華氏65度の冬

うたを翻訳するということ

Get Down もしくは おすわり (1972. Gilbert O'Sullivan)

Get Down

英語原詞はこちら


Told you once before
And I won't tell you no more
Get down, get down, get down
You're a bad dog, baby
But I still want you around

さっき言っただろ。
何べんも言わせないでくれよ。
おすわり!
おすわり!
おすわり!
本当にベイビーきみってやつは
しょうのない犬と一緒だよ。
そんなきみに
つきまとわれることについて
ぼくは今のところ
悪い気はしてないのだけどね。


You give me the creeps
When you jump on your feet
So get down, get down, get down
Keep your hands to yourself
I'm strictly out of bounds

きみに飛びつかれると
ぞわっとしてしまうのだよ。
だからおすわり!
おすわり!
おすわり!
ぼくにちょっかいは出さないでほしい。
ここから先は立入禁止。


Once upon a time, I drank a little wine
Was as happy as could be, happy as could be
Now I'm just like a cat on a hot tin roof
Baby, what do you think you're doing to me

むかしむかしのぼくは
ほんのちょっとのワインさえあれば
そりゃもう幸せだった。
これ以上の幸せはないと思ってた。
今のぼくはといえば
やけたトタン屋根の上の猫と一緒だよ。
ベイビー自分がぼくにやってることが
どういうことなのか
本当にわかってる?


Told you once before
And I won't tell you no more
So get down, get down, get down
You're a bad dog, baby
But I still want you around, around
I still want you around
Hey hey hey

さっき言っただろ。
何べんも言わせないでくれよ。
おすわり!
おすわり!
おすわり!
本当にベイビーきみってやつは
しょうのない犬と一緒だよ。
そんなきみに
つきまとわれることについて
ぼくは今のところ
悪い気はしてないのだけどね。
いてほしいと
いてほしいと思ってるんですけどね。
はいはいはい。


I don't give a damn
And I'd like you, if you can
To get down, get down, get down
You're a bad dog, baby
But I still want you around

かまってあげる気はないのだからね。
どうかよろしければ
できることでしたら
おすわりねがえませんか。
おちついていただけませんか。
まじめにやってもらえませんか。
本当にベイビーあなたという人は
しつけの悪い犬と同じですよ。
そんなきみにぼくは
いてほしいと思ってるわけだけど。
今のところは。


Once upon a time, I drank a little wine
Was as happy as could be, happy as could be
Now I'm just like a cat on a hot tin roof
Baby, what do you think you're doing to me

むかしむかしのぼくは
ほんのちょっとのワインさえあれば
そりゃもう幸せだった。
これ以上の幸せはないと思ってた。
今のぼくはといえば
やけたトタン屋根の上の猫と一緒だよ。
ベイビー自分がぼくにやってることが
どういうことなのか
本当にわかってる?


Told you once before
And I won't tell you no more
So get down, get down, get down
You're a bad dog, baby
But I still want you around, around
I still want you around, mmm

さっき言っただろ。
何べんも言わせないでくれよ。
おすわり!
おすわり!
おすわり!
本当にベイビーきみってやつは
しょうのない犬と一緒だよ。
そんなきみに
つきまとわれることについて
ぼくは今のところ
悪い気はしてないのだけどね。
いてほしいと思ってるんですけどね。
あーあ。


Get Down (Maison Ikkoku ED)

=翻訳をめぐって=

めぞん一刻」のエンディングに使われたことのある曲だったのだな。諸般の都合で1回しか放送されなかったらしいのだけど、「Get Down」の繰り返しで表情が増えていくところとか、何となく覚えていた。ちなみに下はその時オープニングに使われていたという「Alone Again」。


Alone Again (Maison Ikkoku OP)

「Get Down」という言葉には、辞書を引いてみたらこんなにたくさんの意味がある。

句動-1 下げる、〔乗り物などから〕降りる、降ろす、着地{ちゃくち}する

句動-2 ダンスをする
補 【類】boogie

句動-3 書き記す、書き取る、書き留める、メモを取る

句動-4 飲み下す、飲み込む

句動-5 〔コツ・基本{きほん}・要領{ようりょう}などを〕飲み込む
例 I'm beginning to get down the card trick. トランプ手品の要領が飲み込めてきた。

句動-6 テーブル[食卓{しょくたく}]から離れる

句動-7 身をかがめる、ひざまずく、かがむ

句動-8 倒す、撃ち落とす、撃ち殺す、取り壊す、取り除く

句動-9 気分{きぶん}を下げる、がっかりさせる、しょげさせる、失望{しつぼう}させる、意気消沈{いき しょうちん}させる、疲れさせる、気がめいる、うんざりさせる、落ち込む、弱らせる、病気{びょうき}にする
例 Don't let it get you down. くよくよするな。
例 I don't let it get me down. くじけない。

句動-10 身を入れて取り掛かる、気合いを入れてやる、本気{ほんき}になる、集中{しゅうちゅう}する、まじめにやる、ビシッとやる、始める

句動-11 羽を伸ばす、くつろぐ、楽しくやる、楽しむ、〔気分{きぶん}が〕のる、リラックスする
例 Hey, let's get down. ヘイ、のってるかい!

句動-12 〈俗〉セックスする、薬をやる、賭ける

…この中で「前にも言っただろう」「もう二度と言わないよ」という歌詞の後に命令形として言われるにふさわしい言葉としては、「10」の「まじめにやる」「ビシッとやる」ぐらいなものだと思う。なので私はこの歌は「まじめにやりなさい」という歌なのだと、とりあえず思っていた。単純な歌詞の繰り返しなのだけど、どうもイメージのつかみにくい歌だったのだ。

それが一気に「風景が見えるようになった」のは、Wikipedia英語版からのリンクで、ギルバートオサリバン自身がインタビューに答えた以下の記事を読むことができたからである。つくづく、調べれば何でも分かる時代になったものだと思う。

"I didn't know what 'get down' means in America, nor 'dog' for that matter, until Gordon came back from the States and told me.  My lyrics are very British, and to me the girl in 'Get Down' is behaving like a dog - she's jumping up on him, so 'get down!'  That's all. "
ぼくはアメリカで「get down (←セックスする)」がどういう意味を持ってるのか、全然知らなかった。「dog (←女性に対する蔑称)」の意味もね。アメリカから帰ってきたゴードンが教えてくれて、初めて知ったんだ。ぼくの歌詞の書き方はかなりイギリス的で、ぼくにとっては「Get Down」に出てくる女の子は犬みたいに振る舞ってるイメージがある。その彼女が彼氏に飛びついてる。だから「おすわり!」。それだけの歌なんだよ。
1973年8月2日付「ローリングストーン」誌より

…以下は、内容をめぐって。

Told you once before
And I won't tell you no more

正確な翻訳としては「前にも言っただろう。もう二度と言わないよ」ということになるのだが、その後に「Get Down」が3回も出てくる以上、「もう二度と言わないよ」は何となく日本語として、座りが悪いように思う。なので「何べんも言わせないでくれよ」と意訳した。

You give me the creeps
When you jump on your feet
So get down, get down, get down
Keep your hands to yourself
I'm strictly out of bounds

「creeps」は「ゾッとする」という意味。「ぞわっとする」という風にせめてもの手心を加えてはみたのだが、恋人に向かって言う言葉としてはありえないぐらい、きつい言葉だと思う。これが「イギリス流」なのだろうか。(もっとも、ギルバート・オサリバンアイルランド人)。「Keep your hands to yourself」は「手は体にピッタリつけて!(余計なことはするな)」という、これまた強い命令形。「I'm strictly out of bounds」は「私(の身体)は厳密に(strictly)立入禁止の状態にある」という、ものすごく武装された言葉。

女性から男性に向けた歌だと解釈した方が、しっくり来るような気が私はしたのだったが、ギルバート氏自身が「犬みたいに振る舞ってるのは女の子」だと言っているので、ここでは「ぼく」で訳している。ただし英語として読んだ場合、男女が入れ替わっても何ら不自然でない歌詞であると思われることは、付記しておきたい。

Now I'm just like a cat on a hot tin roof

ここがまた何を言っているのかずっと分からなかったのだが、さすがは情報時代である。(←何十年前の言葉なのだ)。「Cat on a Hot Tin Roof (やけたトタン屋根の上の猫)」とは、テネシー・ウィリアムズというアメリカの劇作家が1955年に書いた戯曲の名前で、1958年には映画化もされていた作品だったのだということが、ちょっと調べただけで立ち所に明らかになった。

タイトルの 『熱いトタン屋根の猫』 とは、愛する夫が同性愛に走り、久しく夫婦関係がない欲求不満のマギーのことを指す。

…とWikipediaの解説にはある。この映画からの台詞の抜粋と思われる記事も、とあるサイトで見つけたのだったが、何だか面白くて仕方なかったので、転載しておく。


酒を飲みながら冷たい目で見るブリックに、何を考えてるかわかってるわと言うマギー。
「君は変わったよ」
「私は寂しいの」
「親父が着く時間だぞ」
「あなたが私を抱いてくれないなら、私は死んじゃうわ」
「早く行け」
「ねえ。いつまでこの罰は続くの。まだ許してもらえない?」
「近頃の君は火事を知らせるような声を出す」
「今の私は熱いトタン屋根の上の猫よ」
「それなら飛び降りろ。猫なら怪我もしない」
「どういう意味?」
「愛人を作れ」
「よしてよ。私にはあなただけよ。私は勝って見せるわ」
「熱いトタン屋根の上の猫にとって勝つこととは?」
「飛び降りずに頑張ることよ」

…マギーさんに対してもブリック氏に対しても、笑ったりしたら失礼だと思うのだが、あまりに突っ込みどころの多い会話であるように、私には思われたのである。「近頃の君は火事を知らせるような声を出す」という表現からして、スミス夫人の灘木武が昔やっていたビバリーヒルズ高校白書のパロディみたいなおかしさがあるのだが、これぐらいならまあ、翻訳の仕方の問題だといえるだろう。「お前は消防車か!」みたいな言い方なら、日本の夫婦の間に出てきても、不自然ではない。しかし「今の私は熱いトタン屋根の上の猫よ」は、絶対に出てこないと思う。

それに対して「どういう意味だ」と問い返すこともなく、「それなら飛び降りろ。猫なら怪我もしない」とフツーに返せるブリック氏の感覚がまたすごい。「どういう意味?」とマギーさんは聞き返すのだが、いやそこかよ、と思う。まず説明すべきなのは自分が言ってみせた「熱いトタン屋根の上の猫」という言葉の意味なのではないのだろうか。

いちばん笑けてしゃーなかったのは「熱いトタン屋根の上の猫にとって勝つこととは?」という台詞だった。何かもう、一生に一度でいいから、これぐらいわけのわからない台詞を誰かに言ってみたいものだと私は思ってしまう。それに対して「はあ?」などという冷たい言葉が返ってくることにおびえることもなく、フツーに会話を続けることができている時点で、この二人は既にありえないほど「幸せ」なのだと思えてこないだろうか。私は正直、うらやましいと思う。うらやましくはないか。でもとりあえず、あやかりたいと思う。

とまれこうまれ、「熱いトタン屋根の上の猫」がどういうお話かを知ることができたことでようやく見えてきたのは、興奮した犬みたいにすり寄ってくる彼女に対してタジタジになりつつ、実はその誘惑に負けて爆発しそうになっているのは彼氏の側なのだという、この歌の隠された風景である。ということはつまり要するに、私にはずっと分からずにいたけれど、この歌はこういう歌だったということなのだ。


離れろよ (バービーボーイズ)

猿芝居は面倒。ではまたいずれ。

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GET DOWN

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離れろよ

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