華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Run Run Run もしくは走れ走れ走れ (1967. The Velvet Underground & Nico)

Run Run Run

英語原詞はこちら


Teenage Mary said to Uncle Dave
I sold my soul, must be saved
Gonna take a walk down to Union Square
You never know who you're gonna find there
You gotta run, run, run, run, run
Take a drag or two
Run, run, run, run, run
Gypsy Death and you
Tell you whatcha do

マリーは10代。
デイヴおじさんに言った。
私はたましいを売り渡してしまった。
守らなくちゃいけなかったはずなのに。
ユニオンスクエアまでちょっと歩きましょう。
そこで誰と会うことになるかあなたには分からない。
あなたは走らなければならない。
走れ走れ走れ走れ。
たばこを一服かニ服して
走れ走れ走れ走れ走れ。
ドラッグ死とあなた自身が
何をすべきかを教えてくれる。


Marguerita Passion had to get her fix
She wasn't well, she was getting sick
Went to sell her soul, she wasn't high
Didn't know, thinks she could buy it
And she would run, run, run, run, run
Take a drag or two
Run, run, run, run, run
Gypsy Death and you
Tell you whatcha do

マルゲリータ・パッションは
調子が良くなくてどんどん悪くなって
何とかしてもらわないといけなくなって
自分のたましいを売りに行ったのに
ハイになれなかった。
彼女はそれを買えると思ってたんだ。
分からなかった?
そして彼女は走って
走って走って走って走るのだろう。
たばこを一服かニ服して
走れ走れ走れ走れ走れ。
ドラッグ死とあなた自身が
何をすべきかを教えてくれる。


Seasick Sarah had a golden nose
Hobnail boots wrapped around her toes
When she turned blue, all the angels screamed
They didn't know, they couldn't make the scene
She had to run, run, run, run, run
Take a drag or two
Run, run, run, run, run
Gypsy Death and you
Tell you whatcha do

船酔いのサラは
黄金の鼻を持っていた。
鋲つきのブーツが
その爪先を覆っていた。
彼女が真っ青になった時
すべての天使が悲鳴をあげた。
天使たちにもどうしていいかわからず
騒ぎ立てることもできなかった。
サラは走らなくちゃ走らなくちゃ
走らなくちゃ走らなくちゃ走らなくちゃいけなかった。
たばこを一服かニ服して
走れ走れ走れ走れ走れ。
ドラッグ死とあなた自身が
何をすべきかを教えてくれる。


Beardless Harry, what a waste
Couldn't even get a small-town taste
Rode the trolleys down to forty-seven
Figured he was good to get himself to heaven
'Cause he had to run, run, run, run, run
Take a drag or two
Run, run, run, run, run
Gypsy Death and you
Tell you whatcha do

ひげなしのハリーは
もったいないことをしたもんだ。
「田舎町の味」さえ手に入れることができなかった。
トロリーバスに乗って47丁目へ行き
自分はこのさい天国に行ってしまった方がいいのではないかと思った。
ハリーは走らなくちゃ走らなくちゃ走らなくちゃ
走らなくちゃ走らなくちゃいけなかったから。
たばこを一服かニ服して
走れ走れ走れ走れ走れ。
ドラッグ死とあなた自身が
何をすべきかを教えてくれる。


Run Run Run

=翻訳をめぐって=

ドラッグに人生を翻弄されつつも、日々ドラッグを求めて駆けずり回らずにいられない、いろいろな立場の人たちに向かって、「走れ走れ走れ」と呼びかける歌。それが「愛を込めた激励」なのか「投げやりな憎まれ口」なのか。私には何とも言えない。けれどもこの歌に歌われている人たち自身にとっては、想像でしか言えないけれど、「好きになれる歌」なのではないかという気がする。そしてルー・リードが死んだ時にいちばん涙を流したのは、そういう人たちだったのではないかという気がする。

  • Teenage Mary, Marguerita Passion, Seasick Sarah...ここに名前が出てくる人たちは全て当時のニューヨークシティに実在していた、具体的なモデルの存在する人たちなのだとのこと。
  • ユニオンスクエアは、ニューヨーク市マンハッタン区にある公園の名前。ブロードウェイやグリニッジ・ヴィレッジといった、私でも名前だけは知っている有名な地域に隣接している。ドラマのgleeでは、オハイオ州から合唱の全国大会に参加するためにニューヨークにやってきたメンバーたちが、確かここでリハーサルをしていた。ただしティーンエイジ·マリーがこの公園の周辺を走り回らねばならない理由は、「ドラッグの売人を探すため」であるとされている。



  • Take a drag or two…Take a dragは「タバコをふかす」という意味の熟語。ただし「ふかす」対象はマリファナであることもありうるとのこと。もういっぺん「ただし」を繰り返すなら、ただしアメリカでマリファナは一般的にいわゆる「ドラッグ」であるとは見なされていないとのことである。ちなみに「薬物」を意味するドラッグはdrugであり、ここに出てくる単語は「引きずる」「がっかりさせる」などを意味するdrag。ビートルズの「Misery」という歌に「It's gonna be a drag (これから気が滅入る日々が続きそうだ)」という歌詞があるのだけれど、これを「ヤクでも打とうかな」という意味だと解釈しているとんでもない誤訳を見たことがある。ティーンエイジャーのみなさんは、ぜひともダマされないように気をつけてほしい。
  • Gypsy Deathとは「薬物の過剰摂取によって死に至ること」を表現する、60年代に使われていたスラングだとのこと。Gypsyという言葉の差別性については、以前に書いた記事で検証しています。ここでは原文をそのまま転載しました。
  • 2番の歌詞は、マルゲリータ·パッションさんがドラッグの禁断症状に苦しんでいる様子の描写。解説が前後するけれど、それに耐えきれなくなって「買いに行ってしまうこと」が、この歌の中では「魂を売る」という言葉で表現されているようである。
  • golden nose(黄金の鼻)とは、「コカインの取引」を意味するスラングなのだとのこと。だから翻訳としては「船酔いのサラはコカインの取引に手を出した」と意訳した方が、正確ではある。
  • When she turned blue…サラさんがオーバードーズしてしまったことを示す描写であるという。
  • Beardless Harry (ひげなしハリー) というあだ名は、ハリーさんがトランスジェンダーであることを示している。LGBTの人々が「自らの主張」を開始した歴史的な出発点と言われている「ストーンウォールの反乱」がニューヨークで爆発したのは、この歌が発表された2年後の1969年だった。ルー・リードという人自身がどのような形でこの「運動」に関わっていたのか、私は知らないが、間違いなく言えるのは彼がずっと「そのそばにいつづけたこと」だと思う。

HEAPS Magazineー時代と社会の、決まり文句に縛られない。

  • what a wasteは「何というムダだ」「もったいない」という意味。何年か前に「もったいない」という概念は世界中で日本にしか存在しないとか言って得意になってる人たちがテレビにいっぱい出ていた時期があったが、ああいうのって本当に、くだらないと思う。「もったいない」という言葉ぐらい、どんな言語にだってある。ただ、表現の仕方が違うだけである。その上で日本語の「もったいない」は、元来が身分制度の中から生まれたものすごく卑屈な言葉なので、私はそもそも少しも好きではない。(「私みたいな人間にはもったいない」みたいな言葉を簡単に使える人間は、「お前みたいな人間にはもったいない」という言葉だって簡単に吐けるものなのだ。卑屈は尊大さの裏返しである)
  • small-town tasteは直訳すれば「田舎町の味」だが、要はコーヒーで言う「アメリカン」みたいな意味なのだとのこと。なけなしのカネをはたいてやっとの思いでごく少量のドラッグを手に入れたが、そんな量では全然ハイになれなかった。もったいないことをしたものだ。という歌詞なのだろう。たぶん。


山藤章二の描く野坂昭如の似顔絵は、ルー・リードそっくりだと昔から思っていた。今はもう2人とも、いなくなってしまったのだな。