華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Only You もしくはそれはあくまで問題提起であって結論ではないということを肝に銘じなければならないところの歌 (1955. The Platters)



言及した曲については翻訳しなければならないという私の心のルールに従い、この曲も取りあげておくことにしたいと思う。そういうのは色の違うレンガで舗装された歩道を歩く時に「白いレンガだけ踏んで歩かなければ、おれ、死ぬ」と勝手に決めて歩いている子どものルールと同じようなもので、守らなければ誰が困るというわけでも全くないのだけれど、本人にとってそういうのって、割と大事なことなのである。それにつけても子どもの頃って、どうしてああいう風に「自分で自分を縛りつけるルールづくり」に夢中になってしまうものなのだろう。「そうしなければ、おれ、死ぬ」的なルールは、他にもいくつ作ったか分からない。今でもこうして生きていることが、時々とても不思議に思えてしまう。

さてこの歌。正式名称は「Only You (And You Alone)」と言うらしいのだけど、これぐらい誰でも知ってる「歌い出し」は、他にないのではないだろうか。小学生だった頃、友だちのお父さんに一度だけ連れて行ってもらった難波グランド花月で、歌のうまい岡けんたがそうでもない岡ゆうたにこの歌の歌唱指導をするネタをやっていたのを、今でもよく覚えている。岡けんたが歌うと「おんりい·ゆフ〜」という感じで「ゆ」を発音した直後に声が裏返り、それがとっても「このひと歌うまい」感を醸し出すのだが、岡ゆうたが歌うと「ゆ」の段階で裏返ってしまうものだから、絶叫か悲鳴のようにしか聞こえない。何回もそれを繰り返すうちに2人とも裏返るタイミングが早くなってしまい、最後には訳が分からなくなって終わる。そんなネタだったと思う。何しろそれを見た後は、学校でも家でもしばらく「おんりい·ゆフ〜」ばっかり言っていた記憶がある。そんな小学生の相手をするのは、オトナも子どもも心からうっとおしかったことだろうと、今になってつくづく思う。

だがこの歌、「そこしか知らない人」が、かつての私も含め、ものすごく多いようにも思う。そして「おんりい·ゆフ〜」というフレーズには独特のカタルシスがあるから、何となくそれで終わってもいいような感じがしてしまう。けれども英語の歌詞には、続きがあるのである。「オンリー·ユー」だけでは「まだ何も言っていない」のだということを理解しておかないと、かなり恥ずかしいことになる可能性があるのではないだろうか。

どういうことかというと、「背伸び」をして英語で愛をささやき合おうとしている日本人カップルの場合、言う方も言われる方も「オンリー·ユー」を「あなただけ」もしくは「あなただけ」という意味で理解している傾向があるように思われるのである。などと他人事のように書くといかにもエラそーだが、実は私自身もそう思っていたのである。ところがこの歌において、「オンリー·ユー」は、述語ではなく主語なのだ。ということはそれを歌われる側のアメリカ人女性ないし男性の耳には、「あなただけ」もしくは「あなただけ」と聞こえていることになる。続きが歌われる分には、いい。しかしその続きを言わずに「オンリー·ユー」ばっかりを何回も何回も繰り返された場合、言われる方は最後には「何が言いたいねんな!」とキレてしまうのが普通なのではないのだろうか。

…というのは日本語を基準とした発想にもとづく私の想像であり、ネイティブの人たちに実際どんな風に聞こえているのかということは、分からない。とまれ今回のサブタイトルを「あくまで問題提起であって結論ではないということを肝に銘じなければならないところの歌」としたのは、そういう私の懸念にもとづいている。

以上のことを踏まえた上で、翻訳してみよう。


Only You

Only You (And You Alone)

英語原詞はこちら


Only you can make all this world seem right
Only you can make the darkness bright
Only you and you alone
Can thrill me like you do
And fill my heart with love for only you

あなたの存在だけが
この世界は正しいのではないかと
わたしに感じさせてくれる。
暗闇を明るく照らすことができるのは
あなただけだ。
あなただけが
そしてあなたひとりが
わたしの心をそんな風に
ぞくぞくさせてくれることができる。
そしてわたしの心をあなたへの愛で
満たしてくれることができるのだ。


Only you can make all this change in me
For it's true, you are my destiny
When you hold my hand
I understand the magic that you do
You're my dream come true
My one and only you

あなたの存在だけが
わたしという人間を
根本から変えてくれることができる。
それが真実だからこそ
あなたはわたしにとって
運命の人なのだ。
あなたがわたしの手をとるだけで
あなたの魔法がわたしにわかる。
あなたは
かなえられたわたしの夢だ。
わたしにとってたったひとりの
かけがえのないあなたよ。


Only you can make all this change in me
For it's true, you are my destiny
When you hold my hand
I understand the magic that you do
You're my dream come true
My one and only you

あなたの存在だけが
わたしという人間を
根本から変えてくれることができる。
それが真実だからこそ
あなたはわたしにとって
運命の人なのだ。
あなたがわたしの手をとるだけで
あなたの魔法がわたしにわかる。
あなたは
かなえられたわたしの夢だ。
わたしにとってたったひとりの
かけがえのないあなたよ。


One and only you
たったひとりの
かけがえのないあなたよ。


Only You (Ringo Starr)

リンゴ・スターもこの歌をカバーしていたのだということを、YouTubeで検索していて初めて知ったのだったが、動画を見た時にはあまりの衝撃に、私はしばらく開いた口がふさがらなかった。この歌が「オンリー·ユー」であろうとなかろうと、そんなことはもはやどうでもいい。そのパップラドンカルメみたいなチャチな「UFO」は、いったい何なのだ。そしてそこから出てきたあなたの二目と見られぬそのチープな格好は、いったい何なのだ。かりそめにもビートルズの一員だったはずのあなたが、そんなところでそんな格好をしてそんな歌を歌ってまでして、後世に伝えたかったものというのはいったい何だったのだ。

私が真っ先に考えたのは、リンゴ・スターのこの「冒険」は「ジギー・スターダスト」よりも前だったのか後だったのか、ということだった。リンゴの挑戦が救いようもない大失敗だったことは、もはや取り繕いようがない。しかしもし例えばデヴィッド・ボウイがリンゴのこの試みからインスピレーションを得て「ジギー・スターダスト」というキャラクターを完成させたのだとすれば、リンゴのやらかしたこの破滅的な行為にも、それなりの歴史的な意味はあったということになるではないか。そう思って調べてみたら、何ということだろう。リンゴがこの曲を出したのは「ジギー・スターダスト」の3年も後だった。リンゴさん、早まったわいなー!!!

…今日ほど酒が飲めない我が身をうらめしく思ったことはない。こおゆう人たちの歌う歌から「愛」というものを学んだのが私たちの親の世代なのであり、そおゆう「愛」から生まれたのが私たちという世代なのであり、そんな風にして出会って結ばれた親から生まれた私と同じ境遇の人間が世界中に何千万人いるかは計算のしようもないのである。そんなテキトーな製造のされ方をしてしまった私たちの世代が、今の地球を覆ういろんな危機に一体どうやって立ち向かえばいいというのだろうか。もういいや今日は寝てしまおう。何も考えず寝れるだけ今は幸せなのだとでも思うしかない。寝れるうちに寝ておこう。


Only You (John Lennon)

そのリンゴさんに「歌唱指導」を施した時の録音とおぼしきジョン・レノンによる演奏もYouTubeにはあがっていたのだけれど、してみるとリンゴさんを「たぶらかした」のはジョンレノンだったということになるのだろうか。つくづくトリックスターな人だと思う。ポール・マッカートニーメアリー・ホプキンにリカちゃん人形みたいな格好をさせたことはものすごく罪深いことだと私は思っているのだけれど、あんたがやったこともそれとは別の意味で非常に罪深いことだったと私は思うよ。


Only You (Elvis Presley)

…気を取り直してエルヴィス・プレスリーのバージョンで、はちゃめちゃになってしまった今回の記事は締めくくることにしたいと思う。やっぱり上手いよ。エルヴィスは。でも何て言うか、それだけなのだよ。何なのだよ。ではまたいずれ。

==============================
はじめての方へ(総目次)
曲名索引(ABC順)
邦題索引(あいうえお順)
アーティスト名索引(ABC順)
アーティスト名索引(あいうえお順)

Only You (And You Alone)

Only You (And You Alone)