華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

James Dean もしくはいつでも俺たち傷だらけ (1974. The Eagles)



American Pie」の3番の歌詞、「When the jester sang for the king and queen / In a coat he borrowed from James Dean(あの道化がジェームズ・ディーンから借りてきたコートを着てキングとクイーンの前で歌った時) という部分は、私にとって長い間、謎だった。しかし今の時代になってネットを検索して出てきた画像を見ると、あっけないくらい、一目瞭然な話だった。



上の写真は「風に吹かれて」が入っていることで有名なボブ・ディランの2枚目のアルバム「フリーホイーリン·ボブ·ディラン」のジャケットで、当時の恋人のスージー·ロトロさんと一緒に街を歩いている姿をそのまま写したセンスが大変な反響を呼んだとかそういう話は、かなり前から知っていた。しかしディランがこの写真を撮った場所は、ニューヨークの街を歩くジェームズ·ディーンの姿を写した有名な写真と同じ場所で



なおかつ彼が着ていた上着は、「理由なき反抗」のポスターでジェームズ·ディーンが着ていたコートと、よく見つけてきたと思うぐらいに似たデザインのコートだったのである。意識の仕方が、半端ではない。



今でこそ、ノーベル賞を与えると言われても会場に出向かなかったりして、世俗の権威から超越したような姿を演出したがっているディランという人ではあるわけだけど、友人の運転するポンティアックミネソタからニューヨークに上京してきた当時はひたすら「スターになりたい」という気持ちしか持っていなかったのだろうなということがうかがえて、興味深いエピソードだった。その「スターになりたい」の中身がまたこれほどまでにベタベタなものだったということが、無性におかしく感じられる。肩に力が入りすぎだぜ。ロバート·アレン·ジンママン22歳。

ジェームズ・ディーンという人はとても有名なのだけど、私は彼が生前に主演したたった3本の映画のうち、「エデンの東」1本しか、まだ見たことがない。彼の吹き替えを担当していた野沢那智という人の声が、口に含み綿でも詰め込んでるような感じでやたらモゴモゴしていたのと、あと映画の中に出てきた彼のお兄さんがあまりにかわいそうな描かれ方をしていたことしか、記憶に残っていない。だから他の2作にまで手を伸ばす気持ちが起こらないまま20年ちかく経ってしまったのだけれど、もしもそれをモッタイないことだと感じる読者の方がいたならば、ぜひともその魅力を熱い言葉で語ってみてもらいたいものだと思う。音楽もそうだけど映画というものは他の何にもまして、それを見たいと思わせてくれるキッカケがなければ、なかなか本気で向き合うのが難しい表現媒体なのである。

そんなわけで (どんなわけだ) 今回は、「American Pie」から3年後の曲ではあるけれど、イーグルスの「James Dean」という曲をとりあえず、取りあげておくことにしたいと思う。まだジョー・ウォルシュは加入していない頃の曲なのだな。ちなみにジェームズ・ディーンが「見ないで買った」レース用のポルシェ550に乗っていて24歳で事故死をとげたのは、「音楽が死んだ日」の4年前にあたる1955年の9月30日のことだった。誰かそれを「映画が死んだ日」と呼んでいたりは、しないのだろうか。


James Dean

James Dean

英語原詞はこちら


James Dean, James Dean
I know just what you mean
James Dean, you said it all so clean
And I know my life would look allright
If I could see it on the silver screen

ジェームズ・ディーン
ジェームズ・ディーン
あなたの言いたかったことはよく分かる。
ジェームズ・ディーン
あなたはとてもハッキリ言ってくれた。
そしてぼくには分かっている。
ぼくの人生だって
映画のスクリーンで眺めることができたら
きっと完璧に見えるんだろうなって。


You were the lowdown rebel if there ever was
Even if you had no cause
James Dean, you said it all so clean
And I know my life would look all right
If I could see it on the silver screen

あなたこそは
人からさげすまれる反逆者の
典型と言うべき人だった。
よしんばその反抗に
理由がなかったとしてもだ。
ジェームズ・ディーン
あなたはとてもハッキリ言ってくれた。
そしてぼくには分かっている。
ぼくの人生だって
映画のスクリーンで眺めることができたら
きっと完璧に見えるんだろうなって。


We'll talk about a low-down bad refrigerator,
You were just too cool for school
Sock hop, soda pop, basketball and auto shop,
The only thing that got you off was breakin' all the rules

人からさげすまれる
最低の冷蔵庫の話をしようか。
あなたは真面目にスクールに通うには
あまりにクールな人だった。
ソック·ホップにソーダ·ポップ
バスケットボールにオートショップ。
あなたが夢中になったのは
あらゆるルールを破ること
他には何もなかった。


James Dean, James Dean
So hungry and so lean
James Dean, you said it all so clean
And I know my life would look all right
If I could see it on the silver screen

ジェームズ・ディーン
ジェームズ・ディーン
めちゃめちゃハングリーで
めちゃめちゃスリムな体型。
ジェームズ・ディーン
あなたはとてもハッキリ言ってくれた。
そしてぼくには分かっている。
ぼくの人生だって
映画のスクリーンで眺めることができたら
きっと完璧に見えるんだろうなって。


Little James Dean, up on the screen
Wond'rin' who he might be
Along came a Spyder and picked up a rider
And took him down the road to eternity

かわいい顔したジェームズ・ディーン
スクリーンに出てきて
自分は何になるんだろうかって
考えこんでる。
現れたのはスパイダー (蜘蛛)
別名ポルシェ550スパイダー
背中にライダーを乗っけると
永遠に続く道のかなたに
彼のことをさらって行った。


James Dean, James Dean,
you bought it sight unseen

ジェームズ・ディーン
ジェームズ・ディーン
あのポルシェ
見ないで買ったんだよね。

そして「見られることのない光景」も
一緒に買ったんだよね。


You were too fast to live, too young to die, bye-bye
You were too fast to live, too young to die, bye-bye
Bye-bye, Bye-bye, Bye-bye, Bye, bye

あなたはあまりに速く生きて
死ぬにはあまりに若すぎた。
ばいばい。


Like a Rolling Stone

=翻訳をめぐって=

ライブの映像はものすごくかっこいいけれど、惜しむらくはマイクがドン·ヘンリーのコーラスを、大きな音で拾いすぎである。などと聞いたふうなことを言ってみる。

  • You were the lowdown rebel if there ever was…low-downは基本的に「身分が低い」というさげすみの言葉であり、そこから「卑劣な」「最低の」といったネガティブなイメージで使われることの多い言葉だが、ジャズのスラングとして使われる場合には「初期のブルースの魂のこもった感覚をもつ」という「ほめ言葉」に変わるのだという。この歌詞がジェームズ·ディーンをさげすむ内容のものであるとは思えないので、上記のように訳した。 if there ever wasは「確かに」とか「○○こそは✕✕だ」を意味する「if there ever was one」という熟語の変形だと思われる。
  • We'll talk about a low-down bad refrigerator…ジェームズ·ディーンがやると何でも「クールなこと」に変わってしまうから、「冷蔵庫」なのである。たぶん。
  • Sock hopは「American Pie」にも出てきた言葉だけど、昔のアメリカの高校生は体育館でダンスパーティをする時には、床を傷めないように靴を脱いで踊ったらしいのである。そうやって靴下姿で踊るダンスが Sock hop。このサイトによるとそれ用に生まれて今でも使われ続けている靴下のデザインがあるそうで、なかなか興味深かった。


  • soda pop は炭酸飲料のこと。
  • auto shopは「自動車店」だが、工業科(の自動車部門)の学生や授業をさす言葉としても使われるとのこと。どちらの意味にとっても、不自然ではない。
  • Along came a Spyder…「A Spider came along (1匹の蜘蛛がやってきた)」の、倒置法を使った表現。このSpyderは、ジェームズ·ディーンが事故死した時に乗っていた車の名前 (ポルシェ550スパイダー) にかかっている。


  • you bought it sight unseen…「buy 〜 sight unseen」は「現物を見ないで買う」という意味の熟語。しかし文法通りに読むならば「見られることのない風景を買う」とも読める。そこは、切り捨てたらいけない意味だと思ったので、訳詞に併記した。




ジェームスディーンのように

ジェームズ·ディーンの名前を歌詞に取り入れた歌はたくさんあるが、私は甲斐バンドよりこの人たちの方がずっと好きだ。あと、歌詞の中に取り入れられる際にはなぜか「ジェームズ」ではなく「ジェームス」に変わる傾向があるが、それはそれで好きだ。というわけでまたいずれ。