華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

2000 Light Years Away もしくはマラカイトって何やねん (1992. Green Day)


この歌が流行っていた頃、クラスの男子生徒のあいだで「マラカイトって何やねん」ということが、論争になったことがあった。比較的平易な言葉で書かれたこの歌詞の中に登場する、唯一の謎の英単語である。

歌詞カードの日本語訳にも「彼女は俺のマラカイトを固く握りしめ」とカタカナで書かれているだけで、そのマラカイトというものがいったい何であるかということには、何の説明も書かれていなかった。そのことがいっそう、謎を深めていた。

「これって、訳さはった人にも意味が分からへんかったから、カタカナになってるのんとちゃうやろか?」

だれかが口を開いた。みんなが、うーむ、とウナった。

「グリーンデイの人らの、造語と違うやろか? 何やそれっぽい感じはするけど、意味は作った人以外には誰も分かれへん、ちゅーやつ。クラッシュの『サタマサガナ』とか、あるがな」

また、みんなが「うんうん」とうなづいた。クラッシュなんか一度も聞いたことがないやつも含めてである。

「日本語にでけへんぐらい、えろい言葉やから、そのままになったあるってことは、あれへんやろか?」

ひとりが、ものすごく厳粛な表情を浮かべながら、そう切り出した。やや間をおいて、ひとりが口を開いた。

「日本語にでけへんぐらい、えろい言葉って、たとえばどおゆう言葉やねん?」

…恐ろしいほどの沈黙が、その場を支配した。

「むしろ、実はこれは日本語やった、ちゅーような可能性が、あるのんちゃうか?」

何か言わねばならない、と思ったのかもしれないが、とんでもないことを口走るやつが現れた。

「おれらも知らん、どっか東京の方の言葉で、たとえばそういう部分にたまって、放っといたらカユくなるものを指すような…」

わかったからみなまで言うてくれるな、とみんながそいつを押しとどめた。誰もがその先を聞くのを恐れたのは、誰の心にも実は最初からそういうイメージが浮かんでいたからなのかもしれない。

…結局、図書館まで行って調べてきたやつがいたおかげで、マラカイトとは「孔雀石」をさす言葉であるらしいことまでは、明らかになった。

(「孔雀石」)


だがそうなってみると、クジャク石って何やねん、そないな鉱物名を唐突に持ち出すことにどおゆう意味があるねん、クジャク石は何を象徴してるねん、といったように、議論はいっそう抽象的な深みへとハマりこんでゆくばかりだった。

特筆すべきは、「要するに、マラカイトというのは歌の主人公が彼女にプレゼントした宝石の名前だったのではないか」という、今から思えば誰にでも想像できた答えを、想像しえた人間はその時その場に1人もいなかった、という事実である。

(「孔雀石」=マラカイトのペンダント )



ちなみにその時ガン首をそろえていた少年たちの中に、彼女のいたやつは1人もいなかった。だから想像がつかなかったのか、それともそんな想像もつかないやつらだったから彼女ができなかったのか、そのことは私にとっても謎のままである。

もしこれがルビーとかダイヤモンドとか書かれていたならば、少年たちもよもやその意味を勘違いすることはなかったに違いない。しかしパンクの歌にそういう宝石名が登場するということは、それこそありえないことだ。そういうのは当然ムリだけど「マラカイトぐらいなら何とかなる」というところにこの歌のリアリティは存在していたのではないかと、オトナになった今では思う。

たぶんこの歌の持つそういうリアリティが、聞く人の心をせつなくさせるのだ。

今でもである。


Green Day -2000 Light Years Away [Lyrics]

2000 Light Years Away

I sit alone in my bedroom
Staring at the walls
I've been up all damn night long
My pulse is speeding
My love is yearning

ひとりで部屋に座って
カベを見つめている。
このクソ夜に起きっぱなしでいる。
おれの鼓動は早くなり
おれの愛はほしがっている



I hold my breath and close my eyes and...
Dream about her
Cause she's 2000 light years away
She holds my malachite so tight so...
Never let go
Cause she's 2000 light years away
Years Away!

おれは息を整えて目を閉じて…
彼女を夢見る。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。
彼女はおれが贈ったマラカイトを固く握りしめて…
離さない。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。
2000光年も!



I sit outside and watch the sunrise
Lookout as far as I can
I can't see her, but in the distance
I hear some laughter,
We laugh together

表に座って日の出を見る。
できるかぎり遠くまで見つめる。
彼女は見えないけど 遠いところに
笑い声が聞こえる。
おれたちは一緒に笑う。



I hold my breath and close my eyes and...
Dream about her
Cause she's 2000 light years away
She holds my malachite so tight so...
Never let go
Cause she's 2000 light years away
Years Away!

おれは息を整えて目を閉じて…
彼女を夢見る。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。
彼女はおれが贈ったマラカイトを固く握りしめて…
離さない。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。
2000光年も!



I sit alone in my bedroom
Staring at the walls
I've been up all damn night long
My pulse is speeding
My love is yearning
I sit alone in my bedroom
Staring at the walls
I've been up all damn night long
My pulse is speeding
My love is yearning

ひとりで部屋に座って
カベを見つめている。
このクソ夜に起きっぱなしでいる。
おれの鼓動は早くなり
おれの愛はほしがっている



I hold my breath and close my eyes and...
Dream about her
Cause she's 2000 light years away
She holds my malachite so tight so...
Never let go
Cause she's 2000 light years away

おれは息を整えて目を閉じて…
彼女を夢見る。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。
彼女はおれが贈ったマラカイトを固く握りしめて…
離さない。
彼女は2000光年も離れたところにいるから。