華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Summertime もしくは100曲まであと10曲 (1968. Janis Joplin)


今週のお題「私の『夏うた』」でもう一曲。「サマータイム・ブルース」一択だとは書いたけど、それを分割する分には許されるのではないかと思う。

ジャニス・ジョプリンの「サマータイム」である。

小さな頃からいろんなところに流れていた曲だったので耳になじんではいたけれど、この歌を歌っている人が女の人だったのだと知った時の衝撃は今でも忘れられない。

こんな声を出せる人、そしてこんな歌い方のできる人は、きっと何年たってもどこの世界にも二度と現れないのだろうなと思う。


Janis Joplin - Summertime

Summertime

Summertime, time, time,
Child, the living's easy.
Fish are jumping out
And the cotton, Lord,
Cotton's high, Lord, so high.

夏。夏になるとね。
暮らしは 楽になる。
魚が跳びはねてる。
そして綿の木は
高く 高く伸びてる。
かみさまのおかげだよ。


Your daddy's rich
And your ma is so good-looking, baby.
She's looking good now,
Hush, baby, baby, baby, baby, baby,
No, no, no, no, don't you cry.
Don't you cry!

あんたの父さんはお金持ち。
そしてあんたの母さんはそれはもう美人。
今がいちばん美人。
しーっ。
いい子 いい子 いい子。
だめだよ。泣いたりしちゃ。
泣いちゃだめ。


One of these mornings
You're gonna rise, rise up singing,
You're gonna spread your wings,
Child, and take, take to the sky,
Lord, the sky.

いつか 未来の朝
あんたは立ちあがり
立ちあがって歌い出す。
あんたの羽根を広げて
いい子だね。
空に。空にはばたいてゆく。
かみさまのいる
空にだよ。


But until that morning
Honey, n-n-nothing's going to harm you now,
No, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no
No, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no
No, no, no, no, no, no, no, no, no,
Don't you cry,
Cry.

でもその朝まで
だいじょうぶ
誰もあんたを傷つけたりしない。
だめ だめ だめ
やめて お願い
泣かないで。
…泣きなさい。

=翻訳をめぐって=

この歌はもともとアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンが、オペラ「ポーギーとベス」の劇中歌として1935年に書いたもので、現在ではジャズのスタンダードナンバーになっており、カバーしているアーティストの数は2000人を越えるのだという。YouTubeでは曲が書かれた翌年の1936年にビリー・ホリデイによって録音された、この歌の最も古いバージョンを聞くことができる。

Billie Holiday 1936 Summertime

  • 「ポーギーとベス」の中でこの曲は、漁師の夫婦のおかみさんのクララという人が自分の赤ちゃんをあやす場面で歌われている。だから「魚がいっぱいとれて」「暮らしが楽になる」という歌詞になっていたのだな。また「あんたの母さんは美人」というのはクララさん自身のことでもあったわけである。
  • One of these mornings…という歌詞について。私はずっと、子どもがすくすく育って自由な世界に羽ばたいてゆくことを願った歌詞だと思っていたのだけれど、ガーシュウィンがこの曲を作るにあたり参考にしたという黒人霊歌「All My Trial (私の試練)」は、「死ぬことによってしか自由になれない」「死んでやっと『幸せ』になれる」という黒人の人たちの苦しみを歌った歌だったということを今回初めて知り、言葉を失っている。何て、重たい歌だったのだろう。
  • 曲の終わりでジャニスは「Don't you cry (泣かないで)」と言った後、もういちど「Cry」という言葉を繰り返している。文法的にはこの cry は命令形であり、「泣きなさい」と言っていることになる。実際、アメリカ人の人たちにも、前の言葉と切り離して聞く限り、そう聞こえているのだと思う。しかし、飽くまで「Don't you cry 」という言葉を繰り返しているにすぎないと解釈できる幅もある。曲の最後になって、聞いている方も歌っている方もフッとどちらか分からなくなってしまうような効果を意識した、これはジャニスの演出なのではないだろうかという気が私にはする。


★憂歌団☆Summer time

「うたを翻訳すること」をテーマに続けてきたこのブログ、読者のみなさんのおかげで今回とうとう90曲目を迎えることになりました。ますます多くの方に読んで頂いて、翻訳の間違いを指摘してもらえることを期待してやみません。ではまたいずれ。

Summertime

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Cheap Thrills

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