華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Piano Man もしくはラプソディ (1973. Billy Joel)

スーツケースひとつで
ぼくの部屋に
ころがりこんで
来てもいいんだぜ Baby
ギターケースひとつのぼくのとこで
明日から始めるのさ
たった二人の勇気があれば
ダイジョブ ダイジョブ
きっとうまくやれるさ

バンドマン 歌ってよ
バンドマン 今夜もまた
ふたりのためのラプソディー

きみのパパもママもいつか
わかってくれるさ
だから涙ふきなよ
さあ、まかせとけよ ぼくに
ダイジョブ ダイジョブ
きっとうまくやれるさ

バンドマン 歌ってよ
バンドマン 今夜もまた
ふたりのためのラプソディー

愛してるよ Baby おまえを
ただそれだけさ ねー踊ろう
このラプソディー
いかしてるぜBaby
きみとなら うまくやれるさ

バンドマン 歌ってよ
バンドマン 今夜もまた

バンドマン 歌ってよ
歌ってよ バンドマン
ぼくとあの娘のためにさ
バンドマン 歌ってよ
歌ってよ バンドマン
今夜この店で
バンドマン 歌ってよ
バンドマン 今夜もまた
ふたりのためのラプソディー

RCサクセション「ラプソディー」1980年ー


Billy Joel - Piano Man

Piano Man

It's nine o'clock on a Saturday
The regular crowd shuffles in
There's an old man sitting next to me
Making love to his tonic and gin

ガヤガヤする常連客でいっぱいの
土曜日の21時。
ぼくのとなりにはじいさんが座っていて
一杯のジントニック
いとしそうになめている。


He says, "Son can you play me a memory
I'm not really sure how it goes
But it's sad and it's sweet
And I knew it complete
When I wore a younger man's clothes."

じいさんが言う
「兄さん、メモリーって曲をやってくれないか。
どんな感じの歌かはうまく言えないけど
悲しくてせつなくて。
あの頃はちゃんとわかってたんだ。
わしがもうちょっと若い格好をしてた頃は」


La la la, di di da
La la, di di da da dam

ららら でぃでぃだ
ららら でぃでぃだ だだん


Sing us a song you're the piano man
Sing us a song tonight
Well we're all in the mood for a melody
And you've got us feeling alright

ピアノ・マン うたってよ。
ピアノ・マン 今夜もまた。
同じひとつのメロディでぼくらを包み
大丈夫だよって言っておくれ。


Now John at the bar is a friend of mine
He gets me my drinks for free
And he's quick with a joke or to light up your smoke
But there's someplace that he'd rather be

バーにいるジョンはぼくの友だちで
いつもタダで飲ませてくれる。
かれのジョークは冴えてるし
タバコをくわえたらスッと火をつけてくれる。
けれどもジョンは本当は
いつも別の場所を夢見ている。


He says, "Bill, I believe this is killing me."
As a smile ran away from his face
"Well, I'm sure that I could be a movie star
If I could get out of this place."

ジョンが言う。
「ビル、ここにいたらおれは死んじゃうよ」
顔からはいつもの微笑も消えている。
「おれは映画スターにだってなれたんだ。
ここから出て行くことさえできればなあ」


La la la, di di da
La la, di di da da dam

ららら でぃでぃだ
ららら でぃでぃだ だだん


Now Paul is a real estate novelist
Who never had time for a wife
And he's talking with Davy, who's still in the Navy
And probably will be for life

ポールは小説家志望の不動産屋で
結婚できるだけの時間も
持てたためしがない。
一緒に話してるデイビーは
まだ海軍に入ってて
たぶん一生そこにいるんだと思う。


And the waitress is practicing politics
As the businessmen slowly get stoned
Yes they're sharing a drink they call "Loneliness"
But it's better than drinking alone

そしてビジネスマンがゆっくりと正体をなくしてゆき
ウェイトレスは客あしらいの政治学を実践してる。
そう。みんな孤独というドリンクをわかちあっているんだ。
けれど、ひとりで飲むよりはきっといいに違いない。


Sing us a song you're the piano man
Sing us a song tonight
Well we're all in the mood for a melody
And you've got us feeling alright

ピアノ・マン うたってよ。
ピアノ・マン 今夜もまた。
同じひとつのメロディでぼくらを包み
大丈夫だよって言っておくれ。


It's a pretty good crowd for a Saturday
And the manager gives me a smile
'Cause he knows that it's me they've been coming to see
To forget about life for a while

土曜の夜は大賑わい。
マネージャーがぼくに笑いかける。
みんなぼくを見に来ていることを知っているから。
少しのあいだだけ、人生を忘れるために。


And the piano it sounds like a carnival
And the microphone smells like a beer
And they sit at the bar and put bread in my jar
And say, "Man, what are you doing here?"

そしてピアノはカーニバルのような音を立て
マイクからはビールの匂いがする。
みんなはバーに座り
ぼくのビンにご祝儀を入れてくれて
「お前さんはこんなとこでくすぶってるタマじゃないだろ?」って
言ってくれる。


Sing us a song you're the piano man
Sing us a song tonight
Well we're all in the mood for a melody
And you've got us feeling alright

ピアノ・マン うたってよ。
ピアノ・マン 今夜もまた。
同じひとつのメロディでぼくらを包み
大丈夫だよって言っておくれ。


忌野清志郎 ~ ラプソディー

=翻訳をめぐって=

  • この曲はビリー・ジョエルが「ビル・マーティン」という芸名で半年間にわたりロサンゼルスのピアノラウンジで演奏していた時の経験をもとにして作られた曲なのだとのことで、この歌に出てくる多くの登場人物にはすべて実在のモデルがいるのだそうである。
  • The regular crowd shuffles in…辞書には「shuffle in one's seat」という例文が載っていて、その意味は「座ったままでもぞもぞと身動きをする」だった。「shuffle in」は大勢の常連客が「ガヤガヤ」していることの表現なのだろう。大きな石をひっくり返したら裏側にアリやダンゴムシがザワザワしているようなああいうイメージが多分「shuffle in」なのだと思う。違ったらごめんなさい。
  • Making love to his tonic and gin…ジン&トニックではなくトニック&ジンになっているのは、何と著作権の関係なのだそうである。大変ですねー。そしてアメリカとかでは酒場でこの曲の登場人物になりきって「トニック&ジン」という注文の仕方をする人が稀にいるらしいけど、そういう客はバーテンダーから「救いようのないやつ」という視線を向けられるのだそうである。大変ですねー。
  • can you play me a memory…直訳は「私のためにひとつの思い出を演奏してくれないか」。あんたの思い出って言われたって、知らないわけで、どういう風に訳したらいいのだろうとずっと思っていたのだけれど、「a memory」はそのまま「メモリーという名前の曲」という風にも解釈することができたのだということに、この方の翻訳を読んで気づかされた。これが一番「自然」な解釈に思える。いつも、参考にさせてもらっているブログです。
  • John at the bar is a friend of mine…ジョンがあんなに丸っこい人だというイメージは、PVを見るまで全然持っていなかった。というのはただの感想。後でポールが出てくるからどうしてもジョン・レノンと重なるイメージがあったのだけど、2人とも完全に無関係の人物らしいです。
  • Paul is a real estate novelist…「不動産関係の仕事をしてる自称小説家」もしくは「小説家志望の人」なのだそうである。私はまた「不動産小説」というジャンルでもあるのかと思ってずっと混乱していたのだけど、この人物にも実在のモデルがいるそうなので、そういう人がいたのだと言われたら、そう思うしかない。
  • Who never had time for a wife…この wife については「ポールが完成させようとしている小説のことをさしている」という解釈もあるらしい。ちなみに実在のそのポールさんについて、後年ビリージョエルは「あんな風に酒場に入りびたってたんじゃ彼の小説は多分永遠に完成しなかったろうね」という感想を述べているとのこと。
  • who's still in the Navy…アメリカの歌には時々こんな風に「軍人」が一般市民みたいな顔してしれっと登場してきたりするのだけど、私はそういうの、ドキッとしちゃうんだよな。73年ということはベトナム戦争、まだ終わってないんだよな。人、いっぱい殺してるかもしれないんだよな。この歌詞があるから、私はちょっとこの歌の世界には入り込めない。だから、自分では歌えない。
  • waitress is practicing politics…酒場で働きながら政治を勉強していた重信房子みたいな人を一時は想像していたのだけど、practice は「勉強」ではなく「実践」である。どんな「実践」だったのかはPVに分かりやすく描写されている。ちなみにこのウェイトレスも実在の人で、この曲が出た年にビリージョエルと結婚したらしい。知るか。
  • businessmen slowly get stoned…「stoned」という言葉の翻訳に関してはこちらの記事を参照いただければ幸いです。
  • And the piano it sounds like a carnival…私が最初に読んだ歌詞では carnival のところが carnivore (肉食獣) と書いてあった。「ピアノは肉食獣のような声をあげ」というのはものすごくアグレッシブで、好きな歌詞だったのだが、どうやら「華氏65度の冬」だったようである。
  • put bread in my jar…直訳は「ビンの中にパンを入れる」だが、PVの中で「ビリーのチップのビン」と書かれたよっちゃんイカサイズのガラス瓶にお客が突っ込んでるのは「お金」である。「bread」は「ご祝儀」とか「おひねり」に相当する言い方なのだと思われる。
  • "Man, what are you doing here?"…直訳は「おい、こんなとこで何してんだよ」だが、ミュージシャンへのホメ言葉として言われているのだとすれば、訳文に書いた意味以外にはありえないと思う。


アンジー ピアノマン

こういう「ピアノマン」もあったのだな。知らなかった。ではまたいずれ。