華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Satellite of Love もしくは宇宙をめぐる愛と言うか執着と言うか (1972. Lou Reed)


♪ 愛の人工衛星、愛の人工衛星、と口ずさんでいて、ふと「愛の…」と口ごもってしまう感覚というのは、われわれ日本語話者にもよく理解できる。と言うか、日本語話者が口ごもる時には言葉の構造上、必然的にそういう口ごもり方になる。

しかし ♪ 愛の人工衛星、愛の人工衛星、と口ずさんできて「人工衛星」という言葉では、ふつう口ごもらない。「人工衛星」が出てくるとしたらそれは「口ごもって」いるのではなく、何かに「ハッとしている」状態である。

まして「人工衛星オブ」などという言葉は、われわれの感覚からは絶対出てこない。出てきたとして、それをどう日本語的に表現すればいいのかと思うと、困ってしまう他ない。現にいま私は、それで困っている。

ところが英語話者が口ごもる時には、必ず「人工衛星オブ…」という口ごもり方になるのである。そして逆に「愛の…」で言葉を切るということが、かれらにはできないのである。だったらやはり、同じように口ごもっているようには見えても、その口ごもっている気持ちの中味は全然違っているのだろうなという風に、とりあえず我々は想像するしかない。それは、何て不思議な感覚なのだろうと思う。

…そんな風に「翻訳をめぐるあれこれ」の話で、ルー・リードという人が4年前に亡くなった現実をスルーしたままブログの記事をでっちあげてしまおうとしている私は、弱くて卑怯な人間なのかもしれない。

でもそのことについて書こうとしたら、私の中からはいまだに何も言葉が出てこないのである。


Lou Reed - Satellite of Love

Satellite of Love

Satellite’s gone
up to the skies
Things like that drive me
out of my mind
I watched it for a little while
I like to watch things on TV

人工衛星が飛んで行った。
空高く。
そういうことって
ぼくから現実感覚を失わせる。
しばらく見つめていた。
ものごとをテレビで見るのは
好きだ。



Satellite of love
satellite of love
Satellite of love
satellite of

愛の人工衛星
恋の人工衛星
地球を回る愛
衛星…何の?



Satellite’s gone
way up to Mars
Soon it will be filled
with parking cars
I watched it for a little while
I love to watch things on TV

人工衛星が飛んで行った。
火星に向かって。
火星もそのうち
迷惑駐車でいっぱいになるだろう。
しばらく見つめていた。
ものごとをテレビで見るのは
好きだ。



Satellite of love
satellite of love
Satellite of love
satellite of

愛の人工衛星
恋の人工衛星
宇宙をめぐる愛
衛星…何の?



I’ve been told that you’ve been bold
with Harry, Mark and John

きみは大胆にも
ハリーやマークやジョンと一緒にいたらしいね。



Monday and Tuesday, Wednesday through Thursday
with Harry, Mark and John

月曜日 月の日と
火曜日 火星の日。
水曜日 水星の日から
木曜日 木星の日まで
ハリーやマークやジョンと一緒にいたらしいね。



Satellite’s gone
up to the skies
Things like that drive me
out of my mind
I watched it for a little while
I love to watch things on TV

人工衛星が飛んで行った。
空高く。
そういうことって
ぼくから現実感覚を失わせる。
しばらく見つめていた。
ものごとをテレビで見るのは
好きだ。



Satellite of love
satellite of love
Satellite of love
satellite of

愛の人工衛星
恋の人工衛星
宇宙を回る愛
衛星…何の?



Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love
Satellite of love…

愛の人工衛星
恋の人工衛星
愛の衛星
恋の衛星
地球を回る愛
宇宙を回る愛
宇宙から見つめる愛
離れてゆけない愛
いつまでもつきまとう愛…

翻訳をめぐって

  • Satellite という言葉はもちろん「人工衛星」をさしているのだけれど、本来の意味は「衛星」であり、「人工の」という限定条件は言葉の中には含まれていない。だから月もひとつのSatelliteだし、木星の衛星イオや冥王星の衛星カロンといったああいうのも全部Satelliteということになる。(ただし、地球や火星や木星は「衛星」ではなく「惑星」なので、訳語はplanetとなる)。 だから英語話者の人たちが Satellite of loveという言葉から受け取るイメージは、我々が「愛の人工衛星」という半ば固有名詞みたいな言葉から想像するよりも遥かに幅が広く、いろいろな内容を含んでいるのだと思う。そのイメージについて、上の訳詞では思いつく内容を片っ端から列挙してみた。こういうのは必ずしも「意訳」ではないと私は考えている。
  • Monday and Tuesday...曜日の名前というものはそもそも「星の名前」に対応しているではないかということに最初わたしは気づかなかったので、気づいた時には「わ、すげえ」と思ったが、わかりやすい日・月・土曜日を除くなら、英語の曜日名も日本語と同じように惑星の名前に対応しているのかどうかということは、確かめてみないと分からなかった。で、調べてみると、英語の火曜日から金曜日までの曜日名はゲルマン神話の神の名に対応しており、その1人1人がローマ神話マルス(火星)やマーキュリー(水星)と対応している関係にあるので、やっぱり「星の名前」と考えていいのだということが分かった。自分で訳してみようと思わない限り、たぶん私は一生このことに気がつかなかっただろう。だからルー・リードの連想は「人工衛星」から「曜日の名前」へと飛んだのだ。
  • そういう「仕掛け」があったことが分かった以上、ハリーやマークやジョンという名前にも何らかの意味が込められているのかもしれないと思っていろいろ考えてみたが、こちらは何も思い浮かばなかった。フツーに実在の人たちの名前なのかもしれない。


アンジー パンを一切れ

トランスフォーマーのジャケットのルー・リードの顔が、パンダメイクの三戸さんとあまりにそっくりだったもので、思わず貼りつけてしまった。何か、レクイエムっぽい曲なので、場違いにはなっていないと思う。ではまたいずれ。やっと地球が見えてきた。