華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Somewhere in America もしくは世界の半分だけ離れて (1992. Eric Bogle)


10代の頃の私は、井の中のカワズもいいところだった。

小学生の頃は、ビートルズの名前を知っているような人間はクラスに自分しかいないと信じて疑わなかった。この時点からして、すでにあやしいのである。「ひらけ!ポンキッキ」みたいな番組でもしょっちゅう曲がかかっていたのだから、一人ひとりに確かめてみたら全然そんなことはなかったに違いない。

中学生の頃は、ザ・バンドなんか知ってる人間は市内中探しても自分しかいないだろうと信じて疑わなかった。これだって、職員室でも探してみたら10人単位で見つかったに違いない。

そして大阪まで行って古レコード屋を漁るような年齢になり、ちょっと珍しいCDでも見つけようものなら、こんなアーティストのことを他に知っている人間は近畿中、いや日本中探したってなかなか見つからないのではないかと、いちいち信じて疑わなかった。他にいたから大阪の古レコード屋にそのCDが置いてあったのではないかといったような科学的な思考法を、当時の私は頭から受けつけていなかったと思う。

自分は常に「少数派」で「マイナー」な音楽ばかり聞いているという鼻持ちならない意識を私は持ち続けていたけれど、店でCDが売られているということは少なくともそれだけその人の音楽を愛している人間が世の中にはいるという証なのであり、ましてそれが海を越えて日本のレコード屋に並ぶということなど、よっぽど愛されていなければ起こり得ないことなのである。その当たり前のことを理解するのに、私の場合にはずいぶん時間がかかってしまった。

そんなカワズだった私に世界の広さを改めて教えてくれたのが、オトナになってから初めて出会ったインターネットだったことは、今さら言うまでもない。それまでの自分がどんなに「マイナー」だと思っていたアーティストに関しても、ひとたび検索してみれば圧倒されるぐらいの情報量が、例外なくそこには溢れていた。だから今回取りあげるエリック・ボーグルという人に関しても、当然いろいろなことが世の中では語りつくされているのだろうと、検索する前から私は決めてかかっていた。



ところが、私が10代の時に上のジャケットのオムニバス盤のCDを通じて出会い、ずっと愛聴しつづけていた"Somewhere in America" という曲について、熱く語っている人の姿はおろか、曲名さえ大手歌詞サイトには見つけることができなかった。もちろんCDの宣伝ぐらいは見つかったのだけど、こういうパターンは初めてなので、むしろ私は驚いている。こんな素晴らしい曲について日本はもとより世界を見渡しても誰も話題にしている人がいないなんて、そんなことがありうるものなのだろうか。

上にジャケットの写真を飾った緑色のCDは、スコットランドフォークソングを中心にさまざまなレコードを出してきたグリーントラックスというレーベルの「看板ミュージシャン」の曲ばかりを収録している。という宣伝文句に惹かれて私は買ったのだったが、エリック・ボーグルさんはその中で紹介されていた一人だった。1944年にスコットランドで生まれ25才の時にオーストラリアに移住し、現在はクイーンズランド州を中心に活動しているという老いてなお盛んな73才。このブログで初めて紹介することになる、オーストラリア在住のミュージシャンである。"Somewhere in America" はとっても素朴だけどとってもスケールが大きい素敵な曲なので、願わくはこのブログで取りあげることをきっかけに、もっと世界中で語られるようになってほしい。少なくとも日本に語っている人間が一人いますということは、何とかしてエリックさんに伝えてあげたいものだと思う。

そういう「マイナー」な曲なもので今回はYouTubeでも動画を見つけることはできなかったのだけど、やはり名曲は世の中が放っておくはずがないのである。カバーしている人たちを二組見つけた。そのうちエリックさんと「雰囲気が近い方」の人の動画を今回は貼りつけることにしたので、いいなと感じた人がいたら、ぜひエリックさん本人が歌っているバージョンも、聞いてみてほしいと思う。

…初めて「宣伝」をしてしまった。書きはじめた時にはそんな予定は全然なかったのにな。ニューオリンズからアカディアへ→それよりは全然近いけど500マイル→3300マイルと来て、それより遠い場所からの望郷の歌となるとこの歌しか思いつかなかったという必然性しか、私の側にはない。しかしそういう偶然が読者のみなさんに素敵な出会いを提供しうることがもしあるなら、それこそブログ書き冥利に尽きることだと思う。


Danny O'Flaherty Somewhere In America

Somewhere in America

Across the North Dakota hills
the twilit road unwinds,
the setting sun sprays showers
of gold across the dark green pines.
The evening shadows change from grey
to an ever deepening blue,
and I'm somewhere in America,
half a world away from you.

ノース・ダコタの丘を越えてゆく
たそがれの道はのどかだ。
沈みゆく太陽が 暗緑色の針葉樹の上に
黄金の光のシャワーを投げかけている。
夕暮れの影はねずみ色から
このうえなく深い青へと変わる。
ぼくがいるのはアメリカ。
君から世界を半分だけ離れたところ。



With sixteen towns behind me,
and sixteen more to go,
I've long since stopped believing
in the romance of the road.
Though friends and kind hearts wait for me
in the town I'm heading to,
I'm somewhere in America,
half a world away from you.

16の街を後にして
行く手にはさらに16の街。
路上のロマンスを信じてぼくが立ち止まったのは
今では遠い昔のこと。
友だちや心あたたかい人たちが
めざす街には待っているけれど
ぼくがいるのはアメリカのどこか。
君から世界の半分も離れたところ。



And the road goes on and on and on,
the road goes on and o....n and on.

そして道はつづく つづく つづく
道はつづく つづく つづく…つづく。



And here and there along the road,
welcoming and bright,
the lights from home and farmstead pierce
the dark Dakota night.
Their brightness shines on others' lives,
their welcome's for their own,
and I'm somewhere in America,
half a world away from home

道をゆけばいたるところで
明るく歓迎してくれる人たちに出会う。
農家の窓からもれる光が
暗いダコタの夜を照らしだす。
その人たちの明るさは
他の人たちの暮らしを明るくする。
その人たちのあたたかいもてなしは
その人たち自身を幸せにしているんだな。
そしてぼくはアメリカにいる。
君から世界を半分離れたところ。



But, well, you know, I love this life,
the endless road's the stage,
that music's a fever in the blood,
a wild bird in the cage.
You and I let that wild bird fly,
its bright dreams to pursue,
now I'm somewhere in America,
half a world away from you.

でも わかるかな。
ぼくはこの暮らしが好きなんだ。
かごに閉じ込められた小鳥の血を
熱くするのは音楽だ。
終わりのない道こそがステージなんだ。
かごに閉じ込められた野生の小鳥を
大空に放してやろう。
夢を追いかけさせてやろう。
ぼくは今アメリカのどこかにいる。
君から地球の半分離れたところ。



And the road goes on and on and on,
and the road goes on and o....n and on.

そして道はつづく つづく つづく
道はつづく つづく つづく…つづく。



Across the North Dakota hills
the twilit road unwinds,
the setting sun sprays showers of gold
across the dark green pines.
The evening shadows change from grey
to an ever deepening blue,
and I'm somewhere in America,
half a world away from you

ノース・ダコタの丘を越えてゆく
たそがれの道はのどかだ。
沈みゆく太陽が 暗緑色の針葉樹の上に
黄金の光のシャワーを投げかけている。
夕暮れの影はねずみ色から
このうえなく深い青へと変わる。
ぼくがいるのはアメリカ。
君から世界を半分だけ離れたところ。



Yes, I'm somewhere in America,
half a world away from you.

そう ぼくはアメリカのどこかにいる。
君から世界の半分だけ離れたところ。

Somewhere In America

Somewhere In America

  • Eric Bogle
  • シンガーソングライター
  • ¥150
The Music and Song of Greentrax (2-CD Set)

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