華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Long Distance Operator もしくは長距離電話交換手さん (1967. The Band)



90年代になったかならないかぐらいの頃、京都の丹後半島で1回だけ「100番電話」というものに出会ったことがある。部活の合宿先から実家に電話をかけさせてもらおうと、その民宿のおばさんにたずねたところ、「廊下に黒電話があるからそこで100番を回してください」と言われた。よく分からないままに言われた通りにすると、受話器の向こうに「オペレーターのお姉さん」が現れて、「何番におつなぎしましょうか?」と言われた。何だかもう、キツネにつままれたような気分だった。

それでドギマギしながら実家の電話番号を伝えると、「ではおつなぎします」という声と共に別の呼び出し音が鳴り出して、間もなく母親が出た。私は元々の用事もそっちのけで「今起こったばかりの不思議な体験」について熱く語ったのだったが、母親は鼻でせせら笑い、「うちらの時代は電話っちゅーのはみんなそおゆうもんやったんや。何をビックリしてるんや」と言った。その母親の言葉に、私はまたまたビックリしてしまった。

人に電話をかけるのに、全然知らない第三者にまず電話をかけて、相手につないでもらえるようにお願いしなければならないというシステムが昔は「当たり前だった」という、そのことに驚かされたのである。昔というのは、何て大変だったのだろう。

私はそれまで、電話というのはかける自分とかけた相手とをダイレクトにつないでいるものだと思っていたのだが、実はその間にはいつも「知らない誰か」が介在していたのだということも、なかなかにショッキングな事実だった。こんなことでは自分たちが今まで電話で喋ってきたことの内容なんて、ダダ漏れだったんだろうなとも、子ども心に思った。

そして世の中の人が電話をかけたいと思うたびに、昼夜となく仲介の労をとってくれている「交換手さん」という人たちの存在を初めて意識させられ、その仕事の大変さはどんなものだろうと思うと、気が遠くなりそうになった。もちろん、今にして思えばいくら何でもその時代には、電話の交換は自動になっていただろうと思う。しかしそんなに遠くない昔までは、1本1本手でつなぐのが「当たり前」だったのである。

昔の映画で電話機の横のハンドルをぐるぐる回していたのは、番号を回していたわけではなく、まずああやって「交換手さん」につないでいたのである。電話をかけたい時には誰もがまず「交換手さん」と話をしなければならなかった。そしてその時点では、料金は発生しなかった。

…ということはその時代には「さみしい私の話を聞いてください」等々と言って「交換手さんと話をしたがる人間」が必然的に発生したのではないかと思われ、そういう相手に当時の交換手さんはどんな風に対応しなければならなかったのだろうとか考え始めると本当に眠れなくなってしまいそうな気がしたものだったが、必ずあったはずのそういう話について、聞いたり読んだりしたことはいまだにない。歴史には埋もれたままになっている事実というものが、山のようにあるのだと思う。

今回改めて調べてみて、100番電話とはその電話機から電話をかけるたびにその都度かかった料金を知らせてもらえるサービスだったけど、2015年に廃止されていたのだということを、初めて知った。あの丹後半島の民宿でまず100番にかけなければならなかったのは、宿泊客がかける電話代と家の人がかける電話代とを区別するためで、黙って実家の番号を回していればあの黒電話からでもつながっていたのだろうということが、30年近くたってようやく理解できた。とまれ、映画や小説で「ああ、交換手?」みたいなことを言い出す人間が現れるたびに「交換手さんと言え」と思いながら私がいちいち思い出すのは、その時のエピソードなのである。

今回はその「交換手さん」の歌だ。「Lost in the Supermarket」に出てくる「Long distance callers make long distance call」という歌詞が私にはずっと「長距離電話交換手さん、長距離電話をかけてください」と聞こえていて、クラッシュのメンバーもこの曲が好きだったんだろうなとか思っていたのだけれど、それが勘違いだったことに気づいたのは、前回の記事を書いている過程でのことだった。ボーカルはリチャード·マニュエル。なお曲を書いたのは、ボブディランであるらしい。


Long Distance Operator

Long Distance Operator

英語原詞はこちら


Long-distance operator,
Place this call, it's not for fun.
Long-distance operator,
Please, place this call, you know it's not for fun.
I gotta get a message to my baby,
You know, she's not just anyone.

長距離電話交換手さん。
この電話をつないでおくれ。
いたずらじゃないんだよ。
長距離電話交換手さん。
お願いだからこの電話をつないでおくれ。
本当にいたずらじゃないんだよ。
あの子に伝えるメッセージを考えなくちゃ。
ねえあの子は
他の誰とも違ってるんだよ。


There are thousands in the phone booth,
Thousands at the gate.
There are thousands in the phone booth,
Thousands at the gate.
Ev'rybody wants to make a long-distance call
But you know they're just gonna have to wait.

何千もの出入口に
何千もの電話ボックスがある。
何千もの出入口に
何千もの電話ボックスがある。
みんなが長距離電話をかけたがっている。
でもいいかい。
誰もが待たなくちゃいけないんだ。


If a call comes from Louisiana,
Please, let it ride.
If a call comes from Louisiana,
Please, let it ride.
This phone booth's on fire,
It's getting hot inside.

ルイジアナから電話がかかってきたら
それは放っといてください。
ルイジアナから電話がかかってきたら
それは放っといてください。
この電話ボックスは燃えていて
中はだんだん熱くなってきている。


Ev'rybody wants to be my friend,
But nobody wants to get higher.
Ev'rybody wants to be my friend,
But nobody wants to get higher.
Long-distance operator,
I believe I'm stranglin' on this telephone wire.

みんながぼくと友だちになりたがる。
でもハイになりたい人は一人もいない。
みんながぼくと友だちになりたがる。
でもハイになりたい人は一人もいない。
長距離電話交換手さん。
ぼくはこの電話のコードで
窒息しかかってるんだと思うよ。