華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Summertime Blues もしくは気がついたようだね 新聞部 (1970. The Who)


今週のお題は「私の『夏うた』」。やっと、ストレートに答えることのできる質問が回ってきたようだね。

サマータイムブルース」一択である。

ただし「誰のサマータイムブルース」を選ぶかと言われたら、ものすごく難問であると言わねばならない。

こんなにいろいろな人たちからカバーされている作品、つまりは愛されている作品を、私は他に知らないからである。

「気がついたようだね 新聞部」でピンと来ない人は、とりあえず「じゃりン子チエ」4巻の相撲大会の後日談のエピソードを読むところから始めてください。



Who - Summertime Blues (live,1969) 0815007

Summertime Blues

Well, I'm gonna raise a fuss
I'm gonna raise a holler
'Bout workin' all summer
Just to try to earn a dollar
Well, I went to the boss man
Tried to get a break
But the boss said 'No dice, son,
You gotta work late'

んあー 大騒ぎしてやるぞ。
大声だしてやるぞ。
わずかばかりのカネのために
夏じゅう働かされることについて。
社長んとこに行って
休みをくれって言ったら
「ありえねえ話だな。残業してもらう」
って、こうだよ。


Sometimes I wonder what am I gonna do
'Cause there ain't no cure for the summertime blues

もう時々どうしたらいいかわかんなくなるよ。
サマータイム・ブルースには
つける薬なんてないんだよな。


Well, my Mom and Poppa told me
Son, you gotta earn some money
If you want to use the car
To go riding next Sunday
Well, I wouldn't go to work
I told the boss I was sick
He said 'You can't use the car
'Cause you didn't work a lick'

でもって母さんと父さんはおれに
しっかりおカネを稼いでこいって言うわけだ。
次の日曜日のドライブに
うちのクルマを使いたいならって。
もうおれは仕事に行きたくなくて
調子が悪いんですって社長に言ったら
「じゃあクルマはあきらめるんだな」
「お前、ちっとも仕事しなかったもんな」
って、こうだよ。


Sometimes I wonder what am I gonna do
'Cause there ain't no cure for the summertime blues

もう時々どうしたらいいかわかんなくなるよ。
夏の憂鬱には
つける薬なんてないんだよな。


Gonna take two weeks
Gonna have a fine vacation
Gonna take my problem
To the United Nations
Well' I went to my congressman
He said ,quote:
'I'd like to help you son,
But you're too young to vote'

2週間はもらわなくちゃ。
ステキな休暇を楽しみたいんだ。
ちきしょお。
国連に訴えてやるぞ。
おれは地元の下院議員のところに行った。
以下は彼の談話の引用:
「何とかしてあげたいんだけどねえ」
「きみ、まだ選挙権ないんでしょ?」


Sometimes I wonder what am I gonna do
'Cause there ain't no cure for the summertime blues

もう時々どうしたらいいかわかんなくなるよ。
サマータイム・ブルースには
つける薬なんてないんだよな。

=翻訳をめぐって=

  • no dice : できない相談/ありえない話。相手の要求を身もフタもなく拒絶する時に使う言葉。
  • summertime blues:bluesという言葉について改めて調べてみたら、口語では「憂鬱」「抑鬱」さらには「うつ病」をさす言葉としても使われているらしい。
  • 2番の「歌詞の風景」が、昔から私には分からない。主人公の両親は彼に何を要求しているのだろう。①夫婦でドライブを楽しみたいから、その費用を息子に稼がせようとしている。②息子も含めて家族旅行に出かけるために、それが楽しみなら稼いで来いと言っている。③息子がデートか何かのために家のクルマを使いたがっているから、その条件として息子に稼いでくることを要求している。…たぶん③だと思うのだけど、それを裏づける歌詞はどこにもない。(「うちの」という修飾語は、私が勝手に付け加えたものである)。さらに分からないのは、主人公の職場の社長がどうしてそういう「家の事情」にまで精通しているのかということである。ここから④両親は息子が社長の機嫌をとって、社長からクルマを借りてくることを期待している。という可能性も、排除できないと思う。ちょっと、説明不足な歌詞である。


Eddie Cochran - Summertime Blues

けっきょく私が一番好きなザ・フーのバージョンで歌詞を紹介させてもらったけれど、もともとこの歌はエディ・コクランが1958年に録音した古い古いナンバーである。エディ・コクランのバージョンは、それはそれですごくいいし、時代を感じさせないぐらいアカヌけている。(という表現自体がアカじみているといったようなことは、たとえ思ったとしても、言いっこなしにしてほしい)。

しかしザ・フーの「功績」は、この元歌のビートの位置をズラして演奏することで、ものすごい「暑苦しさ」を表現することに成功している点にあると思う。Youtubeには上がっていなかったのだけど、"Live at Leeds" でのザ・フーの演奏を聞いた後にエディ・コクランのバージョンを聞いてみると、別の歌のように爽やか、と言うかともすれば「涼しげ」でさえあることに気づく。もちろん、涼しげなのが好きな人はきっとエディ・コクランの方が好きなのだと思う。しかし「サマータイムブルース」である以上、やっぱり暑苦しくてなんぼであると私は思うのである。

この歌は他にもビーチボーイズT-Rexストレイキャッツブルース・スプリングスティーンなど、さまざまな人によってカバーされている。Youtubeにはパティ・スミスのバージョンまで上がっていた。全部を聞こうと思ったら「サマータイム・ブルース」だけで優に1日が終わってしまうと思う。

さらにこの曲は、日本でも数えきれないくらいのグループによってカバーされている。そして他のいろんな洋楽の有名曲とこの曲が一番ちがっているのは、なぜかこの曲に関してだけはみんな「日本語に直して」歌いたがるという点である。


憂歌団「Summertime Blues」1983

まず何と言っても外せないのは、憂歌団による演奏だと思う。他の追随を許さないぐらい「アメリカのブルースの心」に精通していた人たちなのに、この人たちの演奏を通すとどうして何でもかんでもこんなに「日本的」になってしまうのだろう。「日本的」という表現は実は当たっていないかもしれず、「大阪市南東部的」とでも表現するのが一番正確なのかもしれないが、こんな風に外国の曲を完全に「自分たちの歌」にしてしまえるところが、やはり「本当に分かっている人たち」にしかなしえないことなのかもしれないと、一方では思う。風鈴の音が聞こえてくる。

次に外せないのは、ひょっとして世界中で一番有名になっているかもしれない、RCサクセションのバージョンだ。


SUMMER TIME BLUES (原子力はもういらねぇ!)

もっとも2011年の原発事故以降、私はこの歌を聞くのがつらくなっている。「やっぱり原発は許せない」という気持ちより、「それを止められなかった無力感」の方が先に立ってしまうからである。「この程度の反逆」さえ寄ってたかって社会の手でつぶされてしまうことを、止められなかったことの上に現在がある。いかんせんこれはもはや「世界が平和だった頃の夢」の中の歌にすぎないのであって、本当に世界を何とかする気があるならいつまでもこんな歌の世界に甘えていてはいけないのだということを、頭では分かっている。分かっているのだけどね。


子供ばんど あんたはまだまだ子供だよ

そして私がいちばん大好きだったのは、子供ばんどの演奏だ。私より一回り年上のお兄さんやお姉さんたちがやっていた音楽や文学やファッションや髪型というものに(「マレット」まで含めて)いまだに私はアコガれ続けているところがあるのだけれど、何でこの時代の人たちはこんなに、元気だったのだろう。そして、仲良しだったのだろう。ユニコーンとかジュンスカとか、いろんな他のバンドとのセッションでこの曲が演奏されるのを見るたびに、その端っこに加えてもらって自分もあんな風にギターをいやらしく上下運動させてみたいと、どれほど思ったか分からない。

Youtubeには名古屋で開かれたという子供ばんどの30周年ライブ(!)での、「サマータイム・ブルース」の演奏も上がっていた。あまりに感動的だったので、少し長いけど、こちらも貼りつけておきたい。


サマータイムブルース 子供ばんど

最後に渡辺美里の「サマータイム・ブルース」は、決してキライではないけれど、ブルースだとは思えない。だから紹介しない。ではまたいずれ。数日来の豪雨について、私のところは無事でしたが、被害にあわれた地域のみなさんには心からお見舞い申し上げます。

WE LOVE 子供ばんど

WE LOVE 子供ばんど