華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

London Calling もしくは何処かでオオカミが哭いている (1979. The Clash)


クラッシュを思うように取りあげることができないまま100曲が間近になってしまったのも、この曲の翻訳に手こずり続けてきたからである。タイトルからして、これだと言える訳詞がいまだに見つからないままなのだ。

要するに「ロンドン・コーリング」というフレーズ自体が、英語を話す人の耳にはどのように聞こえる言葉なのか。それが分からないのである。ロンドンとコーリング。名詞がふたつ並んで間にbe動詞は入らない。この変則的な言葉遣いを日本語的に表現したらどんな感じになるのかということが、私はずーっと分からないのである。

意味は、分かっている。第二次大戦中にイギリスの国営放送(BBC)が、ドイツ軍に占領された地域に向けて放送していた番組の冒頭のフレーズが「This is London Calling(こちらロンドンです)」だったとのことで、「London Calling」というラジオ番組自体はそれを記念して1993年までBBCで放送されていたそうである。しかし日本の放送文化の歴史の中で、それと置き換えられるようなフレーズは存在するだろうか。「大阪タワー展望ラウンジからお送りします」とか「渋谷スペイン坂からお送りします」とかいうのとはわけが違う。「ロンドン」そのものがコーリングしているのである。それを直訳して、果たしてニュース番組の冒頭フレーズだということが読み手に伝わるものなのだろうか。

YouTubeに流れていた82年の日本公演の動画には「こちらロンドン、応答せよ」という字幕がついていた。えらくドラマチックだが、こういうのを「華氏65度の冬」というのだ)。

もうひとつの問題は、どのような文体を選べばいいのかということである。「London Calling」がBBCのフレーズである以上、少なくとも曲の最初の部分ではジョー・ストラマーは日本で言うなら「NHK的な喋り方」をしていることになる。私が今までに見てきたクラッシュの訳詞というのはなぜかどれも決まって判で押したようにオレオレダゼダゼ命令形連発口調なのだが、この曲に関して言うならその文体が「適当」であるとは全く思えない。

(付け加えて言うなら「他のどんな曲に関しても」オレオレダゼダゼ命令形連発口調がクラッシュの訳詞の文体として適当であるとは私には思えない。ジョー・ストラマーはとても繊細な人だと思うし、ミック・ジョーンズはそれに輪をかけて気が小さい、と言うか少年的な心を持った人だと思うのに、あの人たちの声が世の中の人にはどうしてそんな風にエラそうに聞こえてしまうのだろうと思う。ひょっとして訳詞にそういう言葉を使いたがる人というのは、クラッシュのことを尊敬するあまりその言葉を翻訳する自分自身までエラくなったようにカン違いしているのではないだろうか)。

(さらに言うなら、クラッシュに限らずロックの訳詞全般に登場するのだけど私がどうしてもよく分からないのが「のさのさ口調」である。「行くのさ」「笑ったのさ」「ほしいのさ」「したいのさ」…こういう、独り言なのか誰かに話しかけているのかも判然としない独特の口調で話をする人って、本当に実在してるのだろうか。近畿地方でも一番ザラザラした言葉を話す地域で育った私は子どもの頃、東京の女の子はみんな「だわ」って言って男の子はみんな「のさ」って言うものなんだろうなとテレビの情報を頼りに信じ込んでいたものだったけれど、実際に東京に行ってみると「だわ」はともかく「のさ」って言う人なんて1人もいないではないか。私が唯一知っている「のさ」使いは長崎出身の人だけど、この人の「のさ」は「あんたがたどこさ」的な純然たる方言で、ロックの訳詞的な「のさ」からは程遠い。沖縄の人がよく言う「〜さあ」も、全然別の「さ」だと思う。よく考えてみると私が生まれて初めて聞いた「のさのさ口調」は渡辺美里の「たやすく泣いちゃダメさ」だった気がするのだけど、あの人は京都人なのである。一体どういう気持ちで歌っていた/いるのだろうと思う。少なくとも私にとって「のさ」は完全に「外国の日本語」である)。

しかし。

…何が「しかし」か分かりにくくなってしまったので、混乱しちゃった人は紫の文字の上まで戻ってもういちど話について来てほしい。全部をNHK的な文体で訳してしまうと、それはそれでクラッシュの歌でなくなってしまうから、そこがこの歌の場合は難しいのである。サイモンとガーファンクルの曲なら許されるかもしれないが、これは飽くまでクラッシュの曲なのだ。少なくとも最初の「ロンドン・コーリング」から「ビートルマニアはのびちゃった」のくだりまでの間に、「NHK的な言葉からジョー・ストラマーの地語りへ」の転換が劇的かつ自然になされなければならない。何という難しい注文なのだろう。

…このブログと長くつきあって下さっているみなさんにとっては自明のことだと思うけど、こんな風に「前置き」が長くなってしまうのはいつも私が自分の翻訳に確信を持てずにいる時である。グチは言うまいこぼすまい。とりあえず上記のような縛りを自分に課した上で、いつものように青春に決着をつける気合を込めて、何はともあれこの曲を私は訳してみた。あとは「訳したもの」を見ていただいた上で、改めて話すことにしたい。


The Clash - London Calling (Official Video)

London Calling

London calling to the faraway towns
Now war is declared, and battle come down
London calling to the underworld
Come out of the cupboard, you boys and girls
London calling, now don't look to us
Phoney Beatlemania has bitten the dust
London calling, see we ain't got no swing
'Cept for the ring of that truncheon thing

こちらロンドンから
遠くの街のみなさんにお伝えいたします。
戦争が布告されました。
たたかいが始まります。
下層社会のみなさんに
ロンドンからお伝えいたします。
少年少女のみなさん。
押入れの中から出てこよう。
ロンドンからお伝えいたします。
われわれをアテにするのは
もうやめていただきたい。
カッコばかりのビートルズマニアの諸君も
いまや一敗地にまみれたのだ。
こちらはロンドン。
見ろよおれたちにはもう
スイングできることなんてありゃしない。
警棒的なものをスイングしてる連中が
のさばってる現場を別にすれば。


The ice age is coming, the sun's zooming in
Meltdown expected, the wheat is growing thin
Engines stop running, but I have no fear
'Cause London is drowning, and I live by the river

氷河期が近づいてるし
太陽は膨張してる。
予測されるメルトダウン
小麦はろくに育たない。
石油が暴騰してクルマが止まる。
でもおれは別に怖くない。
もうすぐロンドンは水没するし
おれは川のそばに住んでるから
どうせ先は長くないんだ。


London calling to the imitation zone
Forget it, brother, you can go it alone
London calling to the zombies of death
Quit holding out, and draw another breath
London calling, and I don't wanna shout
But while we were talking, I saw you nodding out
London calling, see we ain't got no high
Except for that one with the yellowy eyes

人まねばっかりしてる世界の諸君に
ロンドンからお伝えします。
そんなことはもう忘れなさい。
やるなら1人でやりなさい。
くたばったゾンビの諸君に
ロンドンから神のお召しだ。
むだな抵抗はやめて
さっさと息を吹き返せ。
こちらはロンドン。
でかい声は出したくないんだ。
でもこないだしゃべってた時
おまえはんぶん寝てただろ。
こちらはロンドン。
見ろよおれたちにはもう
ハイになれることなんてありゃしない。
目を真っ黄色にして
クスリに頼ってるやつらを別にすれば。


The ice age is coming, the sun's zooming in
Engines stop running, the wheat is growing thin
A nuclear error, but I have no fear
'Cause London is drowning, and I live by the river

氷河期が近づいてるし
太陽は膨張してる。
石油が暴騰してクルマが止まり
小麦はろくに育たない。
スリーマイル島原発事故
でもおれは別に怖くない。
もうすぐロンドンは水没するし
おれは川のそばに住んでるから
どうせ先は長くないんだ。


Now get this!
さあしっかり聞いてくれ!

London calling, yes, I was there, too
An' you know what they said? Well, some of it was true!
London calling at the top of the dial
After all this, won't you give me a smile?
London calling

こちらはロンドン。
そう確かにおれもそこにいた。
やつらが言ってたことを知ってるか?
いくらかは確かに本当なんだぜ!
ロンドンから
最高周波数でお届けしています。
これだけ言っても
きみは微笑んでさえくれないわけ?
ロンドンからお伝えいたします…


BARBEE BOYS なんだったんだ?7DAYS

=翻訳をめぐって=

…何でバービーボーイズのPVが出てくるのかといえば、同じ船の上で撮影した曲でもずいぶん感じが変わるもんだなと思ったからというだけで、他意は全くない。こんなの、つけない方がいいことは分かっている。しかし私はなぜかどうしても見比べてみたくなったのである。

さて。

この曲に特別な思い入れを持っている人というのは、きっと世の中にめちゃくちゃたくさんいるのだと思う。そして「その人だけのロンドン・コーリング」が、その数の分だけ確実に存在しているのだと思う。公平かつ客観的であるべきだと思われるWikipediaの記事ひとつとっても、そこに書いてあることはこんな調子である。

この曲はクラッシュが滅多に使わなかった短調で、葬送歌のようであり、天啓的な感覚はトッパー・ヒードンの裏打ち無しの勇ましいドラミング、完全に同期の取れたスタッカートコードストローク、ポール・シムノンの忘れがたい脈打つベースライン、バンドによる意図的なミディアムテンポ、ストラマーの氷のような歌詞と悪意に満ちた演説により増強された。ストラマーの間奏での狼のような遠吠え、あるいは七面鳥のような鳴き声は、曲全体に漂う孤独感と偏執をさらにあおる。
ロンドン・コーリング (曲) - Wikipedia

ひ…七面鳥七面鳥ってあんな声で鳴くんだろうか。この人、何でそんなこと知ってるんだろう。飼ってるのだろうか。それはともかくこんな風に言われてみると、この歌を翻訳する時には「葬送歌のように」「天啓的に」「氷のように」「悪意に満ちた」言葉で翻訳しなければいけないのではないのだろうかというプレッシャーに、無意識のうちに押しつぶされそうになってしまう。

今回の翻訳にあたって私が最も腐心せねばならなかったのは、そういった「世の中の人がこの歌に対して抱いている印象」に左右されることなく「自分自身はどのような気持ちでこの歌を聞いてきたのか」という原点にこだわり抜くことだった。そのために私は「自分自身の声」に対して、ずいぶんと耳を澄まさねばならなかった。

あえて書くのだけれど、私は今までに自分自身が納得できるような「クラッシュの歌詞の日本語訳」に出会えたことは、一度もない。(唯一の例外は、この方の翻訳である。文法的に解釈して誤訳であると判断せざるを得ない部分はいくつかあるものの、「ロンドン・コーリング」がこの方の耳にはずっとこのように聞こえていたのだという事実以上にかけがえのないことがどこにあるだろうか。この方の訳詞はそれ自体がひとつの「作品」だと思う)。だから自分自身が訳すしかないという気負いを持ってこのブログを始めた面もあるわけなのだけど、いざ自分で翻訳してみようと思うと、あれだけ違和感を持って眺めていた他の訳詞の文体にいつの間にか自分自身、影響されてしまっていることに、気づかされる場面が極めて多いのだ。

だから今回ようやくこの歌の試訳の公開にこぎつけることまではできたものの、他のオレオレダゼダゼ命令形連発口調の翻訳と比べて果たしてどれぐらいの「違い」があるものなのか、正直なところ自分でも心もとない。以上を「言い訳」にさせてもらった上で、訳語の検討に移りたい。

London calling to the faraway towns
Now war is declared, and battle come down
London calling to the underworld
Come out of the cupboard, you boys and girls
London calling, now don't look to us
Phoney Beatlemania has bitten the dust
London calling, see we ain't got no swing
'Cept for the ring of that truncheon thing

  • 当初わたしはギリギリの瞬間まで、歌詞の冒頭に「こちらは英国国営放送です」という一言を付け加えようかと考えていた。原詞の中にない言葉なので結局やめることにしたけれど、何も予備知識が無い状態でこの歌を初めて聞く人にとってはその方が絶対「親切」な訳詞になると思う。
  • underworld…「地下社会」とか「暗黒社会」とか訳されることが多いけど、辞書に載っている最初の訳語でありかつジョー・ストラマーが自らをその一員と位置づけていた「下層社会」という言葉が、結局一番適当なのではないかと思う。何か比喩的な言葉ではなく、イギリスでは極めてリアルな言葉なのだ。
  • Come out of the cupboard…cupboardは辞書には「戸棚」と書いてあるのだけど、ハリーポッターの映画で子どもの頃のハリーが閉じ込められている階段の下の小部屋、あれも原書にはcupboardと書いてあるのである。あれを見てから私のcupboard観は、「戸棚」から「押入れ」に変わった。
  • now don't look to us…look to は「アテにする」という意味の熟語。この歌詞の背景には当時のパンクブームの終焉と、クラッシュというバンド自体が借金やら何やらで大変なことになっていた事情が存在していたと言われており、それ自体は正しい解釈なのだと思う。続く歌詞は「ビートルズさえ時代遅れになる時にはなるのだから」ということで、勢いだけでパンクブームに乗っかってきたリスナーに対しその覚悟を呼びかけていると共に、「自分の頭で考えること」をジョーは訴えているのだと私は思う。
  • Phoney Beatlemania…phoneyは「偽の、偽りの、まやかしの、いんちきの、でっち上げの、欺いた、ほら吹きの」と辞書にはある。しかし「インチキビートルマニア」と書くと、「モノホンのビートルマニアならジョーは評価するのか」という疑問が生まれる。それは、ないと思う。だから「カッコばかりの」と訳したが、正しいかどうかについての確信は、ない。
  • has bitten the dust…直訳は「ゴミを噛む」で、「屈辱的に敗北する」という意味の熟語。
  • see we ain't got no swing…「スイング」とはジャズ用語で、文字通り体を左右に振り回すこと。この言葉を感覚的に理解するためには、この映画を見ることが私には必要だった。

  • 1960年代のロンドンは「スイングする街」と呼ばれていたらしい。それはアメリカから入ってきた新しく開放的な文化と、経済成長期の景気の良さとが相まって、街全体が活気に満ちていた時代を象徴する言葉だったという。その活気と新しさが、79年当時のロンドンにはもはやどこにも存在していないではないか。という歌詞なのだそうである。

  • そんな79年当時のロンドンで「活気のある場所」は、「暴動の現場」だけだったのだという。当時の写真が海外のサイトに上がっていたけれど、イギリスの警察は「馬で人間を蹴散らす」ようなことを平気でやるのだな。おそらく今でもやっているはずだけど、日本とは違った形で本当に「階級社会」なのだと思う。(日本がそうでないとは私は全然思わないが)。ringはボクシングやプロレスの「リング」そのもので、暴動鎮圧のために暴力が振るわれている現場をさすのだろう。truncheonは「警棒」。thingがついているので「警棒的なもの」と訳したが、そのニュアンスの正確さについて自信はない。もっとエグい「凶器」が、警官の手で振り回されていたのかもしれない。

The ice age is coming, the sun's zooming in
Meltdown expected, the wheat is growing thin
Engines stop running, but I have no fear
'Cause London is drowning, and I live by the river

  • ジョー・ストラマーという人は、ものすごく熱心に新聞を読む人だったらしい。(過去形を使わねばならないのが私はすごく悲しい)。ここに列挙されているいろんな不安要素は、多少トンデモニュース的に見えることまで含めて全て当時のマスコミを賑わせていた問題だそうである。
  • The ice age is coming, the sun's zooming in…「氷河期が来る」と言っている一方で「太陽の接近」によって予測される事態は「温暖化」なのだから、何か矛盾した歌詞である。海外サイトでは sun's zooming in とはオゾン層の破壊のことを言っているのだと説明しているところがあったが、南極のオゾンホールの写真が学会で公表されたのはこの曲から6年後の1985年なので、それはないと思う。太陽が zooming in(接近してきている)という事態は、事実として存在しない。ただし、膨張はしている。膨らんだ分だけ地球に近づいているのだから、誤訳にはならない。と思う。
  • Meltdown expected…後に出てくる A nuclear error という歌詞と共に、この曲が書かれる直前に発生したアメリカのスリーマイル島原発事故に対する恐怖と危機感が歌われている。この事故が当時の世界の人々をどれだけ震撼させたかを物語る資料は枚挙にいとまがない。しかしそれを読んだり聞いたりしている我々が住んでいるのは、それと比較にならないぐらい巨大でめちゃくちゃな原発事故を既に経験してしまった世界である。こんな世界に「慣れて」しまっては、絶対にいけないはずなのだ。
  • the wheat is growing thin…気候変動の影響なのか、70年代は世界的な規模で小麦の不作が続き、食料品の値段がそれまでと段階を画してハネ上がった時代だったのだという。そういう話を私が母親から聞かされなかったのは、やっぱり主食がコメの国だったからなのだろうな。その中で例外的に小麦を自給できていたのがアメリカだったことで、この時代にはそれまで無かった多くの貿易不均衡が新たに発生し、社会の閉塞感をいっそう強めていたらしい。
  • Engines stop running…「石油が暴騰して」という説明は、原詞にないけど私が付け加えた。当時のイギリスではオイルショックの影響と、それまでイギリスのエネルギー政策を支えていた炭鉱労働者に対する政府の迫害の影響とで、パニック的に原油価格がハネ上がり、実際にクルマのエンジンが止まっていた。だから「クルマが止まる」とだけ書けば当時のイギリスの人は分かったけれど、現代の日本に生きる我々には、分からない。
  • London is drowning, and I live by the river…そのころ進行していた「テムズバリアー」と呼ばれる河口堰の建設によって、ロンドンの一部地域が水没する危険にさらされることになるのではないか、という当時存在した議論を背景とした歌詞。実際、ありうることだし、今でもその危険は続いているのではないかと思う。日本でもそうした「治水事業」は、必ずと言っていいほど「誰か」に矛盾や犠牲を押しつける形で進められている。また同時に当時のロンドンの「沈みきった空気」そのものを表現した歌詞でもあるという説明が、海外サイトではなされていた。「どうせ先は長くないんだ」という最後の言葉は私が「勝手に」付け加えたものだが、この歌詞がそういうイギリスで言うところの「死刑台のユーモア」であることを昔の私は理解できなかったのである。「ロンドン沈む。川辺に住んでる。危ないやん。それなのに怖くない。何でやねん」と真剣に考え込んでいた。だから、どれだけ野暮だゼイロクだと言われても、説明が必要だと思った。

London calling to the imitation zone
Forget it, brother, you can go it alone
London calling to the zombies of death
Quit holding out, and draw another breath
London calling, and I don't wanna shout
But while we were talking, I saw you nodding out
London calling, see we ain't got no high
Except for that one with the yellowy eyes

  • imitation zone…私が持っていたCDの歌詞カードでは「模倣の世界」と訳されていたのだけど、訳した人はどういう世界をイメージしていたのだろう。たぶん「誰かのマネをすることで自己満足にひたっているパンクス」に向けた「しっかりしろよ」というメッセージなのだと私は思う。だから「我々をアテにするな」と言ってるのだ。注目すべきはそういう相手に対してもジョーが「ブラザー」という「同志愛」にあふれた呼びかけ方をしている点である。
  • London calling to the zombies of death…callingという言葉には独自に「神の思召し」「神が宣言したこと」「使命」という意味もある。この部分の歌詞に関してだけは、BBCのキャッチフレーズの言葉にその意味が「かかって」いるように感じられる。
  • zombies of death…何をやってもうまく行かない時代には、何もやる気を起こせない人間が出てきたって当然だ。私だってその1人である。そしてそんな自分のことをゾンビみたいだと自分でも思う。でもそういうゾンビみたいな生き方を強いられている同世代の若者に対して、ジョーはきっと「自分が人間だってことを忘れちゃったわけじゃないだろう?死んだフリはやめて息を吹き返せよ!」と熱く語りかけてくれているのである。そのどこが「氷のような歌詞と悪意に満ちた演説」だというのだろう。私はこの歌は始めから終わりまで本当に真面目な愛にあふれていると思うのだけれど。
  • Quit holding out…hold out は「抵抗する」
  • nodding out…直訳は「コックリコックリする」だが、麻薬の影響でもうろうとしている状態をさすスラングでもあるらしい。
  • see we ain't got no high…highには「高等な」「高尚な」「ぜいたくな」「気分がいい」等々、いろんな意味がある。「勝ち組」的なニュアンスで訳しても、間違いにはならないと思う。そして同時に、酒や麻薬で「ハイになる」という意味もある。

London calling, yes, I was there, too
An' you know what they said? Well, some of it was true!
London calling at the top of the dial
After all this, won't you give me a smile?
London calling

  • Now get this!…直訳は「今これをゲットしなさい」。命令形だぜ中学生諸君。昔の私はこういうのが本当にわからなかった。
  • you know what they said? Well, some of it was true!…ここは本当に、何のことを言っているのか分からない。当時のリスナーとの関係の中では「言わなくても分かる」ような、何か具体的なことがあったのだろうか。
  • at the top of the dial…これは、私の実家にもあったけど、ダイヤル式のチューナーでラジオのチャンネルを合わせる時に針が一番右側に来るところで受信できる局、すなわち一番周波数の高いラジオ局のことをさす言葉なのだそうである。でもなー。別に周波数が高くてもボリュームが大きくなるわけじゃないしなー。むしろ周波数が高いほど電波が届く距離は短くなって、「遠くの街」には聞こえなくなるはずなんだけど、どうなんだろう。短波放送なのだろうか。それとも安定した周波数帯はカネ持ちのラジオ局に押さえられているという意味なのだろうか。うがちすぎだろうか。
  • After all this, won't you give me a smile? …最後の最後になって、一番どう解釈していいか分からない歌詞。昔の私は「すべてが終わったとき、きみは微笑んでくれるかい?」などと訳していたのだけれど、after all は「こんなに〜しても」という意味の熟語である。これだけ不安要素を並べた上で最後に「スマイル」を求めるのがこの歌のアイロニーなのだという説明が海外サイトにはあったが、ジョーがスマイルを求めている相手は誰なのだろう。何となくここにだけ「恋人」の影を感じる。
  • 曲の終わりにジョー・ストラマーI never felt so much alike alike alike alike...(そんなに似てるとは思わないんだけどな…) と言っている。その背後で鳴っているギターの音はモールス信号の「SOS」になっているのだそうで、この演出で曲を終わらせるのがザ・フーピート・タウンゼントの「得意技」だったとのこと。それを自分たちで真似しながらジョーは「似てない」と言っているのだというのがWikipediaの説明なのだけど、どうなんだろう。

…以上、長年の宿題にようやくケリをつけた気分である。今夜は気持ちよく眠れそうだ。


誰がカバやねんロックンロールショー・何処かでオオカミが哭いている mp3

…以前は石田長生さんがギターを弾いているもっとステキなこの曲の動画がyoutubeに上がっていたのだけどな。Wikipediaの人が「七面鳥」と評したジョー・ストラマーの叫び声は、今も昔も私にとってはこの歌の中のWaohとかぶっている。ロンドンコーリングを翻訳し終えた現在の心境もWaohそのものである。ではまたいずれ。