華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Ticket To Ride もしくはライド行きの乗車券 (1969. The Carpenters)


でもアイちゃんは
海が見たいと言ったんです。
肩を震わせ泣いたんです。
一人で見るのは怖いから
一緒に見ようって泣いたんです。

つかこうへい「小説熱海殺人事件」1976年


ticket to ride carpenters

Ticket To Ride

英語原詞はこちら


I think I'm gonna be sad
I think it's today yeh
The boy that's driving me mad
is going away.

あたしは悲しくなるでしょう。
それはおそらく今日でしょう。
あたしを泣かせたあの人が
遠くへ行ってしまう日は。


He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
and he don't care.

彼氏は切符を買いました。
片道切符を買いました。
片道切符はライド行き。
けれどもあたしにゃおかまいなし。


He said that living with me
was bringing him down yeh
He would never be free
when I was around.

あたしといるとあの人は
つまらないんだと言いました。
あたしに自由を奪われた。
そんなことまで言うのです。


He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
and he don't care.

彼氏は切符を買いました。
片道切符を買いました。
片道切符はライド行き。
けれどもあたしにゃおかまいなし。


Don't know why he's riding so high
He oughta do right
He oughta do right by me
Before he gets to saying goodbye
He oughta do right
He oughta do right by me

あたしがいないとあの人は
どうしてあんなに笑えるの。
別れ言葉を言う前に
あたしのそばで尽くしてよ。


I think I'm gonna be sad
I think it's today yeh
The boy that's driving me mad
is going away.

あたしは悲しくなるでしょう。
それはおそらく今日でしょう。
あたしを泣かせたあの人が
遠くへ行ってしまう日は。


He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
He's got a ticket to ride
and he don't care
he don't care.

彼氏は切符を買いました。
片道切符を買いました。
片道切符はライド行き。
けれどもあたしにゃおかまいなし。
彼氏はあたしにゃおかまいなし。

=翻訳をめぐって=

これだけ有名でいろいろな翻訳が出回っている歌の翻訳なら、ちょっとぐらい遊んだって誰にも迷惑はかけないだろうと思い、遊んでみた。カレン・カーペンターさんに「あたしにゃ」などと言わせてしまった人間は世界で私だけかもしれないという気がするが、こういう形で「世界」という言葉を使うこと自体がそもそも反則なのかもしれない。

原曲は言わずと知れたビートルズの1965年のヒット曲で、カーペンターズがカバーしたのは69年。この曲も前回同様、sheという歌詞がheという言葉に変わっただけで、完全に女性の歌になっている。

The boy that's driving me mad…madという言葉は「精神病者」に対する差別語です。ここでは原詞をそのまま掲載しました。

He's got a ticket to ride…「ticket to ride」は「乗るための切符」という意味だが、ポールが後年語ったところによると「ブリティッシュ鉄道のライド(Ryde)行きの切符」という意味も込められているらしい。ライドというのは昔、ロックフェスティバルが開かれたことで有名なワイト島にある港町の名前だそうで、だったらこの「ticket」は船の切符という可能性もあるのではないかと考えたが、この島は名古屋市に匹敵するぐらいの大きさがあって、島の中を鉄道が走っているのだという。だとすれば登場人物は必然的に「島の住人」であり、この歌は自分を捨てて島を出て行こうとしている恋人への思いが歌われた、極めてローカルな歌だったのだということになる。



一方ジョンが友人に語っていたという説明は、かなりえぐいものだ。彼らがドイツのハンブルクで演奏していた頃、当地で性産業に従事していた人たちは、当局から「健康証明書」というものの発行を受けなければ営業ができなかったのだそうで、その「健康証明書」が英語に翻訳すると「ticket to ride」という言葉で呼ばれていたというのである。文字通り、「他人の身体にまたがるための切符」という意味になる。「売る」方の符牒だったのだとしたら、まだ話は分かる。しかし「買う」方がそんな言葉を使っていたのだとしたら、かつジョンも「買う人間」の1人だったのだとしたら、「最悪」という言葉以外には何も浮かんでこない。

とはいえポールの話にせよジョンの話にせよ、後から考えて付け加えた話なのではないかという印象が強い気がする。フツーに「乗るための切符」と思っておいた方がいいのかもしれない。RCサクセションのバンド名の由来を聞かれた忌野清志郎が「ある日作成しようって意味です」と答えたというのも、自分のペンネームの由来を聞かれたつかこうへいが「いつか公平って意味です」と答えたというのも、みんな「後づけ」の話だったという話だ。つかこうへいに至っては、「そういう意味なんじゃないですか?」と聞かれたのを本人が「否定しなかった」というだけで、そういう伝説がまかり通っているらしい。ちなみにつかこうへいという人は、ものすごく冷酷で横暴な人間であるかのように見せかけて実はとてもやさしい心を持った人なのではないかという風に生前は思っていたのだけど、今になってみるとやっぱり単に冷酷で横暴なだけの人だったのではないかという気がしてならない、ここ最近である。


かまっておんど

この歌を作った人がつかこうへいだったと知った時には、ものすごくビックリしたものだった。どんな終わり方なのだ。こんな終わり方だ。ではまたいずれ。

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Ticket to Ride

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小説熱海殺人事件 (角川文庫)

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