華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Stairway to Heaven もしくはカウントダウン 開始 (1971. Led Zeppelin)


今回で91曲目。100曲の大台に向けて階段を踏みしめるような気持ちで一曲一曲と向き合って行こうというわけで、「ツェペリのおっさん」のこの有名曲を取り上げてみようと決めたのだったが、調べてみるとこの曲の日本語訳についてこんなにも詳細な考察をまとめている方が既にいらっしゃったのだということを知り、完全に圧倒されている。他のいろんな歌の翻訳に対する姿勢も厳密そのもので、同じ対訳ブログをやっている者として今までこの方の存在を知らずに来れたということ自体が、恥ずかしくてならない。師匠と呼ばせて頂きたいぐらいである。

先人のこんな偉業を前にして、本当につい最近までレッド・ツェッペリンのことを「赤いツェッペリン」だと思い込んでいた私のごときが自前の翻訳を公開しようと試みるなど、およそ恥知らずな行為であるとしか自分自身にも思えない。しかし10代の頃に翻訳しようとして挫折した私自身の青春には、私自身が翻訳を完成させることを通してしか、決着がつけられない。それは他のいろんな曲に対しても同じことだし、私がこのブログを始めたそもそもの理由でもある。だから、自己満足でも何でもいい。とりあえず思い立ったことについては、最後までやりとげようと思う。


Led Zeppelin - Stairway To Heaven (NOT LIVE) (Perfect Audio)

Stairway To Heaven

There's a lady who's sure all that glitters is gold
And she's buying a stairway to heaven.
When she gets there she knows, if the stores are all closed
With a word she can get what she came for.
Ooh, ooh, and she's buying a stairway to heaven.

キラキラするものは
何でも黄金だと思っているレディがいて
そのひとがいま
天国への階段を買おうとしている。
そこに行けば
たとえ店はみんな閉まっていても
ひとつの言葉を言うだけで
探しにきたものが手に入ることを
そのレディは知っている。
そしてそのひとはいま
天国への階段を買おうとしている。


There's a sign on the wall but she wants to be sure
'Cause you know sometimes words have two meanings.
In a tree by the brook, there's a songbird who sings,
Sometimes all of our thoughts are misgiven.

壁には何か書いてあるけれど
そのひとはハッキリ知りたいと思っている。
時として言葉には
ふたつの意味があるから。
小川のそばの木の中には
歌う小鳥がいて
時々ぼくらの考えることはすべて
不安にゆがめられてしまう。


Ooh, it makes me wonder,
Ooh, it makes me wonder.

ふしぎな気持ちになる。
ぼくは 考えてしまう。


There's a feeling I get when I look to the west,
And my spirit is crying for leaving.
In my thoughts I have seen rings of smoke through the trees,
And the voices of those who stand looking.

西に向かおうとすると
心に湧いてくる感情がある。
そしてぼくのたましいは
旅立とうと叫んでいる。
心の中でぼくは
木立を通り抜ける煙の輪を見た。
そして立って見ている
ひとびとの声。


Ooh, it makes me wonder,
Ooh, it really makes me wonder.

ふしぎな気持ちになる
ぼくは本当に 考えてしまう


And it's whispered that soon, if we all call the tune,
Then the piper will lead us to reason.
And a new day will dawn for those who stand long,
And the forests will echo with laughter.

ささやき声が聞こえた。
もしもぼくらがみんなで
その曲をやってほしいってお願いすれば
そのバグパイプ吹きはぼくらを
はじまりの場所にみちびいてくれるだろうって。
そして長いあいだ立ちつくしていたひとびとのために
新しい夜明けが訪れて
森には笑い声が響きわたるだろうって。


If there's a bustle in your hedgerow, don't be alarmed now,
It's just a spring clean for the May queen.
Yes, there are two paths you can go by, but in the long run
There's still time to change the road you're on.
And it makes me wonder.

あなたの生け垣の中で騒がしい音がしても
もうびっくりすることはありませんよ。
5月の女王を迎えるための
春の大掃除なんですから。
そう。あなたが当てにできる道はふたつあります。
でも長い目で見れば
あなたが道を変える時間はまだありますよ。
そしてぼくは
考えてしまいますね。


Your head is humming and it won't go, in case you don't know,
The piper's calling you to join him,
Dear lady, can you hear the wind blow, and did you know
Your stairway lies on the whispering wind?

あなたの頭の中ではブンブン音がしていて
止まらないことでしょう。
あなたが気づくことがないかぎり。
あのバグパイプ吹きが
一緒においでってあなたを呼んでますよ。
親愛なるレディ
風の音が聞こえますか。
そしてあなたの階段は
風のささやきの中に横たわっていることを
知っていましたか。


And as we wind on down the road
Our shadows taller than our soul.
There walks a lady we all know
Who shines white light and wants to show
How everything still turns to gold.
And if you listen very hard
The tune will come to you at last.
When all are one and one is all
To be a rock and not to roll.

そしてぼくらが
曲がりくねった道を進むにつれ
ぼくらの影は
ぼくらのたましいを覆い隠そうとする。
そこにみんなの知ってるあのレディが
歩いてきて白い光をあびせ
そんな風にやっぱりすべては
黄金に変わるんだってことを示したがる。
けれどもよーく耳を澄ましたら
あなたにもいつかはあの曲が聞こえるはずだ。
すべてがひとつとなり
ひとつがすべてとなり
ロールしないロックになるとき
揺らぐことのないひとつの岩に
変わるときに。


And she's buying a stairway to heaven.
それなのに今でもあのひとは
天国への階段をカネで買おうとしている。

=翻訳をめぐって=

  • There's a lady…ladyというのは翻訳しにくい言葉である。「淑女」「貴婦人」と訳されるが、ladyは10代の女性に対しても使われうる言葉なので、ある年齢以上の女性を想像させるこれらの訳語はどうもピンと来ない。それで、カタカナに直すだけにした。もう一点重要なこととして、レディという言葉を使っている以上、ロバート・プラントにとって彼女は(少なくも口の聞き方の上では)「敬意の対象」なのだと思われる。だから彼女に語りかける後半の歌詞は敬語で訳さないとおかしくなる気がした。
  • all that glitters is gold…シェイクスピアの時代から存在している英語の古いことわざ "All that glitters is not gold"(キラキラしているからといって黄金だとは限らない)を踏まえた表現。最初わたしは「何でも金だと信じてしまう」ということはこのレディは無邪気でだまされやすい人なのだろうというイメージを持っていたのだが、そうではなく、むしろ「本当のモノの価値をわからない人」「すべてがカネと交換できる(天国への階段さえも)と信じ込んでいる人」ということで、かなり皮肉な表現であるらしい。
  • When she gets there…このthereとは「天国そのもの」をさすという読み方もできるようだが、私はレディが「天国への階段を買いに行く場所」(つまり天国の前段階)だと思っていた。どっちともとれると思うので、そのように訳してある。
  • With a word…英語圏のリスナーには、この言葉からルターの宗教改革の原因となった「免罪符」を連想する人が多いらしい。心ではカネのことしか考えていないけど、口先で「神を信じます」とさえ言えばそれで天国に行けると思っているような人間、すなわちレディに対する批判的表現なのだという。
=後日付記=

海外サイトによると、「Stairway to Heaven」という言葉からキリスト教世界の人が連想するのは、旧約聖書創世記28章12節に出てくる「ヤコブの梯子=ジェイコブズ·ラダー」のイメージであるらしい。下はイギリスのウィリアム·ブレイクが1805年に描いたその絵。

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キリスト教の教義によるならば、天上と地上を天使が行き来するのに使われているこの梯子≒階段は心の清い人にのみ開かれた天国への通路であり、またイエス·キリストの身体そのものとも見なされているのだという。従って事もあろうに「カネで」それを買おうとするレディの振る舞いは、キリスト教的には最も「罰あたり(…でいいのかな)」な行為であるということになる。

なお、下の写真のような、雲の切れ目から太陽の光が降り注ぐ「薄明光線」と呼ばれる自然現象も、英語圏では「ヤコブの梯子=天国への階段」と呼ばれているらしい。

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  • Ooh, it makes me wonder…10代の頃はこの部分からどう訳していいのかわからなかったことを思い出した。普通に考えると「分からなくなる」とかだと思うが、直訳は「それは私をワンダーにする」なので、「そのことは私をとびきり価値のある人間にする」みたいな意味である可能性もあるのではないかと、10代の頃は、考えていたのだった。今は多分、その可能性はないと思う。でもなぜないと言えるのかについては、「何となく」としか言えない。同じような10代の人が読んでいたら、疑問に答えられなくてごめんなさい。
  • when I look to the west…大ざっぱな言い方になるけど、ヨーロッパの人にとって「西」には「海」しかない。だから「西」という言葉は常に「死」のイメージと結びついているのだとのこと。また一方で「西に旅立つ」というのは、トールキンの「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」を踏まえたイメージであるという風に考えている人も、多いらしい。
  • In my thoughts I have seen rings of smoke through the trees, And the voices of those who stand looking.…ここは直訳すると「私は声を見た」となってしまう気がするのだけど、どうなのだろう。「声を聞いた」と訳するのは、アリなのだろうか。あまりに不自然な表現になるので、体言止めにした。
  • piper…ケルト音楽が好きな人にとって、パイパーといえばバグパイプかイーリアンパイプを演奏する人のことである。だから私の中での「パイパー」のイメージは、下の動画の人のような感じだった。


Awesome Bagpipe Player

  • ところがこの歌の「パイパー」のイメージについて検索してみると出てくるのは、「ハーメルンの笛吹き」の画像である。ああいう人のことも英語では「パイパー」と言うらしい。

  • しかし日本語で「笛吹き」と言うとどうしても「横笛を吹く人」そして「フルート系の音」を連想すると思う。それが「パイパー」になることはありえないと思うので、私としては「笛吹き」はどうも、使う気になれない。ハーメルンの笛吹きが吹いている「笛」も、形状からするなら絶対にチャルメラ風の音がするやつである。だとしたらやはり「バグパイプ吹き」と訳した方が、少なくも間違ったイメージにはならないのではないかと考えた。どうも私はこういうことが無性に気になってしまう。ちなみに「ハーメルンの笛吹き男」って、1284年6月26日にドイツで実際に起こった「何らかの事件」が元になって、できた話らしいですぜ。

ハーメルンの笛吹き男 - Wikipedia

  • If there's a bustle in your hedgerow…ロバート・プラントはこの部分について「鳥が生け垣に巣を作ったりするような賑やかな春のイメージのことだ」と言っているとのこと。しかし「生け垣」とは「レディの自我の境界」のメタファーで、それがザワザワするということは「アイデンティティがおびやかされる」という意味だ、という、うがった読み方もあるらしい。そろそろ私は疲れてきたよ。
  • May queen…古代ローマの時代からヨーロッパには「5月祭」というのがあって、そのヒロインとして毎年選ばれるのが「メイ・クイーン」なのだとのこと。ジャガイモの名前もそれに由来しているのであって、はじめにジャガイモありきなのではない。ところでそうである以上「レディ」本人が「5月の女王」になる可能性を持った人だという読み方も排除できないと思うのだが、どうなんだろう。
  • Your stairway lies on the whispering wind…上に紹介したLady Satinさんの記事によると、90年代からロバート・プラントはこの部分を「Our stairway」という歌詞に変えて歌っているらしい。またwhispering windについて言えば、聖書の中で「神の声」は「風の音」として表現されることが多いのだということが、外国のサイトには書いてあった。
  • When all are one and one is all/ To be a rock and not to roll…10代の頃の私が一番わからなかった部分。ロックンロールの未来が暗示されているのは明らかなのだが「ロックがロールしなくなる時」って何なんだ、という疑問の枠から離れることができなかった。今回、同じくLady Satinさんの記事で「揺るがない岩」とそのまま読めば良かったのだということに気づかされたのは、本当に目からうろこが落ちる思いだった。翻訳なのだから別にそれをそのまま書いても「盗作」にはならないと思うけど、自分の力で翻訳できた箇所でないということは、書いておかなければならないと思います。

…この曲に関しては以上。ではまたいずれ!