華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Help Save The Youth Of America もしくは友情の歌 (1986. Billy Bragg)

Help Save The Youth Of America

英語原詞はこちら


Help save the youth of America
Help save them from themselves
Help save the sun-tanned surfer boys
And the Californian girls

救おう守ろう。
アメリカの若者たちを。
救おう守ろう
かれら自身から。
救おう守ろう。
陽に灼けたサーファーの少年たちと
カリフォルニアの少女たちを。


When the lights go out in the rest of the World
What do our cousins say
They're playing in the sun and having fun, fun, fun
Till Daddy takes the gun away

もしも世界の他の部分から
光がすっかり失われてしまったら
ぼくらのイトコみたいなかれらは
何て言うんだろう?
楽しく楽しく楽しく
太陽の下で遊んでるよ。
パパが出てきて
鉄砲を取りあげるまで。


From the Big Church to the Big River
And out to the Shining Sea
This is the Land of Opportunity
And there's a Monkey Trial on TV

ビッグ·チャーチからビッグ·リバーまで
そして輝く海まで
この国は幸運とチャンスの国で
テレビでは進化論裁判がやっている。


A nation with their freezers full
Are dancing in their seats
While outside another nation
Is sleeping in the streets

みんなの冷蔵庫がいっぱいの国は
高みの見物席でダンスを踊ってる。
よその国の人たちが
道路で寝ているときに。


Don't tell me the old, old story
Tell me the truth this time
Is the Man in the Mask or the Indian
An enemy or a friend of mine

古い古いお話は
やめてほしい。
今度は本当のことを
話してほしい。
あの仮面の男とIndianのコンビは
ぼくの友だちなのか
それとも敵なのか。


Help save the youth of America
Help save the youth of the world
Help save the boys in uniform
Their mothers and their faithful girls

救おう守ろう。
アメリカの若者たちを。
救おう守ろう。
世界中の若者たちを。
救おう守ろう。
制服を着せられた少年たちと
その母親たち
そして誠実な少女たちを。


Listen to the voice of the soldier
Down in the killing zone
Talking about the cost of living
And the price of bringing him home

兵士たちの声に
耳を傾けよう。
殺戮の現場で
交わされる声。
生きてゆくことにかかるコストと
いくら積んだら故郷に帰れるかについて
交わされる声に。


They're already shipping the body bags
Down by the Rio Grande
But you can fight for democracy at home
And not in some foreign land

リオグランデ川を下る船には
死体収容袋が積み込まれている。
でもきみたちがやるべきなのは
自分のとこの民主主義のために
戦うことであって
よその国でそんなことは
できないはずだ。


And the fate of the great United States
Is entwined in the fate of us all
And the incident at Tschernobyl proves
The world we live in is very small

そして偉大な合州国の運命は
ぼくらすべての運命とも
分かちがたく結びついている。
チェルノブイリの事故が教えてくれたのは
ぼくらの住んでいるこの世界は
とても小さいんだってことだった。


And the cities of Europe have burned before
And they may yet burn again
And if they do I hope you understand
That Washington will burn with them
Omaha will burn with them
Los Alamos will burn with them

ヨーロッパの街はね。
みんないっぺん焼け野原になってるんだ。
それをやつらは
またやるかもしれない。
もしそんなことをしたら
わかっておいてほしいけど
やつらと一緒に
ワシントンが焼け野原になるよ。
オマハが焼け野原になるよ。
ロスアラモスが焼け野原になるよ。


Help Save The Youth Of America

=翻訳をめぐって=

ビリー・ブラッグ特集、ようやくの再開である。3rdアルバム「Talking With The Taxman About Poetry」の完訳まで、以下は集中して取り組むことにしたい。

この曲は以前にとりあげたクラッシュの「I'm so bored with the USA」と一緒にお薦めしたい感じがする曲なのだけど、あれに「反アメリカ」というタイトルをつけるのなら、こちらはいっそう「反アメリカ」的な内容の歌になっている。けれどもタイトルはあくまで「救おう守ろうアメリカの若者たち」である。そのメッセージを大切にしないといけないと思う。
nagi1995.hatenablog.com
ビリーブラッグが批判しているのは飽くまでアメリカという「国家」のやってきたこと、またやっていることなのであり、その土地に住んでいる同世代の若者たち(彼は「cousin」=「イトコ」と表現している)に対しては、一貫して友愛を込めた言葉で呼びかけている。「遊んでていいのかよ」的なことも言うけれど、基本的には「友だちになりたい」と思っているし、そう思っているからこういう歌も歌うわけである。

朝鮮半島や中国で「反日」を自認している人たちの言葉も、聞いてみるとそのメッセージは全く変わらない。かつて日本軍によって直接家族や恋人や友人を殺されたり、自らも一生消えない傷を負わされたりしたような凄まじい経験を持っている人たちでさえ、日本という「国家」を批判することはあっても、「日本人を皆殺しにしろ」などという言説には、言いたい放題のネットの世界の中ですら、私はいまだ一度も出会ったことがない。そんなことを言ったらそれこそ自分たちが「日本という国家」と同じになってしまうということを、「やられた側」の人たちは誰よりもよく分かっているからである。広島や長崎の人が「日本も原爆を持ってアメリカに落とし返せ」などと言うのを一度も聞いたことがないのと、その点は同じなのだ。そしてその人たちが「日本という国家」に対して「反省」を求め続けているのは、飽くまでその土地に生きている我々日本人という人間と、「真の友人」になりたいという願いを込めてのことなのである。

にも関わらずこの島で他人に「反日」のレッテルを貼って攻撃の対象にしている人間たちというのは、そのレッテルを貼った国家やあるいは民族、さらにはかれらが言うところの「反日」的な考え方を持った全ての人間まで含めて「皆殺しにしろ」ということを平気で言う。かれらが思っている「反日」がどういうことであるかということは、かれらが他人に対してやっていることの中にこそ示されているわけだが、本当に「反日」をやっている人たちというのは、かれらみたいな人間まで含めて世界の全ての人々が共に生きることのできる未来を真剣に求めているからこそ、それに逆行する「日本という国家」を批判の対象にしているのだ。お前らと一緒にするなと私は心から言いたい。

そういう人間たちと一緒にされたくはないので、私自身は「反日」とか「反アメリカ」とかいった特定の国家の住民(「国民」ということばは、その国家の領域に住む人々を「国家」そのものと同一化させるための言葉なので、使わない)や特定の民族にレッテル貼りをするような表現は、なるたけ使わないようにしている。言う必要がある分には、めんどくさくても「日本という国家」「アメリカという国家」という風に「国家」にアクセントをつけた言い方にすることを心がけている。

ただし、人から「反日」「反アメリカ」のレッテルを貼られることに対しては、別に否定しようとは思わない。むしろホメ言葉として受け止めている。

いずれにせよ、そういう意味からも、クラッシュの「I'm so bored with the USA」に「反アメリカ」という邦題をつけた人間の「安直さ」に、私はムカがつくのである。

歌詞の内容に移ろう。

  • From the Big Church to the Big River…「Big River」はおそらくミシシッピ川のことだが、「Big Church」が具体的に何をさしているのかは分からなかった。アメリカという国家の歴史を踏まえるなら、イギリスから迫害を逃れてきたプロテスタントの人たちがまず東海岸に上陸し、次いでミシシッピ川流域にまで勢力を伸ばし、最終的に西海岸(Shining Sea)に到達したという流れに沿って、その「国土」を概観している歌詞なのだと思う。
  • Monkey Trial…直訳は「サル裁判」。アメリカのキリスト教右派が勢力を持っている地域では、「人間の先祖がサルだった」ということを頑として認めず、それを教える学校に抗議に押しかけるような動きが、21世紀の現在でも存在する。レーガン、ブッシュという80〜90年代に二代続いた「戦争好きの大統領」を支えたのは、この層だったと言われている。→進化論裁判 - Wikipedia
  • Man in the Mask or the Indian…「ローン·レンジャー」という、日本でも昔は誰でも知っていたという子ども向けの西部劇を踏まえた歌詞らしい。(私は「紅の豚」に出てくる「アメリカ野郎」の台詞である「ハイヨー、シルバー」の「元ネタ」としてしか、知らなかった)。先住民の人たちに対する差別的な蔑称である「Indian」という言葉を、ビリーブラッグも無批判に使っていることには、ガッカリさせられる。→ローン・レンジャー - Wikipedia
  • Washington will burn with them…ワシントンにはもちろんアメリカの政府と国防総省が存在しており、またネブラスカ州オマハには、ソ連が崩壊する1991年まで、全面核戦争の出撃拠点として位置づけられていたアメリカ空軍戦略司令部が存在した。ニューメキシコ州のロスアラモスには、最初の原子爆弾が製造されたことで名高い「ロスアラモス国立研究所」が存在しており、現在でも核兵器をはじめとした軍事技術の研究が続けられている。そうした「本当なら地球で真っ先に焼け野原にされるべき場所」が、この歌の最後には列挙されているわけである。ただし、現在のビリーブラッグのホームページの歌詞ページには、この部分の歌詞は掲載されていない。「過激すぎる」という判断だろうか。

ではまたいずれ。

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