華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Heroin もしくはルー·リードのこと (1967. The Velvet Underground and Nico)



ブルースブラザーズについて調べていたあいだ、制作背景や1人1人の俳優たちの生き方について知れば知るほど、そこにいちいちドラッグの影がチラついていたことを思い知らされて、やりきれなかった。

私自身はドラッグというもの自体に対しては、それほどの嫌悪感は感じていない。それを禁止したり取り締まったりして、1人1人の人間の生き方をコントロールの対象にすることに情熱を燃やしている人間たちの側に、より強い嫌悪感を感じる。とはいえ他人のことをコントロールの対象にして食い物にすることばかり考えている点に関しては、ドラッグを「売る側の人間たち」も同じである。

誰でも名前を知っている沖縄のある有名ミュージシャンは若い頃、沖縄から米軍を追い出すためには、米軍を内部から腐敗させるに如くことはないと考え、基地内でドラッグの売人をやっていたという話を聞いたことがある。今では選挙に出たりしていて本人の中では「消したい過去」になっているかもしれないから、あえて名前は出さないのだけど、そういうのは決して「悪いこと」だと私は感じないし、むしろ賞賛したい気持ちさえ感じる。許せないのは結局「カネのためなら他人の命などどうなってもいいと考えている人間たち」の存在である。

私がやりきれないと感じたのは、そういう人間たちが牛耳っている世界や社会や業界の中で「生かされ」ながら、それでも「人を喜ばせるために」「自分が笑顔でいるために」ドラッグにすがりつくことを選ばずにいられなかったベルーシたちの気持ちが、悲しいぐらいよく分かる気がしたからだった。そうやってできあがった「ブルースブラザーズ」というあの奇跡のような映画は、確かに数え切れないぐらいの人たちの胸に「夢」を与えたはずだけど、あの映画自体は決して「明るい映画」ではない。歌の部分は確かに陽気だが、他のシーンはずっと曇り空だし、カーチェイスのシーンから感じられるのは「爽快さ」であるよりむしろ「どこまで逃げても社会から追われ続ける不安」であったような気がする。そして最後はやっぱりあの2人だって、逃げきれないのである。最後の最後まで「懲りない」ことが、希望を残してくれてはいるのだけれど。

あの映画の公開から2年足らずで「早すぎる死」を迎えてしまったジェイク·ブルース=ジョン·ベルーシは、「ブルースブラザーズ2000」の世界では「獄死」したことになっている。それはある意味現実と重なっていることだと思うから、余計に切なさを感じる。この社会そのものが牢獄みたいな社会だから、彼はドラッグなんかで命を落とさなければならなかったのではないだろうか。その「結末」を知りながら、ベルーシがまだ元気だった頃に書かれた脚本を通してその刹那的な生き方を追いかけてゆく翻訳作業は、決して「楽しい仕事」ではなかった。もちろん、自分が好きで始めたことではあったのだけど。

そしてそんな風に「人を喜ばせるため」に短い人生を燃やし尽くしてしまったベルーシの生きざまに触れるにつけ、なぜかしきりと思い出されたのは、ルー・リードのことだった。誰にも真似することができないぐらい「自由」な人生を送りながら、私の知る限り「幸せそうな顔」を一度も見せたことがなかった人。いろんな人たちの心をありえないくらいめちゃめちゃに傷つけながら、自分自身もまた傷つけ続けずにはいられなかった人。ドラッグはもとよりおよそ体に悪いと思われるようなことを「全部」やりながら、立派に71歳まで生きてみせた人。そして亡くなった時には数え切れないくらいの人々が涙を流した人。ルー·リードである。

奇妙な話だけどあの特集をやっていた当時、私にとってはベルベット・アンダーグラウンドのCDを聞くことが、ブルースブラザーズの翻訳からの「気分転換」の役割を果たしていた。普通、逆なのではないかと思う。しかしあの時の私は、ブルースブラザーズの翻訳で「荒んだ心」が、ベルベットアンダーグラウンドを聞くことで「ホッとする」のを確かに感じていたのである。そんな気持ちでベルベッツを聞いたことは今までに一度もなかった。そして、あんなに近寄りがたく思えるルー·リードの言葉の何が自分をこんなに「落ち着かせて」くれるのだろうということを、ずっと考えていた。

そしてブルースブラザーズ特集が終わった時には、私の手元にあのベルベットアンダーグラウンド&ニコの「バナナのアルバム」の全11曲の翻訳が、同時にできあがっていた。

私は実はルー·リードという人のことを、何も知らない。

図書館で伝記ぐらいは読んだことがある。でもそんなことぐらいでルー·リードという人の何が分かったとも私には思えない。

だから私にはルー·リードという人のことを紹介したり解説したり評論したりできるどんな資格もないと思っている。ただ、10代の頃にベルベッツのファーストアルバムを初めて聞いて「不思議な音楽だ」と思って以来、ずっと彼が歌っているのはどんな言葉なのかということを、知りたいとは思ってきた。それで今回、翻訳してみた。

そして翻訳してみて改めて思ったのは、やっぱり自分はこの人について、分かったようなことは何も言えないのだということだった。

そんなわけでその時に翻訳した「バナナのアルバム」の全11曲を、余計な解釈や思い入れは交えず、歌詞と対訳に内容を絞って、これからしばらく紹介させてもらうことにしたいと思う。この夏のブルースブラザーズ特集は、オトナになってからかなり時間のたった私にとって、一番新しい「思い出」になった。それと一緒に翻訳することになったこの11曲にも併せて「決着をつけて」おかないことには、思い出が思い出になりきらないのである。


Heroin

Heroin

英語原詞はこちら

I don't know just where I'm going
But I'm gonna try for the kingdom, if I can
'Cause it makes me feel like I'm a man
When I put a spike into my vein
And I'll tell ya, things aren't quite the same
When I'm rushing on my run
And I feel just like Jesus' son
And I guess that I just don't know
And I guess that I just don't know

自分がどこに向かっているのか
ぼくには分からない。
でも、できることなら
王国を手に入れたい。
それはぼくを
男らしい気持ちにしてくれるから。
針が血管に突き刺さったら
すべてがそれまでと同じじゃなくなるんだ。
自分の血の流れに
押し流されて走り出すと
自分がまるで
キリストの息子みたいに思えてくるんだ。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思う。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思う。


I have made the big decision
I'm gonna try to nullify my life
'Cause when the blood begins to flow
When it shoots up the dropper's neck
When I'm closing in on death
And you can't help me now, you guys
And all you sweet girls with all your sweet talk
You can all go take a walk
And I guess that I just don't know
And I guess that I just don't know

すごく大きなことを
ぼくは決めた。
ぼくは自分の人生を台無しにしてやるんだ。
なぜって
いったん血が流れ始めたら
いったん注射器の中身が押し込まれたら
だんだん死に近づいてゆきはじめたら
もうみんなにも
ぼくを助けることはできない。
きみたちみたいな
素敵な女の子にも
そして素敵な言葉でも。
みんなどこかに行ってくれ。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思う。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思う。


I wish that I was born a thousand years ago
I wish that I'd sail the darkened seas
On a great big clipper ship
Going from this land here to that
In a sailor's suit and cap
Away from the big city
Where a man can not be free
Of all of the evils of this town
And of himself, and those around
Oh, and I guess that I just don't know
Oh, and I guess that I just don't know

千年前の世界に
生まれてみたいと思う。
暗くなった海に
船出してみたいと思う。
大きな帆船に乗って。
船乗りの服と帽子に身を包んで。
巨大な都市を
人間が自由になれない場所を離れて。
何よりもこの街の邪悪さから
この街そのものから
それを取り巻く者たちから離れて。
ああそしてぼくは
まだ何も分かってないんだと思う。
ああそしてぼくは
まだ何も分かってないんだと思う。


Heroin, be the death of me
Heroin, it's my wife and it's my life
Because a mainer to my vein
Leads to a center in my head
And then I'm better off and dead

ヘロインよ
ぼくの死となれ。
ヘロイン
こいつがぼくの伴侶で
こいつがぼくの人生だ。
はは。
ぼくの血管に刺さった針は
ぼくの頭の真ん中にそれを導いて
そしたらぼくはすごく良くなって
死んだみたいになるんだから。


Because when the smack begins to flow
I really don't care anymore
About all the Jim-Jim's in this town
And all the politicians makin' crazy sounds
And everybody puttin' everybody else down
And all the dead bodies piled up in mounds

スマックが流れ出したら
何もかも本当にどうでも良くなるんだから。
この街のアーティストもどきの連中のことなんか。
crazyな音を立ててる政治家連中のことなんか。
誰もかれもをこきおろしてる誰もかれものことなんか。
そして山積みにされたすべての死体のことなんか。


'Cause when the smack begins to flow
Then I really don't care anymore
Ah, when the heroin is in my blood
And that blood is in my head
Then thank God that I'm as good as dead
Then thank your God that I'm not aware
And thank God that I just don't care
And I guess I just don't know
And I guess I just don't know

スマックが流れ出したら
何もかも本当にどうでも良くなるんだから。
ああ 血の中にヘロインが混ざって
それが頭に回ったら
自分が死んだも同然になってることを
ぼくは神に感謝するよ。
何も分からなくなってることを
きみの神に感謝するよ。
そして何も気にならなくなったことを
ぼくは神に感謝するよ。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思うよ。
そしてぼくは
まだまだ何も分かってないんだと思うよ。

=翻訳をめぐって=

  • try for...~を獲得しようとする
  • nullify...〜を無効化する、無価値にする
  • smack...ヘロインを意味する俗語。元来の意味は「平手打ち」「舌なめずり」等。
  • crazyは「精神病者」に対する差別語です。ここでは原文をそのまま転載しました。
  • Jim-Jim...「自称アーティスト」的な生き方をしている人に対する蔑みを込めた呼び方だと、スラング辞典にはあった。