華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

American Pie もしくは さようならアメリカ夫人よ (1971. Don McLean)


ちっちきちー。

…全然知らなかったのだが、レスリー・チャンのデビュー曲、と言うか彼が初めてテレビで歌った曲は、この曲だったのだそうである。「ルージュ」の流れで広東ポップの曲をあれこれ拾い聞きしていた時にこの動画に出会い、思わず釘付けになってしまった。「アジア歌唱コンクール」ということは多分一般参加だったのだと思うけど、だとしたらこの衣装は自前だったのだろうか。うーむ。さすがはハリウッドスター御用達のテーラーの末っ子である。


77年亞洲歌唱大賽

下の動画は全盛期の85年。アメリカン・パイから吉川晃司へという神をも畏れぬメドレー仕立てで、こちらも興奮間違いなしなのだが、あえてレスリー·チャンの話から入ったのは、このブログのごく初期からの読者の方にレスリーファンが1人おられることを覚えていたので、その方へのサービスという以上の意味はない。だから他のみなさんは、別に無理してまで「モニカ」を歌うレスリー·チャンの姿に心を奪われて下さらなくても構わない。本題はあくまで「アメリカン·パイ」の話であり、そして今回の記事は長いのだ。


張国栄85演唱会

「アメリカン·パイ」と言えば、歌詞対訳ブログ書きを志す者なら誰しも一度は自分の手で翻訳してみたいと夢見ずにはいられない憧れの大曲である。単に長いというだけの曲なら、「ヘイ・ジュード」とか「ハートに火をつけて」とか、いろいろある。しかし8分36秒という時間がこれだけぎっしり「歌詞」で埋め尽くされているヒット曲というのは、そうそうあるものではない。

今回こうした形でその大曲の名前と対面することになったのは、2003年にこの世を去ったレスリー·チャンが冥界から引き合わせてくれた出会いだとしか思えない。いわゆるひとつの21世紀に私の身を借りて復活をとげたチャイニーズゴーストストーリーなのである。謹んでお承けしようではありませんか哥哥。レディオ哥哥。レディオ寓寓。どうも妙なテンションになってしまっている私なのだけれど、昨日だって実はポンチャックの話なんか書きながら本当は早くこの曲の記事が書きたくて書きたくてたまらなかったのである。以下、飛ばして行かせて頂きます。

この歌は、冒頭で歌われている「音楽が死んだ日」、つまり1959年2月3日にバディ・ホリーリッチー・ヴァレンス、ビッグ・ポッパーという3人の偉大なロックンローラーが飛行機事故で亡くなった日を起点として、当時13歳だったジョン・マクリーンが69年に23歳でこの曲を書くまでの、それから10年間にわたる魂の遍歴、そしてその10年間におけるアメリカ社会とアメリカ音楽の歴史とが神話的な手法で綴られた、ひとつの壮大な音楽叙事詩である。と私は思っている。「神話的」と書いたのは、実在の人物や実際に起こった事件などが直接歌詞の中に歌いこまれるのではなく、そのことごとくが間接的な隠喩として、象徴的に表現された形をとっているからである。だから一見してこの歌詞は非常に難解であり、解釈の仕方をめぐる議論も昔から絶えたことがない。しかしアメリカの同時代に生きなおかつ同じ音楽の中に体を浸していた人間たちにとっては、どれをとっても「ああ、あのことを歌っているな」とピンと来るような、極めて「わかりやすい」歌詞になっているらしいのである。その「ピンと来る感覚」は、今やネットというもののおかげで、生まれた場所も世代も違う私たちみたいな人間にとっても、おおむね共有できるものとなっている。ほんの10数年前までは私自身にも分からないことだらけだったのだが、今ではこの曲の「意味」を知ることは、決して難しいことではない。

私がこの曲を初めて聞いたのは、他にもそういう人は多いと思うのだけど、2000年にマドンナがカバーしてヒットした4分半の短縮バージョンを通じてだった。今回そのマドンナのバージョンのPVもYouTubeのおかげで初めて見ることができたのだったが、私はこれ、大嫌いだな。すごくイヤなものを見せられた感じがするな。昔で言うなら見る必要もなかった「フォレスト・ガンプ」を最後まで見てしまった時の気持ちと言うか、最近で言うならどんどん右翼みたいになってゆく椎名林檎の姿をテレビをつけるたびに目の当たりにしてしまう時の気持ちと言うか、簡単に言うなら「戦争があった時代」を「憧れや懐かしさの対象」にしてしまうことのできるその感覚が、イヤだし怖いし不快だし憤りにたえないのである。ファシズムというものに支配されるのは誰だってイヤなはずなのに、ファシズムで支配する側になることには憧れを感じてしまうタイプの人が世の中には一定数いるようで、その憧れを「無邪気」に表現できてしまう人間が増えれば増えるほど、世の中というものは悪くなっているのだと考えた方がいいと思う。このPVの中のマドンナは ー椎名林檎もそうだと思うけどー 軍人の立ち居振る舞いを模倣することに明らかに「快感」を見出している。このブログを読んでくれている人はベトナムにもいるのだけれど、その人のことを考えると動画を貼りつけるのもためらわれてしまう。とまれ、だからと言って現実から目をそらすのが正しい態度だとも思えないので、閲覧注意の但し書きつきで参考として紹介しておきたい。


Madonna American Pie

この歌がそんな風に「保守的な人間の感性をくすぐる曲」だったのだとしたら、このブログでは取りあげるべきではないのではないだろうかとも一時は考えた。しかし自分自身で歌詞を読んで、何度も聞き直した感想として、この歌は決してそうした「強いアメリカへの郷愁」みたいなものが歌われている歌ではない。むしろそのアメリカの体制に抵抗する側に身を置こうとしていた人の歌だと思う。もちろんその抵抗は、史実においても歌詞の内容においても、最後は挫折を経験することになるのだけれど。とまれ私は今でもこの歌が好きだし、好きだからこそ自分の手で翻訳してみたいと思うのである。

なお、この曲に関しては私の他にも多くの方がネット上で和訳を試みられており、特に下記サイトの方の翻訳と注釈からは本当に多くのことを教えて頂いた。今と比べてネットで参考にできる情報も極めて少なかった2003年という時期に、これだけの訳注を完成させられた偉業には感嘆させられる他ない。
American Pie / Don McLean

また比較的新しい資料にもとづいて書かれたと思われる以下のまとめ記事も、極めて充実した内容になっている。Googleでこの歌について検索した時に一番上に出てくるのが、この記事である。
アメリカが最も愛した歌、American Pieに隠された真実 - NAVER まとめ

この他、海外にはこの歌の「解読」のためだけに作られたウェブサイドがいくつも存在し、いくつか参考にしたのだが、リンクは省略する。今回の歌は何しろ長いので、いつも訳詞の後に書いている「翻訳をめぐって」は、できるだけ簡潔にまとめるようにしないと収拾がつかないことになりそうなのである。だから上記リンクを読めば分かるような情報については、このブログではいちいち独自の注釈をつけることは避けようと思う。しかしながら「もっとわかりやすく」と思えば思うほど、結局いつにもまして長ったらしいことになってしまいそうな予感が今から否めない。

なお、訳詞は基本的に紫色の文字で書いていますが、青い文字で書いてある部分は、「歌の風景」をわかりやすく想像できるようにするために、原詞にない言葉を私が「勝手に」書き加えたものです。このブログでは「Dig A Pony方式」と呼んでおります。というわけで、長い前置きになりましたが、聞いて下さい見てください。


American Pie Original Version

American Pie

英語原詞はこちら


=1=

A long, long time ago
I can still remember
how that music used to make me smile
And I knew if I had my chance
That I could make those people dance
And maybe they'd be happy for a while

とおいとおい昔。
今でも思い出す。
音楽というものがどんな風に
ぼくを笑顔に変えてくれたか。
そしてぼくにはわかってた。
もしもぼくにもチャンスがあれば
きっとみんながぼくの歌で踊ってくれて
そしてしばらくは幸せな気持ちに
なってもらうことだってできるだろうって。


But February made me shiver
With every paper I'd deliver
Bad news on the doorstep
I couldn't take one more step

でも2月のこと。
ぼくが配っていた新聞の
全部に書かれていた見出し
ぼくを凍りつかせた。
玄関口に届いた最悪のニュース。
ぼくは一歩も歩けなくなった。


I can't remember if I cried
When I read about his widowed bride
But something touched me deep inside
The day the music died

夫を亡くした花嫁についての記事を読んだとき
自分が泣いたかどうかは覚えていない。
でもぼくの心の深いところに何かが触れたんだ。
音楽が死んでしまったあの日に。


So bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
And them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
Singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

そんなわけで
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日で終わりだな」って歌いながら。
「今日がおいらの命日になるだろう」って。


=2=

Did you write the book of love
And do you have faith in God above
If the Bible tells you so?
Now do you believe in rock and roll?
Can music save your mortal soul?
And can you teach me how to dance real slow?

「ブック·オブ·ラブ (聖書)」って曲は
あなたが書いたんですか。
そのあなたは
もし聖書にそうしろと言われたなら
天のかみさまのことを信じるんですか。
そして今あなたは
ロックンロールを信じてますか。
死すべきあなたの魂を
救うことが音楽にはできますか。
そしてあなたはデートの時の
あの
ゆっくりゆっくり踊る踊り方を
ぼくに教えてくれることができますか。


Well, I know that you're in love with him
'Cause I saw you dancin' in the gym
You both kicked off your shoes
Man, I dig those rhythm and blues

あのね。
きみが彼氏と恋に落ちていたことを
ぼくは知ってるんだよ。
体育館で踊ってるところを見たんだから。
ふたりとも靴を脱ぎ捨てて。
ちきしょおあのリズム&ブルース
たまらないんだよなあ。


I was a lonely teenage broncin' buck
With a pink carnation and a pickup truck
But I knew I was out of luck
The day the music died

ぼくは孤独でやんちゃなティーンエイジャーだった。
胸に飾るためのピンクのカーネーション
誰かを隣に乗せるための軽トラも
しっかりそろえてた。
でもぼくはついてなかったんだ。
そのことはわかってた。
音楽が死んでしまったあの日。


I started singing
bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
Them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
Singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

ぼくは歌い始めていた。
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日で終わりだな」って歌いながら。
「今日がおいらの命日になるだろう」って。


=3=

Now for ten years we've been on our own
And moss grows fat on a rollin' stone
But that's not how it used to be
When the jester sang for the king and queen
In a coat he borrowed from James Dean
And a voice that came from you and me

そしてそれから10年も
ぼくらはやりたいようにやってきた。
ローリングストーン (転がる石) にも
びっしり苔が生えてしまった。
でも首からハーモニカをぶら下げたあの道化が
ジェームス·ディーンから借りてきたコートを着て
ぼくやあなたと同じ声で
キングとクイーンのために歌ったとき
すべては昔と同じじゃなくなっていた。


Oh, and while the king was looking down
The jester stole his thorny crown
The courtroom was adjourned
No verdict was returned

ああそして
キングが冴えない顔をしているあいだに
その道化がキングから
イバラの冠を奪い取ってしまった。
法廷審理は中止され
どんな判決も下されなかった。


And while Lenin read a book on Marx
The quartet practiced in the park
And we sang dirges in the dark
The day the music died

一方でレーニンだかレノンだか
マルクスの本を読んでいたその時
4人組は公園で練習していた。
そしてぼくらは暗闇の中で
とむらいの歌をうたった。
音楽が死んでしまったあの日に。


We were singing
bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
Them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
Singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

こんな風に歌ったんだ。
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日で終わりだな」って歌いながら。
「今日がおいらの命日になるだろう」って。


=4=

Helter skelter in a summer swelter
The birds flew off with a fallout shelter
Eight miles high and falling fast
It landed foul on the grass
The players tried for a forward pass
With the jester on the sidelines in a cast

死ぬほど暑かったとある真夏の
ヘルター·スケルター (大混乱)
飛び立ったバーズ (鳥たち)
核シェルターを盗んで行った。
霧の8マイル」の高さまでハイになって
あっという間に落っこちた。
落ちたのはグラス (芝生?葉っぱ?) の上で
判定はファウル。
アメフトの格好をした選手たちは
フォアード·パスを決めようとしていた。
道化がギプスをはめて退場していたその時に。


Now the halftime air was sweet perfume
While the sergeants played a marching tune
We all got up to dance
Oh, but we never got the chance

ハーフタイムの空気は甘い匂いがした。
(マリファナみたいにあるいは催涙ガスみたいに)
サージェント (軍曹) たちが行進曲を演奏して
ぼくらはみんな立ちあがって踊ろうとしたんだけど
ああしかし
ぼくらにそのチャンスは残されていなかった。


'Cause the players tried to take the field
The marching band refused to yield
Do you recall what was revealed
The day the music died?

なぜって選手たちが試合を始めようとしても
マーチングバンドが場所を空けてくれなかったから。
どんなことが明らかにされたのか
きみは覚えているかな。
音楽が死んでしまったあの日に。


We started singing
bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
Them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
And singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

ぼくらは歌い始めた。
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日で終わりだな」って歌いながら。
「今日がおいらの命日になるだろう」って。


=5=

Oh, and there we were all in one place
A generation lost in space
With no time left to start again
So come on, Jack be nimble, Jack be quick
Jack Flash sat on a candlestick
'Cause fire is the devil's only friend

ああ、そしてぼくらはみんな
ひとつの場所にいた。
やり直すための時間もなく
宇宙に取り残されたひとつの世代。
だから飛び出せジャック。
素早くジャック。
ジャンピング·ジャック·フラッシュで
ろうそくの上に座り込んだあいつ
なぜって炎は
悪魔のたった1人の友人だから。


Oh, and as I watched him on the stage
My hands were clenched in fists of rage
No angel born in Hell
Could break that Satan's spell

ああそして
あいつがステージに立っているのを見ていると
僕の両手はいつの間にか
怒りで握りこぶしを作っていた。
地獄で生まれた天使 (ヘルズ·エンジェルス) には
悪魔の呪いは破れない。


And as the flames climbed high into the night
To light the sacrificial rite
I saw Satan laughing with delight
The day the music died

そして焔が夜の中を駆けのぼり
いけにえの儀式を照らし出した時
悪魔が大喜びで笑っているのをぼくは見た。
音楽が死んでしまったあの日に。


He was singing
bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
Them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
And singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

あいつは歌っていた。
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日で終わりだな」って歌いながら。
「今日がおいらの命日になるだろう」って。


=6=

I met a girl who sang the blues
And I asked her for some happy news
But she just smiled and turned away
I went down to the sacred store
Where I'd heard the music years before
But the man there said the music wouldn't play

ブルースを歌う女の子に出会った。
何かいいニュースを聞かせておくれって
ぼくは頼んだんだけど
その子はほほえんで
どこかに行ってしまった。
何年も前にぼくがいつも音楽を聞いていた
聖なるあの店に行ってみた。
でもそこの人が言うには
音楽はもうかからないんだって。


And in the streets, the children screamed
The lovers cried and the poets dreamed
But not a word was spoken
The church bells all were broken

通りでは子供たちが叫んでいた。
恋人たちが泣いていて
詩人たちは夢を見ていた。
けれど語られる言葉はなく。
教会の鐘はみんな壊れていた。


And the three men I admire most
The Father, Son and the Holy Ghost
They caught the last train for the coast
The day the music died

そしてぼくが誰よりも憧れていた
3人の男たち
父と子と精霊の姿をまとい
西海岸に向かう最後の汽車に乗り込んだ。
音楽が死んでしまったあの日に。


And they were singing
bye, bye, Miss American Pie
Drove my Chevy to the levee
but the levee was dry
And them good ole boys
were drinking whiskey 'n rye
Singin' this'll be the day that I die
This'll be the day that I die

かれらは歌っていた。
さよなら。ミス·アメリカン·パイ。
土手までシボレーを走らせたけど
そこはすっかりつまらない場所になっていた。
古き良き南部の男たちが
ウイスキーとライを飲んでいた。
「今日がおいらの命日だな」って歌いながら。
今日がたぶん
ぼくの命日になるんだろうな。

=翻訳をめぐって=

=1=

February made me shiver…shiverは「震えあがる」だが、ショックを受けた状態を表現する言葉は日本語では「凍りつく」だと思う。だからこういうのを誤訳だとは私は思わない。わざとです。なお、ドン·マクリーンは13歳の時、実際に新聞配達をしていてバディ·ホリー他2名の事故死のニュースを知ったのだという。

American pie…ミスコン (私は反対論者です) の称号としての「ミス·アメリカ」と、「いかにもアメリカ的だ」という意味の慣用句として使われる“as American as apple pie”が組み合わさった造語。ドン·マクリーンにとっての「アメリカ」が象徴された言葉なのだろう。何か言っているようで何も言っていない解説だな。われながら。

Drove my Chevy to the levee but the levee was dry…levee (堤防/土手)は、当時の若者がオトナの目を気にせずに悪さができる格好の場所だったのだとか。そう言えば私にも、覚えがある。それが「dry (乾いていた)」と言うのだが、dryには「無味乾燥な」という意味もある。いろいろな解釈がなされている箇所だけど、文字通りに読んでおけばいいのではないだろうか。


50年代のシボレー。私は今まで小林旭の「自動車ショー歌」という歌 (の陣内孝則によるカバー) で、その名前を知っていただけだった。


whiskey 'n rye…アメリカでウイスキーと言うと一般的にトウモロコシをベースにしたもので、それに一定の割合でライ麦を加えたものを特に「ライ」と呼ぶのだという。つまりどちらもウイスキーなのだけど、ここがryeになっているおかげで、脚韻が pie/ dry/ rye/ die の四暗刻単騎になるのである。心憎いことだ。
…でかい写真だな。

=3=

When the jester sang for the king and queen…jesterは「道化師」と訳されることが多いけど、「中世のヨーロッパで国王などの有力者に仕えていた道化」であり、画像検索すると下のような極めて禍々しい格好をした人が出てくる。いわゆるピエロとは異なり、ちょっぴり邪悪さを含んだ表象である。


このjesterは明らかにボブ・ディランのことを指しているのだが、この歌を最後まで聞いてもよく分からないのは、ドン·マクリーンという人は果たしてディランのことを好きだったのかキライだったのかということである。よく分からないけど分からないなりに、何となくキライだったのではないかという気か私はしている。後で出てくるミック・ジャガーも、あんまり好意的に描かれている感じではないっぽい。でも、ジャニスのことは、間違いなく好きだったんだろうな。

なお、king and queenのキングに関してはエルヴィス・プレスリーのことだというのが定説だが、Queenに関しては定説がない。「フォークの女王」ジョーン・バエズのことだという説は魅力的だが、エルヴィスとはバランスがとれていない気がする。もうひとつの解釈は、ディランが当時大統領だったケネディ夫妻の招待に応じてその前で歌を歌ったというエピソードが歌われているのだという説で、それだと確かに「権力者にコビを売るjester」のイメージと符号する。

The quartet practiced in the park…この「4人組」はビートルズのことだというのが定説だが、マクリーン自身が組んでいた昔のバンドの話だという説もある。

=4=

It landed foul on the grass…バーズのメンバーがマリファナで捕まった事件と引っかけた歌詞だという説がある。

With the jester on the sidelines in a cast…ボブ·ディランがバイクの事故をきっかけに一切メディアの前に姿を現さなくなり、一時期生死不明になっていた事実と符号している。この歌はいちいち芸が細かいのである。

Now the halftime air was sweet perfume…60年代はベトナム反戦運動公民権運動の時代であり、本当に至る所に催涙弾の「甘い匂い」が立ち込めていたそうである。

Do you recall what was revealed…60年代は一般的に、それまでの「古き良き、強きアメリカ」の価値観がその欺瞞性を露呈し、アメリカ社会が元から抱えていたあらゆる矛盾が噴出した時代だと言われている。この歌詞は何か特定の事件ではなく、大づかみな時代の総括を述べている箇所として読むべきところだろう。

=5=

Oh, and there we were all in one placeウッドストック·フェスティバルのことを歌った歌詞だというのが定説。

A generation lost in space…Lost in space は60年代に放映されていたテレビショーの名前。またアポロ11号の月面着陸はウッドストックの3週間前の出来事であり、当時は文字通り「宇宙」がひとつの時代のキーワードになっていたのだとのこと。


Jack be nimble, Jack be quick…この部分の歌詞は、マザーグースのパロディになっている。なお、「ろうそくの上に座り込む」という歌詞は、ミック·ジャガーがヘロインを炙っている姿の描写ではないかという説がある。
ちくちく針仕事 13. Nursery Rhymes④ : そらいろのパレット

=6=

I met a girl who sang the blues…この少女がジャニス・ジョプリンのことを指しているというのは、ほぼ定説になっている。彼女が亡くなったのはこの曲が発売される前年の1970年で、歌の中では「最新ニュース」に属することである。

They caught the last train for the coast…coastは「海岸」という意味だが、cを大文字にしてCoastと書くと「アメリカの太平洋岸」をさす固有名詞になる。このcoastを「西海岸」と解釈するなら、アメリカにおける音楽の中心地がニューヨークからロサンゼルスに移りつつあった当時の状況に符号している。さしずめこの歌の「続編」として位置づけられるのは、「ホテル・カリフォルニア」だったりするのかもしれない。

The day the music died…この歌で何度も繰り返されるフレーズだが、最後まで聞いてみると「1959年2月3日」のことだけを指しているわけではなく、マクリーンが好きな子にふられた日、ディランがプレスリーに取って代わった日、サージェントぺパーズが発売された日、オルタモントで人が死んだ日と、そういった結節点ごとに何度も何度も「音楽の死」をマクリーンは経験してきた、という歌詞になっているのだと思う。けれどこの人はやっぱり歌い続けるのだろうし、2017年現在でも元気で歌ってらっしゃるとのことである。


頭脳警察 さようなら世界夫人よ

…翻訳を終えてみて、この歌はひょっとして「アメリカン·パイ」の影響下に作られた曲だったのではないだろうかという考えが頭に浮かんだのだが、調べてみたらドイツの作家であるヘルマン・ヘッセの詩の和訳に曲をつけた歌だった。しかし、何となく「つながってる」ことを感じさせる曲である。

書いているうちに日付が変わって、カレンダーを見ると奇しくも9月11日になっていた。9.11。さよならアメリカ。何らかの意味をくっつけようとしたらいくらでも出てくる気がするが、やめておく。単なる偶然だと思うことにする。ではまたいずれ。