華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Break On Through (To The Other Side) もしくは Seek it hide (1967. The Doors)



"Moonlight Drive"とこの曲は、ドアーズというバンドの「出発点」を刻む曲として、一緒に取りあげておかねばならない曲だと思う。今までドアーズを1度も聞いたことがないという人がもしいたら、ぜひこの曲から聞いてみてほしいと私が思う一曲でもある。だったらもっと早く取りあげておけよという感じもするのだが、何と言ってもかれらのファーストアルバムのA面1曲目に収められているのが、この曲なのだ。

20年以上も聞き続けてきた曲であるにも関わらず、改めて自分の手で翻訳しようとしてみると、そこには無数の「華氏65度の冬」が存在していた。今になってジムモリソンが何を言わんとしていたのかをようやく理解できた(ように感じられた)箇所も、多々あった。とりあえず、以下が今回つくった試訳である。


Break On Through PV

Break On Through (To The Other Side)

英語原詞はこちら

You know the day destroys the night
Night divides the day
Tried to run
Tried to hide
Break on through to the other side
Break on through to the other side
Break on through to the other side, yeah

いいか。
昼は夜を滅ぼし
夜は昼を分かつ。
逃げようとして
隠れようとした。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。


We chased our pleasures here
Dug our treasures there
But can you still recall
The time we cried
Break on through to the other side
Break on through to the other side

ぼくらはこの場所で快楽を追い求め
あの場所では宝物を掘り求めた。
けれども今でも思い出せるはずだ。
ぼくらが泣いていたあの頃のことを。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。


Yeah!
C'mon, yeah


Everybody loves my baby
Everybody loves my baby
She get(s high)
She get(s high)
She get(s high)
She get(s high)

ぼくの彼女をみんなが愛してる。
ぼくの彼女をみんなが愛してる。
彼女がハイになる。
彼女はハイになる。
彼女がハイになる。
彼女はハイになる。


I found an island in your arms
Country in your eyes
Arms that chained us
Eyes that lied
Break on through to the other side
Break on through to the other side
Break on through, oww!
Oh, yeah!

きみの腕の中に
ぼくはやすらぎの小島を見出し
きみの瞳の中にふるさとを見出した。
鎖にすぎなかったその腕に。
ぼくをだましたその瞳に。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
当たって砕けて突き抜けろ。


Made the scene
Week to week
Day to day
Hour to hour
The gate is straight
Deep and wide
Break on through to the other side
Break on through to the other side
Break on through
Break on through
Break on through
Break on through
Yeah, yeah, yeah, yeah
Yeah, yeah, yeah, yeah, yeah

空騒ぎしていた。
週ごとに。
日ごとに。
時間ごとに。
向こう側へといざなう道は
まっすぐで
広くて深い。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
ぶち当たって反対側に突きぬけるんだ。
当たって砕けて突き抜けろ。
当たって砕けて突き抜けろ。
当たって砕けて突き抜けろ。
当たって砕けて突き抜けろ。

=翻訳をめぐって=

…書くべきことがあまりに多いので、久しぶりに一節ずつ順を追って検討してゆくことにしたい。

You know the day destroys the night
Night divides the day

…私が90年代にTSUTAYAの歌詞カードを立ち読みして最初に知った歌詞では、この部分が "the day's as strong as the night (昼は夜と同じくらい強い)" と書かれていた。ずっと難解な歌詞だと思っていたけれど、destroyだったのだと言われてみれば、ずいぶん話が単純になった感じがして、わかりやすく思える。それにしても、わざわざ難しい方に間違えるのは、本当にやめてほしい。私は今でも "as strong as" でしか、この歌が耳に入ってこない。

「昼夜を滅ぼし」とするか「昼夜を滅ぼし」とするかは、ずいぶん迷った。しかし後に続く歌詞との関係で考えるなら、ここは「昼」で訳するのが「正しい」ところなのだと思う。詳しくは後述。

Tried to run
Tried to hide

…ここもTSUTAYAの歌詞カードでは「Try to run / Try to hide (走ってみろ。隠してみろ)」と「命令形」になっていたので、今回それが実は「過去形」だったのだということを初めて知り、驚いている。だとしたらrunは「逃げる」という意味で、hideは「隠れる」という意味だったのだ。私が全然知らなかった「歌詞の本当の内容」が、どんどん見えてきた気がする。

この部分の歌詞が「逃げようとした/隠れようとした」という意味だったとするならば、「何から」ということが問題になる。それは「繰り返される日常」から「逃げようとした」ということで、前半の歌詞とのつながりがここで初めて見えてくる。だから前半部分は「昼夜を滅ぼし」ではなく「昼夜を滅ぼし」と訳されることが「必要」になるのである。「夜を滅ぼすのは何者で、昼を分かつものは誰か」ということが問題にされているわけではなく、「昼は昼でどうしようもないし、夜は夜でどうしようもない」ということが「逃げようとした」理由を構成している、そういうつながりを持った歌詞だからである。決して「バラバラな言葉の断片」がジムモリソンの口から飛び出しているわけではない。彼は本当に、考え抜いた上で歌詞を書いていたのだ。

Break on through to the other side

私が10代の頃に、「ブレイクする」という言葉が「日本語」になった。これはもともと「切り抜ける」「突破する」「打開する」などの意味を持つ「break through」という言葉が、音をそのままにして日本語に移入された表現である。しかしこの歌詞ではbreakとthroughの間に「on」が入っている。

break onという言葉は、熟語としては海外サイトの英英辞典にも載っていない。例文としては、波が岸辺に打ち寄せて砕けるさまを表現した文章などにbreak onが使われている。breakしながら対象に接触するニュアンスを表現するために、このonは使われているのである。最終的にはthroughするのだけれど、そこに至る過程では全身をバラバラにするような「激突」を経験しなければならない。そういう意味なのだと思う。だからこの歌詞には「血を流すイメージ」がつきまとっているように、私には感じられる。

She get(s high)

…この部分に関するWikipediaの記述を抜き書きしておきたい。

「ブレイク・オン・スルー」では曲中の She gets high, という歌詞がドラッグの影響を表す物として放送禁止になることを恐れたエレクトラが、high の部分を消してリリースし長らくその部分を聞くことが出来なかったが、後にリリースされたリマスター盤で聴くことが出来るようになった。
ドアーズ - Wikipedia

…そんなわけでご多分にもれず、私が初めて聞いたドアーズのレコードからも「high」という単語は「削られて」いた。そして日本語の文字に直すと「しきっ!」と聞こえるその部分の歌詞が、TSUTAYAの歌詞カードでは「seek it! (探せ!)」と表記されていた。「華氏65度の冬」である。当時「piss」というバンドをやっていた中島らもが、服部緑地春一番で着流し姿でイキってこの歌を歌うのを見たことがあったが、彼もやっぱり「seek it」と歌っていた。ぶざまなことである。

しかしながら数年後に出会った「Doors in concert」というライブ盤のCDではこの「She gets high」という部分が「ちゃんと」録音されていたのだが、その部分の歌詞カードはご丁寧なことに「seek it hide (探して、隠せ)」と書かれていた。だもんで私は、「苦労して見つけたものを、どうしてもう一度隠さなければならないのだろう」と何年も何年も考え続けなければならなかった。まったくもって「華氏65度の冬」である。

ちなみに古今東西のいろんな歌詞にまつわるさまざまな解釈が掲載されたgeniusという海外サイトには、She gets highという歌詞の「説明」としてこんな画像が貼りつけられていた。



I found an island in your arms
Country in your eyes
Arms that chained us
Eyes that lied

「君の腕の中の小島」「君の瞳の中の国家」といったようなイメージの断片みたいな言葉で訳されることが多いが、飽くまで文脈において解釈しなければならない歌詞だと思う。islandという言葉には「道路の安全地帯」という意味も存在しているように、ここでの「島」とはジムモリソンにとって「自分に安心を与えてくれる場所」というアジール的な意味が込められた表象なのだと考えられる。だから上記のような意訳になった。Countryも同様に、「国家」というよりは「故郷」というニュアンスで訳されるべき言葉だと思う。「そう思っていたのに裏切られた」ということへの怒りが、後半部分では歌われている。

この歌の中でジムモリソンとその仲間たちは、一貫してそんな風に、「自分の居場所」だと思っていた世界を次々と失ってゆくのである。そして失えば失うほどに、唯一の答えは「向こう側」にしか存在しないのだということが、切実になってくる。自分で翻訳してみるまで一度もそんな風に考えたことはなかったのだけど、今になって私には、そう思える。

Made the scene

…この部分も初めて見た歌詞カードでは違う言葉で表記されていたのだが、何と書かれていたかは思い出せない。それぐらい、意味不明だった。sceneという言葉には「大騒ぎ」という意味もあることを今回知って「なるほど」と思ったのだが、この言葉に込められた意味は、それだけではないと思う。それこそジムモリソンという人が現実の生活の中で週ごとに日ごとに時間ごとに「作り出して」きたひとつひとつの「光景」。それとの訣別が歌われているのだと思う。

The gate is straight
Deep and wide

このgateはもちろん「向こう側の世界」との「境界」に存在しているものだと思うが、「門」「入口」と訳すよりは、古い英語の用法としての「〜へ至る道」で訳した方がふさわしいと思う。そうでないとそれが「straight (まっすぐ)」であるという形容が、理解できないことになる。

もっとも「道」が「広い(wide)」というのは自然な表現だとして、「深い(deep)」というのはやはり理解に苦しむ表現である。この「gate」というのは現実世界に存在するような「道」とは別の、それこそ誰の目にも見えないような形で存在している「道」だということなのかもしれない。

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ブルースブラザーズ特集をやっていた時には、単純作業の繰り返しという意味でものすごく疲れる感じがしたが、こういう歌詞の翻訳になるとめちゃめちゃ頭を使うから、別の意味で、やはり強烈に疲れる。そして自分の未熟さも一層強烈に思い知らされる。それでも「よりよい翻訳」ができあがってゆくことにまさるよろこびはないので、いつもの台詞にはなりますが、多くの意見や批判をお待ちしております。ではまたいずれ。