華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Don't Let Me Be Misunderstood もしくは悲しき願い (1964. Nina Simone)


外国の曲の日本語カバーというテーマでどんな曲をとりあげるかという話になったら、さきに紹介した岩谷時子さんの楽曲群をのぞくなら、私の中ではこの曲以外にありえない。「だーれのせいでもありゃしない」というこの世の真実を凝縮したような歌詞は、何度私の逆境を…別に救ってくれたわけではないのだけど、それでもこの歌があるとないとでは、ひとつひとつの逆境もずいぶん違ったものになっていただろうと思う。

加えて尾藤イサオさんのあの圧倒的な歌唱力である。何であんなに歌が上手いのに、この曲とあしたのジョーのテーマしかヒット曲がなかったのだろうということが、私には本当にわからない。男性ボーカリストでは門田頼命(…読めない?「もんたよしのり」と読むのです)を西の横綱とするなら、私の中でこの人は断然東の大横綱である。

しかしこの歌。今になって改めて聞き直してみると、私が覚えていたのとは微妙にその歌詞が違っていた。


尾藤イサオ(悲しき願い)

ベイビー俺の負けだ あきらめよう
片想いの恋だけは もうたくさんだ
誰のせいでもありゃしない
みんな俺らが悪いのか


お前をベイビー
俺のものにすることは
むなしい悲しい願いなのか
誰のせいでもありゃしない
みんな俺らが悪いから


涙が落ちるのを
ぬぐいもせずに立っている
恋の芽をつみとられ
それでもがまんをしろか


オーベイビー
もうこれ以上近よらないで
もえる太陽俺だけにはなんでつめたいんだ
みんな俺らが悪いのか
そんな話があるものか
愛し合えぬはじめから
悲しき願いの恋だった



…「誰のせいでもありゃしない/みんなおいらが悪いの」ではなかったのだろうか?「誰のせいでもありゃしない」という大見得を切るような台詞の直後で「みんなおいらが悪いの」などと泣き言めいた言葉を聞かされたんでは、何だか吉本チックに顔からコケるしかなくなってしまう気がする。断然「さ」の方がいいと思ったのだが、調べてみると「みんなおいらが悪いの」というのは、志村けんがこの歌をギャグに取り入れて流行らせた時に、彼が独自にアレンジを加えた言い方だったことが明らかになった。屈辱である。志村けんなんて一番キライなタイプのコメディアンだと、子どもの頃からずっと思っていたはずだったのに。知らず知らずのうちに影響を受けているということは、あるんだな。

そうなるとむしろこの歌の魂というべき部分は「みんなおいらが悪いのか/そんな話があるものか」という歌詞にあったのだということが、いっそうハッキリしてくる。私もこれからは「みんなおいらが悪いのさ」などとスネて同情を求めるのはやめにして、この歌詞のように堂々と自分を正当化して生きて行くことを心がけたいと思う。

それともうひとつこの歌詞で特筆したいのは、「それでもがまんをしろか」という非常に独特な言葉遣いについてである。「しろってか」とか「しろというのか」とかいった風な表現にしても、メロディにたくし込めば歌えないことはないはずなのに、あえてこうした言葉遣いを選んだところに、何と言うのかな。作詞者の人の「泥臭いこだわり」のようなものを感じる。Theピーズというバンドの歌詞にはこうした言葉遣いが極めて頻繁に登場するのだが(ex:「植物気取りか」「枯れるまで二日酔いでビヨーンか」「受け入れるしかねーだ」「へいベイビーついてこいぜ」等々)、そのルーツはここにあったのかということに今回初めて気づかされた。こんな「いい歌詞」だったのに、今までの私はこの部分を「それでもがまんをしようか」と歌っているのだと思い込み、日本語的におかしいんじゃないかとか思っていたのだった。大変に、失礼なことだったと思います。

この歌のカバー元が、アニマルズのヒットさせた "Don't Let Ne Be Misunderstood" という曲だったことは広く知られた事実である。私は10代の時に一度自分でこの曲を訳そうと試みて、挫折している。「だーれのせいでもありゃしない」の部分の歌詞である "I'm just the soul whose intentions are good" という英語の意味が、分からなかったからだ。

昨日訳した「ガソリンアレイ」の中に同じ表現が出てきたのでこの曲を思い出し、今なら訳せるのではないかと思ったことを理由にして今日はこの曲を取りあげたのだったが、改めて歌詞を読んでみると1行目から mad という差別語が使われていたので、一挙に気持ちが萎えてしまった。それでも青春に決着をつける作業の一環なのだから、どういうことが歌われた歌だったのかということは、確かめておかねばならない。以下が私訳である。


Animals - Don't let me be Misunderstood

Don't Let Me Be Misunderstood

Baby, do you understand me now
Sometimes I feel a little mad
But don't you know that no one alive
Can always be an angel
When things go wrong I seem to be bad
But I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood

ベイビー おれの気持ちがわかるか
おれはときどきmadになる
だけどわからないか
いつも天使でいられるやつなんていないんだ
ものごとがうまく行かなくて さえない時には
でもおれは根はいいやつなんだぜ
ああ神様 誤解されたんじゃたまらないよ


Baby, sometimes I'm so carefree
With a joy that's hard to hide
And sometimes it seems that all I have do is worry
Then you're bound to see my other side
But I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood

ベイビー 時にはおれにだって気持ちが楽で
よろこびを隠せないように見えることもある
そして時にはくよくよする以外に
やることがないやつみたいに見えることもあって
そういう時おまえはおれの別の面を見ることになると思う
でもおれは根はいいやつなんだぜ
ああ神様 誤解されたんじゃたまらないよ


If I seem edgy I want you to know
That I never mean to take it out on you
Life has it's problems and I get my share
And that's one thing I never meant to do
Because I love you

おれがイライラしてるように見えたら
わかってほしい
おまえに八つ当たりしてるわけじゃないんだ
人生には問題がいっぱいあって
自分の分は自分でかたづけなくちゃいけない
八つ当たりなんてするもんか
おれはおまえを愛してるんだから


Oh, Oh baby don't you know I'm human
Have thoughts like any other one
Sometimes I find myself long regretting
Some foolish thing some little simple thing I've done
But I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood

ああ ベイビーわからないかな
おれだって人間なんだよ
考えてることは他のやつらと同じなんだ
ときどき 気がついたら後悔してる
自分がやらかしたささいなfoolishなことについて
でもおれは根はいいやつなんだぜ
ああ神様 誤解されたんじゃたまらないよ


Yes, I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood
Yes, I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood

…訳してはみたものの、貧弱貧弱うりりりりぃ、という感を否めない。コーラスが2人もついてるのに1人の尾藤さんの歌の方が迫力があるように聞こえるのはどういうことなのだろうとずっと思っていたけれど、大きくは歌詞のせいだったのではないかと、内容が分かってみると改めて思う。

とりあえずエリック・バードンさん。あなたは別に誤解されてるわけじゃないと私は思うよ。あんたは彼女に八つ当たりしたことを素直に認めるべきだし、謝って「もうしません」ということをこそ、歌にして伝えるべきだと思う。そうやって言い訳を続けている限り、あんたは必ず同じことを繰り返す。そして彼女も、そろそろそれぐらいのことは見抜いているはずだと私は思う。

intentionという言葉には「意図」とか「思惑」とか「内心」とか「決意」とかいう意味があるのだけど、"I'm just the soul whose intentions are good"というのはいろんな意味で英語独特の表現だと思う。今回参考にさせて頂いたこちらのサイトではこの部分に「俺だって良く在りたいと努めているひとつの魂なんです」という訳詞が当てられていたが、意味的にはこれが一番正確な翻訳なのだろうと感じた。しかし欧米の文化には宗教的背景があるから、こういう大げさな言い回しを「軽く」使う傾向がある。その辺のニュアンスは本当にネイティヴの人に聞かないと分からないけど、「私は善良な人間です」から「悪気はない」「わざとじゃない」に至るまで、いろんな幅を持った表現らしいのである。

この部分のエリック・バードンは、どう考えても「おれは根はいいやつなんだぜ」ぐらいのことしか言っていないと思う。極めて軽い響きの言葉である。そして日本人の感覚からするとそういう評価は他人が決めることであって、それを自分で言うあたりにいっそうちゃらい印象を感じてしまいがちになるのだが、そういうことも含めて「英語的」なのだということは、割り引いて考えねばならないと思う。とはいえ上記サイトの方がこのアニマルズのバージョンを「不良少年の勝手な言い訳」のように聞こえると評されていたことについては、私も同意したい気持ちである。「不良少年」という言葉は少年の側から誇りを伴う自称として使われる場合もあるけれど、他人をそう呼ぶことは悪意あるレッテル貼りにしかならないので、そこは同意しない。しかし「勝手な言い訳」には完全に同意である。

そして上記サイトの方の文章を読んで初めて知ったのだが、この曲はそもそもアニマルズが作った曲ではなく、もともとはニーナ・シモンというジャズシンガーの人の曲だったらしい。youtubeで聞いてみたら、ずいぶん違った印象の曲だった。


Nina Simone-Don't Let Me Be Misunderstood

Baby you understand me now
If sometimes you see that I'm mad
Doncha know no one alive can always be an angel?
When everything goes wrong, you see some bad
But I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood
ベイビー わかるでしょう。
もし私のことが時々madに見えてるとしても。
いつも天使でいられる人なんてどこにもいないってことを
あなたは知らないんだろうか。
何もかもがうまく行かない時には
私のいやなところばかり見えるんだろうと思うけど。
でも私には悪気なんてない。
ああ神様 誤解されるのは耐えられないです。


Ya know sometimes baby I'm so carefree
With a joy that's hard to hide
And then sometimes again it seems that all I have is worry
And then you're bound to see my other side
But I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood
ねえ 時には私にだって気持ちが楽で
よろこびを隠せないように見えることもある。
そして時にはくよくよする他にどうしようもないこともあって
そんな時あなたは私の別の面を見ることになるんだと思う
でも私には悪気なんてない。
ああ神様 誤解されるのは耐えられないです。


If I seem edgy
I want you to know
I never mean to take it out on you
Life has its problems
And I get more than my share
But that's one thing I never mean to do
Cause I love you
もし私がイライラしてるように見えるなら
わかってほしい
あなたに八つ当たりしてるわけじゃないんだ
人生にはいろんな問題があって
私は自分が引き受けなきゃいけない以上のものを抱えてる
でもあなたに八つ当たりするようなことだけはしない
愛してるんだから


Oh baby
I'm just human
Don't you know I have faults like anyone?
Sometimes I find myself alone regretting
Some little foolish thing
Some simple thing that I've done
Cause I'm just a soul whose intentions are good
Oh Lord, please don't let me be misunderstood
ああ ベイビー
私だって人間なんだよ。
他の人と同じように欠点もあるってことがわからないんだろうか。
ときどき私はひとりぼっちで
前にやってしまったささいでfoolishなことについて
後悔している自分に気づく。
でも私には悪気なんてない。
ああ神様 でも私には悪気なんてない。
ああ神様 誤解されるのは耐えられないです。


Don't let me be misunderstood
I try so hard
So please don't let me be misunderstood
誤解されるのは耐えられないです。
私は がんばっています。
どうか誤解されないようにしてください。

…曲調が大きく違っているけど、歌詞も微妙に違っている。同じmadという差別語が使われているけれど、アニマルズのバージョンでは自嘲的にmadという言葉を使い、そのことを通して「自分以外の人たち」のことをさげすんでいるのに対し、この人は自分にとって大切な人から自分がmadな人間だと思われるのが辛くて悲しいのだと歌っている。

差別語はあくまで差別語だけど、苦しみを訴えている人の言葉というものは、素直に聞かねばならないと思う。だから私はこの曲に「好きな曲ではありません」をつけることは、できないと思った。その代わり、この曲はアニマルズの曲としてではなく、あくまでニーナ・シモンさんの曲として紹介曲のリストに加える形をとりたいと思う。

悲しき願い サンタ・エスメラルダ
70年代にはこんなバージョンも流行っていたらしいのだが、私は全然知らなかった。「悲しき願い」といえばこの曲だと思っていた人が読んでおられたら寂しい思いをされると思うので、一応動画だけ、貼りつけておくことにします。ではまたいずれ。