華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band もしくはドクターペッパーの夢 (1967. The Beatles) ※



何だか最近ビートルズの曲ばかり翻訳しているので、いいかげんビートルズから離れたい気もするのだが、「American Pie」に出てくる歌で特集を組むと決めてしまった以上は、最後までやるしかない。むしろこんな機会でもなければいつ取りあげればいいか分からなかったような曲をせっかく「消化」することができるのだから、そこはポジティブに捉えるべきなのかもしれない。

それにしても、うんざりする。

さーじぇんとぺぱーずろんりーはーつくらぶばんど。何て長ったらしい名前なのだろう。

頭文字だけを並べてもSPLHCBである。ほとんど省略する意味がない。えすぴーえるえいちしーびー。がぁうっとおしい。いいとこエスピーで沢山である。

大体「サージェント·ペッパー (ペッパー軍曹)」というのが気に入らない。私はもともと軍隊とか軍人とかそういうのが大キライなのだ。

軍隊や軍人にもいろいろあることは、分かっている。しかし日本だとかアメリカだとかイギリスだとかそういう悪いことばっかりしてきた国家の軍隊やら軍人やらというものが、「いいもの」であるわけがない。「守る」対象がそもそも邪悪なものなのだから、そんなのは邪悪な存在でしかありえない。

前世紀の戦争で沖縄の人たちは日本の軍隊に殺されたのだし、「本土決戦」が現実のものになっていたらもっと多くの「日本人」が日本の軍隊に殺されていたことは間違いないのであって、右翼の大好きな司馬遼太郎の本をちょっとめくってみただけでも当時のそうした実情はいくらでも知ることができる。そうした軍隊が中味をそのままにしたまま看板だけを「自衛隊」と付け替えて「日本を守る」的なことを口にし続けているのだから、こんなウソつきな集団は世界的に見ても皆無とは言わないまでも、珍しいのではないかと思う。

だからそういう国家の軍隊やら軍人やらというものとは、できれば口もききたくないと私は思っている。意地悪でそうするのではない。そんな邪悪な仕事はただちにやめて1人の人間として私を含めた全ての人間に向き合ってほしいと思うから、愛を込めて口をきかないのである。そういう人たちのことを「人間あつかい」するには、他に方法がない。人間を人間あつかいしないために存在しているのが、そういう国家の軍隊なのだからである。

その私にどうして軍人の歌など翻訳してやらねばならない義理があるだろう。人殺しが一般市民の中に紛れ込んでステージの上で暖かい拍手を受けてる設定の歌なんて、醜悪でしかない。人殺しの演奏する音楽はいくらイカしていようとノリノリであろうと、人殺しの音楽なのだ。

同じ人殺しでも反省して改心した人の歌なら、私だって聞こうと思う。しかし軍隊というものはそれが軍隊である限り、人殺しに「誇り」を感じ続けている集団なのである。私は絶対に拍手なんかしてやらない。

調べてみると「sergeant」は警察の階級にも使われている言葉だから、「ペッパー警部」も英語に直すとあれはあれで「Sergeant Pepper」になるのだそうである。しかし私は警察も大キライなので、そんな情報は大して救いにならない。

さらに調べると、イギリスに限った話だけど「法廷弁護士」のことも「sergeant」と言うらしい。いっそ、弁護士の歌として翻訳してやろうか。しかし、世界中の人がこの「sergeant」を「軍曹」で理解しているのは動かしがたい事実なのだから、そんな小細工を弄してみても自分がペテン師になるだけだ。

いずれにしてもこの1曲とこの1枚のアルバムのタイトルの意味を知ってしまった子どもの頃のあの時から、私にはいかにビートルズが「平和の歌」を歌ってみせようと、それがインチキにしか思えなくなってしまったのである。今でもそれは変わらない。だからこの曲に対しては、恨みがある。それまでビートルズのことを身近に感じ続けていた分だけ、それが人殺しを許容する集団だったと知ってしまった時のショックは、今でも忘れられないくらいなのである。

…言いたいことは大体言ってしまったので、後は事務的に翻訳させてもらうことにしようと思う。好きな歌は意味をちゃんと知った上で好きになりたいものだし、キライな歌だってその意味をちゃんと知った上でキライになりたいものだ。そうしないでただ嫌うのは食わず嫌いと同じことだし、その逆は…何て言ったらいいのか分からない。


Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band / With A Little Help From My Friends

Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

英語原詞はこちら


It was twenty years ago today
Sgt. Pepper taught the band to play
They've been going in and out of style
But they're guaranteed to raise a smile
So may I introduce to you
The act you've known for all these years
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

ペッパー軍曹がバンドに演奏を仕込んだのは
今をさかのぼること20年前でありました。
売れたり売れなかったりしながら
こんにちまでやってまいりましたが
みなさまをほほえませること請け合いであります。
それでは紹介させていただきましょう。
長年にわたってみなさまおなじみの演奏
サージェント·ぺパーズ·ロンリーハーツクラブバンドの登場です。


We're Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
We hope you will enjoy the show
We're Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
Sit back and let the evening go
Sgt. Pepper's lonely, Sgt. Pepper's lonely
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
It's wonderful to be here
It's certainly a thrill
You're such a lovely audience
We'd like to take you home with us
We'd love to take you home

サージェント·ぺパーズ·ロンリーハーツクラブバンドと申します。
ショーを楽しんでくださることをご期待申し上げます。
サージェント·ぺパーズ·ロンリーハーツクラブバンドと申します。
夕べのひと時をくつろいでお過ごし下さいませ。
ペッパー軍曹はさびしい人
ペッパー軍曹はさびしい人
さびしい人たちが集まったペッパー軍曹のクラブバンドでございます。
この場に立つことは何たる幸せでありましょう。
ゾクゾクすること間違いございません。
本当に素敵なお客様のみなさん。
一同そろって一緒にうちに連れてお帰りしたいくらいでございます。
連れてお帰りしたいぐらいでございます。


I don't really want to stop the show
But I thought that you might like to know
That the singer's going to sing a song
And he wants you all to sing along
So let me introduce to you
The one and only Billy Shears
And Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

ショーを中断するのは誠に心苦しいのですが
しかしみなさん知りたいとは思いませんか。
あのシンガーがこれから歌を歌うのです。
みなさんにも一緒に歌ってほしいと申しております。
それでは紹介させていただきましょう。
唯一無二のビリー·シアーズ
演奏はサージェント·ぺパーズ·ロンリーハーツクラブバンドでございます。

With A Little Help From My Friendsに続く。

=翻訳をめぐって=

  • 私の知ったこっちゃないのだけど、ペッパー軍曹という人は20年前も軍曹だったのだろうか。そして20年間ずーっと軍曹だったのだろうか。イギリスの軍隊って、そういう組織なんだろうか。
  • アルバム「サージェント·ぺパーズ·ロンリーハーツクラブバンド」は、史上最初の「コンセプトアルバム」だと言われている。ビートルズという現実のバンドがSPLHCB (←使うのかよ) という別のバンドになりきった設定で一枚のアルバムを作りあげる、そういった趣向が採られているわけで、アルバムの一曲目に収録されているこの曲は、言うなれば全体が二曲目の「With A Little Help From My Friends」という曲の「イントロ」となっている。WALHFMF (←わかるのかよ)はここで紹介されたビリー·シアーズという人が歌う設定が採られているのだけど、そのビリー役を「演じて」いるのはリンゴ·スターである。WALHFMFは決してキライな曲ではないし、好きな方だ。ただしこのブログでは以前にジョー·コッカーの曲として紹介済みである。
  • ただしこのアルバムが「コンセプトアルバム」になっているのは実際には最初のその二曲だけで、他に収録されている曲は別にそれぞれつながりや関係性を持っているわけではない。バラバラの曲である。それが「統一感」を与えられた形になっているのは、B面の終わりから二曲目にこの曲の「リプライズ (リプリーズとも発音するとのこと)」が収録されているからで、この「リプライズ」方式を考えたのは、ビートルズのマネージャーのジョージ·マーティンという人だったらしい。彼のアイデアがなければ、素敵なリプライズで演出されているバービーボーイズのあのアルバムや遊佐未森のあのアルバムや小沢健二のあのアルバムも生まれなかったわけだ。ジョージ·マーティン偉い。しかしだからと言ってこの曲のことまでは、やはり私は好きになれない。

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「サージェント·ペッパー」という名前は、「塩コショウ」を意味する「ソルト·アンド·ペッパー」の単なる砕けた言い方だという説もあるし、ドクターペッパーという清涼飲料水の名前に由来しているという説もある。もしもそんな不要なヒネリを入れずにドクターペッパーロンリーハーツクラブバンドというタイトルになっていたならば、私だってこの曲のことをキライになったりしないで済んだはずなのだ。しかしそんなことを言っても、夢でしかない。

ドクターペッパーという飲み物については、ブルーハーツ真島昌利という人がソロで出した「ドクターペッパーの夢」という曲のタイトルで名前だけは知っていたのだけど、関西では売っていなかったから、長いあいだ憧れの飲み物だった。しかし、初めて東京に来た時に自販機で見つけてドキドキしながら飲んだら、あんなに変な味がする飲み物は、他になかった。「わかる」と言ってくれる人が何人いるか分からないけれど、子どもの頃に父親から顔面にヒゲをこすりつけられた時のあのヒゲの匂いがしたのである。それ以来、口にしたことはない。飲んでいる人を見かけると、「ヒゲが好きなんだろうか」とか、「ヒゲに飢えてるんだろうか」とか、思ってしまう。

何にせよ、気の進まない翻訳の後はこうした懐かしい歌で、口直しと行きたい。ドクターペッパーが「口直し」になるのだろうかとか考え始めると、またよく分からないことになってしまうのだけど。というわけで、またいずれ。


真島昌利 ドクターペッパーの夢