華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Hold On, I'm Coming もしくはブルースブラザーズ特集#5 (1966. Sam & Dave)

  • 免停中のエルウッド、巡回のパトカーから言いがかりをつけられ、ためらうことなく車を発車させる。
  • 最初のカーチェイスが始まる

SCENE 64
Location: ELWOOD'S P.O.V. - NIGHT エルウッドの視線
The police car lights flashing. There are two really clean-cut, OFFICERS with moustaches in the front seat.
パトカーのライトが点滅する。口ひげをはやした、実にきちんとした身なりの警官が2名、フロントシートに乗っている。


SCENE 65
Location: INT. BLUESMOBILE - MOVING - NIGHT

ELWOOD: Shit.
エルウッド:くそ。
JAKE: What?
ジェイク:何だ?
ELWOOD: Rollers.
エルウッド:ローラーだ。
JAKE: No.
ジェイク:うそだ。
ELWOOD: Yap.
エルウッド:まじだ。
JAKE: Shit.
ジェイク:くそ。

…yapは辞書には「キャンキャン言う」もしくは口語で「口(くち)」とあったが、何となく意訳。

SCENE 66
Location: EXT. BLUESMOBILE - NIGHT
The Bluesmobile and cop car pull over. An Officer approaches Elwood.
ブルースモービルとパトカー、路肩に寄せて止まる。1人の警官がエルウッドに近づく。




ELWOOD: What? What did I do?
エルウッド:何すか?おれ何かしましたか?

OFFICER #1: Failed to stop on red signal.
警官1:赤信号で止まらなかった。

ELWOOD: The light was yellow... sir.
エルウッド:信号は黄色…でしたよ旦那。

OFFICER #1: May I see your license, please?
警官1:免許証を見せて頂けますかな。

SCENE 67
Location: INT. BLUESMOBILE - NIGHT
Elwood produces his driver's license from above the sun visor. It is a plastic plate. He hands it to the cop. The cop leaves and walks back to his car.
エルウッド、サンバイザーの裏から免許証を取り出す。プラスチック製。それを警官に渡す。警官、自分の車に戻る。


JAKE: (angrily) God damnnit!
ジェイク:(怒って)ちっきしょお!

ELWOOD: Damnnit! I haven't been pulled over in six months. I bet those cops have got SCMODS.
エルウッド:きしょお!半年も止められてなかったのに。あいつら、絶対スクマッズを持ってるぜ。

JAKE: SCMODS?
ジェイク:スクマッズ?

ELWOOD: State-County-Municipal-Offender Data System.
エルウッド:州・郡・市 違反者データシステム。

SCENE 68
Location: INT. POLICE CAR - CLOSEUP - ANGLE DASHBOARD AND FRONT SEAT - NIGHT パトカーのダッシュボードとフロントシート。夜。
Across and under the dashboard, on top of transmission hump, there is a computer: video display console, punch keyboard and telephone receiver. A shotgun is clamped vertically on the dash next to the video display. Officer #1 slips Elwood's plate into a slit on the keyboard. He switches on the video console - it lights up green. The license number appears On the screen.
ダッシュボードの下、トランスミッションの盛り上がった部分の上にコンピュータが置いてある。ビデオ・ディスプレイと入力装置。カードパンチ・キーボードと電話の受話器。それと並行にショットガンが装備されている。警官がエルウッドの免許証をキーボードのスリットに入れて画面をつける。緑色の画面。免許証ナンバーが表示される。
…punch keyboardとはこういうものらしいですが、この言葉で画像検索するとそれよりたくさん出てきたのは「キーボードを殴りつけている写真」でした。




SCENE 69
Location: POLICE OFFICERS

OFFICER #2: So what do we have here?
警官2:さて、何者かな?

Officer #1 puts his finger to his face and bends his nose sideways.
警官1、指を顔にやって鼻を押す。


OFFICER #1: I don't know. They look like they're from Cicero.
警官1:わからない。あいつら、シセロの方から来たような感じだ。
…シセロはシカゴ近郊の街で、アル・カポネが拠点を置いていたことで知られ、1951年には白人地区に住もうとした黒人家族を数千人が襲撃する「20世紀最悪の人種暴動」が起こった街でもある。だがここに描かれているのは、そうした「治安の悪い街」というイメージでそこに住む人の全体を「犯罪者」扱いしている、差別的なアメリカの警察の姿である。なお、このシーン69は、映画ではカットされている。

SCENE 70
Location: CLOSEUP - COMPUTER VIDEO SCREEN
The following display begins line by line:
BLUES ELWOOD
ILLINOIS LICENSE B263-1655-2187
CURRENTLY UNDER SUSPENSION
WARRANTS OUTSTANDINGS: PARKING: 116
MOVING VIOLATIONS: 56
ARREST DRIVER... IMPOUND VEHICLE
ディスプレイに以下の文字が出てくる。
エルウッドブルース
イリノイB263-1655-2187
現在免許停止中
未処理の令状:
駐車違反116回
交通違反56回
ドライバーを逮捕し
車を没収せよ


The last two lines start flashing.
最後の二行が点滅しはじめる。


OFFICER #2: Mmm-hmm....
警察2:ほーお…

SCENE 71
Location: EXT. STREET - POLICE CAR AND BLUESMOBILE
Both Officers get out of the car and approach the Bluesmobile.
2人の警官は車を降り、ブルースモービルに近づいてくる。


SCENE 72
Location: INT. BLUESMOBILE - JAKE AND ELWOOD - NIGHT
The cop appears in the window.
警官が窓からのぞく。


OFFICER #1: Elwood. We show your license currently under suspension. Step out of the car, please.
警官1:エルウッド、きみは免停になっている。車から降りてもらおうか。悪いね。

Jake and Elwood exchange quick glances. Elwood starts the car and guns the engine.
ジェイクとエルウッド、視線を交わし合う。エルウッド、車を発車させ、エンジンを全開にする。


SCENE 73
Location: EXT. STREET - THE BLUESMOBILE -
burns away from between the two cops. They run to their car climb in and screech after Jake and Elwood.
ブルースモービル、2人の警官から全速力で離れる。警官は車に飛び乗り、タイヤを鳴らして2人を追う。




SCENE 74
Location: JAKE AND ELWOOD'S P.O.V. - WINDSHIELD AND REAR VIEW MIRROR - NIGHT
The car is speeding down a quiet residential, divided thoroughfare in Park Ridge. The police car's -flashers wink in the rearview mirror.
車はパークリッジの閑静な住宅街の大通りを加速する。パトカーはブルースモービルのバックミラーの中で赤灯を回している。


JAKE: (Pissed off) First you trade the Cadillac for a microphone, then you lie to me about the band, and now you're gonna put me right back in the joint!
ジェイク:(イライラして)最初はキャデラックをマイクと交換して、その次はおれにバンドのことでウソをついて、今度はおれを刑務所に逆戻りさせる気かよ。

ELWOOD: They're not going to catch us. We're on a mission from God.
エルウッド:やつらにおれたちは捕まえられない。おれたちは神の使命を果たそうとしてるんじゃないか。

JAKE: They'd better not catch us. I don't want to go back into Joliet Prison. The pepper steak they serve on Thursday nights is the worst.
ジェイク:捕まらなきゃいいんだけどな。ジョリエット刑務所には戻りたくないぜ。木曜日の晩飯に出てくるペッパーステーキ、あれが最悪なんだ。
…この台詞はカットされており、代わりにドリフトで回転する車内で舌を噛みそうになりながら「エルウッド…」とうめく台詞が追加されている。

SCENE 75
Location: EXT. STREET - THE BLUESMOBILE
flies through a red light, weaving and narrowly missing cars passing through the right of way.
ブルースモービル、赤信号を突っ切る。他の車をスレスレでかわす。


SCENE 76
Location: INT. POLICE CAR MOVING - OFFICER #2
He is talking on the telephone receiver.
警官2、電話の受話器に向かって喋っている。


OFFICER #2: State 12 in high speed pursuit southbound on Route Six-Two. Black 1974 Plymouth sedan with Illinois plates. Request assistance.
警官2:州警察12号、ルート62を南に向かって高速追跡中。黒の74型プリムスセダン。イリノイナンバー。応援たのむ。
…映画では「southbound on Route Six-Two」が「northbound on Cortlen Avenue(コートレンアベニューを北へ)」に、「Black and white 1974 Plymouth sedan」が「Black 1974 Dodge sedan(黒と白の74年型ダッジセダン)」に変わっています。

SCENE 77
Location: INT. BLUESMOBILE - JAKE'S AND ELWOOD'S P.O.V.
They are travelling down a four-lane highway. There is an intersection a few blocks ahead. Another police car rolls out into the middle of the right of way. The police car stops in the middle of the intersection. An officer gets out of the car and starts waving a flashlight.
ブルースモービル、4車線のハイウェイに入る。少し向こうに交差点が見える。別のパトカーが突っ込んで来て、交差点の真ん中で止まる。警官が降りて赤灯を回し始める。


SCENE 78
Location: EXT. INTERSECTION - NIGHT - THE BLUESMOBILE
roars up to the intersection. Stops for a split second. The two policemen run to grab the car. The rear wheels spin. In a squeal and cloud of burning rubber, Elwood cranks the steering wheel to the left and executes a stationary U-turn rocketing up the opposite lanes of the divided road.
ブルースモービル、交差点に突っ込み、一瞬止まる。2人の警官が捕まえに来る。と、後輪がスピンし、ゴムが黒煙をあげる。エルウッド、ハンドルを切ってとんでもないUターンを決め、反対車線を走り出す。


SCENE 79
Location: INT. FIRST POLICE CAR - OFFICER'S P.O.V. - THE BLUESMOBILE
burns past them on the other side of the divider in the oncoming lanes.
ブルースモービル、最初のパトカーを反対車線に取り残して走り出す。


OFFICER #1: That's him.
警官1:やつめ。
…この台詞は映画ではカットされている。

The second police car passes them, following the Bluesmobile.
2台目のパトカーがブルースモービルを追って来る。


SCENE 80
Location: INT. BLUESMOBILE

JAKE: Elwood, I am seriously comtemplating killing you.
ジェイク:エルウッド、おれは今マジでお前を殺すことを考えてるぜ。
…この台詞も映画ではカットされている。何かもう、細かいことはどうでも良くなってきた感じなのだけど。8トラックからは、「Hold on, I'm Coming」が流れ続けている。


Hold On (I'm Comin)

Hold On, I'm Coming


Don't you ever be sad,
Lean on me when times are bad.
When the day comes and you're down,
In a river of trouble and about to drown

悲しまないでくれ
ものごとがうまくいかないときは
おれに頼ってほしい
落ち込んでしまう日には
トラブルの川に
溺れてしまいそうなときには


Just hold on, I'm comin',
Hold on, I'm comin'.

がんばっててくれ
おれが行くから
ふんばっててくれ
すぐに行くから


I'm on my way, your lover.
If you get cold I'll be your cover.
Don't have to worry `cause I'm here,
No need to suffer baby, I'm here.

もうすぐ着くぜ
おまえの恋人が
寒いときには
おれが包んでやるぜ
心配することはない
おれがここにいるから
苦しむことはない
おれはここにいるから


Just hold on, I'm comin',
Hold on, I'm comin'.
Hold on, I'm comin',
Hold on, I'm comin'.

がんばっててくれ
おれが行くから
ふんばっててくれ
すぐに行くから
今は耐えてくれ
おれが向かってるから
待っていてくれ
もうすぐ着くから


(Lookie here)
Reach out to me for satisfaction,
(Lookie here. All you got to do)
Call my name now for quick reaction.

( こっちを見てくれ )
手を伸ばしてくれたら
おれが満たしてやるぜ
( こっちを見てくれ おまえはただ )
おれの名を呼べばいい
すぐにこたえてやるぜ


Don't you ever be sad,
Lean on me when the times are bad.
When the day comes and you're down baby,
In a river of trouble and about to drown,

悲しまないでくれ
ものごとがうまくいかないときは
おれに頼ってほしい
落ち込んでしまう日には
トラブルの川に
溺れてしまいそうなときには


Just hold on, I'm comin',
Hold on, I'm comin'
Just hold on,don't you worry, I'm comin',(here ya come)
Hold on, I'm comin'.

がんばっててくれ
おれが行くから
ふんばっててくれ
すぐに行くから
今は耐えてくれ
心配いらない
おれが向かってるから
( ここにいるから )
待っていてくれ
もうすぐ着くから


Just hold on,don't you worry I'm comin',
Hold on, I'm comin'.

がんばっててくれ
心配いらない
おれが行くから
ふんばっててくれ
すぐに着くから

=翻訳をめぐって=

  • Hold on には「その場を持ちこたえる、持続する、踏ん張る」「しっかりつかまる、固定する、(落ちないように)留める」「電話を切らないで待つ」などの意味があり、「こらえているが長くは持続できないとき。例えば、重い物を持ち上げたりトイレを我慢している場合」に使われる言葉なのだという。相撲の力士が土俵側で頑張ってる姿が典型的な「Hold on」なのだそうである。なかなか、味わい深い言葉だと思う。
  • I’m coming は文字通り「いま向かってるところ」で、「すぐに行く」「もうすぐ着く」という意味になるのだが、そんなこと言ってる割にレコードジャケットのサム&デイヴはカメに乗ってるではないか、という面白がり方を教えてくれたのはこのサイトのコラムだった。

サム&デイヴの数々のヒット曲は、スタックスレコードのアイザック・ヘイズとデイヴィッド・ポーターという伝説のコンビによって生み出されたものなのだが、この曲に関してはスタジオ内のトイレに入っていてヘイズから「早く出ろ」と言われたポーターが、「ちょっと待て。すぐに出るから(Hold on, I'm comin')」と答えた言葉がインスピレーションとなって作られたという有名なエピソードがある。それはいいのだけれど私が気になって仕方ないのはこの「出る」はどっちの「出る」だったのだろうということである。ポーターという人が化粧室という部屋から「出る」という意味だったのなら問題ないのだけれど、日本語訳がああなっている以上どうしても別の「出る」を想像してしまう。その場合、理屈から言うなら「I'm comin'」ではなく「It's comin'」になるのではないかとも思うのだけど、英語圏の人にはその出るものが自分の体内にとどまっている間は「自分の一部」であるという意識が働いている可能性もあるのではないかといったようなことを考え始めると、夜も眠れなくなる。どんな本を読んでも「全部言わなくても分かるでしょ?」みたいな書き方で書いてあるから本当のところが一向に分からないのだが、こういうことこそ「本当に」理解しておかないと、思わぬところで大変な恥をかいてしまうことになるのではないだろうか。とはいうものの私にとって本当に問題なのはむしろそんなことではなく、いちばん困るのはそういうことを考え始めて以来「トイレのイメージ」と結びつけてしかこの曲を聞けなくなってしまったことである。そして自分自身が「出ない」状態になるたびにこの曲が頭の中を流れ出すのを、どうすることもできなくなってしまったことである。誰も聞きたがらないに決まっているこんな話をこうした公共の場にあえて書くのは、そうした不幸な呪いを受けてサム&デイヴを素直に聞けなくなってしまった私のような人間にとっては、素直に聞けている人々が世の中にまだ存在しているということ自体が不公平に思えて仕方なく、みんな呪われてしまえという凶暴な衝動を抑えられないからに他ならない。そういう私のような人間にかかるとブログというものはいとも簡単に不幸の手紙に変身する。みんな呪われてしまえ。解いてほしくば最後まで読め。読んで解けるかどうか私に責任は持てないけれど、一般的に呪いというものはかけた本人にしか解けないものだと言われている。あなたはすでに呪われている。ではまたいずれ。きしし。