華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

I Will Follow もしくは私がついています (1981. U2)



「Follow me down」などというエラそーな命令形の歌よりは、「私はついて行きます」という謙虚なメッセージの方が、と考えて前曲に引き続きこの曲を取りあげてみたのだったが、調べてみると「そういう歌ではなかった」かもしれないということが分かってきた。とりあえず、試訳を読んでみて頂けたらと思う。U2のデビューアルバムの、一曲目に入っている歌です。


I will follow

I Will Follow

英語原詞はこちら


I will Follow...
わたしがついています…

I was on the outside when you said
You said you needed me
I was looking at myself
I was blind, I could not see

あなたが声をあげたとき
わたしを必要として声をあげたとき
わたしは外側にいました。
自分自身を見つめていました。
私の目は見えなくなっていて
見ることはできなくなっていました。


A boy tries hard to be a man
His mother takes him by his hand
If he stops to think he starts to cry
Oh why

男の子は一人前の男性になるために
必死でがんばるものです。
考えることをやめて泣き出したとしても
母親はその子の手をとります。
ああ
なぜなんでしょう。


If you walkaway, walkaway
I walkaway, walkaway...I will follow

あなたが行ってしまうなら
行ってしまうなら
わたしが行ってしまうなら
行ってしまうなら
…わたしは見守っています。


If you walkaway, walkaway
I walkaway, walkaway...I will follow

あなたが離れて行っても
離れて行っても
わたしは離れて行っても
離れて行っても
…わたしがついています。


I was on the inside
When they pulled the four walls down
I was looking through the window
I was lost, I am found

四方の壁が引き倒されたとき
わたしは中にいました。
窓越しにずっと見ていました。
わたしは見失われ
そして見つかりました。


Walkaway, walkaway
I walkaway, walkaway...I will follow
If you walkaway, walkaway,
I walkaway, walkaway...I will follow
I will follow

行きなさい。
行きなさい。
わたしは行きます。
行きます。
…見守っています。
もしもあなたが行ってしまっても
行ってしまっても
わたしは行ってしまっても
行ってしまっても
…わたしがついています。
わたしがついています。


Your eyes make a circle
I see you when I go in there
Your eyes, your eyes...

あなたの瞳が
まるいかたちをつくる。
その中にとびこんでわたしは
あなたを見ます。
あなたのひとみ
あなたのヒトミ…


If you walkaway, walkaway
I walkaway, walkaway...I will follow

あなたが行ってしまうなら
行ってしまうなら
わたしが行ってしまうなら
行ってしまうなら
…わたしは見守っています。


If you walkaway, walkaway
I walkaway, walkaway...I will follow

あなたが離れて行っても
離れて行っても
わたしは離れて行っても
離れて行っても
…わたしがついています。


I will follow
I will follow...

わたしがついています。
わたしがついています…

=翻訳をめぐって=

上に貼りつけた動画はU2が最初に撮影したPVらしいのだけど、20歳になったばかりとおぼしきボノの「行けてなさ」が面白すぎる。あと、ベースのアダム・クレイトン青年のことも、頼むからもっと映してやってくれよと思う。本人が撮ってくれるなと言ったのなら別だけど。しかしとりあえずそういう話は、いい。

上述のように私はこの記事を書く直前の段階まで、「I will follow」を「僕はついて行く」と訳そうと考えていた。ところがそういうわけにも行かないのではないかと考え込まされたのは、英語版Wikipediaの以下の記事を読んだからである。

U2 singer Bono wrote the lyrics to "I Will Follow" in tribute to his mother who died when he was 14 years old..."I Will Follow" was written three weeks before U2 began recording Boy. Bono has said that he wrote the song from his mother's perspective and that it was about the unconditional love a mother has for her child.
U2のシンガー、ボノは、「I will follow」の歌詞を、14歳の時に亡くなった彼の母親に捧げるものとして書いた…「I will follow」が書かれたのは、U2がアルバム「Boy」のレコーディングを開始する3週間前のことだった。ボノはこの歌を彼の母親の視点から書いたのだと語っており、母親というものが自分の子どもに対して持っている無償の愛についての歌なのだとしている。

…こういう風にして「後づけの情報」を参考に訳詞を作るのは、本来なら「反則」なのではないかと感じることが時々ある。ミュージシャンというのは基本的に「楽曲」だけで勝負している人たちだし、私自身もミュージシャンに対してはそうあってほしいと思っているからである。歌っている人にとっては楽曲として表現されたものが「すべて」なのだから、そこに表現されていない裏情報的なことを根拠にしてあれこれ「隠された意味」を類推することは、場合によっては悪趣味でさえあると思う。

現に上記のような情報が出回る前に書かれたと思しき海外の掲示板では、「この歌は『神について行く』という決意を歌っているのだ」とか、「自分がアイドルにしてきたミュージシャンに対する矛盾をはらんだ感情(離れて行く…しかしついて行く…)が歌われているのだ」とかいったような、様々な解釈が乱れ飛んでいる。「死んだ母親の視点から歌われているのだ」と言われてみると目からウロコが落ちるような気がするものの、「you」と「me」という言葉しか使われていない以上、英語圏の人が聞いてもやっぱりこの歌は「僕はついて行く」という歌だと思うのが「普通」なのである。そういった「いろいろな読み方」を排除してしまうような訳詞を作ったら、翻訳としてはある意味で「失敗」なのではないかとも、一方では思う。

しかし日本語に直した場合、「僕はついて行く」で訳してしまったなら、この歌が「母親の視点」から歌われていると解釈できるような余地は、完全に消えてしまう。そうである以上は、ボノ自身が語っているようなこの歌の「本来の意味」に忠実な翻訳を心がけることが、結局は一番「正確」だということになるのではないかと思う。

それで、上記のような試訳になった。以下は、内容をめぐって。

  • I was on the outside…知らずに読むと本当に謎めいた歌詞なのだけど、「死んだ母親の視点」から歌われているのだと考えると、いちいち納得が行く。つまりこの曲の冒頭でボノのお母さんの魂は既にその肉体から離れ、「外側」に立っているのである。
  • I was looking at myself/ I was blind, I could not see…これも「見ている」のか「見えていない」のか不可解な歌詞なのだが、「肉体の目は機能を停止したけど魂の目でボノを見ている」ような状態なのだと考えられる。なお、「目が見えない」という意味の一般的な用法ではあれ、「blind」という言葉は「視覚障害者」に対する差別語です。ここでは原文をそのまま転載しました。
  • If you walkaway, walkaway/ I walkaway, walkaway...I will follow…死んで埋葬される母親の肉体と、生きてゆくべき子どもの肉体は、必然的に「離れ離れ」になる。しかし母親の魂はずっと子どものそばにとどまっている。ということで、この「変な歌詞」は何ら矛盾した内容のことを歌ったものではなかったのである。もし霊魂というものが実在すればの話ではあるわけだけど。
  • When they pulled the four walls down/ I was looking through the window…ボノの母親が亡くなった時、実際に彼の家は取り壊されたらしい。それは14歳だった彼にとって、二重にショックな出来事だったと思われる。でもそのショックに沈む彼を、母親は「窓から見ていた」ということなのだと思う。なお、この「四方の壁が崩れる」という描写には、曲を書いたボノが敬虔なカトリックのクリスチャンであることを考え合わせるなら、聖書の中の「ジェリコの戦い」のイメージが重ねられているような気がしてならない。しかし私個人には「ジェリコの戦い」の伝説に対して、ちょっと思うところがある。正直、あまりいいイメージは持っていない。あの歌も翻訳するしかなくなっちまったかな。


  • I was lost, I am found…これはもう全く想像の世界だけど、取り壊されてゆく自分の家の中に母親の姿をハッキリ「見た」と感じられる瞬間が、14歳のボノには実際に「あった」のではないだろうか。その時の出来事が「母親の立場」から歌われている歌詞であるように思われる。なお、「失われて(十字架にかけられて)」その後再び「見出される(復活をとげる)」というのは、完全にイエス・キリストと重なるイメージでもある。
  • Your eyes, your eyes...無意識の偶然かそれとも意図して書かれた歌詞なのかは確認できなかったが、海外サイトの情報によるとボノのお母さんは「Iris (アイリス)」という名前だったのだそうで、「iris」という単語は「瞳の中の虹彩」を意味する言葉でもある。つまり「瞳」という言葉の中にはそのままボノの「母親の名前」が含まれているのである。そう思ってこの歌詞を聞くと、ちょっとゾクゾクする。

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この歌が入っている「Boy」のアルバムジャケットの男の子の顔は本当に印象的で、子どもの頃にこのアルバムと3枚目の「War」が上新電機の棚に並んでいるのを初めて目にした時には、思わずその場に釘付けになってしまった。




…この2枚が「同じ少年の顔」だというのが、すごいのである。この男の子はボノの親友のバンドマンの弟だったピーター·ローウェンくんという人なのだそうで、「さん」になった現在はダブリンで写真家をやっているらしい。
(2006) ピーター・ローウェン~「Boy」「War」の少年 - U2 Station To Station

というわけでまたいずれ。

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