華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Honey I'm A Big Boy Now もしくは「おっきな男の子」と「オトナの男」って何がどう違うのかかつ本当に違うの今でも分からない (1986. Billy Bragg)



このかん愛読させてもらっている id:fukaumimixschool さんのブログ「ミチコオノ日記」から、今回も画像を使わせて頂いた。私がずっと思い描いてきたこの歌の主人公の青年のイメージに、あまりにもピッタリくる顔をした人だったからである。検索でこのページにたどり着かれた方も含め、衝撃の架空絵日記文学作品「ミチコオノ日記」を今まで一度も読んだことのない幸福な皆さんは、私が個人的な思い入れから開設している別ブログの「読者日記」を含め、ぜひ一読をお勧めしたい。「幸福な」と書いたのは、こうした作品に初めて出会えた時の喜びというものは、「出会ってしまった人間」にはもう二度と味わえないものだからである。

nagi1995.hatenadiary.com
ビリー・ブラッグさんに対しては大変みっとも恥ずかしいことに、「Levi Stubbs' Tears」を訳した時点で翻訳が完了したと思っていた「Talking With The Taxman About Poetry」のA面曲なのだけど、実はもう一曲、残ってました。それが今回紹介する曲です。誰へのお詫びかよくわからないけど、とりあえずお詫びした上で、改めて翻訳させてもらうことにします。一番謝らなくちゃいけないのは、この歌の主人公の「かわいそうな兄ちゃん」に対してなのかもしれないな。


Honey I'm A Big Boy Now

Honey I'm A Big Boy Now

英語原詞はこちら


I can see the kitchen light
From the road where I park my bike
But it's dark there as it often is these days
And the gloomy living room
Really needs a dust and a broom
But I can't brush your memory away

ぼくが帰ってきて
自転車を停める道端からは
うちの台所の明かりが見える。
でもここ何日かと同じように
今日も電気はついてない。
陰気なリビングルームは
掃除しないとまじでやばいけど
でもきみの想い出を
拭き取っちゃうなんて
ぼくにはできない。


Her father was an admiral
In someone else's navy
And she had seen the World before I met her
She would wash and cook and clean
And all the other things between
And like a fool I just sat there and let her

彼女のお父さんは
どっかの海軍の提督で
ぼくと出会う前には
彼女は世界中を見てきたらしい。
彼女は洗濯も料理も掃除も
全部やってくれて
その中間的ないろんなことも
全部やってくれて
ぼくはと言えばただ
foolみたいに座って
何もかも彼女が
やってくれるに任せていた。


Now I can feed and wash and dress myself
And I can sleep without the light on
Honey, I'm a big boy now
I don't know what she does With all the money that I sent her
She's running round the town with the Young Pretender

今ではぼくは
ひとりでごはんも食べられるし
洗濯だって着替えだって
ひとりでできるようになった。
そして電気がつけっぱなしじゃなくても
眠れるようになった。
ハニー
ぼくは今じゃ
おっきな男の子だよ。
ぼくが渡したあのお金で
彼女が何をやってるのかは知らない。
あの若き王位請求者と一緒に
街を走り回ってるんだろう。


I haven't touched the garden
Since the day she walked away
From a love affair that bore only bitter fruit
She took everything she wanted
Which is why she left me here
With these pots and pans and my old wedding suit

彼女が出てってから
庭には触っていない。
浮気の恋からは
苦い果実しか育たない。
彼女は自分のほしいものは
全部持って行った。
つまりぼくは
そのリストに入ってなかったわけだ。
取り残されたフライパンや深鍋や
ぼくの昔のウェディングスーツと同んなじように。


A letter came one morning
That she would not let me see
And from that day I began to realise
That she would one day break
The home we tried to make
For sinners cannot live in paradise

ある朝に手紙が届き
彼女はそれをぼくに
見せようとはしなかった。
その日からぼくは気づきはじめた。
彼女はいつかある日
ぼくらが作ろうとしてきた
家庭をぶちこわしちゃうんだろうなって。
罪人は
楽園では暮らせないんだからね。


Now I can feed and wash and dress myself
And I can sleep without the light on
Honey, I'm a big boy now
I don't know what she does With all the money that I sent her
She's running round the town with the Young Pretender

今ではぼくは
ひとりでごはんも食べられるし
洗濯だって着替えだって
ひとりでできるようになった。
そして電気がつけっぱなしじゃなくても
眠れるようになった。
ハニー
ぼくは今じゃ
おっきな男の子だよ。
ぼくが渡したあのお金で
彼女が何をやってるのかは知らない。
あの若き王位請求者と一緒に
街を走り回ってるんだろう。

翻訳をめぐって

  • From the road where I park my bike…日本では自転車は自転車でバイクはバイクなわけだけど、英語ではそれを区別しないらしい。区別する必要がある時にはそういう言い方をするわけだけど(bicycleとmotorcycle)、普段は「区別しないでいい」というその感覚が不思議である。英語にはそういうのが、いっぱいある。「兄と弟」も「区別しないでいい」というのはすごく「見習うべき感覚」だと思うが、「パンツとズボン」も「区別しないでいい」というのは、それで本当に困らないのか心配になってしまう。逆に日本語だと大ざっぱだけど英語だと細かくなることって、あるのかな。すぐには思いつかないけど、考えてみると「単数形と複数形の区別」という文法の基本に関わることからして、その類の話なのかもしれない。我々は別に単数形と複数形を区別しないでも困らないので、向こうの人たちもパンツとズボンを区別しなくたって、やっぱり困らないのであろう。ってそういう話なのだろうか。やや脱線したけど問題は「この歌詞におけるbikeは自転車なのかバイクなのか」ということである。私は「その方が絵になる」と思ったから「自転車」で訳した。私の翻訳にそれ以上の根拠はない。
  • someone else's navy…直訳は「誰か別の人の海軍」。えらく奇妙な表現だが、ビリーブラッグと同じように軍隊というものが大嫌いで、常日頃から何が自衛隊だその「自」の中に勝手におれのことを含めるんじゃねえ大体お前らの最大の存在理由は政府や天皇が危機にさらされた時に「暴動」を押さえるため「国民」に銃を向けることだろうが「日本人を殺すこと」もしっかり任務に含まれてるんだろうがウソつくのも大概にしやがれてめえらには殺されねえぞとそんなことばっかり考えている私には、彼がこの歌詞で「そういう言葉づかい」を選択した理由が、すっごくよく分かる。普通に考えて彼女の父親が勤務しているのは「イギリス海軍」だとしか考えられないが、彼はそういう「国家の軍隊」を「自分たちの軍隊」であるとは絶対認めたくないから、「どっかの軍隊」みたいなそういう言い方を敢えてしているのである。ちなみにビリーブラッグという人は自らも兵役を経験した上でそういう考え方を身につけた人で、私はそれをとても、すごいことだと思う。けれどもこの歌の主人公みたいに「情けないところばっかり」の人でもあって、私はそこにとても、共感を覚えてしまう。
  • like a fool I just sat there and let her…「fool」は「精神病者」に対する差別語です。ここでは原文をそのまま転載しました。
  • Young Pretender…pretendは「ふりをする」。pretenderは「ふりをする人」という意味になるが、もともとの「pretender」は「自分が真の王位継承者だと主張する人」という意味だったらしい。ウェブ辞書の「英辞郎」には、「Mary, Queen of Scots, was a pretender to the throne of England. : スコットランド女王メアリーは、自分こそがイングランドの正当な女王[王位継承者]だと主張しました」という例文が載っていた。メアリーさんってあの、ジョジョの奇妙な冒険の第一部に出てきた人だよね。つまりこの歌詞では、彼女にできた「若い恋人」を、そういう風に「自分の地位を奪う者」として形容していると、そういう意味なのだと思う。なお、歌詞の言葉は「Young Pretender」と大文字で始まっているけれど、こういう表記をした場合この言葉は固有名詞であり、18世紀に実在した「王位請求者」である「チャールズ・エドワード・ステュアート」のことをさす言葉になるらしい。何だかとてもややこしいことになるけれど、要するに日本語に置き換えるなら「あいつは明智光秀だ」的なことが歌われているのだと考えれば、ほぼ間違いはないと思う。ちなみに私は明智光秀という人に対してはむしろ「同情」しか感じていないのだが、ただでさえややこしい話をそれ以上ややこしくしても仕方ないので、この辺にしておく。

この歌を聞くたびにいつも思い出すのはSPARKS GO GO の「日々平凡に暮らしてる」という曲なのだけど、案の定YouTubeには無かったし、iTunesストアにも見つからなかった。AmazonでならMP3をダウンロードできるみたいなので、リンクを貼っときます。というわけでまたいずれ。

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日々平凡と暮らしてる

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