華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

(White Man) In Hammersmith Palais もしくはハマースミス・パレスの白人 (1978. The Clash)

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「この曲は特に聴くのが辛い。 なぜならあの夜ジョーと一緒にハマースミスに行ったのはこの俺だから。 あの曲がうたう通り、あの場でジョーが唯一の白人だった。 ジョーは本場のレゲェ観れると期待してワクワクしてた。 ジャマイカのゲットーに住む人間達をちっとも理解してなかったんだ。 彼らは何を考えてるかって? 彼らはゲットーから脱出してリッチになりたいと願っていた。 それでジョーがあそこに行った時観たのは、ゲットー出身の本場のジャマイカの反逆者なんかじゃなくって、その代わりにきらびやかなラスベガスのショーみたいなコンサートだった! おそらくジョーは一撃を食らったと思うよ。 自分の勘違いに気付いたはずさ。 俺は時々みんなに教える。 ゲットーは自ら入って行く場所じゃない。 ゲットーとはそこから抜け出す場所なんだってね。 あのゲットーのスタイルの流行は多くの人に誤解を招いた。 だからあれでジョーは目から鱗が落ちたんだ。

俺にとっては素晴らしいコンサートだった。だって Dillinger や Jah Stitch や Leroy Smart のような俺のレゲェのヒーローが観れたんだから。 でもジョーは期待してたものと実際観たもののギャップで多少のジレンマを感じてた。 もちろんジョーは後になってそれをちゃんと理解した。 バンドが『ハマースミス...』みたいなものをやるなんて思いもよらなかったよ。 ゆったりとした心地良さはレゲェだ。 あれはみんなが予想していた方向とは逆の展開で、それがまたクラッシュの良いところなんだ。 しかし毎回々あの曲を聞くと、本当に鳥肌が立つんだ。

最後になぜクラッシュが特別なバンドなのか話したい。 UNCUTがこのアンケートをしたおかげで、俺はもう一度今の音楽と照らし合わせて全体を考えてみた。 俺達(ジョーやミックや俺達の世代)は本当に音楽にのめり込んだ。 それは反体制の姿勢だったんだ。 それがクラッシュのようなバンドと今の全てのくだらないバンドとの違いだ。 もうクラッシュのようなバンドは現れはしない。 クラッシュを真似するのは難しい。 ほとんど不可能に近い!」

Don Letts (レゲェDJ、映画 Westway to the World の監督、ミック・ジョーンズのバンド『ビッグ・オーディオ・ダイナマイト』のメンバー ) ジョー・ストラマーが逝去した翌年の2003年のインタビューより。

著名人が選ぶクラッシュのベストソング


White Man (In Hammersmith Palais) - The Clash

(White Man) In Hammersmith Palais

ハマースミスパレスにて (そこにいた白人)

 

Midnight to six, man
For the first time from Jamaica
Dillinger and Leroy Smart
Delroy Wilson, your cool operator
真夜中から朝の6時までだ
ジャマイカから初めてやってきた
ディリンジャーにリロイ・スマート
「クール・オペレーター」ことデルロイ・ウィルスン

 

Ken Boothe for UK pop reggae
With backing bands sound systems
And if they've got anything to say
There's many black ears here to listen
イギリスのポップレゲエでもおなじみのケン・ブース
バックバンドにサウンドシステムまでついている
かれらが何か言いたいことを持ってるならば
耳を傾ける黒人の観客も大勢いる

 

But it was Four Tops all night with encores from stage right
Charging from the bass knives to the treble
But onstage they ain't got no roots rock rebel
Onstage they ain't got no...roots rock rebel
でもまるで
一晩中フォー・トップスを見てるみたいな気持ちだった
舞台袖からのアンコールつき
低音から高音まで音はギンギンだったけど
ステージの上に「ルーツ・ロック・反逆」はなかった
「ルーツ・ロック・反逆」がなかったんだ

 

Dress back jump back this is a bluebeat attack
'Cos it won't get you anywhere
Fooling with your guns
The British Army is waiting out there
An' it weighs fifteen hundred tons
お色直しに焼き直し
ブルービートレーベルの嫌がらせだよ これは
なぜって あんなのは
反逆のために銃をいじくりまわせるような場所には
ぜんぜんつれてってくれない
表には大英帝国の軍隊が居座ってて
やつらの装備は1500トンもある

 

White youth, black youth
Better find another solution
Why not phone up Robin Hood
And ask him for some wealth distribution
白い肌の若者たちよ
黒い肌の若者たちよ
他のやり方を見つけたほうがいいみたいだぜ
ロビン・フッドにでも電話して
富の公正な分配でもお願いしてればいいんだ

 

Punk rockers in the UK
They won't notice anyway
They're all too busy fighting
For a good place under the lighting
イギリスのパンクロッカーたちは
どっちにしろ何も気づいちゃいない
やつらはケンカで大忙しだ
スポットライトを浴びられる場所を争って

 

The new groups are not concerned
With what there is to be learned
They got Burton suits, ha you think it's funny
Turning rebellion into money
新しいいろんなグループは
学ぶべきことがいっぱいあるはずなのに
自分には関係ないって顔をしてる
やつらはバートンのスーツを着て
ふざけてると思わないか?
反逆をカネに換えてるんだ

 

All over people changing their votes
Along with their overcoats
If Adolf Hitler flew in today
They'd send a limousine anyway
自分がどんなオーバーコートを着れるかを考えて
投票先を変えるような連中は
もしヒトラーが今日イギリスに来たら
リムジンを用意して迎えに行くんだろうさ

 

I'm the all night drug-prowling wolf
Who looks so sick in the sun
I'm the white man in the Palais
Just lookin' for fun
おれはドラッグを求めて一晩中うろつき歩いてる
一匹のオオカミで
昼間の太陽の下では病人みたいな顔
おれはハマースミス・パレスの白人
単に面白いことを探してるだけ

 

I'm only
Looking for fun
おれはただ
面白いことを探してるだけ

 

=翻訳をめぐって=

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  • Hammersmith Palais
  • Midnight to six, man について。ネット上にはコンマがついている歌詞とついていない歌詞とが存在する。ついているなら man は間投詞なので、訳す必要はない (ヘイ!みたいな意味)。ついていないなら、Pretty Thingsというイギリスのバンドの「真夜中から6時までの男」という曲のタイトルをジョー・ストラマーはそのままつぶやいているのだろうということが、英語のサイトに書かれていた。ロンドン西部にあった有名なダンスホールもしくはライブハウス「ハマースミス・パレス」では、78年当時オールナイトショーをやっていたことが確認されているので、その状況に合わせた歌詞であることは間違いない。なので上のように訳した。

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  • Dillinger

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  • Leroy Smart

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  • Delroy Wilson

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  • Ken Boothe

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  • レゲエのサウンドシステム
  • Four Tops : 私は、かっこいいと思う
  • Dress back jump back this is a bluebeat attack について。ブルービートレーベルとは当時イギリスにジャマイカ音楽を紹介していた主要なレコード会社のひとつだったとのこと。Dress back / jump back については、ごめんなさい。わかりませんでした。試訳は完全に意訳になっているけど、関西弁で言う「引いたわー」みたいな意味の言葉である可能性も、ある。
  • Fooling with your guns について。foolという差別語が使われているが、fool withという熟語自体は「もてあそぶ/ いじくりまわす」という意味を持っている。しかしそれなら他に言い方はいくらでもあるのであって、この1行が入っているために、私がこの歌を口ずさむことは、今ではもうない。
  • White youth, black youth Better find another solution : あたかも人種差別を超越した立場からモノを言っているような言い方だが、"Safe European Home" みたいな歌を作って人前で歌うようなことをしてみせた人間に、そういう物言いができる資格はないと思う。(ひどい歌詞なので紹介したい気にもなれないけど、「治安の悪い国でのツアーはさんざんだった。安全・安心のヨーロッパに帰ってきてホッとしたぜ」みたいな内容の歌。セカンドアルバム所収)。「本音でモノを言う」ということはパンクにとって必要なことなのかもしれないが、「ルーツ・ロック・反逆」をもし彼自身が大切なものだと考えているなら、その基準に照らして言っていいことと悪いことというのは、あるはずだ。この理由からも、私にとってこの歌はやはり「歌えない歌」である。
  • さかのぼって言及するなら、"if they've got anything to say /There's many black ears here to listen"というのも、聞き捨てならない歌詞だと思う。なにを野次馬的に「期待」してるのだろう。反逆したけりゃまず自分から始めろよ、と言いたくなる。

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  •  バートンのスーツ
  • All over people changing their votes
    Along with their overcoats について。「オーバーコート」とは、イギリスの階級社会を象徴している言葉なのだという。階級が「上」の人間ほど「厚着」をしたがる傾向があるということが、どこかに書いてあった。

大貫憲章に対して言いたいことは山ほどあるが、とりあえずハマースミス宮殿などという宮殿は存在しない。今日はそれだけにしといてやる。ではまたいずれ。楽しみにしとけ。