華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

King of Pain もしくは傷つき王におれはなる (1983. The Police) ※好きな曲ではありません

うそつきおじさん
きずつきおじさん
そろそろはるです
おめでとう

…もうずいぶん昔に亡くなってしまった気がするボ・ガンボスのどんとさんが、その前にやっていたバンドの曲の中で歌っていた歌詞である。衝撃的な歌詞だった。「うそつきおじさん」という言葉は、言うなれば聞き慣れたフレーズだけど、そこから「きずつきおじさん」という言葉を思いつけるのは驚嘆すべき発想の跳躍力だと思った。そして日本語の造語能力はこれほど可能性にあふれているのに、どうしてポリスの"King of Pain"という曲のタイトルには、ぴったり来るような訳語が見つからないのだろうと思ったことを覚えている。

つまりこの曲の翻訳作業は、そんな大昔から私にとってひとつの課題になっていたことになる。

"King of Pain" というのは、決して解釈に苦しむような難しい英語ではない。しかしこの歌の訳詞はいろいろ見たことがあるけれど、いまだにしっくり来るような翻訳に出会えたことがない。「痛みの王」「苦痛の王」「傷つくことにかけての王者」…いずれも、"King of Pain"という3つの英単語が与える強烈なインパクトと「わかりやすさ」を再現できた訳語には、なりえていない気がする。

現実の世界に存在している王やら皇帝やら天皇やらというものは、人を殺したり戦争を起こしたり税金と称して人から物を奪ったり、みんなが飢えている時に自分だけ贅沢している存在なのだから、少しも親しみやすい存在ではないし、愛すべき存在でもない。しかしメタファーとしての「王」という言葉は、吉田戦車の「感染るんです」に出てくる半裸の王様しかり、寺村輝夫の童話に出てくる卵焼きの好きな王様しかり、どこか道化のイメージを併せ持っている。スティングというあのめちゃめちゃ頭のいいミュージシャンは、kingという大げさな言葉を持ち出すことで逆に自分のことを徹底的に「道化」として描き出そうとしているのではないかというのが、初めてこの歌を聞いた時から私の中にあった印象だった。

…それで結局私の考えた訳語が「傷つき王」である。他の訳語と大して変わるところがないのはわかっているけれど、私にはそれしか思い浮かばなかった。どんとさんが作った「きずつきおじさん」という言葉の印象が、あまりに強烈に自分の中に残り続けているからなのだと思う。

前回、CCRの雨の歌について調べていた過程で、rainという言葉とreignという言葉のつながりを指摘するアメリカの人の文章を読んだ時、この歌のことが久しぶりに頭に浮かんだ。「傷つき王」の「治世」というこれまた大げさな言い方で、この歌の中にもreignという聞き慣れない言葉が使われていたことを思い出したからである。ずっと挫折して放り出したままになっていたけれど、今なら翻訳を完成させられるかもしれない。

しかしそう思って改めて歌詞を読んでみると"blind"という差別語が1ヶ所で使われていたことに気づき、またしても気持ちが萎えてしまった。こういう、韻の踏ませ方だとか言葉の象徴性だとか色彩表現だとかに技巧を凝らしまくった歌詞の中に無造作に投げ込まれた差別語というものは、他と比べてもいっそう醜悪に感じられる。自分の技術を見せびらかすために、生きて生活している他の人間のことを「メタファー」として取り扱っても (つまり「モノあつかい」しても)「許される」と考えている作者の選民思想のようなものが、透けて見えるからである。この一語があるためにこの曲はもはや私の好きな曲ではないし、スティングも、まあ元からいけすかねーやろーだとは思っていたけれど、好きなミュージシャンではもはやない。

とはいえ、ずっとこの歌の翻訳にこだわっていた過去を私が持っている以上、やはり完成させなければ青春に決着はつけられないし、いけすかなさを具体的に明らかにすることもできない。こういう作業は、さっさと片づけてしまう以外にないのだと思う。以下、訳詞である。


The Police - King of Pain (rare music video)

King of Pain

There's a little black spot on the sun today
It's the same old thing as yesterday
There's a black hat caught in a high tree top
There's a flag-pole rag and the wind won't stop

今日も、太陽に黒点
昨日とまったく同じ
高い木の梢に引っかかっている黒い帽子
旗竿にからまったぼろ切れ
風はやみそうにない



I have stood here
before inside the pouring rain
With the world turning circles
running 'round my brain
I guess I'm always hoping
that you'll end this reign
But it's my destiny
to be the king of pain

いつかここに立っていた
土砂降りの雨に包まれて
頭の中で世界はぐるぐる回っていた
「なんじこそわが治世を絶つ者なるべし」
ぼくはいつもそう願っている気がする
でも傷つき王であること
それがぼくの運命なんだ



There's a little black spot on the sun today
That's my soul up there
It's the same old thing as yesterday
That's my soul up there
There's a black hat caught in a high tree top
That's my soul up there
There's a flag-pole rag and the wind won't stop
That's my soul up there

今日も、太陽に黒点
(そこにあるのが僕の魂)
昨日とまったく同じ
(そこにあるのが僕の魂)
高い木の梢に引っかかっている黒い帽子
(そこにあるのが僕の魂)
旗竿にからまったぼろ切れ
風はやみそうにない
(そこにあるのが僕の魂)



I have stood here
before inside the pouring rain
With the world turning circles
running 'round my brain
I guess I'm always hoping
that you'll end this reign
But it's my destiny
to be the king of pain

いつかここに立っていた
土砂降りの雨に包まれて
頭の中で世界はぐるぐる回っていた
「なんじこそわが治世を絶つ者なるべし」
ぼくはいつもそう願っている気がする
でもこれはぼくの運命なんだ
傷つき王であることが



There's a fossil that's trapped in a high cliff wall
That's my soul up there
There's a dead salmon frozen in a waterfall
That's my soul up there
There's a blue whale beached by a springtime's ebb
That's my soul up there
There's a butterfly trapped in a spider's web
That's my soul up there

高い崖壁に閉じこめられた化石
(あそこにあるのも僕の魂)
滝の中で凍りついている鮭の死骸
(あそこにあるのも僕の魂)
春の引き潮で浜に取り残されたシロナガスクジラ
(あそこにあるのも僕の魂)
蜘蛛の巣の中でもがく蝶
(あそこにあるのも僕の魂)



I have stood here
before inside the pouring rain
With the world turning circles
running 'round my brain
I guess I'm always hoping
that you'll end this reign
But it's my destiny
to be the king of pain

いつかここに立っていた
土砂降りの雨に包まれて
頭の中で世界はぐるぐる回っていた
「なんじこそわが治世を絶つ者なるべし」
ぼくはいつもそう願っている気がする
でもこれはぼくの運命なんだ
傷つき王であることが



There's a king
on a throne with his eyes torn out
There's a blind man
looking for a shadow of doubt
There's a rich man
sleeping on a golden bed
There's a skeleton
choking on a crust of bread
King of pain

玉座の上には両眼をえぐられた王
かれは疑惑の影を探すblindの男性であり
かつ黄金の寝台で眠る金持ちであり
そしてパンの皮に噎せている骸骨
傷つき界の王者だ



There's a red fox torn by a huntsman's pack
That's my soul up there
There's a black-winged gull with a broken back
That's my soul up there
There's a little black spot on the sun today
It's the same old thing as yesterday

猟師の袋の中で引き裂かれた赤い狐
(そこにあるのが僕の魂)
背骨の折れた黒い翼のカモメ
(そこにあるのが僕の魂)
今日も、太陽に黒点
昨日とまったく同じ



I have stood here before in the pouring rain
With the world turning circles running 'round my brain
I guess I always thought you could end this reign
But it's my destiny to be the king of pain
King of pain
King of pain
King of pain
I'll always be king of pain

いつかここに立っていた
土砂降りの雨に包まれて
頭の中で世界はぐるぐる回っていた
「なんじこそわが治世を絶つ者なるべし」
ぼくはいつもそう願っている気がする
でもこれはぼくの運命なんだ
傷つき王であることが
傷つき王
傷つき界の王
傷ついた世界の王
ぼくはいつまでも傷つき王



※ "blind"は「視覚障害者」に対する侮辱の意味が込められた差別語です。批判を込めて、そのまま転載しました。


Sting feat Lady Gaga - King of pain HD


気づくとは傷つくことだ
刺青のごとく言葉を胸に刻んで

枡野浩一「てのりくじら」

ではまたいずれ

てのりくじら―枡野浩一短歌集〈1〉 (枡野浩一短歌集 1)

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