華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Saturday Night もしくは そとでな (1975. Bay City Rollers)


私がこの歌を知ったのは、「ホテルはカネがかかるから、外でな、外でな」という、本当にどうしようもない替え歌を通じてのことだった。

1996年の秋のことだったと思う。好きだった人が、大阪の梅花女子大学で開かれたハイロウズのコンサートに私のことを連れて行ってくれて、それまで雲の上の存在だった甲本ヒロトとか真島昌利とか白井幹夫とかいった人たちの姿を私はそのとき初めてナマで見ることになったのだけど、そのライブのアンコールにキンキラキンの衣装をまとって出てきたハイロウズの人たちが、

エジンバラの亀甲縛り、ベイ・シッティ・ローラーズです!」

と自己紹介して演奏してくれたのが、その「そとでな」だったのだった。

それからしばらくして、好きだった人と私は、有名な「カネのための再結成」を経て来日したセックス・ピストルズの武道館コンサートの様子がNHKの衛星放送で放映されることを聞きつけ、人に頼んでビデオを録ってもらった。そのビデオが届いたからと聞いた私はいそいそと好きだった人の家に行き、テレビの前に座って、再生が始まるのを待った。

そしたらいきなり画面に登場したのは、ピストルズの人たちではなく、ついこないだ北摂の山の中で出会ったばかりの「ベイ・シッティ・ローラーズ」の面々だった。あの時の「そとでな」はハイロウズの人たちにとって、このピストルズ来日コンサートの前座公演のリハーサルの位置を持ったものだったのだということを、私たちは瞬時に理解した。

そしてそのときテレビから流れてきた「そとでな」の歌詞は、私の記憶に残っていたそれよりもいっそうエグい内容になっていた。1人で聞く分には、たぶん大喜びで聞けたと思う。しかし手も握ったこともない、と言うか辛うじて握ったか握らないかぐらいの距離感の10代なかばの男女が密室で肩を並べて聞く歌としては、あまりに気まずい歌だった。

なのでこの歌に関しては、気まずい思い出しか残っていない。

のちに聞くことになった「そとでな」の元歌も、私にとってはそれに負けず劣らず、やっぱりひたすら「気まずい歌」だった。

気まずい歌なのである。


S-A-T-U-R-D-A-Y NIGHT! Bay City Rollers

Saturday Night

S-A-T-U-R-D-A-Y night!
S-A-T-U-R-D-A-Y night!
S-A-T-U-R-D-A-Y night!
S-A-T-U-R-D-A-Y night!

ど、よ、お、び、
どよーび!
の夜!


Gonna keep on dancin' to the
rock and roll
On Saturday night, Saturday night
Dancin' to the rhythm in our
heart and soul
On Saturday Night, Saturday night
I-I-I-I-I just can't wait,
I-I-I-I got a date

ロックンロールで踊りつづけよう
土曜の夜は 土曜の夜は
心のリズムに合わせて踊ろう
土曜の夜は 土曜の夜は
ぼく ぼく ぼく ぼく
待ちきれない
ぼく ぼく ぼく ぼく
デートなんだよ


At the good ole rock and roll
road show, I gotta go
Saturday Night,
Saturday Night

テッパンのロックンロールの
ロードショーに行かなくちゃ
土曜の夜は 土曜の夜は


Gonna rock it up, roll it up
Do it all, have a ball,
Saturday Night,
Saturday Night

押しかけよう 詰めかけよう
何でもやろう 楽しもう
土曜の夜は 土曜の夜は


It's just a Saturday Night
It's just a Saturday Night
It's just a Saturday Night

なんてったって
土曜の夜なんだ


Gonna dance with my baby till the
night is thru
On Saturday Night, Saturday Night
Tell her all the little things I'm
gonna do
On Saturday night, Saturday Night
I-I-I-I love her so
I-I-I-I'm gonna let her know

あの子と一緒に
夜が更けるまで踊るんだ
土曜の夜は 土曜の夜は
ぼくのやりたいこと全部
あの子に教えてやるんだ
土曜の夜は 土曜の夜は
ぼく ぼく ぼく ぼく
あの子が好きだ
ぼく ぼく ぼく ぼく
伝えなきゃ


SATURDAY NIGHT, SATURDAY NIGHT,
SATURDAY NIGHT, SATURDAY NIGHT,
It's just a Saturday night
It's just a Saturday Night,
It's just a Saturday Night,
It's just a Saturday Night,

なんてったって
土曜の夜なんだ

  • good ole…辞書には「古き良き」という訳語が載っているけれど、10代の少年が使う言葉だとは思えない。「基本を押さえた」とか「失敗のない」とかいう意味で意訳すればいいのだろうが、それにしたって10代の少年が使う言葉だとは思えず、結局、投げ出した。だって私、10代じゃないもん。
  • road show…ロードショーというのは元々「地方巡業」のことを言うのだそうで、日本の音楽用語に従うなら「ツアー」に近いものだと思う。映画ではなく要するに生のバンドの演奏を見に行くのだということは別に説明しなくても伝わると思ったから、カタカナ表記のままにした。
  • rock up : 「アポなしで押しかけること」と辞書にはあった。
  • roll up : 「歓迎されない形でどやどややってくること」と辞書にはあった。「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」みたいな、呼び込みの言葉としても使われる。ビートルズの「マジカルミステリーツアー」が、この言葉で始まりますよね。
  • have a ball : 「大いに楽しむこと」と辞書にはあった。子どもがボールを与えられただけでテンション上がりまくりになるああした感じから生まれた言葉なのだろうか。
  • It's just a Saturday night…懺悔します。ギリギリの瞬間まで私はこの部分を「決戦は土曜日」と翻訳しようとしていました。
  • …それにつけても私はいったい誰のためにこんな曲をこんなにまじめに翻訳してゐるのだらふ。



「タータン・ハリケーン」というものが日の本を席巻していた頃、大和の国の添下郡、今の奈良市西大寺というところには「ゴーゴー喫茶」と呼ばれるものがあって、そこでは誰がカバやねんロックンロールショー世代の善男善女がこの「エジンバラの貴公子」たちの演奏に合わせ、夜通し「ひーばー」していたという古い言い伝えを、地元の古老の口碑を通じて、聞かされたことがある。私の友だちのお父さんとお母さんは、そこで出会って、結ばれたらしい。

そういう神聖な歴史を突きつけられた上でお前はなおもこの曲のことをしょーもない曲だと言えるのか、と詰問されているような気が私はするのだけれど

やっぱり、しょーもない曲だと私は思う。


ザ・ハイロウズ-ピストルズ日本公演前座Ⅰ
切り取って下敷きに入れよう。
そうすればいつもキミと一緒さ!
ではまたいずれ。