歌詞が削られ、代わりに以下の歌詞に差し替えられているという。

"Now think of all the hate, still living inside us/ its never too late, to let love guide us"

「おれたちの心の中にまだ残っているあらゆる憎しみについて、考えてみよう/ 愛に導かれて進むのは、今からでも遅くない」

Then take a look around to Selma, Alabama

1965年3月7日に、公民権運動のデモに参加していた黒人青年が白人警官に射殺された「血の日曜日事件」のことをさしている。

 血の日曜日事件 (1965年) - Wikipedia

You may leave here for four days in space

この曲が出た当時、「ジェミニ4号」がアメリカの宇宙船として初めて4日間の宇宙滞在に成功したことを背景にした歌詞。アポロ11号の月面着陸はその4年後になる。

You can bury your dead but don't leave a trace
Hate your next door neighbor but don't forget to say grace

your dead は直訳するなら「あなたの死者」。分かりにくい歌詞だが、そのまま訳した。多分、真面目なキリスト教徒の立場から不誠実なキリスト教徒のことを皮肉った内容になっているのだと思う。


明日なき世界

…疲れた。歌詞の「解説」はできるなら文法的なことだけにとどめたいのだけど、こういう曲になるとそうも行かない。それではまた。