華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

The Last Of The True Believers もしくは人をほんとうに信ずる最後の人 (1986. Nanci Griffith)

本をもつ白いソックスのシンガーソングライターとして、ナンシー·グリフィスは登場した…ナンシー·グリフィスにとって、歌は本なのだ。歌を本とすれば、本は歌だ。歌と本は人びとの日々の経験の表裏をなして、同時代を生きる感覚を分けあう共通の場を、いま、ここにともにつくってきた。本を自己表現とするニューヨークの作家たちとちがって、南部の、そしてテキサスの作家たちがしてきたことは、ヴォイス(声)を本に書き取ることだ。耳を澄ますと聞こえる、土地のヴォイス。日々の光景にひそんでいるヴォイス。

長田弘 「アメリカの心の歌」 より=


Last of the true believers

The Last Of The True Believers

英語原詞はこちら


Oh, he said it was the sound of the winter callin'
From up around the bend
Or it could be the cry of your restless heart
For the love of your long lost friends
Me, I think it's just the summertime and the heat of these Texas winds
They keep on slappin' my face with dust so thick
That the tears won't roll again

先の方の曲がり角から
冬が呼んでる音がするって
彼氏は言った。
それともそれは
ずっと会っていない友だちのことを思って
じっとしていられないあなたの
心の叫びだったのかもしれない。
私?私はね。
ただの夏だと思うよ。
聞こえるのはテキサスの熱い風の音。
ずっと私の顔を叩きつづけて
ホコリだらけにしてくれた。
涙も転がらないぐらい。


Last of the true believers
Have you grown weary all alone?
You could go home again...home again...home
Last of the true believers
You pack your things and go back home
You could go home again...home again...home

本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
何もかもひとりで抱え込んで
疲れてしまったみたいね。
ふるさとに帰った方がいいんじゃないかな。
本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
荷物をまとめて帰るのよ。
帰った方がいいと私は思うよ。


Oh he said, "you can't stay away forever
'cause they say love doesn't last that long
And the ghost of the one that you loved the best is bound to be long gone
So you fall for the one you believe in and take pride in the heart you hold
'Cause when the wintertime pounds upon your door...
It's shelter from the cold".

「いつまでも帰らずにいるなんて
いけないことだ。
愛なんて長続きするもんじゃないって言うし
昔の愛の亡霊もそのうち消えてしまうもんだと
相場が決まってるって話だ。
だからきみは信じることのできる誰かを好きになって
自分が持ってる心に誇りを持つべきだ。
なぜって冬がきみのドアを叩いた時には…
寒さから守ってくれるのは心だけなんだから」
彼氏はそう言った。


Last of the true believers
Have you grown weary all alone?
You could go home again...home again...home
Last of the true believers
You pack your things and go back home
You could go home again...home again...home

本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
何もかもひとりで抱え込んで
疲れてしまったみたいね。
ふるさとに帰った方がいいんじゃないかな。
本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
荷物をまとめて帰るのよ。
帰った方がいいと私は思うよ。


There's a shadow on our wall where I once stood with him in mind
And there is an empty space beside him
Where I do take my rest at night
Oh, I will be the last of the true believers... if truth is his heart to lend
'Cause the wintertime sure looks cold to me... comin' up around the bend

私がいつか心の中で
彼氏と並んで立った
ふたりの壁に影がさしている。
彼氏の横には誰もいない。
そこは夜が来たときに
私が休むための場所。
ああ私は
本当に人を信じる人たちの
最後のひとりになろうと思う。
真実というものが
彼氏が私に貸してくれた
心の中にあるのだとすれば。
冬は確かにあの曲がり角のところにまで来ていて
私にとっては寒いものになりそうだから。


Last of the true believers
Have you grown weary all alone?
You could go home again...home again...home
Last of the true believers
You pack your things and go back home
You could go home again...home again...home

本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
何もかもひとりで抱え込んで
疲れてしまったみたいね。
ふるさとに帰った方がいいんじゃないかな。
本当に人を信じる人たちの
最後のひとりのあなた。
荷物をまとめて帰るのよ。
帰った方がいいと私は思うよ。


Oh, I could go home again... home again... home
Well, it looks like home again... home again... home
Oh, I could go home again... home again... home
Well, he brings me home again... home again... home...

ああ、帰った方がいいみたい。
帰って行くみたい。
ああ、帰った方がいいみたい。
彼氏が連れて帰ってくれる。

=翻訳をめぐって=

「人をほんとうに信ずる最後の人」というのは、長田弘さんの本で紹介されていたタイトル。もしもそれを読んでいなかったなら、「本当に信心深い最後の人」という意味だと思っていたかもしれない。と言うか、そういう意味も含まれているのかもしれない。わからない。

かなり前から気になっている曲なのだけど、歌詞の風景がとても見えにくい。かなりくだけた言葉で書かれているのかもしれないし、逆に相当に文学的な言葉で書かれているのかもしれない。私の英語は本で覚えたものでしかないから、そういう違いさえ分からない。ただ、すごく独特な「文体」だという感じがして、訳しにくいのを感じる。

歌の中には he と you と I という3つの人称代名詞が出てきて、「彼氏」と「私」は問題ないのだけれど、「you」が誰のことをさしているのかが、分かりにくい。彼氏のことをさしているようでもあるし、歌い手が自分のことをさしている部分もあるように思われる。とりあえずここでは、「私」が「彼氏」に直接呼びかける時に「you」という言葉が使われているのだという解釈をとった。でも、他の解釈があれば、指摘されたいと思う。

大ざっぱに言うなら、1番では「彼氏」と「私」が一緒にいて、2番で「彼氏」から別れを告げられて、3番では1人になった「私」の心が歌われている。そういう歌なのだというところまでは、間違いないと思う。彼女はテキサス生まれだけど、彼氏は寒い土地の生まれなのかもしれない。その2人が1番の世界では、故郷から離れた街で、一緒にいる。そしてそれぞれが「故郷の呼び声」を聞いている。彼氏の方は「冬の声」に引き寄せられているけれど、彼女を呼ぶのは「夏の声」で、彼女は別にそこに帰りたいとは思っていない。

そして彼女は彼氏のことを案じていて、故郷に帰った方がいいのではないかと勧めている。この時点では彼女は、別れることなんて全然考えていないように思える。

2番で彼氏は、多分その「冬の国」に帰ることを決めてしまったのだと思う。そして彼女に対しては、自分のことを忘れてテキサスに帰ることを勧めている。それは彼女が思ってたのと違う成り行きだったはずだけど、コーラスではやはり「帰った方がいいよ」という言葉で、彼氏のことを送り出している。それが彼氏にとっての幸せなのだと考えたからだと思う。

そして3番では1人になった彼女の葛藤が歌われていて、結局自分もテキサスに帰ろうと決める形で、歌が終わっているのだと思う。そうすることが彼を「信じる」ことにつながるのだと、自分を納得させてである。

…というのが私が試訳にあたって思い描いた「歌の風景」なのだけど、これが「合ってる」のかどうかは、全然自信がない。とりわけ「Last of the true believers」という印象的な言葉にどのような思いが込められているのかということが、それだけでは全然わからない。

いちばん難しかったのは、「if truth is his heart to lend」というフレーズをどう解釈すればいいのかということだった。言語交換サイトで質問してみたら「この愛が本物ならば」という意味の詩的な表現だと説明されたが、「その愛」が「彼氏の愛」なのか「自分の愛」なのかでは、かなり意味が異なってくる。しかしそこまでの細かいニュアンスについて教えてほしいと言えるだけの英語力は私にないし、そこを本当に知ろうと思ったら「愛って何やねん」という領域にまで踏み込んだ話にならざるを得なくなる。上記のような訳し方が、今の私には限界である。

例によってみなさんの意見をお待ちしておりますという終わり方をするしかないのだけど、意見を出してくれる人を見つけるためにはまずこの歌を好きだという人を探す必要があるわけで、その時点からハードルが高そうである。日本語のネット世界でこの歌について今までに何か一言でも語ってくれている人は、私が調べた限りでは1人もいない。

それでもこの人の声には私にとって、「ちゃんと知らなくちゃいけない」と思わされるような何ものかが存在しているのである。いつか完成させるべき未完の試訳のひとつとして、貼り出しておきたいと思います。ではまたいずれ。

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