華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

秋の夜長に もしくは200曲目を迎えて (1988. 東京少年)

ああ輝いた日
取り戻してみせよう
ああ駆け抜けた日
取り返してみせよう
もしも君が今
そばにいたらな
どんなに無鉄砲なことも
できただろうな
今はひとりで握りしめてる
君の分まで

=歌詞全文はこちら=

自分で決めたルールだとはいえ、日本語で書かれた曲を取りあげることができるのは50曲に1回だけである。当初は別の曲を考えていたのだったが、せっかくそのタイミングがこうした秋のど真ん中にめぐってきた以上、いま取りあげておかなければいつまでも取りあげるチャンスがなくなってしまうのではないかと思い、土壇場で予定を変更することにした。

とはいうもののこの曲はYouTubeに動画が上がっているわけでもなければ、iTunesでさえ取り扱われていない。果たしてどれくらいの人の耳に触れたことがある曲なのだろうか。そして私と同じように毎年秋になるたびにこの曲を聞き直さずにいられなくなる人は、この狭い日本語世界にどれくらい存在しているのだろうか。辛うじてニコニコ動画の「作業用BGM」の中に見つけることができたので、知らない方は聞いてみてほしい。4曲目、14分くらいからです。ちなみに余談になるけれど2曲目の「針とパズル」という歌、オトナになるまで気づかなかったのだが、前の天皇が死んだ時のことを醒めた目で歌った数少ない歌のひとつなのではないかという気が、私はしている。
www.nicozon.net
この歌の「」の歌い方に、初めて聞いた時、私はものすごいショックを受けたものだった。「みせよう」の「せ」である。「あの歌詞が好きだ」とか「あのフレーズが好きだ」とかいう歌は、いくらでもある。でも、「あの『せ』が好きだ」みたいなことを言える歌というのは、この歌の他にはひとつも知らない。そういう「好きになり方」をした歌というのも、私の歴史では他にない。

誤解のないように書いておくけれど、「この歌のいいところは『せ』だけだ」みたいなことを言いたいわけでは断じてない。歌詞もメロディも、全部がいい曲なのである。このブログのテーマは「青春に決着をつけること」にあるのだけれど、この歌の主人公は安易な「決着」や「訣別」を全身で拒みぬき、あくまで青春を抱きしめたまま生きて行くことを決意している。その姿は何十年たっても、まぶしいと思う。

そしてその決意の重さや「輝いた日」への想いの熱さが、このコーラスの中で一番低い音で歌われる「せ」の音によって力強く支えられている。自分のことを「見ていてくれる人」は今では1人もいないし、自分の声を聞いてくれる人も世界には1人もいないのだということを、この歌の主人公は、分かっている。そのことの上で「みよう」ではなく敢えて「みよう」と歌うことを通して、主人公の決意は単なる決意にとどまらず、世界に向けて放たれた宣言に変わるのだ。すべてが「せ」によって支えられている。日本語の「せ」にはそんな力があったのだということに、私はこの歌に触れるまで、1度も気づかされたことがなかった。

それにつけても笹野みちるさんという人は、喋り方から立ち居振る舞いに至るまで完全に「京都少女」な人だったのに、どうして「東京少年」を自分のバンド名に選んだのだろうか。「完全に対極の存在になってやる」みたいな宣言が込められた名前だったのだろうか。単に東京が好きだったのだったら余計な勘ぐりだけど、そういうコントラストは京都という「街の力」を借りないと成立しないものなので、そういうことができる人を、何となく私はうらやましく感じる。

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さて、200曲目である。あるわけだが、さすがに100曲目の時ほどの感慨はない。アルバムにすれば20枚分。依然、「棚」が作れるほどの量ではない。このブログはやっぱりまだまだ、「駆け出し」だと思う。

100曲目の時に私は、このブログはいまだ「趣味に走れる段階」ではないと書いたのだったが、109曲目以降30回以上にわたって続くことになったブルースブラザーズ特集の過程で、そうした自重は完全に吹き飛んでしまった。以下、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド特集、中国語になった中島みゆきの歌特集、アメリカン・パイ特集と特集記事をポンポン続ける中で、200曲目を迎えるまでは文字通りあっという間の出来事だったように思う。

書いている方は楽しかったけれど、世の中の反応というものはテキメンで、100曲目当時に97人だったはてなブログの読者数は2017.10.4.現在で99人と、ほぼ横ばいの状態が続いている。数日前に100人になったので、めでたいことだと思っていたが、今朝になって確認したら、また99人に戻っていた。愛され上手な同期の人の読者数がちょうど2倍になっているのを横目で見ながら、「それはあたしらがヤプーズだからよ」という戸川純さんの歌声が耳に心地いい、秋の夜長である。

PV数は、今まででいちばん多かった日で235。100を切る日は滅多になくなったが、それが多いのか少ないのかは私には分からない。曲数が増えてくると、熱心に読んでくれる人が1人現れるだけで如実にPV数に反映されるからすぐに分かるのだが、そういう「うれしい出会い」は月に一回あればいい方だと思う。

訪れてくれる人の内訳は約65%がグーグルで、25%がYahoo。「身内」のはてなブログから読みに来てくれる人は100曲目の時点では50%を越えていたのだが、今では2〜3%になってしまった。「交流」のある人はやはりはてなブログの人に限られているので、いささかさびしい話ではある。とはいえ今でも私のブログを読み続けて下さっている人たちは、それだけ「中味が濃い人」たちなのだと信じたい。

いくつかの特集記事を書いてみる中で、一つ一つの曲の内容を掘り下げるにはやはりアルバム単位で考察したり、同時代の他の曲との関連性の中で考えた方がいろいろなことが見えてくるものだということが、さまざまな形で実感できた。そういった形で楽曲を選んでゆこうとする以上、今後このブログはますます「趣味に走ってゆく」ことにならざるを得ないと思うが、ついて来たいと思う人にだけついて来てもらえれば、私はそれで幸いである。

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100曲目ごとの企画として、このかんの翻訳の中で自分が特に気に入っているもののベスト5と、全然納得の行かない試訳のワースト5を紹介するというのを、今回もやっておきたい。前回同様、ワーストの方からの紹介である。

「納得が行ってない翻訳」のまずはワースト
nagi1995.hatenablog.com
…101曲目にふさわしいキラびやかな曲を選んだつもりだったし、デニス・ホーさんも大好きになったのだが、私にこの曲を紹介してくれた中国語の先生にあたる人によると、私の訳には細かいところで誤訳があるらしいのである。しかしそのニュアンスを伝えられるほどには、その人の日本語がまだ細かくなっていないので、私もどう直していいか分からないのである。「間違っていること」だけが分かっていて「正解」が見えない状態ほどもどかしいものは、世の中にない。300曲目までには必ず直しますので、長い目で見守ってください。

続きましてワースト4
nagi1995.hatenablog.com
…記事に書いたことをもう一度繰り返すけれど、「that'll be the day when I die」は「そうなったら僕も終わりだ」とも訳せるし「僕が死ぬなんてことはありえない」とも訳せるわけで、この二つは決して「同じ意味」ではない。だから私はこの歌が「自信たっぷりに恋人を挑発している歌」なのか、それとも必死になって恋人に別れないでくれと懇願している歌なのか、その一番大事なところが、いまいちよく分からない。誰か、鮮やかに説明できる人がいたら、教えて下さい。バディ・ホリーが「強がって」いることだけは、間違いないと思うのだけど。

続きましてワースト3
nagi1995.hatenablog.com
…スパニッシュ·キャラバンって、何なのだ。どういう人たちが何の目的でキャラバンしてるのだ。いろんなイメージは浮かぶけど、ハッキリさせられない限りは何とも言えないのがつくづくもどかしい。ついでに言うなら「アンダルシアに憧れて」のアンダルシアって、いったい何なのだ。地名なのか人名なのか、それだけでもハッキリさせてほしい。ロンダルキア、サンタモニカ、パンタグラフ…この曲に引っかかって以来、いろんな「6文字言葉」が私の頭の中を行き場もなく飛び回っている。

続きましてワースト2
nagi1995.hatenablog.com
…「Dig A Pony方式」の翻訳が面白くて仕方なかった頃の試訳で、書いている時は楽しかったのだが、読み直してみると明らかに、調子に乗りすぎだと思う。このブログを始める時にあれほど「ひとりよがりな翻訳はしない」と誓いを立てたにも関わらず、それがどんどんなし崩しになってゆきそうな危なっかしさを感じる。しかし困ったことには、私自身にもはやこの歌が「こういう風にしか聞こえなくなってしまっている」のである。「Dig A Pony方式」は諸刃の剣であることよと、自戒を込めて思う。

そしてハエあるワースト1
nagi1995.hatenablog.com
…世界で一番美しい歌は、それを歌っている人の言葉で書かれているからこそ美しいのであって、翻訳しようとしたりすること自体が、間違いの始まりなのかもしれない。Katie's been gone and now her face is slowly fading from my mind.というこの歌の中で一番美しい歌詞を、それと同じくらい美しい日本語に移すということは、結局いつまでたっても私にはできそうにない。とはいえ、それが改めて分かっただけでも、やってみた値打ちはあると思う。もう10年たったら、もう一度やってみよう。

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切り替わりまして、続いてはベスト
nagi1995.hatenablog.com
…初めて読者の方からのリクエストに応えて翻訳してみた歌だったのだが、「統一感のない文体で書かれた歌をどう翻訳するか」というシバリの中であれこれ考えることを通して、かえってそれまで以上に「自由な」翻訳ができるようになるキッカケを作ってもらえたような気がしている。この歌以前と以降では自分の翻訳の「作風」が変化していることを、自分でもハッキリと感じる。このブログの歴史にとって、重要な曲である。

続きましてベスト4
nagi1995.hatenablog.com
…難解さで有名な歌詞ゆえに心の中で敬遠していた曲だったのだが、これについてもリクエストに背中を押される形で取り組んでみたら、思いのほか「面白いもの」ができた。自分の中の「タガ」が、いい意味でどんどん外れてゆくのを実感できるので、リクエストには応えてみるものだと思う。ただし、やりすぎると「うわっちゅ」になる。そのあたりのサジ加減は、自分でもまだ模索中という気がしている。

続きましてベスト3
nagi1995.hatenablog.com
…「オクラホマミキサー」の曲名でも知られるこの歌にはいろんな歌詞がついているのだけど、動画で見つけたアメリカの女の子の歌い方がとてもラブリーだったので、その通りの歌詞を探し出して訳してみたら、そちらもとてもラブリーなものになった。こういう風に好き勝手な訳し方ができるのは、作者不詳の歌ならではの楽しみである。

続きましてベスト2
nagi1995.hatenablog.com
…スパイダー・ハリスさんの楽曲の翻訳が読めるのは、日本ではこのブログだけ。ひょっとしたら世界でもここだけかもしれない。ブログを始めて良かったと思うことは、「いい歌」に巡り会える機会もそれだけ増えたことである。ブルースブラザーズを愛する全ての人に聞いてもらいたい歌だと思うが、こないだ見に行ったらYouTubeの再生回数はまだ100を越えていなかった。私の影響力も、大したことはないのだな。

そしてハエあるベスト1
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…期せずして100回目の時と同じくルー・リードの曲が1位になってしまったのだが、本当ならこの曲みたいに原詞と訳詞だけでシンプルに構成された記事というのが、ブログのあり方としては、理想なのである。いつもダラダラ書いている「翻訳をめぐって」みたいなものは、ある意味訳者の言い訳にすぎないのだから、純粋に曲を楽しみたい人には、余計なものでしかない。それは自覚しているのだけれど、それをやれるのは原詞が本当にシンプルで、説明の必要がないような歌に限られている。自分でも納得できるいい記事を書かせてくれるのは、結局楽曲の力というものだと思う。

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そして前回に続き、気に入ってるとか気に入ってないとか簡単には言えないのだけど、「自分にとって特に思い入れのある翻訳」を最後に5つ。

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…「訳」している時には、スキャットをひらがな化することに何の意味があるのだろうと自分でも思っていたのだけれど、ひらがな化してみると「歌えるようになっていた」から、自分の身体にしみついたひらがなの力というものに驚いた。それにつけても、世界にはひらがなでは表現できない「音」が存在するのだというアタマで考えれば自明の事実を、私の身体は何年たっても理解してくれない。

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カラースターをもらえたり他のブログでも紹介してもらえたり、この歌を好きだと言ってくれる人が思いのほか多かったので、うれしかった。自分の書いた記事を通じて一生つきあえる音楽と出会えたという人が1人でも現れてくれたなら、これほどブログ書き冥利に尽きることはない。なお、別のブログで何回か私のことが「ブロガー」と紹介されているのを見たことがあるのだが、私はそういうものになった覚えはないしなれる気もしていないので、ちょっとだけ当惑している。

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…「フレデリック」「愛こそはすべて」のリクエストに応えることを通して自分の作風が再確立していった過程のある意味到達点がこの曲だったと思うのだけど、「Dig A Pony方式」を編み出してしまったことが自分にとって果たしていい方に転ぶのか悪い方に転ぶのか、自分でもいまだ確信はない。なお、最近ではいちいち説明しなくなってしまったけれど、この曲以来、訳詞の中で青い文字で書かれた部分は「私が自分の判断で勝手に付け加えた言葉」なので、そのむね了解よろしくお願いします。

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…1万7千文字は今までの最高記録。「よく手紙とかで『長々書いてしまってごめんなさい』とか書く人がいるけど、『こんなに長い文章になったのはあなたのことが好きだからです』と胸を張るべきだ」という文章を10代の頃に読んだことがあって、しばしば力づけられてきたのだけれど、それにしても自分がどれだけこの歌を好きだったのかということに、自分でもちょっとだけアキれてしまう。あの「3音節の言葉」さえ確定できれば、文句なしでベスト1になっていた翻訳である。

nagi1995.hatenablog.com
…"この歌について知れば知るほど、どういう向き合い方をすればいいのか分からなくなる。もっと知りたい気持ちはあるけれど、奴隷制の廃止にいまだに反対してる白人男性みたいなのがアメリカからこの記事を見つけて、「南部人の心意気を教えてやる」みたいな調子で親しげに話しかけてきたりしてこられたら、それはそれで私は困ってしまう。"…と100回目の時に私は書いたのだったけど、最近あろうことか「そういう日本人」が次々と現れだしたので、私はマジで困っている。他の読者のみなさんに対しては本当に心苦しいことではあるのだけれど、今回以降このブログに対するコメントは、承認制にさせていただきます。

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上記のように100曲目以降、出て行った人もいれば入ってきた人もいてこのブログの読者数はほとんど増えていないのだけれど、このかん読者になって下さった方には自分でも音楽をやったり小説を書いたり写真を撮ったり、とにかく表現活動を実践されている方が多いことに、勇気づけられている。エールを送り合う意味も込めて、そうした読者のみなさんのブログも、100曲目の時と同様にいくつか紹介させてもらいたい。(私自身が読ませてもらっているものに限った紹介になりますので、他の読者のみなさんにおかれましては、申し訳ありません。今後ともよろしくお願い致します)

blog.hatena.ne.jp
blog.hatena.ne.jp
blog.hatena.ne.jp
toikimi.hateblo.jp
blog.hatena.ne.jp

…最後に紹介した方がドアーズのYes, the River Knowsに寄せてくださったコメントは、感動的なものだった。

ファーストアルバムを初めて聴いた晩が僕の人生のピークだったと思っています。それ程のショックで、音楽を聴いているというよりも、映像を見ている感覚でした。歌詞の意味など解らないのに信じ難い一体感で音と一緒になって、自分が知らない心の奥底を見せられるようで、二回聴いて全部歌詞を覚えてしまいました。それ以降、他のアルバムを聴く時も聴こえる歌詞と音の 映像的なイメージを自分なりに捉えるという聴き方をしてきました。ですから、この翻訳もこういう歌詞だったんだ、と今更気付く感じです。

…私がドアーズやザ・バンドの楽曲と初めて出会った時も、全く同じ気持ちでした。その時の気持ちを忘れることなく、翻訳に取り組んで行きたいと思います。その上でこういう作業はやればやるほど、かつての自分がその歌から確かに受け取ったと思っていた感動の内容が、まるっきりひとりよがりな勘違いだったことに気づかされてしまうことも増えてきます。そうした現実を自分と一緒に受け止めてくれるのが、読者のみなさんの存在だと思っています。願わくは、一緒に励ましあって生きて行きましょう。

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200曲目にあたり、「はじめての方へ」と「各種索引」をリニューアルした上で「年代順インデックス」というものを新たに作ってみたのだが、今まで翻訳してきた曲を発表された年代順に並べてみると、1967年という年の異様な密度の高さに驚いてしまう。今からちょうど50年前に当たるわけだけど、一体その頃はどんな時代だったのだろうか。今回以降、全部の記事に索引へのリンクをつけることにしますので、みなさんにもいろんな楽しみ方を見つけて頂ければ幸いです。

以上をもって200曲目のあいさつに代えさせて頂きます。そろそろ寒くなってくるみたいなので、みなさんどうかご自愛ください。ではまたいずれ。

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今週のお題「読書の秋」

Coming OUT! (幻冬舎アウトロー文庫)

Coming OUT! (幻冬舎アウトロー文庫)