華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Who Do You Love もしくは をまへは誰に恋してる (1956. Bo Diddley)

をまへは誰に恋してる
をれはをまへに恋してる
票よ票
来れば嬉しい
心は涙のカクテール
僕は流れ星の尾で
悪意達を掃き出してしまふだらふ


―吉田聡「トラキーヨ」より
壇ノ浦清志の生徒会長選挙ビラ

…「をまへは誰に恋してる」の出典を明らかにしておかないとワケが分からなくなるとおもったのだけど、いっそうワケを分からなくしてしまった気がする。マンガを読んだことのない人は、いい作品なので、読んでみてください。

私の好きな二大バンドであるドアーズとザ・バンドにはおよそ接点がないように見えるけど、この両者が共通して演奏している曲が、私の知る限り一曲だけある。ボ・ガンボスというバンド名の一部になっていたことで、名前だけは私にも昔からなじみがあった、ボ・ディドリーという人の "Who Do You Love" という曲だ。

それにつけても「ボ」という名前は、芸名らしいけど、つくづく思いきった名前だと思う。古今東西いろんな人がいるわけだけど、ファーストネームが一音節で構成されている人というのは、この人を除けばチェ・ゲバラしか私は知らない。


Bo Diddley - Who Do You Love

Who Do You Love

I walk forty-seven miles of barbed wire
I use a cobra snake for a necktie
I got a brand new house on the roadside
Made from rattlesnake hide
I got a brand new chimney made on top
Made out of a human skull
Now come on take a walk with me, Arlene
And tell me, who do you love?

47マイルの有刺鉄線に沿っておれは歩く
おれはコブラをネクタイにする
ガラガラヘビの皮で道端に新居を建てる
てっぺんには人間の頭蓋骨でつくった
新しい煙突をつける
さあ一緒に行こうぜアーリーン
そんでもって教えてくれ
おまえは誰が好きなんだ?



Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?

誰のことが好きなんだ?
誰のことが好きなんだ?
誰のことが好きなんだ?



Tombstone hand and a graveyard mind
Just twenty-two and I don't mind dying

墓石の手に墓場の心
わずか22歳にして
おれは死ぬことをも恐れない



Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?

おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?



I rode a lion to town, used a rattlesnake whip
Take it easy Arlene, don't give me no lip

おれは街にライオンを連れて行く
ガラガラヘビをムチにして
気楽に行こうぜアーリーン
生意気な口はきくなよな



Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?

おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?



Night was dark, but the sky was blue
Down the alley, the ice-wagon flew
Heard a bump, and somebody screamed
You should have heard just what I seen

夜は暗かったが空は青かった
馬に引かれた氷屋の屋台が
横丁を飛んで行った
爆発音がして誰かが叫んだ
おれの見たものを
おまえも聞いとくべきだったな



Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?

おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?
おまえは誰が好きなんだ?



Arlene took me by my hand
And she said ooo-wee, Bo, you know I understand

アーリーンはおれの手をとって言った
うーいー、ボ
私はわかってるんだからね



Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?
Who do you love?

あんたは誰が好きなのさ
あんたは誰が好きなのさ
あんたは誰が好きなのさ


…47マイルは75.6km。lipは俗語の「生意気なしゃべり方」という意味で翻訳した。ice wagonはロバのパン屋みたいに馬が引っ張って売りに来るのがお決まりだったらしいので、訳語を補った。それにしても、へんてこりんな歌である。


The Band & Ronnie Hawkins - Who Do You Love
ラストワルツのコンサートの中で、ザ・バンドは「師匠」にあたるロニー・ホーキンスを舞台に迎え、この荒唐無稽な曲をひたすら楽しげに演奏していた。

ロニー・ホーキンスは1935年生まれのロカビラーで、ザ・バンドのオリジナルメンバーが3人も死んでしまった2017年現在もなおご健在だという話なのだけど、昔は旅回りのミュージシャンで、旅先で出会った「活きのいいミュージシャン」をスカウトして自分のバンドに加えては旅を続けるという、ハーメルンの笛吹きみたいな人だったらしい。彼がそうやって作った自分のバックバンド「ホークス」こそが、ザ・バンドの前身だった。

アメリカ南部はアーカンソー州生まれのリヴォン・ヘルム(動画でドラムを叩いてる人)は1956年、17歳の時に、地元にやってきたロニー・ホーキンスの演奏に衝撃を受け、その場でホークスの仲間になって、かれらと一緒に旅に出た。(すごい話だなあ。昔は日本でもこういうことってあったのだろうか)。しかし1950年代の終わりにさしかかるとアメリカのロカビリーブームは下火になり、食いつめたロニー・ホーキンスはカナダに新天地を求めることを決意する。1959年のことだった。

アメリカ生まれのホークスのメンバーはホームシックにかかって次々と脱落し、一時はロニー・ホーキンスのバンドのメンバーはリヴォン・ヘルムと、当時まだ10代半ばだったカナダ生まれのロビー・ロバートソンの2人だけになってしまう。しかし楽天家のロニー・ホーキンスはカナダ人の「活きのいいミュージシャン」を次々にスカウトし、力持ちのリック・ダンコ、やさしい心の持ち主のリチャード・マニュエル、音楽理論なら誰にも負けないガース・ハドソンの3人が新たにメンバーに加わることになる。(何か、だんだん客観性を欠いた叙述になってきています)。

…「ガンバの大冒険」で言うならば、ガンバ=リヴォン、ロビー=イカサマ、リック=ボーボ、リチャード=シジン、ガース=ガクシャ、そしてロニー=ヨイショという構図が私の中ではあまりにピッタリと当てはまっているのだけど、知らない人は読み飛ばして下さったら結構です。

しかし1964年になってホークスはついに(何が「ついに」なのかはさておき)ロニー・ホーキンスと訣別。「リヴォン&ホークス」と名を変えて、ほとんど放浪に等しいような旅回りの演奏の日々が始まる。かれらが「ザ・バンド」と名を変えて「世に出る」のは、当時フォークからロックに「転向」しつつあったボブ・ディラン(上図右上の白イタチ「ノロイ」に相当)のマネージャーの目に止まってバックバンドに採用され、さらに数年が経った1968年になってようやくのことだった。

…このブログはあくまで「歌詞の翻訳」がメインであり、一人一人のアーティストの「経歴」を紹介するようなことはオコがましくてあまりやってこなかったのだけど、今回それをやらずにいられなかったのは、そんな風に「いろいろあった」ロニー・ホーキンスとザ・バンドのメンバーが笑顔で一緒に演奏しているこの動画を見ると、やはり胸に迫るものを感じずにいられないからである。もっともこの楽しそうな演奏風景とは裏腹に、当時のザ・バンドのメンバー間の関係は既にバラバラになりかけていた。

とりわけロビー・ロバートソンは、「歴史に残るようなコンサートを一発やってバンドを終わりにする」ことを他のメンバーに相談することもなく自分1人だけで勝手に決めてしまい、そのようにしてロビーと外部のスタッフの手だけで準備され、映画にまでなったのがこの「ラスト・ワルツ」だった。動画の中で誰よりも明るい笑顔を振りまいているギタリストの彼以外は誰もこの時「これを最後のコンサートにする」ことを望んでいなかったのだということを思うと、私はすごく複雑な気持ちになる。複雑な気持ちというかハッキリ言うならロビーが憎…いや。物事にはハッキリ言えばいいというものではないことも時々ある。それ以上は今回は言わないことにする。今回はね。


The Doors - Who do you love
一方、そんな風にひたすら楽しくてデタラメな "Who Do You Love" が、セックスと死のことしか歌わないバンドであるドアーズの手にかかるといっぺんにシリアスな曲へと様変わりする。いや。ボはボで、て言っか分かりにくいから言い直すとディドリーはディドリーでやはり死とセックスというものに真面目に向き合った結果としてこの曲ができたのかもしれないけれど、向き合い方が全然、違うのである。これは、どちらがいいとか悪いとかそういう話ではない。

トカゲの皮で作ったスーツを着て "Lizard King" を自称していたジム・モリソンの声を通すと、「コブラのネクタイ」も「ドクロの煙突」も「ガラガラヘビのムチ」もそのユーモラスなイメージをかなぐり捨て、ひたすら禍々しくてえろえろしいメタファーに様変わりする。"Who Do You Love?" と聞かれて「あなたです」と答えなければ死あるのみ、という感じである。それもジム・モリソンが自ら手を下さずともこちらの五体が自らの意思でバラバラに砕け散ってしまいそうな、そういう迫力を感じる。間奏が一気に盛りあがるところでは、実際に何人かの血が飛び散っているに違いない。とにかくものすごいテンションである。

…そういえば

I the Lizard King.
I can do anything.

われは爬虫の王。
全能なり。

というライブでのジム・モリソンの決め台詞が、私が持っていた日本版のCDの歌詞カードでは

I the wizard came.
I can do anything.

わたくしこと魔法使いがやってまいりました。
何でもできますですよ。

…になっていたのだっけ。それでもひたすらカッコよく感じていたのだけれど、海外のアーティストが本当に歌っているのがどういうことなのかなんてことは、インターネットの時代になるまでつくづく何も分かっていなかったと思う。このブログではザ・バンドのことについては折にふれて何回も語ってきたけど、ドアーズのことは第2回目に取りあげて以来、放ったらかしになっていた。やっぱり改めて時間をかけて取りあげなければならないなと、今回ひさしぶりに聞いてみて痛感している次第である。


ちあきなおみ/四つのお願い 昭和45年
駆け出しの頃にはドアーズであれザ・バンドであれこんな風に「他人の曲」をステージで取りあげることでレパートリー不足を埋めていたのだと思うと何となく新鮮な気持ちになるが、あるとき中島みゆきのラジオを聞いていて彼女「も」またデビュー当時にはちあきなおみの「4つのお願い」とかをステージで歌わされていたのだという話を知り、それいらい私の中では "Who Do You Love" と「4つのお願い」が妙に重なって感じられるようになってしまった。なので今回は「4つのお願い」でお別れである。ではまたいずれ。

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