華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Rudie Can't Fail もしくはルーディだったら大丈夫 (1979. The Clash)



前回は「人から説教されること」をテーマにした曲だったと言えるが、そのテーマでクラッシュの曲と言えば、一択でこの歌だ。私自身、大好きな曲である。


Rudie can't fail

Rudie Can't Fail

英語原詞はこちら


Sing, Michael, sing-on the route of the 19 Bus!
Hear them sayin'

歌おうぜ、マイケル。
19号線のバスの中で!
やつらの言うことを聞いてみなよ。


How you get a rude and a reckless?
Don't you be so crude and a feckless
You been drinking brew for breakfast
Rudie can't fail

「どうしてきみらはそんなに乱暴で向こう見ずなんだ」
「がさつで無気力なその態度はやめてもらえないか」
「朝食代わりにビールを飲んでるし」
「ルーディってのは失敗するわけに行かないんだろう?」


So we reply
I know that my life make you nervous
But I tell you that I can't live in service
Like the doctor who was born for a purpose
Rudie can't fail

だからおれたちは言い返してやるんだ。
自分の生き方があんたの神経に触るのは分かってるさ。
でも教えてやるよ。
人に頭を下げて生きるなんてことは
おれにはできないんだ。
「目的を持って生まれてきた」と歌ってる
ドラ·アリマンタードと同じ気持ちさ。
おれたちルーディのことなら
心配してくれなくたって大丈夫だよ。


I went to the market to realize my soul
'Cause what I need I just don't have
First they curse, then they press me till I hurt
We say Rudie can't fail

自分の魂をリアライズするために
おれはマーケットに行った。
自分に必要なものをおれは持っていない。
単純な理由だ。
はじめにやつらが口にするのは
決まって悪口で
次にはこちらがペシャンコになるまで
いろいろ問いつめてくる。
おれたちは言ってやるんだ
ルーディってのは
しくじるわけに行かないんだよ。


We hear them sayin'
Now first you must cure your temper
Then you find a job in the paper
You need someone for a saviour
Oh, Rudie can't fail

やつらが言ってるのが聞こえるよ。
「きみたちはまずその気性を改めるべきだ」
「それから新聞で仕事を探したまえ」
「きみらには救い主となるような誰かが必要なんだ」
「ルーディってのは失敗するわけに行かないんだろう?」


So we sa-ay
Now we get a rude and a reckless
We been seen lookin' cool an' a speckless
We been drinking brew for breakfast
So Rudie can't fail

だからおれたちは言ってやるんだ。
確かにおれたちは乱暴で向こう見ずだよ。
人からはクールできちんとしてるって思われてるよ。
ずっと朝飯代わりにビールを飲んでるよ。
だからルーディのことなら
心配してくれなくたって大丈夫だよ。


I went to the market to realize my soul
'Cause what I need I just don't have
First they curse, then they press me till I hurt
We say Rudie can't fail

自分の魂をリアライズするために
おれはマーケットに行った。
自分に必要なものをおれは持っていない。
単純な理由だ。
はじめにやつらが口にするのは
決まって悪口で
次にはこちらがペシャンコになるまで
いろいろ問いつめてくる。
おれたちは言ってやるんだ
ルーディってのは
しくじるわけに行かないんだよ。


Okay!
So where you wanna go today?
Hey boss man!
You're looking pretty smart
In your chicken skin suit

オッケー!
そんでおまえたち今日はどこに行くんだ?
よお社長さん!
その鳥肌スーツ
とってもスマートに見えるぜ。


You think you're pretty hot
In your pork pie hat
But...

あんたのポークパイハット
めちゃめちゃ行けてるって思ってるんだろうな。
でもよお…


Look out, look out...
Sky juice!...10 cents a bottle!

気をつけろ気をつけろ…
カイジュース!
1本10セントだよ!


Rudie can't fail
Rudie can't fail
Rudie can't fail
Rudie can't fail...

ルーディだったら大丈夫。
ルーディだったら心配ない。
ルーディだったら間違いない。
ルーディは失敗するわけに行かない。
ルーディだったら大丈夫…

=翻訳をめぐって=

この曲の邦題は「しくじるなよ、ルーディ」で、歌詞カードの訳詞にも「ルーディは失敗御法度」といったような言葉が使われている。初めて聞いた時に10代だった私は「Rudie can't failってそういう意味なのか」と素直に納得したのだったが、聞けば聞くほど「何かおかしい」という気持ちが膨れあがっていった。

まず第一に歌詞カードに載っていた訳詞の内容が、言っちゃあ何だけど意味不明なのである。「御法度」だとか「なのさ」という語尾だとか、訳詞者が気の利いた言い回しを探すことに熱心なのは伝わってくるのだが、全体としてどういうことを歌っている歌なのかということが、全然見えてこない。ルーディというのが何者なのかも、分からない。一番違和感をおぼえる点として、「ルーディは失敗できない」というのは、どうしたって「緊張感」が伴う言葉なのである。それなのにこの歌の曲調はどうしてこんなにも「明るい」のだろうか?

試みに「can't fail」という言葉を使った例文を検索してみると(紙の辞書しかなかった時代には、こういう調べ方はしたくてもできなかったものだ)、「You can't fail」という表現が最初に出てきて、これは「君なら絶対できる」という意味なのだと書かれていた。「失敗御法度」と「君なら絶対できる」では、全然意味が違う。後者は「励まして」いるわけだけど、「君に失敗は許されない」だと、脅しに近い表現になる。「しくじるなよ、ルーディ」という邦題は、ひょっとしてどでかい「華氏65度の冬」だった可能性があるのではないだろうか。

さらに調べてみると、「テロ対策」「犯罪対策」を口実にさまざまな差別排外主義政策をとってきたことで悪名高い元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ(自愛称ルーディ)が2008年の大統領選に出馬した際、自分のテーマソングにこの歌を使い、笑ける話だが、落選したという記録が見つかった。もしも「Rudie can't fail」が「しくじるなよ」とか「失敗御法度」という意味だったら、いくら何でも選挙の応援ソングに使われることはないだろう。これはやっぱり「ルーディなら絶対やれる」「ルーディだったら心配ない」という意味を持ったタイトルだから、不幸にもそういう使われ方をすることになってしまったのだと考えざるを得ない。

それならばこの歌に出てくる「ルーディ」とは、一体何者なのだろう。調べてみると、いろいろなことが分かってきた。

まず第一に、ルーディというのは個人名ではない。一般名詞である。CDの訳詞を書いた人がそのことを知っていたのか知らなかったのかまでは私には断定できないが、少なくともあの歌詞カードに載っていた訳詞は、そのことが分かるような内容にはなっていなかった。

「ルーディ」とは、1950〜60年代のジャマイカのキングストンの若者たち、および移民の両親のもとでイギリスに生まれた在英ジャマイカ人2世の若者たちが、誇りを込めて自分たちのことを呼んだ名前である「Rude Boys」に由来する言葉であるらしい。rudeとは「粗野な」「不作法な」という形容詞であり、文字からは「だらしない」イメージが想像されるが、ハリウッドのギャング映画の影響を受けて非常に「ピシッとした格好」をしているのが「Rude Boys」のトレードマークだったのだそうで、このことは歌詞にも反映されている。やがて「ルーディ」はいわゆる「不良」にとどまらず、スカ音楽を愛好する若者たちを広く一般的に表現する呼称となり、クラッシュのメンバーたちのような白人の間でも使われるようになっていったようである。



ジャマイカのレゲエアーティストであるデスモント・デッカーが1967年に出した「007 (Shanty Town)」という曲には以下のような歌詞があり、クラッシュの「Rudie can't fail」は直接にはこの曲にインスパイアされて作られた曲であるらしい。


007 (Shanty Town)

At ocean eleven
And now rudeboys a go wail
'Cause them out of jail
Rudeboys cannot fail
Cause them must get bail

海辺の11時。
ルードボーイたちは大騒ぎだ。
やっとオリから出られるから。
ルードボーイたちは失敗できない。
保釈をゲットしないといけないから。

…この歌において「cannot fail」の意味は、誤解しようがないくらいハッキリしている。ルードボーイたちは何か悪さをして刑務所だか鑑別所だかに入れられてしまったので、次に「失敗」して警察に捕まるようなことになったら、保釈が取り消されてまた収監されることになってしまう。だからルードボーイは「失敗できない」のである。

「ルーディだったら心配ない」と「ルーディは失敗できない」。クラッシュの歌は果たしてどちらを意味しているのだろうか。いろいろ調べてみたけれど、それを「解説」しているような海外サイトは見当たらない。このことは、英語話者の人たちにとっては「わざわざ解説する必要がないくらい」この歌詞がフツーの言葉で書かれていることを示しているのだと思われる。

それで私は、考えたのだが、この歌の中に何回も出てくる「Rudie can't fail」という言葉は、文脈によってその都度「違った意味」を持っているのではないだろうか。以下、実際の歌詞に沿って、ひとつひとつ検証してみることにしたい。


初めてクラッシュのCDを手にした時に私がシビれたのは、何よりもこの「手書きの歌詞カード」のカッコよさだった。しかし全部を写真に撮ると例によってブログを潰される口実にされるかもしれないので、一部の紹介にとどめておく。

  • Sing, Michael…マイケルはミック·ジョーンズの本名だとのこと。全然、意識して聞いたことがなかった。
  • on the route of the 19 Bus!…19号線は、ロンドンの西部を南北に結ぶバス路線だとのこと。以下の歌詞は、そのバスの中で他の乗客が「ルーディ」たちに説教している内容になっている。
  • How you get a rude and a reckless?…訳詞の中ではカギカッコをつけたが、この部分はバスの乗客である「善良な市民」からの、ルーディたちに対する非難の数々である。その最後が「Rudie can't fail」で結ばれているのは、「ルーディってのは失敗できないんだろう?」=「目立つことをしたらすぐに刑務所行きになるんだろう?」ということを知った上での「市民」の台詞なのだと思われる。強烈なイヤミだし、挑発としての意味も持っていると思う。「手が出せるもんなら、出してみろ」と言っているに等しい言葉である。
  • So we reply…それに対してルーディたちは堂々と言い返す。
  • I tell you that I can't live in service…in serviceは「人に雇われている状態」や「軍隊に入っている状態」を示す言葉。「人に頭を下げる生き方」と意訳した。
  • Like the doctor who was born for a purpose…調べてみるまで全然知らなかったのだが、「Born for a purpose」というのは「The Ital Surgeon (ラスタの外科医)」の二つ名で知られるDr Alimantado (ドラ·アリマンタードと読むらしい)という人が歌っていた、有名な曲名にちなんだ歌詞であるらしい。歌詞には「ドクター」とあるけれど、本当に医者をやっている人なのかどうかまでは私には分からなかった。一応動画も見つけたけれど、それにしてもこのチャック、わざと開けてるのだとしたら根性入りすぎだと思う。


Born for a purpose

  • Rudie can't fail…そして最後のこの台詞は、乗客に言われた言葉をそのまま突き返して「おれたちルーディは心配してもらわなくたって大丈夫だよ」と言っているのだと考えられる。すごく鮮やかな当意即妙だと思う。
  • I went to the market to realize my soul…必要なものを持っていないから買い物に行く、というだけのことをこんな言葉で表現したこの歌詞が、私は昔から大好きだった。「魂をリアライズする」という言葉には、欲しいものを手に入れるということの他に、「マーケットに行けば仲間の顔を見ることができる」という意味も含まれているらしい。
  • First they curse, then they press me till I hurt…ルーディたちはどこへ行っても、バスの乗客と同じような市民たちから説教され、あれこれ言われて、そのたびに傷ついているのである。hurtという言葉は、すごく重い。
  • We say Rudie can't fail…そして最後のこの台詞は、「刑務所に逆戻りするわけには行かないから見逃してやるよ」という捨て台詞になっているのだと思う。この「失敗できない」はバスの乗客から嘲りを込めて言われるのとは違い、ルーディたちが自分のプライドを保つために必要な言葉なのだ。そう考えると、すごくよくできた曲になっているのだと改めて思う。
  • We been seen lookin' cool an' a speckless…上にも書いたように、「ピシッとした格好をしてるのがルーディの心意気」なのである。
  • In your chicken skin suit…chicken skin suitというのが実際にどんなものなのかは、私には分からない。画像検索すると鳥の生皮を全身に貼りつけて街を歩くパフォーマンスをしている人の写真が出てきたが、気持ち悪いのでここには貼らない。「鳥肌が立つぐらいイカしたスーツ」という意味で、おおむね間違いはないと思う。
  • In your pork pie hat…ポークパイハットは、ハリウッド映画に出てくるギャングがよくかぶっている帽子で、「ルードボーイの制服」みたいなイメージがあるのだとのこと。


  • sky juice…スカイジュースとはバハマ諸島のカクテルで、ラムかジンをココナッツミルクで割った飲み物であるらしい。他にマレーシアで使われている英語では「雨水」という意味もあるらしいのだけど、どうなのだろう。1本10セントだしな。

…以上を総合した結論として

  • 「しくじるなよ、ルーディ」という邦題は、誤訳とまでは言えない。
  • ただし、その台詞を誰が言っているかが問題であり、この邦題からは歌い手が「ルーディではない」かのような印象を受ける。
  • ルーディたちが自分らの生き方を誇りを込めて歌っている歌である以上は、「ルーディだったら大丈夫」という邦題にした方が、内容にふさわしいタイトルになると考えられる

…と、私は思いました。


橘いずみ 君なら大丈夫だよ

思い入れのある歌になればなるほど、どうしても長大な内容になってしまう。というわけでまたいずれ。