華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Eight Miles High もしくは高度12875メートル (1966. The Byrds)



「霧の8マイル」という邦題は、誰がつけたのだろう。あの文字列のおかげで私はこの曲に対し、霧のかかった州間道路を車でぶっ飛ばすロジャー・マッギンのイメージをずっと重ね続けていた。難波-堺間 (関東在住の方だと新宿-三鷹間) に相当するその8マイルをである。

高度8マイルといえば、ほぼ成層圏だ。そんな高さでは霧はおろか、雲だってかからない。だから長距離旅客機はそれぐらいの高さのところを航行する。

と、ものの本には書いてあった。


Eight Miles High

Eight Miles High

英語原詞はこちら


Eight miles high and when you touch down
You'll find that it's stranger than known
Signs in the street that say where you're going
Are somewhere just being their own

高度8マイル
そしてきみが着陸するとき
それは思ってたよりずっとふしぎな
ことだったんだってことがわかるはずだ。
街頭の標識
そこにはきみが行くべき
場所が書かれているのだけどそれは
どこともわからない場所に勝手に立ってるだけ。


Nowhere is there warmth to be found
Among those afraid of losing their ground
Rain gray town known for its sound
In places small faces unbound

あたたかさには
どこでも出会うことができない。
自分の縄張りを奪われてしまうことを
恐れているそういう人たちのあいだでは。
雨の街灰色の街
音に聞こえた音の街には
だれにもしばられることなく
スモール·フェイセスがスタンバってる。


Round the squares huddled in storms
Some laughing some just shapeless forms
Sidewalk scenes and black limousines
Some living, some standing alone

ごった返しの大騒ぎ
に囲まれた交差点が続く。
笑っている人たちもいれば
かたちを持たない人たちもいる。
歩道の風景そして
何台もの黒いリムジン
生き生きしている人もいれば
ひとりぼっちで立っている人たちもいる

=翻訳をめぐって=

  • この歌詞は「素直に読む限り」バーズのメンバーがツアーで初めてカリフォルニアから飛び立ち、ロンドンに降り立ったその時の情景を歌ったものであるらしい。「素直でない読み方」をする人は、その文体や表現技法にいろんなドラッグの影響を見いだそうとしたりするわけだけど、確かに言われてみれば、この歌に歌われているのは俳句的とさえ言いたくなるような淡々とした風景描写。それだけである。
  • そして私は今ごろ気がついたのだけど、ロンドンだから「霧の8マイル」と、そういうことだったのだろうか。しかしそれなら「8マイル下の霧」とかそういう言い方をするべきであって、「霧の8マイル」はやっぱりおかしいと思う。
  • Among those afraid of losing their ground…バーズのイギリスツアーは「ブリティッシュ・インベンションに対するアメリカの回答」という鳴り物入りの宣伝で企画されたものだったから、かれらは行く先々でイギリスのマスコミから、敵意のこもった対応を受け続けたらしい。そしてそれは、とてもつらかったらしい。
  • In places small faces unbound…スモール・フェイセスは、当時のロンドンで最も注目されていたサイケデリックバンド。バーズとは友情で結ばれていた。直訳すると「小さな顔がいっぱい」だけど、そういう意味で読むならファンの人たちの姿を歌っているのだとも受け取れる。