華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Me & Bobby McGee もしくは ばいばいみすあめりかんぱい (1971. Janis Joplin)

「ミー·アンド·ボビー·マッギー」は、70年代になった途端に登場した、クリス・クリストファソンという変わった名の、まったく新しいカントリーのソングライターのつくった歌だ。それまでのカントリーの歌の光景を一どに引っくりかえしたのが、クリストファソンの歌だ。

いま、ここに、忘れてはいけない何かを、もしまざまざと思いださせるのが歌の言葉のちからだとすれば、そのような歌の言葉のちからを、クリストファソンの「ミー·アンド·ボビー·マッギー」は、どんな歌よりもずっともちつづけてきた歌だ。ジャニスは言った。誰も歌の言葉なんか聴いてないんだ。ちきしょう。でも、わたしは聴いてる。わたしは信じてる。でなきゃ、うたえないものね。誰も大切にしない歌の言葉を、ジャニスは大切にした。ジャニスのうたうクリストファソンの歌からは、言葉が聴こえる。

歌の言葉が、こころに根を下ろしてしまう。そして時代とともに、木のように、こころのなかにいっそうそだってゆくような歌がある。

長田弘 「アメリカの心の歌」 よりー


Janis Joplin - Me & Bobby McGee

Me & Bobby McGee

英語原詞はこちら


Busted flat in Baton Rouge, waiting for a train
I was feeling near as faded as my jeans.
Bobby thumbed a diesel down just before it rained,
And rode us all the way to New Orleans.

バトンルージュでお金を使い果たして
列車を待っていた。
褪せた自分のジーンズの色みたいに
消えてしまいそうな気持ちだった。
雨が降り出す直前に
ボビーが上げた親指を見た
ディーゼルトラックが止まってくれて
私たちのことをニューオーリンズまで
ずっと送り届けてくれた。


I pulled my harpoon out of my dirty red bandanna,
I was playing soft while Bobby sang the blues.
Windshield wipers slapping time, I was holding Bobby's hand in mine,
We sang every song the driver knew.

わたしは汚れた赤いバンダナの中から
ハーモニカを引っ張り出し
ボビーが歌うブルースにあわせて
やさしく吹き鳴らしていた。
フロントガラスのワイパーがメトロノームの代わり。
わたしはボビーの手を握りしめていた。
運転手さんの知っていた
全部の歌をわたしたちはうたった。


Freedom's just another word for nothing left to lose,
Nothing don't mean nothing honey if it ain't free, now now.
And feeling good was easy, Load, when he sang the blues,
You know feeling good was good enough for me,
Good enough for me and my Bobby McGee.

自由というのは
失うものを何も持っていないという意味の
ありふれた言葉だ。
何もないってことは
ただ何もないってことじゃない。
そうだよね。
たとえそれが自由なんかじゃなくても。
そうなんだよ。
かれがブルースを歌えば
いい気持ちになるのは簡単なことだった。
そうですかみさま。
いい気持ちになれたら
それで充分だった。
わたしとボビー·マッギーには
それで充分だった。


From the Kentucky coal mines to the California sun,
Hey, Bobby shared the secrets of my soul.
Through all kinds of weather, through everything that we done,
Hey Bobby baby kept me from the cold.

ケンタッキーの炭鉱の穴の中から
カリフォルニアの太陽の下まで
ボビーとわたしは
たましいの秘密を分かちあった。
ありとあらゆる天気の下をくぐりぬけ
ありとあらゆることをやってきたそのあいだじゅう
ボビーはわたしのことを
寒さから守り続けてくれた。


One day up near Salinas, Lord, I let him slip away,
He's looking for that home and I hope he finds it,
But I'd trade all of my tomorrows for one single yesterday
To be holding Bobby's body next to mine.

サリナスの近くまでやってきたある日
かれは黙って姿を消し
それを知っていた私も何も言わなかった。
かれはあのふるさとを探していたのだ。
見つかるといいと思う。
でもわたしは自分のすべての未来を
昨日という1日と取り替えたってかまわない。
ボビーのからだを自分のそばに
抱きしめていられたあの時と。


Freedom's just another word for nothing left to lose,
Nothing, and that's all that Bobby left me, yeah,
And feeling good was easy, Load, when he sang the blues,
Hey, feeling good was good enough for me, hmm hmm,
Good enough for me and my Bobby McGee.

自由というのは
失うものを何も持っていないという意味の
ありふれた言葉だ。
何もないということ。
それがボビーが私に残してくれたすべてだった。
かれがブルースを歌えば
いい気持ちになるのは簡単なことだった。
そうですかみさま。
いい気持ちになれたら
それで充分だった。
わたしとボビー·マッギーには
それで充分だった。


La la la, la la la la, la la la, la la la la
La la la la la Bobby McGee.
La la la la la, la la la la la
La la la la la, Bobby McGee, la.

La La la, la la la la la la,
La La la la la la la la la, hey now Bobby now Bobby McGee yeah.
Na na na na na na na na, na na na na na na na na na na na
Hey now Bobby now, Bobby McGee, yeah.

Lord, I'm calling my lover, calling my man,
I said I'm calling my lover just the best I can,
C'mon, where is Bobby now, where is Bobby McGee, yeah,
Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lord
Hey, hey, hey, Bobby McGee, Lord!

かみさま。
わたしは自分の恋人を呼んでいます。
わたしのひとを呼んでいます。
恋人の名前を呼んでいるんです。
ありったけの力で。
来てください。
ボビーは今どこにいるのですか。
ボビー·マッギーはどこにいるのですか。
かみさまかみさまかみさまかみさま
ボビー·マッギーは
かみさま


Yeah! Whew!

Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lordy Lord
Hey, hey, hey, Bobby McGee


Kris Kristofferson~ Me and Bobby Mcgee

=翻訳をめぐって=

  • 今回聞き返してみて初めて気づいたのだが、ジャニスという人はsという文字を絶対「ざじずぜぞ」で発音しない。他の人がそう発音するところもほとんどすべて「さしすせそ」で発音しており、それが何だかすごく、やさしい感じがする。
  • I was holding Bobby's hand in mine…クリス·クリストファソンの原曲では「Bobby clappin' hands (ボビーは手拍子をとっていた」という歌詞になっている。もともとは男同士の友情の歌だったのかと思ったけど、歌詞を読んだらクリストファソンのバージョンではボビー·マッギーが「She」になっていた。男女が逆転していたのだ。
  • Nothing don't mean nothing honey if it ain't free…この部分は、大手歌詞サイトのあいだでも数種類の違った聞き取りがなされており、ジャニスが何と歌っているかに関しては「これが正解だ」と言えるような統一的見解は、まだ出されていないらしい。他に見られる歌詞表記としては
    • Nothing, I mean nothing, honey if it isn't free (何もない。もしそれが自由じゃないんなら、何の意味もない)
    • Nothing, it ain't nothing, honey if it ain't free (何もないということ。もしそれが自由でないとしても、それは決して無意味なことではない)
  • なお、クリス·クリストファソンの原詞は「And nothin' ain't worth nothin' but it's free」(何もないということには何の価値もないが、しかしそれは自由だ)。ジャニスが正確に何と歌っているのかは分からないが、少なくとも「そういう気持ち」で歌っているのだということは、間違いないと思う。私もこの部分の翻訳に関しては、あまり自信がない。


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American Pie」の最後の部分で、一瞬だけ姿を見せる「女の子」。彼女の歌からここで1曲選ぶとすれば、やはりこの歌以外には考えられなかった。気がつけば12曲もの歌を取りあげることになってしまったAmerican Pie特集は、今回をもって終了です。次回からは、通常展開に戻ります。ではまたいずれ。