華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Levi Stubbs' Tears もしくはリーヴァイ·スタッブスの涙 (1986. Billy Bragg)

Levi Stubbs' Tears

英語原詞はこちら


With the money from her accident
She bought herself a mobile home
So at least she could get some enjoyment
Out of being alone
No one could say that she was left up on the shelf
It's you and me against the World kid she mumbled to herself

事故で入ってきたお金で
彼女は自分のために移動住宅を買った。
少なくとも彼女は
ひとりぼっちでいることからの
なぐさめは手に入れることができたと
いうことになる。
彼女は棚の上で
売れ残りになってしまったんだなんてことは
誰にも言えないはずだ。
「あなたも私も世界を敵に回しているのよ、坊や」
彼女はつぶやいた。


When the world falls apart some things stay in place
Levi Stubbs' tears run down his face

たとえ世界が崩れ落ちても
変わらずにとどまりつづけるものがあるとすれば
それはリーヴァイ·スタッブの
頬をつたう涙だと思う。


She ran away from home on her mother's best coat
She was married before she was even entitled to vote
And her husband was one of those blokes
The sort that only laughs at his own jokes
The sort a war takes away
And when there wasn't a war he left anyway

彼女は母親の一番いいコートを着て
家出した。
選挙権を持てる年になる前には
結婚していた。
そしてその夫というのは
自分のジョークにしか笑わないようなタイプの
どうしようもない男だった。
戦争というやつが彼を連れてゆき
戦争がなければないで
どっちにしろ彼女は
放ったらかしだった。


Norman Whitfield and Barratt Strong
Are here to make everything right that's wrong
Holland and Holland and Lamont Dozier too
Are here to make it all okay with you

ノーマン·ホイットフィールドと
バレット·ストロングが
まちがったすべてのことを
ただしくしてくれる。
ホーランド=ドジャー=ホーランドも
すべてがオーケーなんだって
気持ちにさせてくれる。


One dark night he came home from the sea
And put a hole in her body where no hole should be
It hurt her more to see him walking out the door
And though they stitched her back together they left her heart in pieces on the floor

ある暗い夜
彼は海から彼女の家にやってきて
穴なんかあるべきではない彼女の身体に
穴を開けて行った。
彼がドアから消えてゆく後ろ姿は
彼女のことをいっそう傷つけた。
傷は元通りに縫い合わされたけれど
バラバラにされて床に転がった
彼女の心については
縫い合わせた人間たちも
やはり放ったらかしだった。


When the world falls apart some things stay in place
She takes off the Four Tops tape and puts it back in its case
When the world falls apart some things stay in place
Levi Stubbs' tears...

たとえ世界が崩れ落ちても
変わらないものはきっとある。
彼女はフォー·トップスのカセットテープを取り出し
そしてそれをまたケースに戻す。
たとえ世界が崩れ落ちても
変わらずにとどまりつづけるものは
必ずある。
リーヴァイ·スタッブの頬をつたう涙…


Levi Stubbs' Tears

=翻訳をめぐって=

この歌のテーマは「音楽は癒しの力を持っている」ということだと、ビリー・ブラッグ自身はインタビューで語っているらしい。はてなブログ今週のお題である「私の癒やし」に、重なっていると言えば言えないこともないかもしれない。ただしもうひとつ明らかなこの歌のテーマは、「男性による女性へのDV」である。「私の癒やし」というテーマで「私」が投稿するのは、おこがましいようにも思う。

Levi Stubbsは、このブログでも一曲だけ取りあげたことのある、フォー・トップスのリーダーの名前。力強い歌を歌う人である。
Reach Out I'll Be There もしくは君の心がわかるとたやすく誓える男に (1966. Four Tops) - 華氏65度の冬

  • mobile home…日本語では「トレーラーハウス」という和製英語で翻訳されることが多い。さいしょ私は「キャンピングカー」みたいなものを想像していたのだけど、画像検索してみるとかなり本格的な「家」だった。この歌はイギリスの歌だけど、アメリカではこうした家で生活している人の人口が2000万人にのぼるのだという。下の写真は「mobile home」の「集合住宅」の様子。



トレーラーハウス - Wikipedia

  • It's you and me against the World kid…解釈の難しい歌詞。一応、直訳に近い形で翻訳してある。
  • The sort a war takes away…最初は「家の中は一種の戦争状態だった」みたいなことが歌われているのかと思ったが、「take away」は「連れ去る」という意味である。たぶん夫が徴兵に応じたということを言っているのだと思う。この歌が書かれる4年前にあたる1982年には、イギリスとアルゼンチンの間に「フォークランド紛争(マルビナス戦争)」と呼ばれる戦争が起っている。

ノーマン・ホィットフィールド - Wikipedia
バレット・ストロング - Wikipedia

  • Holland and Holland and Lamont Dozier…ホーランド=ドジャー=ホーランドというのもモータウンの有名なソングライターチームの名前なのだが、表記のされ方が通常と違う順番になっている。ちなみに「Holland and Holland」はイギリスの銃器メーカーの名前である。意図的なダブルミーニングになっているのかもしれないし(だとしたら彼女は通常から自分の身を守るために銃で武装しているという解釈になる)、単にメロディに合わせるために語順を入れ替えただけかもしれない。

ホーランド=ドジャー=ホーランド - Wikipedia

  • One dark night he came home from the sea…「he」はおそらく元夫。「海からやって来た」というのは唐突に聞こえるが、「戦争から戻ってきた」と解釈すれば、ごく散文的な話である。このヴァースに書かれていることが、冒頭の「事故」の内容なのだと思われる。
  • When the world falls apart some things stay in place…そんな「傷」をも、音楽は癒す力を持っている。彼女にとっては、ずっと彼女のそばにあり続けたフォー·トップスの曲がそうだった。そういう歌詞なのだと思う。ただし翻訳している私自身は、「本当にそうなのだろうか」という気持ちを心のどこかで持ち続けている。

ビリーブラッグの「Talking with the Taxman About Poetry」の全訳に挑戦しようという現在の企画、今回の記事でようやく「A面」の翻訳が終了しました。あせらず、ゆっくりやって行きたいと思います。ではまたいずれ。

==============================
はじめての方へ(総目次)
曲名索引(ABC順)
邦題索引(あいうえお順)
アーティスト名索引(ABC順)
アーティスト名索引(あいうえお順)