華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

When You Awake もしくは祖谷の谷から何が来た (1969. The Band)


…5人中4人が、20代です。右から2人目のガース・ハドソンすら、30代になったばかりです。

前回のクラッシュの曲からザ・バンドにつなげられる要素を見つけるのはなかなか難しかったので、「お題」の力を借りることにする。はてなブログ今週のお題は「私のおじいちゃん、おばあちゃん」だとのことで、「おじいちゃん」の出てくるザ・バンドの歌といえば、この曲である。

ちなみに自分の「おじいちゃん」のことに関して、私には書けるようなことが何もない。「おじいちゃん」のことを差し置いて、「おばあちゃん」の話だけをするわけにも行かないと思う。

私の祖父は1937年に、天皇の軍隊の兵士として中国大陸にいた。本人の話や文字に書かれた言葉から、私が知っている事実はそれだけだ。

戦場ではやれ蛇を食べただのコウモリを食べただの、「苦労」した話だけはいろいろと聞かされた。しかしなぜ祖父は人殺しの道具に身を固めて中国大陸に行ったのか。そして中国大陸のどこで何をしたのか。祖父の人生でも一番重要な問題だったに違いないそのことについては、祖父の口からは一度も語られることがなかった。

だから私は祖父という人のことを、本当は何も知らないのである。

私と同じような人がこの島国には、きっと気が遠くなるぐらい沢山いるのだと思う。


When You Awake

When You Awake

英語原詞はこちら


Ollie told me, I'm a fool
So I walked on down the road a mile
Went to the house that brings a smile
Sat upon my grandpa's knee
And what do you think he said to me?

オリーはぼくを
foolだと言った。
だからぼくは1マイルも歩き続けて
ひとを笑顔にしてくれるあの家に行った。
おじいちゃんはぼくを
ひざの上に座らせて
ぼくに向かって何て言ったと思う?


When you awake you will remember everything
You will be hangin' on a string from your...
When you believe, you will relieve the only soul
That you were born with to grow old and never know

目を覚ましてさえいれば
おまえは何でも覚えていることができる。
おまえのあれから下がった糸に
しっかりとしがみついていることだ。
信じようとさえすれば
おまえは自分が持って生まれた
たったひとつのたましいをおちつかせて
年をとることができるし
最後までわからなくても
苦しまなくて済むようになるはずだ。


Ollie showed me the fork in the road
You can take to the left or go straight to the right,
Use your days and save your nights
Be careful where you step, and watch what ya eat,
Sleep with a light and you got it beat

オリーはふたつに分かれた道を
ぼくに示した。
左を選ぶこともできるし
まっすぐ右に行くことだってできる。
昼間の時間を使って
夜の時間はとっておくこと。
足もとに気をつけて
自分が食べるものはちゃんとよく見て食べること。
寝る時にも明かりを忘れるな。
そうすればおまえの勝ちだよ。


When you awake you will remember everything
You will be hangin' on a string from your...
When you believe, you will relieve the only soul
That you were born with to grow old and never know

気をつけてさえいれば
おまえは何でも覚えていることができる。
おまえのあれから下がった糸に
しっかりとしがみついていることだ。
信じようとさえすれば
おまえは自分が持って生まれた
たったひとつのたましいをおちつかせて
年をとることができるし
最後までわからなくても
苦しまなくて済むようになるはずだ。


Ollie warned me, it's a mean old world,
The street don't greet ya, yes, it's true
But what am I supposed to do
Read the writing on the wall
I heard it when I was very small

オリーはぼくに釘を刺した。
世の中というのは扱いにくくて
どうしようもないものだよ。
街の通りはおまえのことを
暖かく迎えてはくれないことだろう。
それは確かにその通りだ。
でもぼくにどうしろって言うんだろう。
とても小さかった頃に聞いたことがある。
壁に書かれた言葉を読め。


When you awake you will remember everything
You will be hangin' on a string from your...
When you believe, you will relieve the only soul
That you were born with to grow old and never know

生きてさえいれば
おまえは何でも覚えていることができる。
おまえのあれから下がった糸に
しっかりとしがみついていることだ。
信じようとさえすれば
おまえは自分が持って生まれた
たったひとつのたましいをおちつかせて
年をとることができるし
最後までわからなくても
苦しまなくて済むようになるはずだ。


Wash my hands in lye water
I got a date with the Captain's daughter
You can go and tell your brother
We sure gonna love one another all night

苛性ソーダで手を洗おう。
キャプテンの娘とデートなんだ。
行ってきみの兄弟に伝えてやるといい。
ぼくらは一晩じゅう愛しあうのだ。


You may be right and you might be wrong
I ain't gonna worry all day long

あなたは正しいのかもしれないし
間違っているかもしれない。
一日中くよくよしているのは
もうやめることにする。


Snow's gonna come and the frost gonna bite
My old car froze up last night
Ain't no reason to hang my head
I could wake up in the mornin' dead

雪が降り出すだろうし
あられも噛みついてくるだろう。
ぼくのぽんこつ車は昨日の夜に
すっかり凍りついてしまった。
別に恥ずかしい話じゃない。
明日の朝になればぼくだって
死んでたりするかもしれないんだ。


And if I thought it would do any good
I'd stand on the rock where Moses stood...

そしてもしもそうした方がいいって
自分でも思ったなら
モーゼが立ったあの岩の上にだって
ぼくは立つ…

=翻訳をめぐって=

Ollie told me…
私が中学生の時に買ったCDの歌詞カードには、この部分が「Oh they told me (彼らは私に言った)」と書かれていた。英語圏でもそういう風に聞こえていた人はたくさんいるようで、古い歴史を持つザ·バンドの公式ファンサイトでは、20世紀末の段階から「Ollieか Oh theyか」論争が繰り広げられていたさまが見てとれる。やがて歌詞の表記が「Ollie (もしくはOle)」に統一されてくると、今度は「オリーって誰やねん」論争が始まって、これは現在に至っても決着がついていないようである。北欧神話に出てくるOleという神の名前が、スカンディナヴィア半島にルーツを持つアメリカ人の間では今でもいろいろな例え話に使われているということと結びつける人もいるみたいだし、リック・ダンコの母親がLeyolaという名前で、友達からはOleと呼ばれていたという話をリック自身のソロコンサートで聞いたという人の証言もある。 Let It Beの「Mother Mary」に通じるような話である。ただしこの歌はリック自身が作ったものではない。そしてオリーが男性か女性かを確定できるような情報は、この歌詞自体の中には書かれていない。
Peter Viney on "When You Awake"

foolという差別語に対するこのブログでの見解は、最近書いたこの記事の中で触れた通り。

Sat upon my grandpa's knee…原文は能動態だが、訳詞は受動態に変えている。その方が日本語としては読みやすくなると思ったので。

When you awake…
ザ·バンドのいろいろな歌詞の中でも最も謎めいた言葉が、このコーラス部分には綴られている。海外サイトを見てもたいていの人が、ここに歌われていることは「意味が分からない」と言っている。とはいえ、英語話者が「意味が分からない」ということと、英語話者でない人間が「意味が分からない」ということとは、同じではない。

たとえば日本には「かごめかごめ」という有名な「意味のわからない歌」があるけれど、我々があの歌を「意味が分からない」と感じるのは、「夜明けの晩」や「うしろの正面」といった通常ではありえないような表現に、矛盾を感じるからである。また「かごめかごめ」というフレーズは何通りにも解釈できるから(籠目、籠女、囲め…)「意味が分からない」わけだし、「鶴と亀」は明らかに「別の何か」を象徴しているけれどそれが何かが分からないから「意味が分からない」のである。

つまり「意味が分からない」というのは、言葉の意味を「分かって」いるからこそ、初めて下すことのできる評価なのである。

あるいは私が子どもの頃に熱中していた小学館の「名探偵入門」という本に、「何百年にもわたっていまだに解かれていない、財宝の在り処を示した暗号」として、徳島県に伝わる以下のような民謡が紹介されていた。

九里きて、九里行って、九里戻る
朝日輝き夕日が照らす
赤い椿の根に隠す
祖谷の谷から何がきた
恵比寿大黒、積み降ろした
三つの宝は庭にある
祖谷の空から、御龍車が三つ降る

…これだって「意味のわからない歌」だけど、言葉の意味自体は、決してわからなくないのである。「わかるからこそ、わからない」のである。それを言いたいだけなら「かごめかごめ」を例に挙げれば充分だったのだけど、私と同じように小さい頃この歌の謎解きに熱中していた人のブログをひとつだけ見つけたので、うれしくなって一緒に取りあげてしまった。
宝探し 1 - 笑福亭和光のブログ:わこーこわっ!

要するに「言葉の意味が分かった上で意味が分からないと言う」のと「言葉の意味さえ分からない」のとは、違うのだ。中学生の頃から何が何だか分からなかったこの歌を、後者の状態から前者の状態にまで持って行くことは、少なくとも翻訳という作業を通して、可能になるはずである。「うしろの少年」とか「かごの中の鳥居」とか「いついつJR」とかそういう致命的な誤訳にさえ気をつければ、同じ人間の話す言葉なのだから、そうそうおかしなことにはならないはずだ。要は、語彙と文法の問題なのである。(なお、地方によっては「うしろの少年」とか「かごの中の鳥居」で歌っている場所もあるそうですし、そう解釈する方が正しいという説も聞いたことがありますが、ここでは飽くまで「流布されている歌詞を正確に再現すること」の重要さを示すために、上のような例を使わせて頂きました)

というわけで、今回の記事ではこのコーラス部分に歌われていることの意味を、文法的な話に絞って、集中的に分析してみたいと思う。

When you awake…awakeは動詞としては「目が覚める」「気づく」「活気づく」などの意味。形容詞としては「意識のある状態」全般に使われる言葉だが、When you are awakeではなくWhen you awakeなので、ここでは動詞として解釈すべきだと言える。試訳では「目を覚ましてさえいれば」「気をつけてさえいれば」「生きてさえいれば」と三通りに解釈した。少なくとも英語ではそのどの意味にも解釈できるし、その中からひとつだけを選ばねばならないような話にも、ならない。

You will be hangin' on a string from your...
この最後の部分が昔の歌詞カードでは「but oh...(しかし、ああ)」と記載されていたのだが、現在確認することのできるほぼ全ての歌詞では「from your...」となっている。「おまえの」以降の言葉が省略されているのだ。日本語ではそういう言葉の切り方が物理的に不可能なので、「おまえのあれから下がった糸」という形で翻訳する方法しか、私には思いつかなかった。(なお、ライブの際にはこの部分に「from your heart」と歌われていたという証言がある。だとしたら「おまえの心からたれ下がった糸」という意味になる)
You will be hangin' on a stringは、単純な未来形である。これが「しがみついていることだ」というアドバイス的なニュアンスを持っているのか、「しがみついていることだろう」という客観的な予想のニュアンスになっているのかは、ネイティブでないので私には判断できない。文脈的に前者ではないかという山カンで訳したが、誤訳の可能性が否めない箇所である。

you will relieve the only soul that you were born with to grow old and never know
…文法的には一番ここが複雑である。いったんwithで言葉を切るなら、「お前はお前が持って生まれた唯一の魂を落ち着かせることができるだろう」という意味になる。that you were born withという部分は全体がsoulという言葉を修飾しているわけで、このことからして相当英語表現に慣れるまでは、チンプンカンプンだった。だが問題はその後なのである。

to grow old and never know。これは「成長して年をとるために、そして、ずっとわからずにいるために」おまえはsoulをrelieveさせるのだ、と言っているようにしか、私には読めない。しかし「to never know」などという奇妙な文字列は、今までに一度も見たことがない。あるいはこの「never know」は、「to never know」ではなく「you will never know」と解釈すべきフレーズなのかもしれない。けれども「When you believe, you will never know」では、信じたっていいことなんかひとつもないように思えるし、おじいちゃんのアドバイスだとも思えない。とはいえ「わけが分からないからこそ」おじいちゃんのアドバイスとして説得力を持つのではないかという風にも、一方では、思える気がする。

思うに「When you believe (お前が信じる時には)」というのは、宗教的な話である。魂をrelieveさせる(不安を和らげる、ホッとさせる、落ち着かせる、救済する…)ために「信じろ」というのがおじいちゃんの話の骨子であることは、まず間違いない。ではなぜ「魂を落ち着かせる」ことが必要になるのかといえば、人間にとって年をとることや何も知らないままでいることは、常に「不安」なことだからである。その不安を克服するためにこそ「魂を落ち着かせろ」と、おじいちゃんはアドバイスしているのだと思われる。そうした全体的なイメージを総合して書いたのが上の試訳であるわけなのだけど、文法に即した翻訳にはなっていない。完全に意訳である。そして「文法的に正しい翻訳」がどういう日本語になるのかは、今の私には分からないとしか言いようがない。心ある英語教師の方とか、日本語に詳しい英語話者の方とか、もし読んでおられたら、意見を聞かせて頂ければ幸いです。

…後は、細かい話。

Sleep with a light and you got it beat
Sleep with a lightの直訳は「ひとつの明かりと共に眠れ」である。最初は「寝る時には明かりをつけておくこと」と訳したのだが、そうすると意訳のしすぎになるかもしれない。たとえばそこに「眠る時にも心の中の信仰の光を絶やしてはならない」みたいな意味が含まれているのだとしたら、上の訳し方は大誤訳である。しかし直接そう書いてあるわけでもないから、勝手に忖度してそんな風に訳してしまえば、場合によってはもっと大誤訳になる。だから文法的には少し離れるけれど、「寝る時にも明かりを忘れるな」という訳詞にした。こういうのは、文法的な意味が分かった上での意訳だから、多少大胆なことだってできるのである。しかし文法的な意味が分からない上での意訳というのは、本当に怖いのである。

Read the writing on the wall / I heard it when I was very small
ここはネイティブの人でも理解に苦しんでいる場所。「壁に書かれた言葉を読め」という言葉を子どもの頃に聞いたのか、「壁に書かれた言葉の内容」について子どもの頃に聞いたのかが、この言い方では判然としないのである。だから「苦労して」日本語でも判然とさせないような翻訳を心がけた。
なお、旧約聖書のダニエル書には、バビロンの王が宴会を開いている時に突然空中に「手」が現れ、王の破滅を予言するメッセージを壁に書きつけたという故事が記録されており、Read the writing on the wallという歌詞からは、多くの英語話者がそのイメージを連想するのだという。


Wash my hands in lye water…lye waterの一番正確な訳語は「かん水」で、ラーメンを打つ時にコシを出すのに使われるという話は聞いたことがあるけど、私は現物を見たことがない。苛性ソーダ(水)の方が、まだイメージが湧いてくる。どちらも手がボロボロになるぐらい、強いアルカリ溶液だそうである。

I got a date with the Captain's daughter…この部分では歌の主人公が、成長して青年になっていることがうかがわれる。何となくここから先は「ぼく」でなく「おれ」で訳した方が「自然」になる気もしたのだが、自重した。

You may be right and you might be wrong…直前にもyouが出てくるけれど、このyouは何となくオリーのことを指しているようにも思えた。だから「きみ」で翻訳すると、誤訳につながるような気がした。

I'd stand on the rock where Moses stood…この部分には「I Bowed My Head and Cried Holy」という黒人霊歌の歌詞がそのまま使われているのだという。「モーゼの立った岩」とは、旧約聖書の中でモーゼが神から十戒を授けられた場所をさしている。というわけでその歌が歌われている動画を貼りつけて、今回の記事は締めくくることにしたいと思います。また1万字を越えてしまった。どうせこういう記事は、読んでもらえないこと、分かってるんだよなあ。でも本気でつきあってくれる人が2〜3年に1人でも現れてくれたなら、私としてはそれで満足なのである。ではまたいずれ。


I Bowed My Head and Cried Holy