華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Sexuality もしくは性別もしくは性差もしくは性機能もしくは性的特質もしくは性的関心もしくは性的指向もしくは性的能力もしくは性衝動もしくは性欲もしくは性行動もしくは性行為もしくは性的耽溺 (1991. Billy Bragg)

Sexuality

英語原詞はこちら


I've had relations with girls from many nations
I've made passes at women of all classes
And just because you're gay I won't turn you away
If you stick around I'm sure that we can find some common ground

いろんな国の女の子と
関係つくってきたぜ。
あらゆる職業階層生活環境の女の人を
くどきまくってきたぜ。
きみがゲイだって
冷たくしたりはしないぜ。
そばにいるかぎりは
何か分かちあえるものがあるもんだと思うぜ。


Sexuality
Strong and warm and wild and free
Sexuality
Your laws do not apply to me

セクシュアリティ
強く暖かくワイルドで自由。
セクシュアリティ
あんたらの法律はおれには当てはまらないよ。


A nuclear submarine sinks off the coast of Sweden
Headlines give me headaches when I read them
I had an uncle who once played for Red Star Belgrade
He said some things are really left best unspoken
But I prefer it all to be out in the open

スウェーデン沖で原子力潜水艦が沈没だって。
新聞の見出しで頭痛が起こるよ。
レッドスター·ベオグラードの選手だった
おじさんがいるんだけどね。
世の中には口に出さない方がいいこともあるんだって
いつも言ってた。
でもおれは何だって隠しだてしないで
オープンにするのが好きだな。


Sexuality
Strong and warm and wild and free
Sexuality
Your laws do not apply to me
Sexuality
Don't threaten me with misery
Sexuality
I demand equality

セクシュアリティ
強く暖かくワイルドで自由。
セクシュアリティ
あんたらの法律はおれには当てはまらないよ。
セクシュアリティ
おれを悲劇でおびえさせないでほしい。
セクシュアリティ
おれは平等を強く求めます。


I'm sure that everybody knows how much my body hates me
It lets me down most every time and makes me rash and hasty
I feel a total jerk before your naked body of work

おれのカラダが
どんなにおれのことを嫌ってるか
きっとみんなにも分かると思う。
ほとんど毎回おれは
落ち込まされてばっかりで
その気もないのに
せっかちの慌て者になってしまう。
きみのハダカの大全集を前にすると
おれはもう全身が立ちあがるのを感じるよ。


I'm getting weighed down with all this information
Safe sex doesn't mean no sex it just means use your imagination
Stop playing with yourselves in hard currency hotels
I look like Robert De Niro, I drive a Mitsubishi Zero

あの手の情報やお知らせには
ほんとに滅入ってしまう。
安全なセックスってのは
セックスするなってことじゃなくて
想像力を働かせろってことさ。
ハードカレンシーホテルで
ひとりで自分をなぐさめるなんて
やめとけよ。
おれってロバート·デ·二ーロみたいだろ。
おれのはミツビシのゼロ戦なみだぜ。


Sexuality
Strong and warm and wild and free
Sexuality
Your laws do not apply to me
Sexuality
Come eat and drink and sleep with me
Sexuality
We can be what we want to be

セクシュアリティ
強く暖かくワイルドで自由。
セクシュアリティ
あんたらの法律はおれには当てはまらないよ。
セクシュアリティ
一緒に食べて飲んで寝ようよ。
セクシュアリティ
おれたちはなりたいものになれるんだ。


Sexuality

=翻訳をめぐって=

ビリー・ブラッグが歌っている歌を翻訳するのは、カバー曲も含めればこれで6曲目になるのだけれど、こんなに「訳詞の一人称を統一させるのが難しい人」は、初めてだ。最初の2曲は「ぼく」で訳したけど次は「私」になり、次が「おいら」でその次が「おれ」で、今度もやっぱり「おれ」である。できることなら統一したいと思うし、私の訳し方は恣意的なのではないかと自分でも気になってしまうのだけど、やっぱり「ぼく」では訳しにくい歌というものがある。前回も相当悩んだけど、今回も同じだ。「ぼく」という一人称でこういう「開けっぴろげな話」をすることが許容される文化は、少なくとも今の日本には「まだない」のである。

「じゃあ作れよ」と私の中でもうひとつの声が叫んでいる。「おれ」というのは明らかに、「マッチョな言葉」だ。「性の解放」ということを男の立場から真面目に問題にしようと思ったら、一番大切なのはまず「男がマッチョであろうとすることをやめること」だろう。そういうテーマを「マッチョな言葉」で語るということは、それこそ「性の解放」に真面目に取り組んでいる人たちにケンカを売る行為なのではないか。と思う。

しかしそれを言い出すならば、この歌の内容自体がやっぱりどこか、マッチョなのだ。「僕は世界のあちこちの少女たちと関係を作ってきましたよ」という訳詞が強烈に不自然でしかも何か邪悪な気配まで漂わせているのは、そういう行為そのものが、そもそもマッチョな行為だからだと言えるだろう。「マッチョな行為」を「開けっぴろげ」に語ることができるのは、やはり「マッチョな日本語」しかないのである。

だったらこの歌は「悪い歌」なのだろうか。「マッチョで邪悪だからそもそも翻訳しようと考えること自体が間違いな歌」なのだろうか。場合によってはそれでも構わないと私は思うし、ビリーブラッグも「そうならそうと言ってくれ」と思っていると思う。マッチョな言葉しか喋れてないかもしれないけど、少なくともこの人の姿勢は「真面目」だと思うのだ。「同じ男でこれだけ頑張っている人がいるんだから自分も頑張らねば」と私に思わせてくれたぐらいには、真面目な人だと私は思ってきたのだ。だからこの歌をと言うよりはこの人の言葉を、特集記事を組んででも集中的に翻訳してみたい気持ちにかられたのである。

この歌はけっこう「軽薄」なところもある歌なのではないかと、私自身もいくつかの点で思う。でも「何ごとも隠しだてしないでオープンにするのが好きなんだ」という歌詞の中の言葉だけは、やっぱりいろんな人たちと分かち合いたいと思う。それはこの歌が「批判に対してオープンであろうとしていること」の宣言でもあると思うからだ。

というわけでこの歌の試訳に関しては、翻訳する人間自身の「マッチョな本性」がさらけ出されてしまう可能性をも引き受けつつ、あえて一人称に「おれ」を採用させて頂きました。以下、内容の検討に移ります。

I've made passes at women of all classes

make a pass で「口説く」「色目を使う」「モーションをかける」「アタックする」などの意味になるのだとのこと。

classというのは別に難しい言葉でも何でもないのに、うまく訳すのはすごく難しい。今の世界には洋の東西を問わず階級とか階層とかいった不公平なものがあり(このブログに「日本にはイギリスにあるような階級社会は存在しない」などという趣旨のコメントを寄せてきた人間がいたが、とんでもない話である。そういうことを言える人間はその時点で人を差別しているのだということに、気づくべきだと思う。「自分と同じでない人間」のことを「人間だとさえ思っていない」ぐらい差別しているから、どんな街にもどんな田舎にも同じ家族の中にさえはびこっている「不平等」の存在が、目に入らないだけではないのか)、まずはその存在を認めることからしか「不平等と戦う」ことだってできはしないにも関わらず、「階級」「階層」という言葉をそのまま訳詞の中に使ったら、途端に歌詞の全体が「親しみにくいもの」になってしまう。このことは今の日本において「政治的な言葉」一般がいかに「非日常的」で「恐ろしげ」なものだと見なされているかということを示しており、かつそれを「親しみにくい」と「判断」している私の中にも同じ「ひるみ」が横たわっていることを意味しているのである。

だったらなおのこと、あえて「階級/階層」というゴツゴツした言葉をそのまま訳詞に使うのもひとつの「見識」ではあると思う。でもそうすると、こういう微妙なテーマで「親しみやすい曲を作ろう」としたビリーの努力が、ムダになってしまう。さらに「class」には、「種類」「分野」「タイプ」といった比較的「政治的でない意味」も存在している。本当に何も「特別」なことは、言っていない歌詞なのである。だから結局、上記のような訳し方に落ち着いた。

なお、勘違いのないように強調しておかねばならないと思われるのは、ここでの「class」は相手の女性が背負わされている、あるいは背負っている社会的な立場を意味することばであり、決して相手のことを「ランク付け」したり「等級」をつけたりする意味で使われている言葉ではないということである。「階級」という言葉をそのまま放り出すとそういう誤解が生じうるし、実際にそう誤解した訳詞を読んだこともある。それは歌詞のメッセージと真逆を行く解釈であり、ビリーブラッグ自身は自分でも言ってる通り「平等を求めている人」なのだ。

Sexuality

…という単語の意味は、今回の記事タイトルに示した通り。 これほど多義的で意味深な言葉に、ひとつの日本語解釈だけを押しつけようとすることは、およそ不可能である。

A nuclear submarine sinks off the coast of Sweden

…1989年にソ連原子力潜水艦バレンツ海で沈没した事故が、リアルタイムで取り入れられているらしい。この事故では42人が亡くなり、ソ連の崩壊ムードに拍車をかけたとのこと。船体は現在も水深1600メートルのところに沈んだままであり、深刻な放射能漏れの危険が継続しているということである。

I had an uncle who once played for Red Star Belgrade

レッドスター·ベオグラード」は、ユーゴスラビア (当時) のサッカーチーム。サッカー好きの人は「言われないでもわかる」のかもしれないが、私は分からなかった。ここにそういう「おじさん」を登場させる必要がどこにあるのかというと、やっぱり「古い男の価値観」みたいなものを代表する役割が担わされているのだと思う。

Don't threaten me with misery

…PVではこの部分で政治家が吠えているから、原潜問題も含め、戦争や社会不安などの「巨大な悲劇」について言われている歌詞だと思う。好きな相手との関係の破局とかいった個人レベルの悲劇では、多分ない。もちろん個人にとっての「悲劇の重さ」は、比べたりできないものだけど。

I'm sure that everybody knows how much my body hates me

…自分の体が思うように機能してくれない、という意味の表現だと思う。PVでは深刻な顔をしているビリーの背後で他のバンドメンバーが彼のことをからかいまくっており、カースティ・マッコールは指で「このひと小さいんです」サインを出して (何で知ってるのだ)メンバーの爆笑を誘っている。ビリー本人の自虐的な演出なわけだけど、笑っていいものなのかどうか、私はいまだにわからない。

I feel a total jerk before your naked body of work

「naked body」はもちろん「裸体」。一方で「body of work」は「1人の作家や芸術家の全作品」を意味しており、つなげて言うことで言葉遊び的な効果を狙っているのだと思う。「ありがたいなら芋虫ゃ鯨」的な表現だが、この歌詞は後半にもちゃんと「意味」があるので、それより上手だと思う。なのだと思う。

Stop playing with yourselves in hard currency hotels

…ここが分からないのだ。「hard currency」とは「強い力を持った通貨」のことで、例えばアメリカ以外の国や地域でもドルで買い物ができることが往々にしてあるのは、その地域ではドルが「hard currency」だからである。一方で「hard currency」には「硬貨」という意味もあると辞書にはある。そして「hard currency hotel」という言葉で検索しても出てくるのはこの歌詞だけなので、「そういうホテル」が実在しているわけではない。明らかに造語である。その上でそれが「外資系の高級ホテル」みたいなイメージなのか「ワンコインで泊まれるホテル」みたいなイメージなのかは、情報不足で分からないとしか言えない。Stop playing with yourselvesは、「相手を見つけてやった方が楽しいよ」という意味なのだろうけど、yourselvesは複数形なので、これは不特定多数のリスナーに向けた呼びかけである。

I look like Robert De Niro, I drive a Mitsubishi Zero

この曲を共作した元ザ・スミスジョニー・マーがビリーに「なんだこりゃ」と尋ねたところ、「rhyme (韻) だ」というのが答えだったとのこと。「ミツビシ·ゼロ」というのは車の名前かと思ったら、「三菱が開発した零式戦闘機」すなわちいわゆる「ゼロ戦」のことだったと分かり、かなり、ドキッとした。日本人にとって「B29」というのがおそらく永遠に忘れられない名前であるのと同様、ゼロ戦に殺された人が1人でもいる国では、「ミツビシ·ゼロ」の名前は永遠に忘れられることはないのだと思う。誰だ誇ってるやつは。恥じろ。

…この歌のPVを通して、ビリーブラッグは「エセックス州」の道路標識で遊びまくっている。「エセックス」「サセックス」という「不幸な地名」は、日本の中学生の間でもネタにされていたぐらいだから、イギリスではもっとネタにされているのだろう。


東京少年 どっかいっちゃったスペシャルメドレーe

ではまたいずれ。

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