華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

We Are the World もしくはごく限られたその一部 (1985. USA for Africa) ※ 好きな曲ではありません


今でも世の中の中学校の英語教師は、生徒に授業で "We are the world" の映画を見せたがるものなのだろうか。今でも世の中の中高生は、文化祭やら予餞会やらで何かにつけては "We are the world" を歌いたがるものなのだろうか。

51回目ということで、自分でも改めて「原点に立ち返る」ようなことがしてみたくて、この曲を取りあげてみることにした。私自身にとっては初めて「学校で習った」英語の歌で、初めて「みんなで歌った」英語の歌でもあるからである。

youtubeで何十年かぶりに動画を見てみると、やはりひとつひとつのシーンに思い出が絡みついているので、10代の頃のことがいろいろと蘇ってくるのを感じる。英語教師がどういう教育的見地にもとづいて私たちにこの映画を見せたのであれ、中学生だった私たちがこの映画から受け取ったメッセージは、シンディ・ローパーみたいなとんでもない色に髪を染めた人が世の中にはいても「いいのだ」ということであり、マイケル・ジャクソンみたいな奇抜な格好をした人がいても「いいのだ」ということであり、ブルース・スプリングスティーンみたいに熱い歌い方というか生き方をする人がいても「いいのだ」ということだった。つまり私たちは「自分の見たいもの」だけをそこに見ていたわけである。その限りにおいて、あの映画は私たちにとってとても新鮮だったし、「アメリカ的な自由」への憧れを喚起するものでもあった。

しかし無意識のところで私たちがこの歌から受け取っていた最大のメッセージは、こんな風に自由奔放な格好をして「恵まれた」生活を送っている人間たちが、アフリカで飢えている人たちのことをネタにしてお祭り騒ぎを繰り広げてもそれは偽善ではないのだという、「先進国の人間の居直りの論理」だったのではないかと思う。

だから私たちはこの歌を合唱することに「安心感」をおぼえ、自己満足にひたることができていた。何不自由ない生活を送っている自分たちがアフリカで飢えている他者とそんな風に向き合うのは「正しい態度」なのであって、それは学校教育が認めたことであり、アメリカのスーパースター達が率先してやってみせたことなのだ、という事実が、私たちにそれ以上深く考える必要はないのだという「お墨付き」を与えて「くれて」いた。

だから私は当時の自分や自分たちがどんな気持ちでこの歌を歌っていたかということを思い出すたびに、ものすごく苦い気持ちになる。それが「楽しい思い出」と結びついている分だけ、いっそう苦い気持ちになる。

今さら改めて説明するまでもなく、この歌はとても偽善的な歌である。

これもふた昔ほど前の話になるけれど、「世界がもし100人の村だったら」という本がやたらとブームになったことがあって、偶然入った喫茶店に置いてあったので、私も手にとってみたことがあった。

100人のうち20人は栄養がじゅうぶんではなく、1人は死にそうなほどです。でも15人は太り過ぎです。
すべての富のうち6人が59%をもっていて、みんなアメリカ合衆国の人です。74人が39%を、20人が、たったの2%を分けあっています。
すべてのエネルギーのうち20人が80%を使い、80人が20%を分けあっています。

そんな風にいろんな数字が並べられた上で、最後に書かれていたのは「あなたがどんなに恵まれているか、わかりましたか?」みたいな言葉だった。私はその本を破り捨てたくなった。

この歌も「そういう歌」でしかないと今では思うし、それ以上私には言うことがない。こんな歌に「許された」気持ちになっていた自分自身の恥ずかしい過去に、改めて決着をつけねばならないと思うばかりである。


USA for Africa - We are the World

We Are the World

(Lionel Richie)
There comes a time when we heed a certain call
(Lionel Richie & Stevie Wonder)
When the world must come together as one
(Stevie Wonder)
There are people dying
(Paul Simon)
Oh, and it's time to lend a hand to life
(Paul Simon/Kenny Rogers)
The greatest gift of all

ライオネル・リッチー
今こそ時が来た
われわれがある人々の声に耳を傾けるべき時が
ライオネルリッチー&スティービーワンダー
世界がひとつに団結すべき時が
スティービー・ワンダー
死んでゆく人々がいる
ポール・サイモン
ああ 今こそ命に手を貸す時だ
ポールサイモン&ケニーロジャース
神に与えられた最大の贈り物であるその命に


(Kenny Rogers)
We can't go on pretending day by day
(James Ingram)
That someone, somehow will soon make a change
(Tina Turner)
We're all a part of God's great big family
(Billy Joel)
And the truth
(Tina Turner/Billy Joel)
You know love is all we need

ケニー・ロジャース
日々自分をごまかし続けることは
われわれにはもうできない
ジェームス・イングラム
誰かがすぐに何とかしてくれるだろうなどと
ティナ・ターナー
私たちはみな神の偉大な家族の一員なのだ
ビリー・ジョエル
そして君も真実を知っているはずだ
ティナターナー&ビリージョエル
愛こそ われわれに必要なすべてなのだ


(Michael Jackson)
We are the world, we are the children
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
(Diana Ross)
There's a choice we're making we're saving our own lives
(Michael Jackson/Diana Ross)
It's true we'll make a better day just you and me

マイケル・ジャクソン
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
ダイアナ・ロス
ここに私たちのとるべき答えがある
私たちは自分自身の命を救おうとしているのだ
マイケルジャクソン&ダイアナロス
そう 私たちはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ


(Dionne Warwick)
Well, send'em your heart so they know that someone cares
(Dionne Warwick/Willie Nelson)
And their lives will be stronger and free
(Willie Nelson)
As God has shown us by turning stone to bread
(Al Jurreau)
And so we all must lend a helping hand

ディオンヌ・ワーウィック
そう かれらにあなたの心をとどけなさい
そうすればかれらも
誰かが気にかけていることを知るでしょう
ディオンヌワーウィック&ウィリーネルソン
そしてかれらの生はより強く自由なものとなるでしょう
ウィリー・ネルソン
神がわれわれに
石をパンに変える奇跡を見せてくださったように
アル・ジャロウ
われわれすべてが 救いの手を差し伸べるべきなのだ


(Bruce Springsteen)
We are the world, we are the children
(Kenny Logins)
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
(Steve Perry)
There's a choice we're making we're saving our own lives
(Daryl Hall)
It's true we'll make a better day just you and me

ブルース・スプリングスティーン
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
ケニー・ロギンス
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
スティーブ・ペリー
ここにわれわれのとるべき答えがある
われわれは自分自身の命を救おうとしているのだ
ダリル・ホール
そう われわれはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ


(Michael Jackson)
When you're down and out there seems no hope at all
(Huey Lewis)
But if you just believe there's no way we can fall
(Cyndi Lauper)
Well, well, well, let's realize that a change can only come
(Kim Carnes)
When we
(Kim Carnes/Cyndi Lauper/Huey Lewis)
stand together as one

マイケル・ジャクソン
打ちのめされている時には
どこにも希望がないように見えるものだ
ヒューイ・ルイス
けれども君が信じてさえくれるなら
われわれが崩れることはありえない
シンディ・ローパー
そう そう そう 今こそ気づかなくちゃ
変化が起きるのはどういう時なのか
キム・カーンズ
それは私たちが
キム・カーンズ/シンディ・ローパー/ヒューイ・ルイス
ひとつになって立ちあがる時だ


We are the world, we are the children
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
(Bob Dylan)
There's a choice we're making we're saving our own lives
It's true we'll make a better day just you and me

全体x2
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
ボブ・ディラン
ここにわれわれのとるべき答えがある
われわれは自分自身の命を救おうとしているのだ
そう われわれはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ


(Ray Charles)
We are the world, we are the children
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
There's a choice we're making we're saving our own lives
It's true we'll make a better day just you and me

レイ・チャールズ
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
ここにわれわれのとるべき答えがある
われわれは自分自身の命を救おうとしているのだ
そう われわれはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ


(Stevie Wonder & Bruce Springsteen)
We are the world, we are the children
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
There's a choice we're making we're saving our own lives
It's true we'll make a better day just you and me

スティービーワンダー&ブルース・スプリングスティーン
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
ここにわれわれのとるべき答えがある
われわれは自分自身の命を救おうとしているのだ
そう われわれはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ


(James Ingram & Ray Charles)
We are the world, we are the children
We are the ones who make a brighter day so let's start giving
There's a choice we're making we're saving our own lives
It's true we'll make a better day just you and me

ジェームスイングラム&レイチャールズ
われわれは世界であり
われわれは神の子どもたちなのだ
より明るい未来を作り出すのはわれわれだ
だから 与えることを始めよう
ここにわれわれのとるべき答えがある
われわれは自分自身の命を救おうとしているのだ
そう われわれはただあなたと私のために
よりよい未来をつくろうとしているのだ

=翻訳をめぐって=

ヒューイ・ルイスの歌っている"But if you just believe there's no way we can fall"という部分だけ、どういう意味なのか分かりにくいのを感じる。前節でマイケルジャクソンが「辛い時には誰も助けてくれないように思えるだろう」と言っている言葉を受けての歌詞だから、おそらく「でもわれわれは助けるよ」的なことを言っているのだろうと思う。(暴れ出したくなるほど偽善的に思えるのはともかくとして)。解釈が難しいのはfallという言葉の意味と、weという言葉の中にyou(つまりアフリカの人たち)は含まれているのかいないのかという問題である。you(アフリカの人たち)が信じてくれたなら、we(アフリカの人たちとアメリカンアーティスツを両方含んだ全体としての「世界」)は崩れる(fall)ことはないとここでは訳したが、この部分の解釈は各種の翻訳サイトによってもまちまちである。さらにこのyouは「レコードを買った人間」であるという解釈の幅もあると思われるわけで、そうなると「アフリカの人たち」はいっそう「ネタ」でしかないという話になる。いずれにせよ、そもそも偽善的なこの歌の「偽善の程度」に関わる問題でしかないのだから、大きく見れば大して重要な違いではないと言えるだろうが、ハッキリさせておきたい点ではある。


ではまたいずれ。