華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Sympathy for the Devil もしくは悪魔に共感をおぼえる歌 (1968. The Rolling Stones)



American Pie」のクライマックス近くで歌われているのは、いわゆる「オルタモントの悲劇」のエピソードである。「平和の祭典」として歴史的な成功をおさめた69年8月のウッドストック·フェスティバルからわずか4ヶ月後の12月、ローリングストーンズが主催したもののさまざまな準備不足のために大混乱に陥り、最後には演奏中に殺人事件が発生してストーンズのメンバーがヘリコプターで会場を脱出するに至ったこのフリーコンサートは、まさに「音楽の死んだ日」を決定的に印象づける出来事となった。などと見てきたようなことを言うけれど、当時生まれていなかった私も、後の時代になってから出されたいろんな資料に触れて、つくづくそうだったのだろうなと思った。そういえば20年前に台風の中で開催された第1回目のフジロックフェスティバルに行った際、あまりの混乱ぶりに会場のあちこちで「オルタモントの悲劇」という言葉がささやかれるのを耳にして、10代だった私はマジで恐怖を感じたことを覚えている。

「American Pie」の歌詞に出てくる「悪魔」には明らかにこの歌のイメージが投影されているのだけれど、オルタモントで殺人事件が起こったのはこの歌の演奏中のことだったという有名な「伝説」に関しては、ウソらしい。あるいはそれが「伝説」になってしまったこと自体が、「American Pie」の影響だったのかもしれない。
オルタモント・フリーコンサート - Wikipedia

長井雅楽 長い歌である。淡々と翻訳させてもらうことにしたい。


The Rolling Stones - Sympathy For The Devil -HQ

Sympathy For The Devil

英語原詞はこちら


Please allow me to introduce myself
I'm a man of wealth and taste
I've been around for a long, long year
Stole many a man's soul and faith

自己紹介させてください。
私には財産があり審美眼があります。
私は何年も何年もこの世界にいて
多くの方から魂と信仰を盗みとってまいりました。


And I was 'round when Jesus Christ
Had his moment of doubt and pain
Made damn sure that Pilate
Washed his hands and sealed his fate

エス·キリストが十字架の上で
「神よ、なぜ私を見捨てたのか」と叫んだ時にも
私はそのそばにおりました。
エスの裁判官になったピラトが
「自分には関係ない」とその手をぬぐって
彼の運命を決定づけるように持って行くべく
万端手を回していたのは私でありました。


Pleased to meet you
Hope you guess my name
But what's puzzling you
Is the nature of my game

お会いできて光栄です。
私の名前がわかりますかな。
とはいえあなたが頭を悩ませているのは
私のゲームがいったい
どういうゲームなのかという
そのことについてなのでしょうな。


I stuck around St. Petersburg
When I saw it was a time for a change
Killed the Tsar and his ministers
Anastasia screamed in vain

サンクトペテルブルクにも
張りついておりましたよ。
あれは革命の時代でした。
皇帝と大臣たちを殺したのは私ですよ。
皇女アナスタシアは
無意味に泣き叫んでおりましたな。


I rode a tank
Held a general's rank
When the blitzkrieg raged
And the bodies stank

戦車にも乗っておりました。
大将だけが乗っていいやつです。
電撃戦が始まった時のこと。
人々の死体が悪臭を放っておりました。


Pleased to meet you
Hope you guess my name, oh yeah
Ah, what's puzzling you
Is the nature of my game, oh yeah

お会いできて光栄です。
私の名前がわかりますかな。
とはいえあなたが頭を悩ませているのは
私のゲームがいったい
どういうゲームなのかという
そのことについてなのでしょうな。


I watched with glee
While your kings and queens
Fought for ten decades
For the gods they made

歓喜に打ち震えて見ておりましたよ。
あなたがたの王たちと女王たちが
100年間も争い合う姿を。
自分たちのこしらえた神のためにね。


I shouted out,
"Who killed the Kennedys?"
When after all
It was you and me

私は叫びましたよ。
ケネディ兄弟を殺したのは誰なんだ?」
結局のところそれは
あなたと私だったわけですけどね。


Let me please introduce myself
I'm a man of wealth and taste
And I laid traps for troubadours
Who get killed before they reached Bombay

自己紹介します。
私は財産があり審美眼を持つ者です。
吟遊詩人たちに罠を仕掛け
ボンベイの港に着く前に
殺されるように仕向けたのも私ですよ。


Pleased to meet you
Hope you guessed my name, oh yeah
But what's puzzling you
Is the nature of my game, oh yeah, get down, baby

お会いできて光栄です。
私の名前がわかりますかな。
とはいえあなたが頭を悩ませているのは
私のゲームがいったい
どういうゲームなのかという
そのことについてなのでしょうな。
まあ
楽しくやろうじゃないか。
ベイビー。


Pleased to meet you
Hope you guessed my name, oh yeah
But what's confusing you
Is just the nature of my game

お会いできて光栄です。
私の名前がわかりますかな。
とはいえあなたが頭を悩ませているのは
私のゲームがいったい
どういうゲームなのかという
そのことについてなのでしょうな。


Just as every cop is a criminal
And all the sinners saints
As heads is tails
Just call me Lucifer

あらゆる警官が犯罪者であるように
あらゆる罪人が聖人であるように
あらゆる物事に裏と表があるように
私のことはこう呼んでください。
ルシファーと。


Cause I'm in need of some restraint
So if you meet me
Have some courtesy
Have some sympathy, and some taste

と言いますのも私は現在
ちょっとした自制を必要としておりましてな。
ですからあなたも私に対しては
丁重に接して頂きたい。
私に対する賛意と
センスのいい趣味とを
忘れないで頂きたい。


Use all your well-learned politesse
Or I'll lay your soul to waste, um yeah
Pleased to meet you
Hope you guessed my name, um yeah

あなたが身につけてきた
立派な礼儀作法のすべてを尽くして頂きたい。
さもなくば私はあなたの魂を
悪い方へ持って行くことになりましょうな。
ふむ。
お会いできて光栄です。
私の名前はもうお分かりでしょうな。


But what's puzzling you
Is the nature of my game, um mean it, get down
Woo, who
Oh yeah, get on down

とはいえあなたが頭を悩ませているのは
私のゲームがいったい
どういうゲームなのかという
そのことについてなのでしょうな。
ふふふ覚えておけ。
楽しくやろうじゃないか。


Oh yeah
Oh yeah!
Tell me baby, what's my name
Tell me honey, can ya guess my name

さてさてベイビー。
おれの名前を当ててくれよ。
教えてくれよハニー。
おれの名前がわかるかい?


Tell me baby, what's my name
I tell you one time, you're to blame
Ooo, who
Ooo, who

言ってくれよベイビー。
おれの名前は何だっけ?
いちど教えてあるよな。
悪いのはお前だぜ。


Ooo, who
Ooo, who, who
Ooo, who, who
Ooo, who, who

誰?誰?
誰なんだ?
誰なんだ誰なんだ誰なんだ?


Ooo, who, who
Oh, yeah
What's my name
Tell me, baby, what's my name

Tell me, sweetie, what's my name
Ooo, who, who
Ooo, who, who
Ooo, who, who

Ooo, who, who
Ooo, who, who
Ooo, who, who
Ooo, who, who

Oh, yeah

=翻訳をめぐって=

  • 歌の中に織り込まれている歴史的なエピソードがあまりに沢山あるので、全部を「解説」するのは私の手に余る。キリストに関して書かれている部分に関しては結局聖書を読んでもらうのが一番早いし、ロシア革命について書いてある部分についてはそれ関係の本を読んでもらうのが一番「確実な理解」につながるだろうと思う。
  • この歌に出てくる「紳士的な悪魔」のイメージは、ソ連時代のロシアで書かれた「巨匠とマルゲリータ」という小説に出てくる悪魔像をモチーフにしているらしい。私は最近読んだのだけど、何ちゅーか、いまいちだった。なので別に薦めない。
  • 「大将用の戦車に乗っていた」という歌詞は、悪魔とヒトラーが同一人物だったことを暗示している。blitzkriegは第二次大戦当時のナチスドイツが周辺国への侵攻を開始した時に掲げられていた「戦闘教義」の呼び名。て言っかラモーンズの「blitzkrieg bop」ってそういう意味だったのかと私は目からウロコが落ちたような気がしているのだけれど、そちらの翻訳はまた別の機会の話である。
  • Fought for ten decades…これまた大昔の「百年戦争」のことだけど、「百年戦争」って調べてみたら、世界史上にふたつある。合計200年かよ。いいかげんにしてほしい。
  • "Who killed the Kennedys?"…60年代にアメリカの大統領だったジョン·F·ケネディと、その跡を継ぐべく大統領選に立候補していた弟のロバート·ケネディとが、相次いで暗殺された事件をさす。
  • And I laid traps for troubadours…この歌詞の中で一番わかりにくい部分だったけど、海外サイトの解説によると、イギリスが植民地支配していた時代のインドに実在した「タギー」という暗殺集団のことを歌った歌詞であるらしい。Wikipediaで調べてみるといろいろおどろおどろしいことが書いてあるけれど、それを壊滅させたことで「イギリスは植民地支配を通じて『いいこと』をした」、みたいな話になっているから、こういう話は眉にツバをつけて読んだ方がいいと思う。タギー - Wikipedia
  • Just call me Lucifer…作り話をめぐってあれこれ言っても仕方ない気がするのだけど、キリスト教によれば悪魔というのは昔は天使だったのだそうで、ルシファーというのはその「堕天使」の名前なのだそうである。そのルシファーという人 (?) が天使の位から「堕」して悪魔となり、「サタン」に名前を変えるのだけど、この歌の主人公はその「天使時代の名前」しか、聞き手の我々に教えてくれない。従って「悪魔」はこの歌の中で最後まで自分の「本名」を明かさないわけで、そういう演出にキリスト教世界の人たちは、ゾクゾクするのだという。するらしい。知らない。

…歌の終わりになって訳詞の中の悪魔の口調がだんだん変わってきてしまったのは、訳しているあいだは自覚していなかったけど、結局むかし学校で習ったシューベルトの「魔王」の歌詞が、私の中にずーっと影響を残し続けていたことのあらわれなのだと思う。

じたばたしてもさらってくぞ。

ではまたいずれ。