華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Helpless もしくは孤立無援の唄 (1970. Crosby, Stills, Nash & Young)


ねえ 何かおもしろいことないかな
貸本屋の軒下で雨宿り
きみは難しい顔して
立ち読みしながら本を盗んだ
ぼくの自転車のうしろで
孤立無援の思想を読んだ

春になったら 就職するかな
壁に向かって逆立ちして笑った
机の上の高橋和巳
怒った顔して逆さに見える
どうして生きていいのか
わからぬふたりが
畳の上で寝そべっている

ねえ何か アルバイトないかな
きみはモノクロテレビの
プロレス見てる
ふたりはいつも負け役みたい
でんぐりがえって地獄固めだね
窓ガラス開けると
無難にやれと
世の中が顔をしかめてる

ねえどうにか やってゆけるかな
タッグマッチのきみがいないから
ぼくは空を飛べない
老いたスーパーマンみたい
どうして生きていいのか
わからぬぼくが
畳の上に寝そべっている


ー「孤立無援の唄」森田童子.1982.


The Band & Neil Young Helpless

Helpless

There is a town in north Ontario,
With dream comfort memory to spare,
And in my mind
I still need a place to go,
All my changes were there.

オンタリオ州の北のはずれに
町がある
夢のようにやさしい思い出が
あふれているところ
そしてぼくの心にはそれでも
行かなくちゃならないところがある
ぼくのすべてを変えてくれるような
そんなところ



Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.

青い青いいくつもの窓が
星のかげに浮かぶ
黄色い月がのぼってゆく
ぼくらの瞳に影を投げかけながら
大きな鳥たちが空を横切ってゆく



Leave us
Helpless, helpless, helpless

ぼくらを
孤立無援のまま 孤立無援のまま
孤立無援のまま
おきざりにしてくれ



Baby can you hear me now?
The chains are locked
and tied across the door,
Baby, sing with me somehow.

ぼくの声がきこえるか
鎖には錠前がかけられ
ドアはしばりつけられてる
それでもなんとかして
ぼくと一緒にうたってくれないか



Blue, blue windows behind the stars,
Yellow moon on the rise,
Big birds flying across the sky,
Throwing shadows on our eyes.

青い青いいくつもの窓が
星のかげに浮かぶ
黄色い月がのぼってゆく
ぼくらの瞳に影を投げかけながら
大きな鳥たちが空を横切ってゆく



Leave us
Helpless, helpless, helpless.

ぼくらを
孤立無援のまま 孤立無援のまま
孤立無援のまま
おきざりにしてくれ


=翻訳をめぐって=

  • There is a town in north Ontario: 海外のサイトではこの町を特定するための討論が盛んに行われているが、このブログでそれを詮索してもあまり意味はないと思う。
  • All my changes were there: なぜ、過去形になっているのだろう。おそらくas if all my changes were there が省略された表現(仮定法過去)だと思うので、ここではそのように訳している。
  • Blue, blue windows behind the stars: 窓は星の「背後(behind)」にあると歌われているのだから、「浮かんでいる」と解釈する他にない。とても不思議な歌詞だけど。
  • Big birds flying across the skyアメリカのサイトには「ニール・ヤングが "big bird" と言う時にはそれは飛行機のことをさしているので、鳥だと解釈してはいけない」と書かれている記事があったのだけど、本当だろうか。重要なことはむしろ、英語話者でもそういう説明を受けない限り、普通は鳥だと思うということである。だからこのサイトでの訳詞は「鳥」でいいと思う。
  • Leave us helpless: 他の邦訳サイトではなぜかこの部分が「置き去りにされてゆく」とか「無力な状態にされる」とかネガティブなイメージで訳されているのだけど、私は初めて聞いた時からこの "leave" は命令形だと思ってきたし、今でもそう思っている。文法的にもそう解釈するのが自然だと思う。「helplessでかまわない」とニールヤングは言っているのではないのだろうか。私の中でこの歌は、あくまでも決意を歌った歌であり、感傷を歌った歌ではない。それが勘違いだったというのならそれでも私は構わないのだけど、それなら納得の行く説明がほしいと思っている。

Helpless

Helpless

  • クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング
  • ロック
  • ¥250

後日付記

With dream comfort memory to spareという部分について、私は当初「いらない思い出を/ 夢がなぐさめてくれるところ」という訳詞をつけていたのですが、アメリカ在住の読者の方から「夢のようにやさしい思い出があふれているところ」というニュアンスで訳した方が正しいと思うと指摘されたので、そのように改訳しました。Thank you, Mr.Tony!