華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Another Brick in the Wall partⅡ もしくは ひきにくにしてやんよ (1979. Pink Floyd)


今週のお題は「テスト」? いい思い出なんて、ひとつもない。そういうものが世の中に存在していることを前提とした上で話をしなければならないということ自体が、私には耐えがたい。人間が人間のことを「試す」なんて、人間として一番恥ずかしいことなんではないだろうか?試される側にとってそれは常に屈辱でしかない。その屈辱を他人に押しつける権利が自分に存在していると思っている人間が世の中にはいてしかもそのことに恥ずかしい顔ひとつしていないという事実がそもそも私には信じられない。(思いっきり読みにくい文章を書いてやったぞ)。人にどんなに頼まれたって、自分のことをテストして下さいという人が向こうからやって来たって、人をテストするような最低の人間だけには、なりたくないと私は強く思う。

テストそれ自体を歌った歌が、探してみてもあまり見つからないということは、そのこと自体、テストというものが世界中でどれだけ嫌われているかということを示して余りある事実だと思う(…どうもいけない。読みにくい文章のクセがついてきてしまっている)。テストでいい点をとった人間の歌なんて誰も聞きたいと思わないし、悪い点をとった歌では誰も元気づけられない。そしてテストというものには、本当にそのどちらかしかない。これほど「わかちあえないもの」を他に探すことは、はっきり言って、難しい。

とはいえそれでは記事が書けない。困った時のビートルズで「テースト・オブ・ハニー」でも取りあげてお茶を濁そうかと思ったが、教育制度の反人間性というものを語る際には誰もが真っ先に思い出す歌があるではないか、ということを私も思い出した。ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」というアルバム。とりわけその中の "Another Brick in the Wall partⅡ" という曲である。


Pink Floyd - Another Brick In The Wall, Part Two (Official Music Video)

私が初めてこの歌を知ったのは10代の時で、この短いPVを通じてのことなのだけど、「行進するハンマー」のアニメがものすごく怖かったのを覚えている。「これがファシズムというものなのだ」ということがハッキリわかった気がした。どうしてその象徴がハンマーになるのかは今でもよくわからないのだけれど。

しかし、"Another Brick in the Wall partⅡ" の前に "The Happiest Days of our Lives" という別の曲がくっついて若干時間が長めになった下のビデオを見た時の衝撃は、その比ではなかった。オトナになってずいぶんたってからだったというのに、悲鳴が出た。恐怖が声になってしまった。今回訳出するのはこの長尺バージョンの歌詞である。

このPVのYouTubeでの再生回数が2.43億回というのは、驚くべき数字だと思う。世界中でそれだけの数の人間が、学校を「牢獄」だと考えているか、もしくは考えていた、ということがうかがえる数字だからである。もしもそれだけの人間が、このPVの最後のシーンの子どもたちのように一斉に立ちあがったなら、世界もきっと劇的に変わるのだろうと思うけど、そういうことって、どうしたら可能になるのだろうか。


Pink Floyd - Another Brick In The Wall (HQ)

The Happiest Days of our Lives

じんせいでいちばんしあわせなひび


When we grew up and went to school
There were certain teachers who would
Hurt the children in any way they could

大きくなって学校に行くようになると
そこには子どもたちのすべてを憎んでいる
教師というものがいた。



"OOF!" [someone being hit]
うぐっ!(誰かが殴られている)


By pouring their derision
Upon anything we did
And exposing every weakness
However carefully hidden by the kids
But in the town, it was well known
When they got home at night, their fat and
Psychopathic wives would thrash them
Within inches of their lives.

ぼくらのやることすべてに
嘲笑をあびせかけ
子どもたちが必死に隠している
あらゆる弱みをあばきだす。
でも街の人たちはみんな知っている。
その教師たちが夜になって家に帰れば
太ったサイコパスみたいなその妻たちが
かれらのことを死ぬほど打ちのめすのだ。

※ fat and psychopathic wives という歌詞は明らかに差別的です。批判を込めてそのまま掲載しました。


Another Brick in the Wall - Part 2

We don't need no education
We dont need no thought control
No dark sarcasm in the classroom
Teachers leave them kids alone
Hey! Teachers! Leave them kids alone!
All in all it's just another brick in the wall.
All in all you're just another brick in the wall.

教育なんていらない。
思想統制なんていらない。
教室に言葉の暴力はいらない。
教師は子どもたちに干渉しない。
教師よ、子どもたちに干渉するな!
要するに
壁にはめこまれたレンガのひとつにすぎない。
結局おまえたちは
壁にはめこまれたレンガのひとつにすぎない。



We don't need no education
We dont need no thought control
No dark sarcasm in the classroom
Teachers leave them kids alone
Hey! Teachers! Leave them kids alone!
All in all it's just another brick in the wall.
All in all you're just another brick in the wall.

教育なんていらない。
思想統制なんていらない。
教室に言葉の暴力はいらない。
教師は子どもたちに干渉しない。
教師よ、子どもたちに干渉するな!
要するに
壁にはめこまれたレンガのひとつにすぎない。
結局おまえたちは
壁にはめこまれたレンガのひとつにすぎない。



"Wrong, Do it again!"
"If you don't eat yer meat, you can't have any pudding. How can you
have any pudding if you don't eat yer meat?"
"You! Yes, you behind the bikesheds, stand still laddy!"

「違う、やり直し!」
「肉を食べないならソーセージは食うな。肉を食わないくせにソーセージが食えると思っているのか」
「お前!そうだ。自転車置場の裏側に立ってるお前のことだ!」

=翻訳をめぐって=

  • ビデオの中では、"The Happiest Days of our Lives" の曲に合わせ、授業中に生徒の書いていた詩を取りあげてみんなの前で読みあげる最悪な教師が登場する。このとき生徒が書いたことになっている詩は、同じピンク・フロイドの「マネー」という曲の歌詞である。
  • fat and psychopathic wives…私は「サイコパス」という言葉は、差別語だと思う。そうした言葉で自分がよく知りもしない人に対してレッテルを貼りつけ、排撃の対象にすることのできる「ふつうの人たち」の方が、よっぽど恐ろしいと思う。また、その教師の極悪さを批判するのに、その家族のことを引き合いに出すのは、まるで筋違いである。ましてその人が「太って」いたからといって、何が悪いというのだろう。この曲のように社会を批判するテーマで書かれた歌詞の中に出てくるこうした言葉には、本当にイヤな気持ちになる。
  • dark sarcasm…直訳は「卑劣なイヤミ」。「言葉の暴力」の方が自然な日本語になると思ったので、そうした。
  • just another brick in the wall …卑劣な教師たちは、子どもたちの周りに刑務所の塀のように張り巡らされた「壁」の中の、心を持たないレンガのカケラにすぎない、と歌われている。その壁は子どもたちにとっての、「打ち砕かれるべき壁」である。決して子どもたちのことは、「心を持たない人間」であるとは書かれていない。それはこの曲の「いいところ」であると思う。
  • "If you don't eat yer meat, you can't have any pudding"…このpuddingが「プリン」を意味している可能性もないではないが、文脈的にはやはり「ソーセージ」のことだと思う。「山田が死んだらお前も死ぬのか」的な論理で子どもをいたぶる教師の、これはさしづめ英国版である。それはそれとしてソーセージというものがどういう風に作られるかということを考えてみると…「まさか」と思う。


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教科書なんか捨てろ。ではまたいずれ。