華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Helter Skelter もしくはハートのジャックが有罪であることの証拠の歌 (1968. The Beatles)



American Pie」の4番の歌詞がビートルズのこの曲の名前で始まるのは、1969年の夏にカリフォルニアでこの曲に触発されたとされる連続殺人事件が発生し、それが「音楽が平和に受け容れられていたひとつの時代の終焉」=「音楽の死んだ日」を象徴する出来事として語られ続けていることが背景にあるのだと思われるが、その事件についてここで触れたいとは思わない。歌詞の内容に絞った話にとどめたい。


Helter Skelter

Helter Skelterとは「混乱」「混沌」「無秩序」の表現として400年ぐらい前から使われている古い言葉らしいが、一般的には「(遊園地などにある)ぐるぐるすべり台」のことを指す言葉でもある。研究社英和辞典、いいですね。あえて「螺旋式すべり台」と言わずに「ぐるぐるすべり台」という訳語を選択するその思い切り方が潔いですね。



上の写真はビートルズの時代に「主流」だったと思われる移動遊園地の「Helter Skelter」で、かわいらしいものだけど、画像検索してみるとこんなものすごい「Helter Skelter」の写真も出てくる。あと、大きなプールのいわゆる「ウォータースライダー」のことも、「Helter Skelter」と言うらしい。



ポールが作ったこの歌は、その「Helter Skelter」から滑り降りる時の子ども心の興奮になぞらえて思い切り「派手な歌」が作ってみたかったという、それ以上の内容のものではないと思う。その「滑ってゆく興奮と快感と不安と恍惚と恐怖とパニックとめちゃめちゃな気持ち」にあなたがセックスに通じる何かを見出したり、私はやったことないけどドラッグに通じる何かを見出したり、恋愛に通じる何かを見出したり人生に通じる何かを見出したり家族生活に通じる何かを見出したり会社経営に通じる何かを見出したり非正規雇用で生きて行くことに通じる何かを見出したり現代社会に通じる何かを見出したりすることは、

自由だ。


犬井ヒロシ

Helter Skelter

英語原詞はこちら


When I get to the bottom
I go back to the top of the slide
Where I stop and I turn and I go for a ride
Till I get to the bottom and I see you again
Yeah yeah yeah hey

いちばん下まで降りたら
すべり台のてっぺんに戻って
ストップしてターンしてライド(乗る)して
いちばん下までライドして
もっぺんきみの顔を見るのだ。
やーやー。


Do you, don't you want me to love you
I'm coming down fast but I'm miles above you
Tell me tell me tell me come on tell me the answer
Well you may be a lover but you ain't no dancer

愛してほしいですか。
ほしくないですか。
すごいスピードで降りて行くけど
ぼくはきみより何マイルも高いところにいる。
教えて教えてこっち来て教えて。
きみは恋人には向いてるかもしれないけど
それじゃ商売で踊りを見せる人にはなれないよ。


Now helter skelter helter skelter
Helter skelter yeah
Ooh!

というわけでヘルタースケルター
ぐるぐるすべり台
めちゃめちゃな大混乱
わお。


Will you, won't you want me to make you
I'm coming down fast but don't let me break you
Tell me tell me tell me the answer
You may be a lover but you ain't no dancer

ぼくにいろんなことしてほしいと
思いますか。思っていただけますか。
すごいスピードで降りて行くけど
ぼくのせいでこわれたりされたら困っちゃう。
教えて教えてこっち来て教えて。
きみは恋人には向いてるかもしれないけど
それじゃ商売で踊りを見せる人にはなれないよ。


Look out helter skelter helter skelter
Helter skelter ooh

気をつけろよヘルタースケルター
ぐるぐるすべり台
めちゃめちゃな大混乱
わお。


Look out, cos here she comes
気をつけろよ
ほら彼女が来るぞ。もしくは行くぞ。


When I get to the bottom I go back to the top of the slide
And I stop and I turn and I go for a ride
And I get to the bottom and I see you again
Yeah yeah yeah


Well do you, don't you want me to make you
I'm coming down fast but don't let me break you
Tell me tell me tell me the answer
You may be a lover but you ain't no dancer


Look out helter skelter helter skelter
Helter skelter


Look out helter skelter
She's coming down fast
Yes she is
Yes she is coming down fast

気をつけろよヘルタースケルター
彼女はものすごいスピードで
やって来るもしくは行ってしまう。
そうなんです。
そうなんです彼女はものすごいスピードで
やって来るもしくは行ってしまう。


(My head is spinning, ooh...)
(頭がぐるぐるする。あああ)

(Ha ha ha, ha ha ha, alright!)
(ははは。オッケー)

(I got blisters on my fingers!)
リンゴ 「手にマメができちゃったよ!


U2 - Helter Skelter [Rattle and Hum - HD]

=翻訳をめぐって=

  • topにはnipple、bottomにはhipという意味もあるそうである。何だって昼間っからこんな歌を翻訳しゃんなん羽目に陥ってしまったのだろう。ドン·マクリーンが悪いのだ。
  • you ain't no dancer…「商売で踊りを見せる人」と訳したけれど、そういう商売をしている人をさげすむ内容の歌詞だとしか思えないので、私はこの歌は歌わない。
  • Will you, won't you want me to make you…「make you」の後に来るべき言葉が省略されている。「…な状態にしてほしいですか」と訳せるが、日本語では言語の構造上、そういう言葉の切り方はできない。私の中に岡村靖幸が現れて、この部分は「どんなことしてほしいの僕に」と訳すのだとアドバイスしてくれたのだが、一応それは拒否したという顛末については、報告しておく。
  • comeという言葉を「やって来るもしくは行ってしまう」と訳さざるを得なかった理由に関しては、日本語で書かれた資料としてはこの方の記事を読んでもらうのが一番わかりやすいのではないかと思う。

www.komadakoma.com
…私は以前にこの方の文章について「売れる必然性がある」と書いたことがあるが、こういう文章で「売れて」しまうことがこの方自身にとって「幸せ」なことなのかどうか、正直何とも言えない。私は極めて調子に乗りやすい性格をしているから、自分がこういう「売れ方」をしたら絶対に舞い上がって取り返しのつかないところまで突っ走ってしまうそういう不安があるのだけれど、その後の記事を読む限り自分を見失っている気配は感じられず、抑制の効いた文章を書き続けておられるのは、立派である。真夏の高校野球の思い出をつづったああいう切ない記事が私は好きでしたよ。と思わず過去形で書いてしまったが、これからもマイペースでいい記事を書き継がれてゆくことを祈りたい。

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ところでWill you, won't you want me to make youという「奇妙なお願いの仕方」は、海外サイトによると「不思議の国のアリス」に出てくる「海ガメの歌」のパロディなのだそうである。それを読んで思い出したのが、「日本のヘルタースケルター」と呼ぶにふさわしい、谷山浩子さんのこの曲だった。同じく「アリス」の一節をそのまま日本語に翻訳した内容が歌詞になっているのだけれど、その正確さはもとより、日本語に移した時に問題となる「助詞の選択の仕方」の解決方法が完璧で、私もいつかはこんな訳詞を書けるようになりたいものだと思っている、ひとつの目標である。原文つきで、貼りつけておきたい。


ハートのジャックが有罪であることの証拠の歌

They told me you had been to her,
And mentioned me to him:
She gave me a good character,
But said I could not swim.

He sent them word I had not gone
(We know it to be true):
If she should push the matter on,
What would become of you?

I gave her one, they gave him two,
You gave us three or more;
They all returned from him to you,
Though they were mine before.

If I or she should chance to be
Involved in this affair,
He trusts to you to set them free,
Exactly as we were.

My notion was that you had been
(Before she had this fit)
An obstacle that came between
Him, and ourselves, and it.

Don't let him know she liked them best,
For this must ever be
A secret, kept from all the rest,
Between yourself and me.