華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Stage Fright もしくは舞台恐怖症 (1970. The Band)



「失敗できない若者たち」の歌に続く歌と言えば、これしかない。ザ·バンドの「ステージフライト」。「舞台が怖い」という曲である。





そう。舞台はとっても怖いのだ。がんばれ。負けるな。リック・ダンコ。


The Last Waltz -Stagefright-

Stagefright

英語原詞はこちら


Now deep in the heart of a lonely kid
Who suffered so much for what he did
They gave this ploughboy his fortune and fame
Since that day he ain't been the same

いま、孤独な少年は心の奥深くで
自分のやってしまったことに激しく苦しんでいる。
幸運と名声が与えられたあの日から
田舎育ちのこの若者は
昨日と同じではいられなくなってしまった。


See the man with the stage fright
Just standin' up there to give it all his might
And he got caught in the spotlight
But when we get to the end
He wants to start all over again

ステージフライトにとりつかれたあいつを見ろよ。
あそこに立ってるだけでやっとなんだ。
今度はスポットライトにとっ捕まった。
でもおれたちが曲を終える頃には
あいつはまた最初から始めたがるんだぜ。


I've got fire water right on my breath
And the doctor warned me I might catch a death
Said, "You can make it in your disguise
Just never show the fear that's in your eyes"

おれは火消しの水をがぶ飲みした。
医者はおれに死ぬぞって言った。
「うまく隠し通せば快方に向かうだろう。
お前の目の中の恐怖を絶対誰にも見せてはいけない」


See the man with the stage fright
Just standin' up there to give it all his might
He got caught in the spotlight
But when we get to the end
He wants to start all over again

ステージフライトにとりつかれたあいつを見ろよ。
あそこに立ってるだけでやっとなんだ。
今度はスポットライトにとっ捕まった。
でもおれたちが曲を終える頃には
あいつはまた最初から始めたがるんだぜ。


Now if he says that he's afraid
Take him at his word
And for the price that the poor boy has paid
He gets to sing just like a bird, oh, ooh ooh ooh

もしあいつが怖いって言い出したら
言葉通りに受け止めてやることだ。
自分が支払った代価のために
あの貧しい若者は
鳥みたいに歌い出すことになってるんだ。
ほ、ほう、ほ、ほう…


Your brow is sweatin' and your mouth gets dry
Fancy people go driftin' by
The moment of truth is right at hand
Just one more nightmare you can stand

お前の額には汗がにじみ口はカラカラになる。
身なりのいい人々は優雅に行き交っている。
真実の瞬間はまさに目の前だ。
あとひとつの悪夢を耐え忍ぶことさえできれば。


See the man with the stage fright
Just standin' up there to give it all his might
And he got caught in the spotlight
But when we get to the end
He wants to start all over again, hmm hmm
You wanna try it once again, hmm hmm
Please don't make him stop, hmm hmm
Let him take it from the top, hmm hmm
Let him start all over again

ステージフライトにとりつかれたあいつを見ろよ。
あそこに立ってるだけでやっとなんだ。
今度はスポットライトにとっ捕まった。
でもおれたちが曲を終える頃には
あいつはまた最初から始めたがるんだぜ。
もう一回初めからやりたいんだろう。
あいつを止めないでやってくれ。
初めからやり直させてやれ。
もう一度やらせてやれ

=翻訳をめぐって=

Now deep in the heart of a lonely kid
Who suffered so much for what he did

…のっけから私には理解できない文法が使われている。二行目がHe sufferedで始まっていたら、上のような訳し方で何も問題ないのである。しかし関係代名詞のwhoが使われている以上、二行目の全体は直前のkidという言葉を「修飾」しているのだと考えねばならないことになる。よって「今、孤独な少年の心の奥深くで」という1行目の歌詞は、2行目と合わせるなら「今、自分のやってしまったことに激しく苦しんでいる孤独な少年の心の奥深くで」となるはずなのだが、「奥深くで」何が起こっているのかを示す動詞は以下の歌詞の中に出てこないのだ。意味の通る文章にしようと思ったら上のような訳し方をするしかなかったが、誰かここでのwhoの使い方について鮮やかに解説できる人がいたら、教えてください。

They gave this ploughboy his fortune and fame
Since that day he ain't been the same

ploughboyは「鋤の少年」=「農家の少年」=「田舎育ちの少年」という意味。実際ザ·バンドのメンバーはリチャードとロビー以外全員農村地帯の出身で、ロビーも夏場はお母さんの実家があるモホークの先住民コミュニティで畑仕事を手伝って育ったということだから、この歌詞には、実感がこもっているのだと思う。

See the man with the stage fright
Just standin' up there to give it all his might

「ステージフライト」はほぼ日本語化しているので音訳するにとどめたが、「舞台恐怖症」「あがり癖」みたいな意味。ところで、さっきまでkidとかboyとか呼ばれていた主人公がここに来てmanと呼ばれているのには、どういう意味があるのだろうか。一番はnowという言葉で始まっているから、時間の経過があるわけではない。見た目は一人前だけど、心の中は子どもと一緒、ということだろうか。想像でならいろいろ言えるけど、「ちゃんと」知りたいと思う。

But when we get to the end
He wants to start all over again

get to the endは「目的に到達する」という意味。この場合「演奏が終わりに向かう」ということだと思う。ここの主語がweになっているということは、歌い手はステージフライトにとりつかれた若者と同じバンドで演奏しているメンバーの1人なのだと思われる。

I've got fire water right on my breath
And the doctor warned me I might catch a death

fire waterとは「火を消す時に使われる水」。具体的に何のことを表現しているのかは分からない。医者に言わせると、死ぬようなものなのだろう。

Said, "You can make it in your disguise
Just never show the fear that's in your eyes"

You can make it in your disguiseというのも、難しい。直訳すると「お前はお前の偽装の中で、うまくやれるだろう」。偽装というのはこの場合、「ステージなんか怖くないかのように振る舞う」ということ以外には考えられないと思う。make itは「うまく行く」という意味だが、「病気がよくなる」という意味もある。医者の言葉だから、後者で訳した。

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この歌はザ·バンドのナンバーの中でもかなり異色な歌で、最初から最後までずっとリックが歌っていて、他のメンバーは誰もコーラスに参加しない。だから、5人編成のバンドなのに、ステージの上のリックがものすごく孤独に見える。そういう「演出」なのかもしれないけれど、10代の頃の私はそれが何かしんどくて、この曲がかかり出すと「早く終わってほしい」と感じたものだった。決してキライな歌ではないのだけれど。

曲を書いたのはロビーで、Wikipediaの日本語版にはこんな記載がある。

(ザ·バンドの) バンドとしてのデビュー・コンサートは、1969年4月17日サンフランシスコ市内のウインターランドであった。初日はロビーがインフルエンザに罹り、心配したマネージャーのアルバートグロスマンが催眠術師を呼んで治療に当った。散散なステージで、7曲ほどを演奏して逃げるように退場したため、「ロックンロールのショウでは初めて経験する怒りと激情」(グリール・マーカスの言葉:『流れ者のブルース』バーニー・ホスキンズ著、奥田祐士訳、1994年、大栄出版)が溢れた。だが、翌18日のステージは、ロビーの体調も戻ったこともあり、見違える程の出来で前夜の屈辱を晴らした。特に、アンコールの「スリッピン・アンド・スライデン」(リトル・リチャードのヒット曲)では客席は興奮の坩堝と化し、「ロックンロールの歴史に残る瞬間」(グリール・マーカスの言葉、前掲書より)と180度違う評価を受けた。

…「ステージフライト」というのはものすごく実感がこもった言葉だったのだなと、改めて思った。

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200曲までのあと10曲は、基本的にこの流れで、ザ·バンドとクラッシュの曲で固めてゆきたい。うまくまとまればおなぐさみ。ではまたいずれ。

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