華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Sinky-York もしくは100曲目を迎えて (1989. Jitterin' Jinn)

恋人もいないくせに
手編みのマフラーどうするのさ
クリスマスプレゼントに
まだ間に合うからもらっとくよ
ああ何となく ああこんな日は
ああ思い出す
そう 昔話さ

初めての口づけは
君が帰る坂の途中で
唇にふれただけの
さよならのキス
さよならのキス

君の髪長い髪が
毎日きれいになっていくのに
僕はまだ夢ばかりを
教科書のすみにえがいていた
ああいつの日か ああこの恋も
ああ君のような
ああ風になるよね

十七の誕生日
夢を見てた微熱の中で
月明かり君の寝顔に
おやすみのキス
おやすみのキス

おかしいねこれじゃまるで
今観たばかりのロードショーを
演じてるみたいだけど
ハッピーエンドにしたかったよ
ああ君が今 ああ見つめてる
ああその先に
もう手が届かない

抱きしめていたいけど
涙がもうあふれちまって
歩きだす君の背中に
さよならのキス
さよならのキス


SINKY-YORK / JITTERIN'JINN

50曲めが日本語の曲だったこともあり、このさい節目節目では日本語の曲を取りあげてゆくことにしようと考えて、子どもの頃にいちばん好きだったこの曲を選んだ。12歳の時に聞いてもせつなかったし、17の誕生日に聞いてもせつなかったし、いま聞いてもやっぱりせつない。死ぬまで聞き続けることになる、数少ない曲のひとつなのだろうと思う。

ちなみにこの歌のタイトルの意味は、当時それこそどんな辞書にあたってみても分からなかったのだけど、ネットの時代になって「答え」を知って、あれほど拍子抜けした経験も他になかった。興味のある方はご自分で調べてみて頂きたい。

さて、100曲目である。

ブログを始めた当初は、100本も記事を書いたらその頃には取りあげるべき曲も無くなっているのではないだろうかと、漠然と思っていた。

ところが、全然なくならない。

考えてみれば当たり前の話で、100曲という数字を冷静に分析してみればたかだかアルバム10枚分の曲数にすぎないのである。

アルバム10枚というのは、それはそれとしてアナドれない数字ではある。私が中学を卒業した時点で、それまでに自分の小遣いで集めることができていたCDの数は、確か10枚も行ってなかったはずだと思う。その年齢の人間にとっての「世界のすべて」に等しいぐらいの曲数は、いちおう取りあげてこれたのだと、言って言えないことはない。

でもやっぱり、アルバム10枚では「店」は開けない。このブログは、まだまだ「駆け出し」である。

100曲まではできるだけいろいろなアーティストの曲を「まんべんなく」取りあげて、一通り対訳ブログとしての「カッコ」がつくようになったら、後はひたすら自分の趣味に走ろうと私は考えていた。次はどんな曲にするかなどいちいち考えることもなく、とりあえず黙々と写経をするような感じでザ・バンドとドアーズとクラッシュの曲をアルバムごとに全部かたづけ、それが済んだらまた別のアーティストに取りかかろう。そんな風に考えていた。

だが自分の実感として、このブログはそういうことがやれる「段階」には、全然まだ入っていないと思う。また、前の曲からの連想で綱渡りみたいにして次の曲を決めてゆくプロセスも、こんな風に定着してみるとなかなかライブ感があって楽しいし、またそれを楽しみにしてくれている読者の方がいることも、実感している。

そんなわけで、100曲という一応の節目は迎えたものの、明日からもこのブログは今までと何ら変わることのない形で続けていきたいというのが、現時点での私の結論である。

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100曲目にあたり、今まで自分が翻訳してきた試訳の中で特に気に入っているもののベスト5と、全然納得の行かない試訳のワースト5を紹介するという「企画」を打ってみたい。順序からするなら、ワーストの方から先に紹介した方が自然かな。

というわけで「納得が行ってない翻訳」のまずはワースト
nagi1995.hatenablog.com
ストロベリーフィールズ「よ」なのか「は」なのか「で」なのか。いまだに自分自身がスッキリできるような意見と出会えない。読んでくれている人は決して少なくないみたいなのだけどな。もっと気軽にコメントしてもらえたらうれしいです。

続きましてワースト4
nagi1995.hatenablog.com
…ある意味、ワーストなのは仕方ない。内容を理解することは初めから「投げて」かかった翻訳なのだから。それでも文字を見ただけであのPVの映像が浮かんでくるような訳詞を、作れる人には作れるはずである。自分の力不足をいなめない。

続きましてワースト3
nagi1995.hatenablog.com
…こんなに好きな歌なのに、その歌に歌われている風景すら歌詞から思い描くことができないというのは、本当にもどかしいことだ。せめて「自分はこんな風に聞いていた」と言ってくれる人の1人でも、現れてくれないものなのだろうか。

続きましてワースト2
nagi1995.hatenablog.com
…分からないことは何も恥ずかしいことではないのだと、いつも私は自分に言い聞かせている。分からないからこそこうやってブログに書いていろいろな人の意見を求めるのであって、その何がいけないのだということを頭では分かっているのだけれど、やっぱり分からない翻訳を分からないまま人目にさらすことは、敗北に似ている。この曲が好きな人は決して少なくないのだということが分かったことだけは、救いだった。

そしてハエあるワースト1
nagi1995.hatenablog.com
…この曲に関しては、翻訳をめぐって特に納得できないことがあるわけではない。なぜ誰も読みに来ないのだということが、納得できないのである。とりわけ案の定というか思った通りと言うか、この記事のPV数が「Taste of Honey」と比べてもずっと負けっぱなしだということが、私は本当に納得できないのである。

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気を取り直して、続いてはベスト
nagi1995.hatenablog.com
…この記事を書いた時に返ってきた反応の「ライブ感」は、一瞬だったけど、すごかった。この曲を好きな人は世の中にこんなにいるのだなということが、しみじみと実感できた。「猫」が何をさしているのかは私にとっても長年の謎だったのだけど、それが解明できて世の人の役に立つこともできたことは、素直にうれしかった。

続きましてベスト4
nagi1995.hatenablog.com
読んでくれている方とのコミュニケーションを通じて完成させることのできた、最初の訳詞だった。これだけネイティヴの人から正確さを保証してもらえた訳詞は他のどこを探しても読めないと何遍も何遍も言ってるのに、いまだに「ラジオスターの悲劇」で検索してもこの記事が上位には出てこない。しかし私は自分からグーグルに云いよったりはしない。別の人がくれたラブレター見せたり偶然を装い帰り道で待つわ。

続きましてベスト3
nagi1995.hatenablog.com
…「Leave us helpless」の翻訳が「孤立無援のまま置き去りにしてくれ」で「正しい」のかどうかという確信は、いまだに私の中には、ない。しかし私にはずっとそう聞こえてきたという私自身の歴史を、私は気に入っているのだ。

続きましてベスト2
nagi1995.hatenablog.com
…この曲についても、「stoned」という感覚を知っている人間が翻訳しているわけではない。「全然ちがう」と言われたらそれまでである。しかしそういう風に「自分に分からないこと」を一生懸命想像しながら作った訳詞の方が、訳した人間自身にとっては必ず愛着の深いものになるのだと思う。

そしてハエあるベスト1
nagi1995.hatenablog.com
…この曲は、「自分の力」で翻訳できたというような気が、いまだにしない。不思議なくらい言葉がスラスラと出てきて、「ものごとをテレビで見るのは」と「好きだ」の間に改行を入れねばならないということは、その瞬間だけルー・リードが「降りてきて」私に教えてくれたような感じがした。それは「Things like that drive me out of my mind」という歌詞を「そういうことって/ ぼくから現実感覚を失わせる」と訳したことへのルー・リードからの「ごほうび」だったのだということが、何となく私には分かった。こういうブログを始めたからこそ出会えた、不思議な体験だったと思う。

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そして、気に入ってるとか気に入ってないとか簡単には言えないのだけど、「自分にとって特に思い入れのある翻訳」を最後に5つ。

nagi1995.hatenablog.com
…正直、この曲を訳していた時が、私にはいちばん楽しかった。疲れたけど。

nagi1995.hatenablog.com
…10代の時には本当に分からなかった歌詞だったから、訳し切れた時には素直に自分自身の「成長」を感じた。良くも悪くも。

nagi1995.hatenablog.com
…特別な歌なのである。多くは言わない。

nagi1995.hatenablog.com
…星を下さったみなさんには本当に感謝しています。

nagi1995.hatenablog.com
…この歌の翻訳が私にとって「納得の行くもの」になることは、たぶん永遠にないのだと思う。この歌について知れば知るほど、どういう向き合い方をすればいいのか分からなくなる。もっと知りたい気持ちはあるけれど、奴隷制の廃止にいまだに反対してる白人男性みたいなのがアメリカからこの記事を見つけて、「南部人の心意気を教えてやる」みたいな調子で親しげに話しかけてきたりしてこられたら、それはそれで私は困ってしまう。先住民の子孫であるロビー・ロバートソンは何のために誰のために、どんな気持ちでこの歌を書いたのか。それは本当は「分かろうとしない方がいいこと」なのかもしれない。

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このブログは、読んでくれるみなさんがいてくれることで初めて成立している。全員を紹介するのは難しいけれど、ブログはアイミタガイなので、最低でも自分が言葉を交わしたことのある他ブログのみなさんのことだけは紹介し、感謝を述べさせて頂きたい。

surftrip.hatenablog.com
…一度も言葉を交わしたことはない方なのだけど、私が書いた記事に初めて星をくれて、読者になって下さった方。(第2回目の、ドアーズの記事だった)。おかげで幸先のいいスタートは切れたのだけど、はてなブログでの読者はこの方ひとりだけという時代が、最初はずいぶん長く続いた。何となく「私を世に出してくれた人」という気がしている。

abbeyroad0310.hatenadiary.jp
…他の方の書いたものを読むようになってから、私が最も驚嘆させられたブログ。ビートルズのことなら何でも分かるし、その周辺情報についても量が半端でないから、それ以外のこともよく分かる。正直、ビートルズについて何か書く時にはこの方に「おうかがい」を立てないと、恥ずかしくて何も書けない気がする。

lynyrdburitto.hatenablog.com
kleinenina.hatenablog.com
…2人いっぺんに紹介するのは失礼にあたることなのかもしれないけれど、このお二方に「見つけて頂いた」頃からようやくこのブログは軌道に乗り始めたという気持ちが、実感としてある。私は世の中で一番ぜいたくな時間の使い方は演劇を見に行くことで、その次が映画を見に行くことだと思っている。どちらもそれを見ているあいだ「他のことは何もできない」からである。そういうぜいたくな時間の使い方が私にはなかなかできないから、いつもigelninaさんの映画評を読ませてもらっては、それで映画を見たような気持ちにひたっている。そしてニールさんのレコードコレクションの素晴らしさは、私を完全に出不精な人間に変えてしまう。

komadakoma.hatenablog.com
この方に関しては「自分が見つけた」という自負がある。ちょっとだけ威張らせてもらうけど、この方の読者数が一桁台だった頃からの読者である。しかし威張っていられたのもつかの間で、今では完全に追い抜かれてしまっている。とはいえそれもまた、初めから分かっていたことではあった。この人の書く文章には、「売れる必然性」とでも言うべきものがある。正直言って私はその日の翻訳の出来不出来を、この方がくれる星の数を基準に判断している感覚が一番強い。だからと言って採点を甘くしたりすることなく、今後も厳しくつきあい続けて頂ければ幸いです。

guzuni2.hatenablog.com

2センチ上げる (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)

2センチ上げる (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)

…聞いてきた音楽の歴史が、鏡を見ているように私とそっくりだった方。こんな人と出会えることもあるのだなということは、ブログを始めたことで味わった最大の驚きのひとつでもあった。この方の書く言葉には圧倒的な真実があって、いつも私はハジき飛ばされそうな感じになる。「2センチ上げる」という作品集をアマゾンで販売されているので、リンクを貼っておきます。私も買わせて頂きました。

ckrecord.hatenablog.com
この方の読者数がたったの5人だなんて、絶対に世の中は間違っていると思う。それともあれだろうか。意識的に読者を増やさない工夫でもしてらっしゃるのだろうか。だとしたら私はかなり余計なお世話なことをしているのかもしれないけれど、しかし間違った世の中は私にとって居心地が悪いのである。あえて言うなら世の中のみなさんは「華氏65度の冬」なんか読んでるヒマがあったら、この方のブログを2〜3年分まとめ読みすることにその貴重な時間を使って頂きたい。もっともこのタイミングでこの方のブログに行ってしまうと、最初はしばらく下ネタの記事ばかりというハードルの高い現実が待っている。あんた、ぜったい不器用だ。むろん、ホメ言葉ですぜ。

www.keystoneforest.net
最近、読者になって下さった方。はてなブックマークでのコメントには気づかないことが多くて、申し訳ありません。あと、「はじめに」と「索引」はしょっちゅう更新していますので、せっかくブックマークして頂いてもすぐに消えてしまいます。他の皆さんもご了承ください。ところで、みぶさんってもう帰ってこられないんでしょうか?

ryoko-shimbun.hatenablog.com
こちらも、最近読者になって下さった方。「Stairway to heaven」で突然コメントをもらえたのはうれしかったけど、これだけ「公式」色満載のブログでそんなに個人の趣味をさらけ出してしまって大丈夫なものなんでしょうか?

…その他、いつも風のように現れて私には全く分析できない好みの基準で星を3つつけて帰って行かれる紫のアイコンの方とか、ピンクのアイコンの方とか、気になってしょうがない読者の方は他にも沢山いるのだけれど、今回は直接話したことのある経験のある方だけの紹介にとどめておきます。今後ともおつきあい願えれば幸いです。

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Patti Smith - Gloria @ Arena, Vienna 2015

最後に紹介したいのは、YouTubeで新しく見つけたパティ・スミスのこの動画。2015年である。69歳の「Gloria」である。私がどうしても分からなかったあの最初の歌詞を、みんなが「大合唱」している。あそこにいる人たちには、みんな分かるのだ。分からないと大合唱できないもんな。パティ・スミスが袖に手をやる。「ワイルドカード」はあんな感じで隠されていたのだな。自分の手で訳してみると、ひとつひとつの動画が本当に新しく見える。ブログを始めて本当に良かったことである。そしてこの人とこんな風に「再会」してみると、年取ることなんて本当に怖くも何ともなくなってくる。幸せなことだと思う。ではまたいずれ。みなさんご自愛ください。

DOKI DOKI

DOKI DOKI