華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Starman もしくはマザー2に出てきたあの悪いひと(1972. David Bowie)


「うたを翻訳すること」がテーマのこのブログ、取り上げたい曲はいくらでもあるのだけれど、その曲について一言コメントを付け加えるその一言を書くのが、最近になってしんどくなってきている。書こうとすれば一言で終わらなくなるし、一言で終わらせようとすれば取りあげない方がマシだったような話に、どうしてもなってしまう。

言いたいことが山ほどあるのに、その機会も与えてくれないままこの世を去ってしまったミュージシャンたちの曲については、なおさらだ。

人にあれだけ美しい夢ばかり見せておいて、夢だけでは通用しない時代がやってきたら自分だけ先にいなくなってしまうなんてことが、どうしてあの人たちにはできるのだろう。

あまりにも、無責任なんじゃないだろうか。


David Bowie Starman (1972) official video

Starman

Didn't know what time it was
and the lights were low
I leaned back on my radio
Some cat was layin' down some rock 'n' roll
'lotta soul, he said
Then the loud sound did seem to fade
Came back like a slow voice on a wave of phase
That weren't no D.J. that was hazy cosmic jive

それが何時だったのかはわからない。
あたりは暗くなってきていた。
ぼくはのんきにラジオを聞いていた。
ラジオではジャズ好きのDJが
ロックンロールのレコードをかけていて
「こいつはソウルフルだ」とか言ってたんだけど
その大きな音がなぜか消えたみたいになって
位相の違う周波数の
ゆっくりした声みたいなものが聞こえてきた。
DJの声じゃなかった。
はっきりしないけどそれは
何か宇宙的なジャイブだった。



There's a starman waiting in the sky
He'd like to come and meet us
But he thinks he'd blow our minds
There's a starman waiting in the sky
He's told us not to blow it
'Cause he knows it's all worthwhile
He told me
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie

空にはスターマンが待っている。
ぼくらに会いたがっているけれど
そうしたらぼくらの心を
吹っ飛ばしちゃうんじゃないかと気にしてる。
空にはスターマンが待っている。
しくじるなよってそう言ってた。
それがどんなに値打ちのあることか
あのひとにはわかっているから。
ぼくにあのひとは言った。
子どもたちにわれを忘れさせてやれって。
子どもたちにやり方を教えてやれって。
すべての子どもたちに
ブギーを踊らせてやれって



I had to phone someone so I picked on you
Hey, that's far out so you heard him too
Switch on the TV
we may pick him up on Channel Two
Look out your window I can see his light
If we can sparkle he may land tonight
Don't tell your poppa
or he'll get us locked up in fright

だれかに電話をかけなくちゃいけなかったから
ぼくはきみを選んだんだ。
ねえ 本当にぶっ飛んでるだろう。
きみもあのひとを聞いたんだろう。
テレビをつけよう。
きっと2チャンネルであのひとに会える。
窓の外をごらん。
ぼくにはあのひとの光が見える。
もしぼくらに輝くことができたら
あのひとは今夜きっと降りてくる。
パパにだけには知らすなよ。
きっと怖がってきみを閉じこめてしまう。



There's a starman waiting in the sky
He'd like to come and meet us
But he thinks he'd blow our minds
There's a starman waiting in the sky
He's told us not to blow it
'Cause he knows it's all worthwhile
He told me
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie

空にはスターマンが待っている。
ぼくらに会いたがっているけれど
そうしたらぼくらの心を
吹っ飛ばしちゃうんじゃないかと気にしてる。
空にはスターマンが待っている。
しくじるなよってそう言ってた。
それがどんなに値打ちのあることか
あのひとにはわかっているから。
ぼくにあのひとは言った。
子どもたちにわれを忘れさせてやれって。
子どもたちにやり方を教えてやれって。
すべての子どもたちに
ブギーを踊らせてやれって



Starman waiting in the sky
He'd like to come and meet us
But he thinks he'd blow our minds
There's a starman waiting in the sky
He's told us not to blow it
'Cause he knows it's all worthwhile
He told me
Let the children lose it
Let the children use it
Let all the children boogie



La, la, la, la, la, la, la, la
La, la, la, la, la, la, la, la
La, la, la, la, la, la, la, la
La, la, la, la, la, la, la, la

=翻訳をめぐって=

  • この曲について本当に知ろうとしたら、Ziggy Stardust というアルバムとデヴィッド・ボウイという人のすべてを知るしかない。それを「解説」するのは私の手に余ることなので、ちゃんと知りたい人はこんなブログやWikipediaに頼るのではなく、とりあえずCDを聞いてください。LPでもいいです。
  • また「オズの魔法使い」のテーマソングの歌詞を探してこの記事にたどりついた方がいたなら、あれには "Over the Rainbow" という別の名前がついていますので、そちらで探し直して下さい。一応、別の曲です。
  • I leaned back on my radio…lean back は「くつろぐ」という意味。初めは、ラジオにもたれているのかと思っていた。
  • Some cat was layin' down some rock 'n' roll 'lotta soul, he said…この部分が分からなくて、この歌の翻訳はずっと昔に投げ出したままになっていたのだけど、今回本気で調べてみたら、catsというのはジャズのスラングで「ジャズ好きの人/ ジャズの演奏者」を指す言葉であるらしい。「本当か?」と思いさらにいろいろ確かめたが、デヴィッド・ボウイ自身がモダンジャズを聞いて育ったことは明らかだし、この曲の中にはjiveとかboogieとかいったジャズ用語が他にいくつも散りばめられているのだから、おそらくそれが正解である。"layin' down" はこれまたジャズ用語で「演奏する/レコードをかける」の意味。「ロンドンで猫が寝転んどん」という関西地方に古くから伝わる駄じゃれのイメージに、今までどれだけ惑わされてきたことだったろうか。
  • ただしSome catsという複数形の名詞で始まるこのフレーズが、いつの間にか he said という単数形の名詞に主語の座を明け渡しているのは、どういう事情にもとづくのか私にはよく分からない。Some catsheも同じDJのことを指している言葉だと思うのだけど、違う可能性もある。また 'lotta soulという言葉の意味も、正確なニュアンスは全くわからない。誤訳の可能性も高い。(後日付記: heはDJがかけた曲を歌っているミュージシャンで、'lotta soulはその曲の歌詞の一部である可能性に、こちらの記事へのコメントを読んで気がつきました。)
  • hazy cosmic jive…ジャイブというのはよく聞く言葉だけど、改めて調べてみるとジャズ用語で「ヘンなスタイルだけどイケてるもの」を指すらしい。この言葉も私の説明文も、どうも相当時代遅れになっている感じがする。しかし歴史は螺旋を描いて前進するのである。そのうちまた新しくなるさ。
  • He's told us not to blow it…blowという言葉を連続して使っているから混乱させられるけど、blow it は「台無しにする/ 大失敗をする」という意味の熟語。
  • lose it は「熱中する/ われを忘れる」という意味の熟語。さらに英語圏には Use it or lose it (知識や技術は、使わなければ忘れてしまう) ということわざがあり、このフレーズはそれを踏まえたものとなっている。と思う。
  • boogieについても改めて調べてみたら、「ロックに合わせて踊ること」と書いてあった。本当かよ。別の辞書には「スウィングまたはシャッフルのリズムによる反復フレーズで、ブルース、スウィング・ジャズ、ロックンロールなどの音楽で用いられる」とあった。つまるところ、ブギーはブギーなのである。ただし、ブギではないと思う。
  • Hey, that's far out so you heard him too…be far out は60年代のスラングで「イカしている/ ぶっ飛んでる」という意味だとのこと。私は、辞書の言葉を丸写ししただけである。自分で選んだ言葉では断じてない。ただし「イカしている」を採用しなかった点については、確かに、選んでいる。
  • we may pick him up on Channel Two…何で別のチャンネルにしてくれなかったのだろうと思う。これではどう翻訳しても、誰もがあのロクでもない掲示板を連想するような日本語詞になってしまう。ちなみに2チャンネルは近畿地方ではNHKで、1チャンネルがファミコン用の砂嵐のチャンネルだったのだけど、70年代のロンドンで2チャンネルというチャンネル番号がどういうイメージを伴っていたのかということまでは、私には分からない。


David Bowie – Rock 'n' Roll Suicide, taken from ‘Ziggy Stardust The Motion Picture’


…この曲は、翻訳してやらないのだからな。死んだりなんかするからだ。ではまたいずれ。いつになったら地上に戻れるのだろう。