華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Day-O (The Banana Boat Song) もしくは新井さんとこのポリバケツ もしくはニライカナイの蘭陵王 (1956. Harry Belafonte)

Day-O (The Banana Boat Song)

英語原詞はこちら


Day-o, day-o
夜明けだ。
朝が来たぞ。


Daylight come and me wan' go home
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Day, me say day, me say day, me say day
Me say day, me say day-o

朝だ。
あっさだ朝だ朝だ朝だ朝だってんだよお。


Daylight come and me wan' go home
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Work all night on a drink of rum
Daylight come and me wan' go home
Stack banana till de morning come
Daylight come and me wan' go home

1杯のラム酒で一晩中はたらいて
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。
朝が来るまでバナナを積み込んで
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Come, Mister tally man, tally me banana
Daylight come and me wan' go home
Come, Mister tally man, tally me banana
Daylight come and me wan' go home

こっちだよ計数係さん。
おれのバナナを数えてよ。
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Lift six foot, seven foot, eight foot bunch
Daylight come and me wan' go home
Six foot, seven foot, eight foot bunch
Daylight come and me wan' go home

房が6段重ねのやつ。
7段重ねのやつ。
8段重ねのやつ。
積み上げろ。
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Day, me say day-o
Daylight come and me wan' go home
Day, me say day, me say day, me say day, me say day, me say day
Daylight come and me wan' go home

夜明けだ。
朝が来たぞ。
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


A beautiful bunch o' ripe banana
Daylight come and me wan' go home
Hide the deadly black tarantula
Daylight come and me wan' go home

熟れたバナナのきれいなひと房。
その中に真っ黒のタランチュラが隠れてた!
お天道さまのお出ましだ。
おいらは家に帰りたい。


Lift six foot, seven foot, eight foot bunch
Daylight come and me wan' go home
Six foot, seven foot, eight foot bunch
Daylight come and me wan' go home

Day, me say day-o
Daylight come and me wan' go home
Day, me say day, me say day, me say day...
Daylight come and me wan' go home

Come, Mister tally man, tally me banana
Daylight come and me wan' go home
Come, Mister tally man, tally me banana
Daylight come and me wan' go home

Day-o, day-o
Daylight come and me wan' go home
Day, me say day, me say day, me say day
Me say day, me say day-o
Daylight come and me wan' go home


Banana Boat Song

…「バナナ」というイメージのつながりだけで、ベルベッツの世界からこれほどまでに雰囲気の違う音楽世界にテレポートしてしまっても、いいものなのだろうか。われながら、離れ技だと思う。

とっても有名なこの歌なのだけど、自分で調べてみるまで、私はこの歌について本当に何も知らなかったのだということに、驚かされている。それまで漠然と思い描いていたイメージと実際の歌詞の内容がこんなに違っていたケースは、今までに取りあげてきたいろいろな曲の中でも、かなり珍しい。

まず私は、単にバナナが出てくるというだけで、なんの根拠もなくこの歌をずっと「ハワイの歌」だと思い込んでいたのである。しかし調べたところこれは実はジャマイカの歌であり、ハリー・ベラフォンテさんもジャマイカ系のアメリカ人だった。

第2に私は「こんにさたれまん、とににばなーな」みたいな不思議な響きを持つこの歌詞から、ずっとこの歌はハワイ語か何かで歌われているのだと思っていた。ところが調べてみるとこの歌詞はれっきとした英語であり、それも文字を見てみれば極めてわかりやすい、シンプルな英語だった。ジャマイカの英語に特有のほんのわずかな語法の違いと発音の違いだけで、こんなにも違った言葉に聞こえてしまうものなのかということが、改めて驚きだった。

そして第3に私はこの歌のタイトルになっているバナナボートというのは、下の写真のようなバナナの形をしたレジャー用のボートのことなのだと思っていた。だから歌詞の中には当然、楽しい舟遊びの光景か何かが歌われているのだろうなと思い込んでいた。



ところが調べてみるとこのバナナボートというのは、別名「バナナ·カーゴ」と呼ばれる巨大な貨物船をさす言葉であり、この歌はその貨物船にバナナを積み込む労働者のあいだで歌われていたワークソングだったのだということが明らかになった。スケールが違いすぎである。昔、弟が凧揚げをしていて凧が電線に引っかかってしまったと泣きながら帰ってきたので、何とかしてやろうと思ってホウキを持って現場に行くと、30メートルぐらいの高さの巨大な送電線の鉄塔のてっぺんで、凧が小さくなって揺れていた。その時の気持ちを何となく、思い出してしまった。



ちなみに上のバナナボートの写真は「ジョーズ2」という映画からのスクリーンショットなのだけど、あの楽しそうな情景から数秒後には、下の写真のようなシーンが待ち受けている。私は子どもの頃に見たこの映画を通して「バナナボート」のイメージを作りあげてしまったもので、「怖い乗り物だ」という印象が今でも頭から離れない。人間、浮かれている時にだけは悲劇に見舞われたくないものだと思う。昨日も、沖縄で橋の上で恋人にプロポーズしてOKって言われて喜んでふざけてた拍子に海に落ちて死んじゃった人のニュース、載ってたなあ。ああいうのって本当に、悲しくなるんだよなあ。でも、悲劇というのは時と場所を選ばないからこそ、悲劇なのである。何の話か分からなくなってしまったけど、このことは書かずにいられなかったのだ。悲しかったから。



サンフランシスコでのバナナの荷積みを撮影した上の写真は昼の光景になっているが、20世紀前半のジャマイカでバナナの荷積みといえば「夜中の仕事」だったのだという。炎天下ではバナナも傷んでしまうし、何より人間の体がもたないのだと思う。たぶん。

「デーーーオ」
というあの有名な歌い出しは
Day-O
であり、太陽の光がさして夜明けが来たから、やっと仕事から解放されて家に帰れるという喜びが込められた歌詞だったのだ。

替え歌で「痛でで痛でで」とか「見せて見せて」とか歌われることの多い例の繰り返しの部分は、
me say day
と言っている。ジャマイカの英語はそもそも植民地支配の中でイギリスに押しつけられた言葉だから、生活の中ではよりシンプルなものへと「改良」されており、イギリス英語の「I / my / me」はすべて「me」でOKなのだそうである。だから「me say day」は、イギリス英語に「翻訳」するなら「I say that It's daylight」みたいな感じになる。「I say」という言葉を強調表現として使うのはややニュアンスがつかみにくく感じられるが、考えてみれば日本語でも「朝だってんだこの野郎」=「私はあなたに朝だと言います」みたいな表現は使うわけだから、発想は同じなのだ。とはいえ、だからと言って無理やり直訳にする必要もなかったかなとは、少し思っている。



バナナが実際に木に生っているところを私は見たことがないのだけれど、写真の男の人が抱えているように、収穫したままの状態のバナナというものは何段にも「層」をなして密集しているものであるらしい。この「段」の数が6段ならsix foot bunchだし、7段ならseven foot bunchということになる。勉強になるなあ。

サブタイトルの「新井さんとこのポリバケツ」は、むかし何かのCMで「Daylight come and me wan' go home」のメロディに合わせて田中美奈子さんが口ずさんでいたフレーズである。もっとも、あの歌詞をどう聞けばそういう風に聞こえるのか、自分で聞いてみるとさっぱりわからない。タモリの空耳では「岩井さんちのゴムホース」と聞こえるとか言われていたが、これもやっぱり私には、聞こえない。もっともその前半の「今月は足りない。借りねばならぬ」というのは、少し、聞こえる。
あらいさんとこのポリバケツ - Dailymotion動画

もうひとつの「ニライカナイ蘭陵王」というのはやや「説明」を要するが、私の実家の近所には古社寺が多かったので、お祭りの時などには古式にのっとった舞楽やら雅楽やらというものを目にする機会が割とあった。子ども心には退屈なものでしかなかったのだが、その中に出てくる「蘭陵王」というキャラクターだけは、めちゃくちゃインパクトがあった。そして、怖かった。私があまりに「蘭陵王」を怖がるもので、父と母は面白がり、「早く寝ないと蘭陵王が来るぞ」みたいな脅され方をしたものだった。今でも写真を見るとドキッとするが、こういう「人」である。



一方で「ニライカナイ」というのは、沖縄の人たちがずっと信仰の対象にしてきたという、どこか海の彼方にある「死んだ人が行く世界」の名前である。それがどういうところなのか、詳しいことは沖縄の人に聞かないと分からないけれど、そういう世界が「ある」ということは、子どもの頃から何かの本で読んで、知っていた。

それで私が「バナナボート」を初めて聞いたのがいつのことだったか、思い出すことはできないけれど、私の中ではあのメロディに乗せてこの二つの単語が完全に「つながった」のである。おかげで「ニライカナイ」というところにはあの怖い怖い「蘭陵王」がいるのだというイメージが、あの歌と共に私には刻みつけられてしまった。おまけに曲名はジョーズ2に出てきたあの「バナナボート」である。だから私はこの歌は「怖い歌」なのだという印象を、長い間、持ち続けていたという、お話でした。他の人にとっては完全にどうでもいい話をしてしまいましたですね。

しかし、歌詞の意味を知って「怖い歌」でなかったことが分かってみると、思ってた以上に「いい歌」だな。これ。すっかり覚えてしまったし、明日からでも歌えそうである。そう思った時には夏はもう終わってしまっていた、9月の夜更けの記事でした。ではまたいずれ。おやすみなさい。