華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

A World Without Love もしくはあの時ビートルズは危うかったらしいぜ (1964. Peter & Godon)

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「明日なき世界」の次は「愛なき世界」である。かなり前、母親の実家の引越しの手伝いに行った時に、1960年代の週刊明星やら他のいろんな雑誌やらが山のように出てきて、思わず仕事をそっちのけで読みふけってしまったことがあるのだが、その中にこんな見出しがあった。

ビートルズ危うし!

人気絶頂のかれらに迫る新星登場!

その名もピーターとゴードン!

…よかったなピーター&ゴードン。あのときビートルズは、危うかったらしいぜ。ゴードン・ウォーラー氏は2009年に亡くなっているらしいが、当時の日本の雑誌にそんなことが書かれていたことを知れば、きっと本望だったと思ってもらえることだろう。それにつけても1960年代というのは本当に「何が起こるかわからない時代」だったのだということを、遅れて生まれてきた私も垣間見てしまったような気がした経験だった。

もっとも周知のように、この曲を書いたのは他ならぬビートルズポール・マッカートニーで、自分で作ったけど「ビートルズでやるにはふさわしくない」から、当時の恋人の兄貴だったピーター・アッシャーに「くれてやった」のが、この曲とかれらが世に出たきっかけであるらしい。それではなかなか、ビートルズは危うくなったりしなかっただろうな。やっぱり。


Peter & Gordon: A World Without Love (1964) [High Quality Stereo Sound, Subtitled]

World Without Love

Please lock me away
And don't allow the day
Here inside, where I hide with my loneliness
I don't care what they say, I won't stay
In a world without love
ぼくを閉じ込めちゃってくれないかな
そして日常も太陽の光も通さないでほしい
ぼくが孤独と2人ぼっちで隠れているこの場所に
ぼくは気にしない 誰が何と言おうと 暮らしたくなんかない
愛のない世界には

 

Birds sing out of tune
And rain clouds hide the moon
I'm OK, here I stay with my loneliness
I don't care what they say, I won't stay
In a world without love
鳥たちが調子っぱずれに歌い
雨雲は月を覆い隠す
平気だよ
ぼくは孤独と2人ぼっちでこの場所にいる
ぼくは気にしない 誰が何と言おうと 暮らしたくなんかない
愛のない世界には

 

So I wait, and in a while
I will see my true love smile
She may come, I know not when
When she does, I'll lose
そう しばらく待っていれば
本当の愛がきっと微笑みかけてくれる
彼女はやってくる いつになるかはわからないけど
彼女がそうしてくれたら
ぼくだって負けを認めるさ

 

So baby until then
Lock me away
And don't allow the day
Here inside, where I hide with my loneliness
I don't care what they say, I won't stay
In a world without love
だからそれまで
ぼくを閉じ込めちゃってくれないかな
そして日常も太陽の光も通さないでほしい
ぼくが孤独と2人ぼっちで隠れているこの場所に
ぼくは気にしない 誰が何と言おうと 暮らしたくなんかない
愛のない世界には

 

=翻訳をめぐって=

Please lock me away

lock away は「しまい込む/ 監禁する」などの意味。あまり日本語的でない言い方なので「1人にしてほしい」とか訳した方が自然になるかとも思ったが、それなら "Let me be alone" とか言うはずだろう。そういう言葉があえて選択されていない以上は、字義通りに訳すのが正しい態度だと思う。ジョン・レノンはこの歌詞が大好きで、歌っているポールに対して "Yes, okay. End of song (はいはい、曲が終わったらね)" と、突っ込みと言うか合いの手を入れていたらしい。

And don't allow the day

直訳は「昼間を入れてはならない」。しかしday はいろんな意味を持ちうる言葉なので、例によって原則を踏み越え、同じ言葉を2回訳している。それにつけても中学生の頃には、全部の単語の意味を辞書で調べてみたにも関わらず、この2行がどういうことを歌っているのかさっぱり分からなかったことを思い出す。今は何となく分かるのは、たぶん年をとったせいだけではなく、文法を勉強したからである。

So I wait, and in a while
I will see my true love smile
She may come, I know not when
When she does, I'll lose

…10代の頃の私は、この曲は本当に愛を失ってしまった人間が孤独の中で生きて行く決意を歌った悲壮な歌だと思っていたのだが、このあたりの歌詞を読むと、どうも歌の主人公は愛を失ってなんかいないらしい。単にいじけているだけであるらしい。うーむ。悲壮な気持ちでギターをかき鳴らしてこの歌を絶唱していた10代の私って、何だったのだろう。

 


07 愛なき世界 World Without Love

数年前に他界された石田長生さんが歌っていたこの歌が大好きだったのだが、youtubeにも上がっているのを見つけることができた。めちゃめちゃ、うれしかった。もう1年も前に投稿されているのに、まだ42回しか再生されていない。よかったらぜひみなさんも、聞いてみてほしいと思う。ではまたいずれ。