華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Pretty Maids All in a Row もしくはフェイドインで始まりフェイドアウトで終わるのが人生といふものなのでせうね (1976. The Eagles)


こういうギターを時々みかける。左のネックが12弦、右のネックが6弦になっている、いわゆるダブルネックギターというやつである。触らせてもらったことはあるけど、まず重い。12弦を弾く時には肘が6弦のネックにぶつかるし、6弦を弾こうとすると今度は12弦のネックがアゴにぶつかりそうになる。使うメリットはと言えば「持ち替えなくて済む」というだけのことなのだけど、こんなギターを使いこなせる人はよっぽどヘンコな人に限られるのではないかと思う。ああ、「ヘンコ」というのは「偏屈」を意味する関西方言です。

実際、あえてこのギターを使っているギタリストには、あくまで私の目から見ての話だけど、ヘンコな人が多い。ロビー・ロバートソンしかり、ジミー・ペイジしかり、ボンジョヴィでやってたリッチー·サンボラしかり、アルフィーの坂崎さんしかり、そしてイーグルスのジョー・ウォルシュしかり、である。

つけっぱなしのテレビにたまたま映っていたミュージシャンとの出会いが、その後の人生を大きく変えてしまうことになるような出来事が、特に10代の頃には、何度か起こる。私にとって一番大きなそうした経験は、このブログの第1回目で触れた92年のボブ・ディランの30周年コンサートだったけど、その次に思い出されるのは、94年に放送されたイーグルスの再結成コンサートの映像である。私がイーグルスの人たちの顔と、「ダブルネックギター」というものを初めて見たのは、この時のことだった。

アコースティックバージョンの「ホテル・カリフォルニア」でライブが始まってから何曲もしないうちに、私はイーグルスのフロントマンの人たちの圧倒的なカッコよさに、完全に魅きつけられていた。ソロアルバムから「A Heart of the Matter」という曲を歌ったドン・ヘンリーは非の打ち所がないほど完璧な男性に見えたし、「テキーラ・サンライズ」を歌ったグレン・フライは、野球を教えてくれる近所のお兄さんみたいに親しみやすい人に思えた。何でこの人たちのことをもっと早く知らなかったのだろうと思った。

だがその後ろの方に1人だけ「場違いな人」がいることが、私はずっと気になっていた。その人だけはライブが始まってから、なぜか一度も笑顔を見せず、ヘンコな顔をして奇怪な形をしたダブルネックギターをいじくっていた。言っちゃあ何だけど「なんで、この人、いるのだろう」と私は最初は思っていた。

ところがその人がソロを歌うために前に出てくると、それまでとは全く違った歓声が客席から湧き起こった。そして歌い始めたその人の喉から出てきたのは、それまでマイクの前に立った誰よりもイノセントで、しっかりとした確信に満ちた声だった。

それがジョー・ウォルシュで、その曲がこの「Pretty Maids all in a Rows」だった。

この曲は、私が自分で翻訳してみようと試みた一番古い曲の中に属している。10代の頃に翻訳した歌詞は、間違いだらけだし関西弁になっているしで、とてもここには紹介できない。

代わりに紹介するのはこの歳になって新たに翻訳し直したものだけど、この曲の中に流れる時間だけは、初めて聞いた時と何も変わっていないことを改めて感じる。


Eagles Pretty Maids All In

Pretty Maids All In A Row

Hi there,
How are 'ya?
it's been a long time
Seems like we've come a long way

ひさしぶり。
元気にしてた?
あれからずいぶんたったね。
ずいぶんな道のりを
歩いてきたような気がするね。


My, but we learn so slow
and heroes, they come
and they go
and leave us behind as if
we're supposed to know why
Why do we give up our hearts to the past?
and why must we grow up so fast?

ぼく
って言うかはぼくらは
本当にゆっくりとしか
かしこくなれない。
そのあいだに何人ものヒーローたちが
あらわれては消えてゆく。
ぼくらのことを取り残して。
当然わかってるはずだって
言われてる感じがするんだけど
でも
どうしてなんだろう
ぼくらはどうして自分の心を
昔に置き去りにしなくちゃいけないんだろう。
そしてぼくらはどうして
こんなにも早く
おとなにならなくちゃいけないんだろう。


And all you wishing well fools with your fortunes
someone should send you a rose with love from a friend,
it's nice to hear from you again
And the storybook comes to a close
Gone are the ribbons and bows
Things to remember places to go
Pretty Maids all in a Row
Oh, oh oh, oh......

きみの願いはいつも
きみの人生をもてあそぶ。
誰かがきみにバラの花を贈るべきなんだろうな。
友だちとしての愛を込めて。
なにしろ
きみからまたこうして連絡をもらえて
ぼくはうれしかったよ。
物語の本は
だんだんと終わりに近づいてゆく。
リボンと蝶ネクタイの季節は
遠くに過ぎ去ってしまった。
忘れてはいけないこと。
これから行かなくちゃならないところ。
そのあいだに
小さな女の子みたいにいとしい思い出が
ずっと列をつくって
どこまでも並んでいる。

=翻訳をめぐって=

  • この歌は歌詞は短いのに、その中に詰め込まれている情報量がものすごく多い。だから訳詞の日本語はどうしても原詞の英語と比べて、不自然なぐらい長大になってしまう。
  • as if we're supposed to know why…直訳は「あたかもぼくらはそれがなぜだか分かっていると想定されてでもいるかのように」。歌詞のwhyは飽くまで太字で示した部分の「なぜ」なのだけど、そのwhyをジョー・ウォルシュが繰り返して歌う時には、きっとアメリカのリスナーにも彼が「なぜなんだろう」と自問しているように聞こえているはずだと思う。だからこの部分が「意訳」だとは、私は思わない。
  • fools with は「いじくる」「もてあそぶ」という意味。そういう熟語になっていたとしても "fool" というのは「精神病者」に対する明らかな差別語なので、私がこの歌を歌うことは今ではもうない。
  • someone should send you a rose with love from a friend,…この部分はこの歌の中でも一番解釈が難しいところ。正直言って今回もやはり、自分の訳で正しいのかどうかは、自信が持てない。friendの後がピリオドでなくコンマになっている理由も、わからない。
  • Gone are the ribbons and bows…「リボンと蝶ネクタイ」はおそらく「制服を着ていた時代」の象徴なのだと思う。
  • Pretty Maids all in a Row…この言葉の出典はマザーグースなのだとのこと。

Mary, Mary, quite contrary,
How does your garden grow?
With silver bells and cockleshells,
And pretty maids all in a row.

メアリ メアリ
へそまがり
おたくの庭は今どんな?
銀の鈴やら
貝のから
それに庭じゅういい女

(和田誠訳)

…この歌の解釈はマザーグースの他の歌同様、まったく定説がないのだけど、一般的に「銀の鈴」や「貝殻」は庭の草花の比喩なのだろうと言われている。鈴=スズラン、貝殻=カイガラソウ、「maid(メイドさん)」=チューリップ、という解釈が、他のサイトではされていた。ということはこの歌詞を聴いた時に英語圏の人の心に浮かぶのは、「庭で草花の面倒を見ているメアリーという小さな女の子」の姿なのだと思う。"pretty maids all in a row" はそのメアリーちゃんよりもっと小さくて、かわいい草花である…というイメージを頼りに、意訳するしかありませんでした。ではまたいずれ。

Pretty Maids All In a Row

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オフ・オフ・マザー・グース (ちくま文庫)

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